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突然銀河が夢遊病を患ったかのように出て行ったせいで場が沈黙に包まれている中、たった一人助っ人少年だけが平静のままに沖長のもとへとやってきた。
「これで邪魔者は消えたね」
「!? ……お前、アイツに何したんだ?」
「さあ、ああいう輩の情緒不安定さって常でしょう? いきなり燃え尽き症候群でも起こしたんじゃないかな?」
「いや、燃え尽き症候群ってのは違うだろ……」
あれは別名《バーンアウト・シンドローム》ともいって、プレッシャーやストレスなどで心身ともに疲弊したことにより、精神な器が限界を迎えてしまい、燃え尽きたようにやる気や意欲をなくす症状のことだと聞いた。うつ病の一種ではないかとも言われているとか。
ハッキリいって銀河のような存在とはかけ離れた病だと思う。
ただ、当然ながら自白することはないようだが、明らかに少年が引き起こしたものであることは分かる。
それは間違いなく何かしらの能力を使ってのことだろうが……。
(精神に干渉する類の能力だとすると厄介過ぎるよなぁ)
人間というのは、肉体は容易に鍛えることができるが、精神はそう簡単にいかないだろう。目に見えるものでもないから、成長を実感しにくいし、相応の時間もかかってしまう。
そんな精神に直接干渉し攻撃することができるとすれば、ハッキリいって強力過ぎるチート能力と言わざるを得ない。
(アニメや漫画でも、洗脳とか幻術とかって最強の枠に数えられたりするしな)
何せ自分が術中にハマっていることすら認識できないこともあるのだ。そんなのどうやって回避すればいいのか至難であろう。
「けどアイツがいなくなったら二人だけだぞ。これじゃ試合続行できない」
「できるでしょ。幸いにもまだ一人残ってるし」
そう言いつつ少年が真っ直ぐ視線を送った先には勝也がいる。勝也も「え、おれ?」と自分を指差して戸惑いの声を上げた。
「おい、勝也はもうフラフラで……」
「あれからもう大分時間が経つし、立っているくらいはできるでしょ」
確かにそれなら大丈夫そうだが……。
「おれならできるぜ!」
勝也も妙にやる気で、すぐさまコート内に入ってきた。あとは上級生たちがメンバーチェンジを許すかどうか。
「ブフン、別にいいぜぇ。今更そんなフラフラのゴミが来たとこでなぁ」
どうやら反発する気はないらしい。
こうして新たに勝也を加えての、最終試合が始まる。
作戦はとりあえず、いきなりやる気になった助っ人少年と沖長で、パスを回していってシュートチャンスを得ること。
しかしその作戦は何の捻りもないので、当然ながら武太たちに遮られてしまう。
ボールを持っているのは現在助っ人少年だ。その彼には二人のマークがついてプレッシャーを受けている。時折少年の顔が歪むのは、やはりまた何かラフなことを相手がしているのだろう。
そして沖長はまたもパスコースを武太に防がれてしまっている。このままだと先ほどの二の舞だ。
すると黙っていられなかったのか、勝也がゴール下へと走り出す。
それを見た武太が、少し慌てたように「そいつにパスをやるな!」と声を上げた。しかし次の瞬間、助っ人少年が武太の声に一瞬気を取られた上級生の隙を掻い潜り脇を抜け出す。
「させるかよっ!」
上級生の一人が、助っ人少年の服を引っ張り、そのまま引き倒したのである。
さすがに誰の目にも明らかなファールということで、ボールはこちら側になった上、野次馬たちの非難の声も武太たちに放たれるが、現状が良くなったわけではない。
せめて少年がシュートを放っていてのファールだったら、フリースローチャンスをもらえたが、あいにく3Pエリアよりも外の上、ドリブルの最中だったため結果的には仕切り直しということになっただけ。
沖長はすぐに少年に駆け寄り、「大丈夫か……えーと?」と手を伸ばす。
そういえば彼の名前をまだ聞いていなかったことに気づいた。
少年は自力で立ちながら眼鏡の位置を直しながら言う。
「僕は――羽竹長門《はたけながと》だ」
「お、そっか。俺は札月沖長で、こっちは高梨勝也な」
いつの間にやら傍にやってきていた勝也の紹介もしておく。
「けどどうすんだよ? このままじゃ、こっちがシュートしようとしても、またファールされてつぶされちまうかも」
勝也の言う通り、向こうはファールを怖がっていない。審判がいない強みを存分に利用してくる。
「……いいさ、好きなことを好きなだけさせとけば」
ゾッとするような冷たい声音が長門から発せられた。勝也は気圧されたかのようにゴクリと喉を鳴らし、沖長も殺意にも似たその圧倒的な気迫に頼もしさではなく不安を覚えた。
(おいおい、まさかコイツ……力を使ってアイツらを滅茶苦茶するんじゃないだろうな?)
もしこれが銀河やあの赤髪少年ならば、周りの目など気にせずに問答無用でその力を行使していることだろう。
あの二人よりも幾分か大人な長門だから、キレて暴走することはないと思ったが、先ほどのラフプレーにかなり憤っている様子だ。
まだどんな能力かは分からないが、あの銀河を一瞬で変貌させたほどの力だ。もしそんな力を感情のままに行使させてしまえば、後々どうなるか分かったものではない。
沖長も武太たちのことは嫌いだが、後遺症が残ったりするなどのダメージを受けるほどのことはしていないと思っている。
しかし今の長門の目は、明らかに武太たちがどうなろうと構わないといった感じだ。
(……ったく、しょうがないな)
ここにはナクルもいるし、できる限り残酷な場面にはしたくない。だからここは……。
「羽竹、一つ頼みがあるんだけど?」
「は? ……頼み?」
「うん。どうせなら奴らに徹底的な敗北感を与えてやりたくないか?」
そう提案すると、熱に満ちていた彼の瞳から少しだけ冷めたのを見た。
「……本当にそんなことできるの?」
「ああ、だからここは俺に任せてくれないか?」
ここで頷いてくれないと、力ずくで長門を抑え込むしかなくなる。それだけは避けたいと願う。
「………………分かった。好きにすればいい」
そう言うと、ボールを拾って沖長に手渡してくれた。何とか落ち着かせることができたようだ。しかし今度はこっちが約束を守る番である。
(一度口にした手前、引くわけにはいかないな。……じゃあ攻略してやるか!)
「これで邪魔者は消えたね」
「!? ……お前、アイツに何したんだ?」
「さあ、ああいう輩の情緒不安定さって常でしょう? いきなり燃え尽き症候群でも起こしたんじゃないかな?」
「いや、燃え尽き症候群ってのは違うだろ……」
あれは別名《バーンアウト・シンドローム》ともいって、プレッシャーやストレスなどで心身ともに疲弊したことにより、精神な器が限界を迎えてしまい、燃え尽きたようにやる気や意欲をなくす症状のことだと聞いた。うつ病の一種ではないかとも言われているとか。
ハッキリいって銀河のような存在とはかけ離れた病だと思う。
ただ、当然ながら自白することはないようだが、明らかに少年が引き起こしたものであることは分かる。
それは間違いなく何かしらの能力を使ってのことだろうが……。
(精神に干渉する類の能力だとすると厄介過ぎるよなぁ)
人間というのは、肉体は容易に鍛えることができるが、精神はそう簡単にいかないだろう。目に見えるものでもないから、成長を実感しにくいし、相応の時間もかかってしまう。
そんな精神に直接干渉し攻撃することができるとすれば、ハッキリいって強力過ぎるチート能力と言わざるを得ない。
(アニメや漫画でも、洗脳とか幻術とかって最強の枠に数えられたりするしな)
何せ自分が術中にハマっていることすら認識できないこともあるのだ。そんなのどうやって回避すればいいのか至難であろう。
「けどアイツがいなくなったら二人だけだぞ。これじゃ試合続行できない」
「できるでしょ。幸いにもまだ一人残ってるし」
そう言いつつ少年が真っ直ぐ視線を送った先には勝也がいる。勝也も「え、おれ?」と自分を指差して戸惑いの声を上げた。
「おい、勝也はもうフラフラで……」
「あれからもう大分時間が経つし、立っているくらいはできるでしょ」
確かにそれなら大丈夫そうだが……。
「おれならできるぜ!」
勝也も妙にやる気で、すぐさまコート内に入ってきた。あとは上級生たちがメンバーチェンジを許すかどうか。
「ブフン、別にいいぜぇ。今更そんなフラフラのゴミが来たとこでなぁ」
どうやら反発する気はないらしい。
こうして新たに勝也を加えての、最終試合が始まる。
作戦はとりあえず、いきなりやる気になった助っ人少年と沖長で、パスを回していってシュートチャンスを得ること。
しかしその作戦は何の捻りもないので、当然ながら武太たちに遮られてしまう。
ボールを持っているのは現在助っ人少年だ。その彼には二人のマークがついてプレッシャーを受けている。時折少年の顔が歪むのは、やはりまた何かラフなことを相手がしているのだろう。
そして沖長はまたもパスコースを武太に防がれてしまっている。このままだと先ほどの二の舞だ。
すると黙っていられなかったのか、勝也がゴール下へと走り出す。
それを見た武太が、少し慌てたように「そいつにパスをやるな!」と声を上げた。しかし次の瞬間、助っ人少年が武太の声に一瞬気を取られた上級生の隙を掻い潜り脇を抜け出す。
「させるかよっ!」
上級生の一人が、助っ人少年の服を引っ張り、そのまま引き倒したのである。
さすがに誰の目にも明らかなファールということで、ボールはこちら側になった上、野次馬たちの非難の声も武太たちに放たれるが、現状が良くなったわけではない。
せめて少年がシュートを放っていてのファールだったら、フリースローチャンスをもらえたが、あいにく3Pエリアよりも外の上、ドリブルの最中だったため結果的には仕切り直しということになっただけ。
沖長はすぐに少年に駆け寄り、「大丈夫か……えーと?」と手を伸ばす。
そういえば彼の名前をまだ聞いていなかったことに気づいた。
少年は自力で立ちながら眼鏡の位置を直しながら言う。
「僕は――羽竹長門《はたけながと》だ」
「お、そっか。俺は札月沖長で、こっちは高梨勝也な」
いつの間にやら傍にやってきていた勝也の紹介もしておく。
「けどどうすんだよ? このままじゃ、こっちがシュートしようとしても、またファールされてつぶされちまうかも」
勝也の言う通り、向こうはファールを怖がっていない。審判がいない強みを存分に利用してくる。
「……いいさ、好きなことを好きなだけさせとけば」
ゾッとするような冷たい声音が長門から発せられた。勝也は気圧されたかのようにゴクリと喉を鳴らし、沖長も殺意にも似たその圧倒的な気迫に頼もしさではなく不安を覚えた。
(おいおい、まさかコイツ……力を使ってアイツらを滅茶苦茶するんじゃないだろうな?)
もしこれが銀河やあの赤髪少年ならば、周りの目など気にせずに問答無用でその力を行使していることだろう。
あの二人よりも幾分か大人な長門だから、キレて暴走することはないと思ったが、先ほどのラフプレーにかなり憤っている様子だ。
まだどんな能力かは分からないが、あの銀河を一瞬で変貌させたほどの力だ。もしそんな力を感情のままに行使させてしまえば、後々どうなるか分かったものではない。
沖長も武太たちのことは嫌いだが、後遺症が残ったりするなどのダメージを受けるほどのことはしていないと思っている。
しかし今の長門の目は、明らかに武太たちがどうなろうと構わないといった感じだ。
(……ったく、しょうがないな)
ここにはナクルもいるし、できる限り残酷な場面にはしたくない。だからここは……。
「羽竹、一つ頼みがあるんだけど?」
「は? ……頼み?」
「うん。どうせなら奴らに徹底的な敗北感を与えてやりたくないか?」
そう提案すると、熱に満ちていた彼の瞳から少しだけ冷めたのを見た。
「……本当にそんなことできるの?」
「ああ、だからここは俺に任せてくれないか?」
ここで頷いてくれないと、力ずくで長門を抑え込むしかなくなる。それだけは避けたいと願う。
「………………分かった。好きにすればいい」
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