俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

文字の大きさ
上 下
21 / 233

20

しおりを挟む
「ナクル、本当に知り合いではないんだね?」

 修一郎の問いにナクルは何度も頭を縦に振る。

「い、いきなり名前をよんできたッス……。顔も見たことないし、名前もしらないのに……」

 ナクルの言葉に修一郎は低く唸る。

「そういえばもう一人似たような奴もいたよね、ナクル?」
「……う、うん」

 沖長の問いに首肯したナクルだが、さらに驚きを見せたのは修一郎と蔦絵である。ちなみに葵は「モテるのねぇ、ナクルちゃんは」とズレた見解をしているのでそっとしておく。

 もう一人、赤髪の少年と同じようにナクルに絡んでいたのは銀髪少年だ。あの時は赤髪少年にのされてしまっていたが、彼もまたナクルのことを俺のものと言っていたのでヤバイ奴なのは間違いない。

(最近の子……というか、この世界のガキんちょはああいうヤツらが多いのか……?)

 だとしたら日本の将来が不安で仕方ないが。これから小学校に通うことになるので、そこにも奴らと同じような子供が大勢いたらと思うと背筋が寒くなる。
 とりあえずはできるだけナクルを一人にしないようにして、あまりにもしつこいようだと親御さんに報告することを決定しその話題は終結した。

「ということで、これからナクルの傍にいてやってくれよ、沖長くん」

 爽やかな笑顔とともに修一郎が言ってきた。同じく蔦絵も「お願いね」と頼み込んできた。
 そうなのだ。結果的に、今後のナクルの護衛という大役を仰せつかってしまったのである。

 聞けば、通う小学校も同じらしく、これ幸いと白羽の矢が立てられたわけだ。
 葵は葵で「あらあら、沖ちゃんってばナクルちゃんの王子様ねぇ」と微笑まし気で、ナクルは「これからもオキくんとずっといっしょッス~!」と大喜びだ。

 何だか勝手に決められて釈然としないものはあるし、普通に戦えば多分ナクルの方が絶対に強いという確信もあるが、それでも頼られることは素直に嬉しかった。
 それにこんな小さな子が悲しむのは見たくないので、修一郎たちの要求を受け入れたのである。

 そうして話が終わると、葵と一緒に家に帰ることにした。途中、葵が買い物をしたいということで近所の商店街に立ち寄ることに。
 しかしここで子供にとっては退屈な出来事が起きてしまう。それは葵が近所の奥様方と井戸端会議を開催したのである。こうなったら長いのはどこの世界も同じだ。

 ということで家も近いし、葵に言って先に一人で帰宅することにした。
 商店街を出てすぐ近くにある公園を横切ろうと踏み入った瞬間である。

「――――やっと見つけたぜ!」

 そんな言葉とともに現れたのは、例の赤髪の少年だった。

(うっわ、見つかったよ……)

 一気に最悪な気分に落ちながらも、「何か用?」と尋ねた。

「おいてめえ、何でナクルと一緒にいやがった!」
「はぁ……またそれか。ていうか君には関係ないだろ?」
「調子に乗るなよ、モブごときが!」
「あのさぁ、あんまり人に向かってモブとか言わない方が良いぞ」

 確かに前世を含めて、漫画でいえば目立たないモブのような人生を送っている自覚はあるが。

「うるせえよ! いいから今度からナクルには近づくな! いいな!」
「何でそんなこと言われなくちゃならないんだ?」
「いいからモブは主人公の言う通りに動いときゃいいんだよ1」

 これでも大人の思考力は持っているから、できるだけ言い聞かせるつもりだったが、本当にこちらの話を聞くつもりのない相手に少々苛立ってくる。

「どうせお前なんて俺がいることで現れたイレギュラーってだけだろ! 何の力も持たねえくせに俺の物語に入ってきてんじゃねえよ!」

 …………イレギュラー?

 彼の言った言葉に引っ掛かりを覚える。

「どういうこと? まるでこの世界が君の物語で作られてるみたいなことを言ってさ」

 まさかこの歳ですでに中二病にかかっているのかと戦慄を覚えている。同時に前世で自分もまた同じような病に蝕まれていた記憶が蘇り心がキュッとなった。

「フン! やっぱ何にも知らねえか。なら猶更ナクルの傍にいるじゃねえ! これからアイツを救うのは俺であるべきなんだからな!」

 またも妙なことを堂々と言ってくる。

(ガキんちょの物語? ナクルを救う? まるでこれからナクルに悲劇でも襲い掛かるような言い方だけど……いや、仮にそうだとしても何でそんなことを知ってるんだ?)

 どんどん疑問が湧いていくが、素直に質問をしても答えてくれそうにないので、ここは少しでも情報を引き出そうと試みる。

「……君はもしかして未来が分かるのか? だったらスゴイな」

 とりあえず褒めながら良い気分にさせて情報を吐かせよう。

「おお、俺はスゴイんだよ! だからナクルの傍にいて支えるのは俺だ! いや、ナクルだけじゃねえ! アイツらだって全部俺が救ってやるんだよ!」
「? ……アイツら? アイツらって誰? それにナクルに起こる悲劇って何?」
「アイツらはこれから出てくる奴らで、ナクルたちはいろんな悲劇に……って、何でそんなことをモブのてめえに教えなきゃならねえんだよ!」

 少し性急に聞き過ぎたのか、またも彼の怒気が膨らみ始めた。

「ああ、ゴメン。でもほら、もしかしたら何か力になれるかもって思ってさ」
「だから、何の力も持たねえてめえなんてただの足手纏いにしかならねえんだよ!」
「そうかもしれないけど、一人より二人、二人より三人てね。数が多い方が効率も良いと思うし」
「うるっせえ! とにかくナクルもアイツらも全部俺が手に入れるんだ! それを邪魔する野郎は絶対に許さねえっ!」

 これはもう落ち着かせるのはダメかもしれない。

「……許さないとどうするわけ?」
「こうするんだよっ!」

 すると驚く現象が目の前で起きる。
 突如少年の身体から青白い光が迸ったと思ったら、少年が天に掲げた右手に集束し、次の瞬間に沖長に向かって放たれた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉
ファンタジー
チートはもらえるけど戦国時代に強制トリップしてしまうボタン。そんなボタンが一人の男の元にもたらされた。深夜に。眠気で正常な判断のできない男はそのボタンを押してしまう。かくして、一人の男の戦国サバイバルが始まる。『チートをもらえるけど平安時代に飛ばされるボタン 押す/押さない』始めました。ちなみに、作中のキャラクターの話し方や人称など歴史にそぐわない表現を使う場面が多々あります。フィクションの物語としてご理解ください。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

転生したアラサーオタク女子はチートなPCと通販で異世界でもオタ活します!

ねこ専
ファンタジー
【序盤は説明が多いので進みがゆっくりです】 ※プロローグを読むのがめんどくさい人は飛ばしてもらっても大丈夫です。 テンプレ展開でチートをもらって異世界に転生したアラサーオタクOLのリリー。 現代日本と全然違う環境の異世界だからオタ活なんて出来ないと思いきや、神様にもらったチートな「異世界PC」のおかげでオタ活し放題! 日本の商品は通販で買えるし、インターネットでアニメも漫画も見られる…! 彼女は異世界で金髪青目の美少女に生まれ変わり、最高なオタ活を満喫するのであった。 そんなリリーの布教?のかいあって、異世界には日本の商品とオタク文化が広まっていくとかいかないとか…。 ※初投稿なので優しい目で見て下さい。 ※序盤は説明多めなのでオタ活は後からです。 ※誤字脱字の報告大歓迎です。 まったり更新していけたらと思います!

処理中です...