俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ

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「………………疲れたぁ」

 家に帰ってくるなり、沖長はベッドの上に前のめりに横たわった。
 肉体的疲労はほとんどないが、精神へのダメージはかなりのものである。

 ナクルの自宅にお邪魔させて頂いたのはいいが、それから日ノ部家総出で質問攻めに遭った。
 まるで記者会見でも受けているかのように矢継ぎ早にされる質問に答えるのは見た目以上に疲弊するものだということを実感することができたのである。

(まあでも、この世界で初めての友達っていう友達ができたけどさ)

 それがまさか女の子になるとは思わなかったが、とても良い子だしこれからも付き合っていきたいと思えた。

「……古武術かぁ」

 寝返りを打ち天井を見上げながら呟く。
 帰る際に、またナクルと修一郎に勧誘された。特にナクルは、沖長と一緒だったら毎日修行でも楽しそうで頑張れると言い張り、あの無邪気な天使の期待を裏切りたくないと思いつつも、習い事は自分一人で決められるものではないので本当に困った。

(両親に相談してみるか)

 自分にとっても体力作りになるだろうし、友達と一緒に身体を動かす青春というものに憧れている立場からしたら都合が良くもあった。

 それに他のスポーツのように大会とかを目指しているわけではないようだし、自分の力が迷惑をかけるようなこともないと思う。そう考えれば打ってつけとも言える。
 とりあえず今日経験したことを両親に話してみよう。

 そう決めて夕食時、さっそく父と母に相談することにしたのである。
 当然古武術なんていうあまり習い事としては候補に出ないものに対し、葵はどこか不安そうな様子ではあったが、悠二は意外にもあっさりと「いいんじゃないか」と賛同してくれた。

「でもあなた、古武術って何か危険そうじゃない?」
「どんなスポーツだって何かしらの危険は付き物だぞ。俺の水泳だってそうだ。足がつって溺れて、誰にも気づかれなければそのまま死んでしまうことだってある。そこまでいかなくても、サッカーだって体操だって同じ。身体を鍛えるということは負荷をかけて身体を痛めるということでもあるんだし、どうしても怪我や病気に繋がってしまうことはある」

 さすがはアスリート。その言葉の一つ一つに根拠と説得力がある。

「けれどスポーツはいいものだ。身体だけじゃなく、心も成長させることができる。だから俺は沖長がやりたいっていうなら支持してやりたい」
「あなた…………そうね、沖ちゃんの人生だもんねぇ。でもでも、一度見学させてもらってからでも決めるのは遅くないんじゃないかしらぁ。ほら、あちらのご両親ともお話しておきたいしねぇ」

 葵の言い分も正しいだろう。可愛い一人息子のことなんだから、対応は万全にしておきたいというのは親心である。

「そうだな。明日はちょうど午後から開いているし、向こうさんに時間があれば会いに行ってみるか?」

 一応電話番号も聞いておいたので、それを悠二に伝えると、食事後にさっそく日ノ部家へ連絡と取り、問題なく明日の午後に再度お邪魔することになったのである。

 明日の予定も決まったことで、今日の成果を存分に楽しむために自室でリストを確かめることにした。

「いろいろ野草手に入ったなぁ。つくしによもぎ、それにたんぽぽは王道だよな。どれも天ぷらにしたら美味いしラッキー」

 前世では、一人暮らしで金がない時にたまにお世話になっていた野草だ。他にもノビルやクレソンなども手に入った。無論無限化しているので、その気になったらこれを売るだけでも大儲けできるだろう。特にノビルやクレソンは高級料理店でも使われたりするらしいし、質の良いものが手に入れば……。

(いやいや、何か危なそうな商売だし止めとこ)

 やはり人は身の丈にあった生活が一番だ。少しくらい背伸びするのはいいが、あまりに高いものを取ろうとして足を踏み外しては元も子もないのだから。
 リストを一旦閉じると、テーブルの上を凝視する。

(――――〝使用〟)

 あるモノを念じつつ力を発動させた。
 すると何もなかったテーブルの上に、一瞬にして皿に乗ったプリンと紙でできたスプーンが現れた。
 ちなみにプリンはカップに入ったままで、スプーンも透明の袋に包まれている。

 これまではリストを通して、わざわざ選択して取り出していたが、今みたいに念じるだけで能力を発動することが調査の結果分かっている。
 また単一のものだけでなく、一気に複数を脳内の中で選択して〝使用〟することも可能。

「よし、できたな。あとは……」

 次にカップに入ったプリンと袋に包まれたスプーンに意識を合わせる。

(――――〝回収〟)

 直後、皿の上にはカップが消えて表に出たプリンと、同じように袋が消えたスプーンがある。
 こんな感じで、外側だけを〝回収〟することも、その逆もまたできることが分かったのだ。これを沖長は〝分回収〟と呼んでいる。まあ簡単にいえば分けて〝回収〟するからそう名付けたネーミングセンスゼロから生んだ能力だ。

 ただし未回収のものは、見ている外側、あるいは中身も一緒に〝回収〟することはできるが、〝中身だけを回収〟することはできない。

 一度《アイテムボックス》に収めれば問題ないが、初見では中身の認識が不可能なので、それだけを抜くというのはできないようだ。だが外側と一緒なら〝回収〟できるということは、恐らくはこの能力は指定した空間そのものに干渉し能力を発揮しているのではないかという推察に至った。

 一度〝回収〟することで、中身がどれほどの大きさを正確に把握しているから、無意識に空間設定して〝回収〟しているのだと思う。
 たとえ中身を知らなくても、外側と一緒に指定した空間を広げていき、それらを一気に取り込むというのが本質だと考えた。

 実際に今日、地面を掘るようにして〝回収〟したことがあったが、あれも視界に映っていない部分は、指定範囲を想像で広げて〝回収〟したのだろう。

 つまりこの能力は、《空間回収能力》とも呼べるもので、実際はそのモノ自体を収めているわけではなく、指定空間に存在するものを一気に取り込んでいるといった方が正しいかもしれない。

(……まあ、別にどっちゃでもいいけどね)

 こちらとしてはちゃんと手にすることができるなら小難しい理屈など必要ない。そもそもバグに等しい能力なのだから、正確に把握する方が難しい。
 そういうものだと割り切って使用した方が気楽というものである。

「まだ寝るまでに時間あるし、他にもいろいろ便利な機能がないか試しておくか」

 理屈など必要ないとは言いつつも、隠されているものを見つけるのは割と好きなこともあって、眠気が来るまで延々と《アイテムボックス》いじりを続ける沖長であった。




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