俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
上 下
62 / 238

61

しおりを挟む
「え? ぶっ飛ばす?」
「さっきみたいに殴ったらぶっ飛ばせるッスよね?」
「それは……どうだろう?」

 実際どうなるかなどやってみないと分からない。原作では勇者に目覚めたナクルは、その輝きに満ちた力で妖魔力を吹き飛ばしたようだが。

(ナクルと一緒に分散して戦えば戦略の幅も広がるけど……)

 ただ、こちらとしてはナクルを危険な目に遭わせたくないという気持ちもある。しかし現状打開策が見つからない以上は、自分一人ではジリ貧だ。せめてあのオーラの扱い方が分かればいいのだが、それも今は不明のまま。
 それにナクルには今見せたように自衛できる力があるのも事実。

「…………分かった。ならあの黒いヤツは俺が囮になって引き寄せる。その隙にナクルは蔦絵さんに纏わりついているアレをぶん殴ってやれ」
「了解ッス!」

 とにかく今は二人でできることをしよう。そう判断して動くことにした。

「ナクル、作戦を伝えるぞ」

 そう言って彼女にこれからの凡そこうなるであろう推測を話す。

「えっと……ほんとにそんなことが起こるんスか?」

 などと半信半疑といった様子だったが、「俺を信じてくれ」と言うと、ナクルもまた真剣な表情で「分かったッス!」と答えてくれた。
 こちらの準備が整ったと同時に、向こうもまた攻撃を開始し始めた。幾重にも増やした触手を放ってくるが、沖長はそれに向けて突っ込んでいく。

(この程度の攻撃速度なら!)

 駆けながら向かってくる触手を、素早いサイドステップや跳躍などを駆使し回避していく。

(よし、かわせるな! 蔦絵さんの攻撃の方が何倍も早いっての!)

 普段人外じみた速度で攻撃してくる蔦絵や修一郎に目が慣れているので、これくらいなら避けることはそう難しくはない。

「オキくん、後ろッス!」

 こちらの死角をつくようにして触手が背後から伸びてきたが、それをナクルが教えてくれたので、沖長も即座に対応し真後ろに大岩を出現させて防御する。

「わわっ、いきなり岩が現れたッス!?」

 当然ナクルは不可思議な現象に声を上げているが、その説明もきっとこの後に必要になるだろう。

(大分近づけた。あとは――)

 蔦絵が浮かんでいる位置は、上空五メートルほどか。さすがにこのまま跳躍したところで手は届かないし、届いても警戒されている状態では攻撃を与えるのは困難だ。

(二番煎じだけど、これでどうだ!)

 ここに来てすぐに対峙した妖魔との戦いでも行使した方法を用いた。
 蔦絵の頭上に突然大岩が出現し、そのまま彼女へ向けて落下してくる。当然押し潰すつもりなど毛頭ない。コイツの役目は――。

 触手の攻撃がピタリと止んだ直後、それらが頭上へと意識を向ける。落下してくる大岩に気が付いたのだろう。接近してくる岩に対し、妖魔力で巨大な鎌を形成させると、大きく払うようにして動かす。
 それはまるで豆腐でも切るかのように岩が真っ二つとなる。そのまま二つに分かれた岩が地面に落下していくが、

「…………行け、ナクル」

 軽く口角を上げた沖長の言葉。
 蔦絵の背後に出現する小さな影。それは――ナクル。

「ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 全力で打ち放たれた拳が、蔦絵の背を捉える。相手は回避する間も防御することもできずに、その凄まじい威力を受けて弾かれていく。

(……ん? あの光は……?)

 その時、沖長は確かに見た。ナクルの右拳に宿った淡い光を。
 そして吹き飛ばされた蔦絵が、そのまま地面に落下して転がっていく。

 それと同時にナクルもまた地面に落下してくる。さすがに五メートル以上からの跳び下りは危険が付き纏うと考え、すでに沖長は手を打っていた。
 ナクルの直下に何枚もマットを重ねて出現させ、彼女を優しく受け止めることに成功する。

「ナクル! 無事か!」

 マットの上にいるであろうナクルに声をかける。
 するとマットからひょっこりと顔を出してピースサインをナクルが出して「えへへ、やったッスよー!」と笑った。
 それを見て沖長もホッと息を吐く。

(何とか上手くいったな)

 沖長の作戦はそれほど込み入ったものではなかった。
 まず蔦絵の意識を先陣である沖長へと向ける。ナクルは岩の蔭に潜んで様子を見守り、いつでも動けるようにしておく。

 そして蔦絵に近づいた沖長は、彼女の頭上に岩を出現させる……が、これは攻撃ではなく蔦絵の意識を上空へ向けさせるため。
 避けるのか、はたまた岩自体を対処するのか、どちらにしても何かしら行動を起こすはず。そしてそれは紛れもない隙となる。

 その隙間を利用してナクルが行動を開始。蔦絵すら舌を巻くレベルの持ち前のスピードを駆使して蔦絵の背後へと近づく。
 だが蔦絵はさらにその上にいるので、幾らなんでもナクルの攻撃は届かない。たとえ全力でジャンプしてもだ。いや、もしかしたらビックリ人間の日ノ部家の血を引いているので、できるかもしれないけれど確実性を高めるために、もう一つの策を弄した。

 ナクルの目前に以前回収しておいたレンガブロックを瞬間的に積み上げて階段を作る。
 そしてその先には蔦絵の背中があり、そこ目掛けてあとはナクルが疾走し攻撃を放つだけ。

(この四年の間で、〝瞬間使用〟を練習しておいた結果だな)

 今なら回収と使用を、瞬きくらいの時間で行うことができるようになっていた。しかし目標としては残像すら見えるような速度での切り替えだが、これは要訓練といったところだろう。
 ナクルをマットから降ろし、一緒に蔦絵がいるであろう場所へと向かう。

 そこには地面に倒れたまま動かない彼女がいた。どうやら彼女の身体に妖魔力は纏われていない様子。

「蔦絵ちゃん!?」

 慌てた様子でナクルが駆け寄り、それを沖長も追う。
 すぐに仰向けにしてから沖長が、蔦絵の容態を確かめる。

「脈もあるし呼吸もしてる……ふぅ。命には別状なさそうだ」
「よ、良かったッスゥゥ……」

 そう言いながら地面にへたり込むナクル。

「まああんなとんでもない一撃をまともに受けたのに無事っていう蔦絵さんのデタラメっぷり感謝だな」
「っ……誰が……デタラメです……って?」
「!? 蔦絵さん!? 大丈夫ですか?」

 痛々しそうに顔を歪めながらも、蔦絵は確かに自分の意識を覚醒させていた。

「……二人とも……心配をかけたようね……ごめんなさい」
「そんなこといいんスよ! 蔦絵ちゃんが無事ならそれで花丸なんスから!」

 その通りだ。沖長もまた安堵していた。
 何とか原作とは違って、ナクルも無傷だし、蔦絵も衰弱しているものの生きている。最善の結果だと思う。

 ――しかし、ここに油断があった。

 横たわっていた蔦絵の瞼が大きく開いたのだ。同時に彼女の視線が向かう先に、彼女を動揺させた何かがあると知り振り向く。

 するとそこには細長い槍状に変形した妖魔力が浮かんでいた。
 刹那、ナクルと沖長は後ろへと倒される。何故なら蔦絵によって身体を強く押されたからだ。そして目にすることになった。

 視線のその先で、槍に胸を貫かれた蔦絵の姿を――。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

処理中です...