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――四月。
季節は春。まだ朝は少し肌寒かったりするが、それでも優しい温もりとともに、様々な始まりを期待させる時期である。
そして今日、沖長は晴れて小学一年生になり、その隣には自分と同じようにピカピカの一年生になったナクルが立っている。
「ほらほら、二人ともニッコリしてねぇ~」
二人の目の前には、カメラを構えた悠二と葵、そしてナクルの両親である修一郎とユキナも微笑まし気にこちらを見ている。
現在沖長とナクルは、【六葉《ろくよう》小学校】と刻まれた正門の前で仲良く並んで立っていた。ナクルはどこか照れ臭そうだが、表情を見るに少し興奮もしている。何だかんだいっても、この日が楽しみだったことが窺えた。
対して沖長は二度目の小学生ということで、興奮というよりは懐かしいなという思いの方が強い。とはいっても楽しみではないというわけではない。
前世では虚弱体質のためにできなかったことが多かったため、二度目の小学生では存分に身体を動かそうという期待値は高くなっている。
特にいつも見学していた体育や運動会などは今から非常に楽しみだったりする。まあこれから算数や国語とか、ゼロからやり直すのはさすがに苦痛ではあるが。
何度も悠二と修一郎が、自身が持っているカメラのシャッターを切っていると、さすがに沖長は「もういいでしょ」と飽きてしまい勝手に動き出した。当然悠二が悲し気な表情を浮かべるが、もう何十枚も撮っているのだから満足してほしい。
沖長は意気消沈している悠二を放置し、周囲を観察し始めた。
(…………やっぱりいない、よな?)
実はこの日、不安はあった。それは例の赤髪少年が間違いなく絡んでくると思っていたからだ。何せナクルの家はバレているし、この近くに住んでいるなら通う小学校も同じ可能性が高かったから。
故に入学式に絶対に絡んでくると覚悟をしていたのだが……。
(あれから全然姿を見ないし)
公園で吹き飛ばされたあの日から、とんと姿を見せなくなったのである。
こちらが怯えて姿を見せなくなるということはあったかもしれないが、圧倒的に優位な立場だった彼が絡むのを辞めるとは思えない。
しかしあれから一度も姿を見ないのである。
(うーん、実は学区が違うとか? いや、それでもあの執着性だ。ナクルに会いにくると思うけどなぁ)
隣町程度なら問答無用でストーカー行為をしてくるという確信していたのに、何の音沙汰もないから逆に不気味だった。
ナクルは鬱陶しい子供がいなくなったことでホッとしていたようだが、沖長にとっては彼についての背景をある程度推測できているからか完全に安堵してはいない。
とはいっても実際にこの学校にはいないようだし、そこは安心してもいいのかもしれない。
(いや、まだ体調でも崩して欠席してるって可能性もあるか)
だからまだ完全には警戒を解けない。
それにたとえ赤髪少年がいなくても……。
「――やあ、ナクルじゃないか!」
ナクルから少し目を外していたら、いつの間にかそこに一人の少年が満面の笑みを浮かべて接近していた。
(うーわ……やっぱ来たかぁ)
大きな溜息とともに、沖長はその少年を見つめる。
日光に照らされ眩く輝く銀の髪に、モデルのような顔立ちと珍しいオッドアイ。まるでアニメから出てきたようなイケメン少年がそこにいる。
そうだ。この少年こそ、ナクルと初めて会った時に遭遇し、赤髪少年にぶっ飛ばされて気絶した少年である。
赤髪少年みたいにナクルの家に押しかけたりしなかったが、それでもナクルに執着していることだけは間違いなかった。
その証拠に、入学式の時にナクルを見つけたこの銀髪少年は、自身の周りを取り囲んでいた女子を払いのけ、真っ先にナクルのもとへ向かい口説き始めたのである。
しかもその時の言葉は――。
『やあ、やはりお前はとても可愛いな、ナクル。どうだ、このあと俺の家で一緒に食事でもしないか?』
もう分かると思うが、コイツは間違いなく赤髪少年と同じ転生者だ。
まだ六歳のガキが、こんな流暢に喋ることができるわけがない。しかも口説き文句をだ。
これがドラマに出てくるようなイケメン俳優のセリフなら、少し吐き気を催すものの納得できるが、六歳児のコレはほぼ有り得ない。
つまりやはり転生者の可能性が高い。というより沖長の中では確定しているが。
だから赤髪少年がいないとしても、コイツがいることで何の安心もできなくなったというわけである。
突然ナクルに接近した少年にギョッとしているのは、当然ナクルの両親だ。特に修一郎は険しい顔でハッキリ言って怖い。
「あ、あの……さっきもいきなり話しかけてきたッスけど……」
ナクルは不安そうにそう言葉を述べる。
「ああ、悪い悪い。俺は――金剛寺銀河《こんごうじぎんが》。銀河って呼んでくれ」
ニコッと胡散臭そうに笑みを見せる銀河。周りの女子たちは、そのイケメンスマイルに目がハートになっているが……。
「え……いきなりなれなれしいッスよこの子ぉ……」
どうやらナクルにはまったく効き目はないらしい。
すると怖くなったのか、ナクルが早足で沖長の背中に隠れた。
「オ、オキくぅん……あの子、変なんス」
そんな変なおじさんが出てきたようなセリフを言われても……。誰だ君はと聞いたら、「そうです。私が変なお子さんです」とか言ってくれるのだろうか。
ただ、ナクルがこんな反応をしたということは――。
「――誰だ、お前?」
銀河の鋭い眼差しが沖長へと向けられた。
(ほらね、やっぱこうなるわな)
こうなることは覚悟していたが、何とか穏便に済ませる方法を考える。
あの赤髪少年みたいに問答無用で暴力を振るってこなければいいが。
銀河が沖長を値踏みするように見てくる。どうやらあの時に一度会っていることを覚えていないようだ。
(まあ、あん時は赤髪に殴られてすぐにフェードアウトしたしな)
だから覚えていないのも無理はない。
「お前……ナクルの何だ?」
何と言われたらそれは「友達」だと思うのでそう答えようとすると――。
「オ、オキくんはボクの大事な人ッス!」
公衆の面前でとんでもない爆弾発言をしてくれたのである。
季節は春。まだ朝は少し肌寒かったりするが、それでも優しい温もりとともに、様々な始まりを期待させる時期である。
そして今日、沖長は晴れて小学一年生になり、その隣には自分と同じようにピカピカの一年生になったナクルが立っている。
「ほらほら、二人ともニッコリしてねぇ~」
二人の目の前には、カメラを構えた悠二と葵、そしてナクルの両親である修一郎とユキナも微笑まし気にこちらを見ている。
現在沖長とナクルは、【六葉《ろくよう》小学校】と刻まれた正門の前で仲良く並んで立っていた。ナクルはどこか照れ臭そうだが、表情を見るに少し興奮もしている。何だかんだいっても、この日が楽しみだったことが窺えた。
対して沖長は二度目の小学生ということで、興奮というよりは懐かしいなという思いの方が強い。とはいっても楽しみではないというわけではない。
前世では虚弱体質のためにできなかったことが多かったため、二度目の小学生では存分に身体を動かそうという期待値は高くなっている。
特にいつも見学していた体育や運動会などは今から非常に楽しみだったりする。まあこれから算数や国語とか、ゼロからやり直すのはさすがに苦痛ではあるが。
何度も悠二と修一郎が、自身が持っているカメラのシャッターを切っていると、さすがに沖長は「もういいでしょ」と飽きてしまい勝手に動き出した。当然悠二が悲し気な表情を浮かべるが、もう何十枚も撮っているのだから満足してほしい。
沖長は意気消沈している悠二を放置し、周囲を観察し始めた。
(…………やっぱりいない、よな?)
実はこの日、不安はあった。それは例の赤髪少年が間違いなく絡んでくると思っていたからだ。何せナクルの家はバレているし、この近くに住んでいるなら通う小学校も同じ可能性が高かったから。
故に入学式に絶対に絡んでくると覚悟をしていたのだが……。
(あれから全然姿を見ないし)
公園で吹き飛ばされたあの日から、とんと姿を見せなくなったのである。
こちらが怯えて姿を見せなくなるということはあったかもしれないが、圧倒的に優位な立場だった彼が絡むのを辞めるとは思えない。
しかしあれから一度も姿を見ないのである。
(うーん、実は学区が違うとか? いや、それでもあの執着性だ。ナクルに会いにくると思うけどなぁ)
隣町程度なら問答無用でストーカー行為をしてくるという確信していたのに、何の音沙汰もないから逆に不気味だった。
ナクルは鬱陶しい子供がいなくなったことでホッとしていたようだが、沖長にとっては彼についての背景をある程度推測できているからか完全に安堵してはいない。
とはいっても実際にこの学校にはいないようだし、そこは安心してもいいのかもしれない。
(いや、まだ体調でも崩して欠席してるって可能性もあるか)
だからまだ完全には警戒を解けない。
それにたとえ赤髪少年がいなくても……。
「――やあ、ナクルじゃないか!」
ナクルから少し目を外していたら、いつの間にかそこに一人の少年が満面の笑みを浮かべて接近していた。
(うーわ……やっぱ来たかぁ)
大きな溜息とともに、沖長はその少年を見つめる。
日光に照らされ眩く輝く銀の髪に、モデルのような顔立ちと珍しいオッドアイ。まるでアニメから出てきたようなイケメン少年がそこにいる。
そうだ。この少年こそ、ナクルと初めて会った時に遭遇し、赤髪少年にぶっ飛ばされて気絶した少年である。
赤髪少年みたいにナクルの家に押しかけたりしなかったが、それでもナクルに執着していることだけは間違いなかった。
その証拠に、入学式の時にナクルを見つけたこの銀髪少年は、自身の周りを取り囲んでいた女子を払いのけ、真っ先にナクルのもとへ向かい口説き始めたのである。
しかもその時の言葉は――。
『やあ、やはりお前はとても可愛いな、ナクル。どうだ、このあと俺の家で一緒に食事でもしないか?』
もう分かると思うが、コイツは間違いなく赤髪少年と同じ転生者だ。
まだ六歳のガキが、こんな流暢に喋ることができるわけがない。しかも口説き文句をだ。
これがドラマに出てくるようなイケメン俳優のセリフなら、少し吐き気を催すものの納得できるが、六歳児のコレはほぼ有り得ない。
つまりやはり転生者の可能性が高い。というより沖長の中では確定しているが。
だから赤髪少年がいないとしても、コイツがいることで何の安心もできなくなったというわけである。
突然ナクルに接近した少年にギョッとしているのは、当然ナクルの両親だ。特に修一郎は険しい顔でハッキリ言って怖い。
「あ、あの……さっきもいきなり話しかけてきたッスけど……」
ナクルは不安そうにそう言葉を述べる。
「ああ、悪い悪い。俺は――金剛寺銀河《こんごうじぎんが》。銀河って呼んでくれ」
ニコッと胡散臭そうに笑みを見せる銀河。周りの女子たちは、そのイケメンスマイルに目がハートになっているが……。
「え……いきなりなれなれしいッスよこの子ぉ……」
どうやらナクルにはまったく効き目はないらしい。
すると怖くなったのか、ナクルが早足で沖長の背中に隠れた。
「オ、オキくぅん……あの子、変なんス」
そんな変なおじさんが出てきたようなセリフを言われても……。誰だ君はと聞いたら、「そうです。私が変なお子さんです」とか言ってくれるのだろうか。
ただ、ナクルがこんな反応をしたということは――。
「――誰だ、お前?」
銀河の鋭い眼差しが沖長へと向けられた。
(ほらね、やっぱこうなるわな)
こうなることは覚悟していたが、何とか穏便に済ませる方法を考える。
あの赤髪少年みたいに問答無用で暴力を振るってこなければいいが。
銀河が沖長を値踏みするように見てくる。どうやらあの時に一度会っていることを覚えていないようだ。
(まあ、あん時は赤髪に殴られてすぐにフェードアウトしたしな)
だから覚えていないのも無理はない。
「お前……ナクルの何だ?」
何と言われたらそれは「友達」だと思うのでそう答えようとすると――。
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