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「あーちょうど良かったぜ。実はこの嬢ちゃん、お前さんの客でな」

 店主の言葉に「客?」と首を傾げる。

「そーなんだよ。どこに住んでるのか、いつ店に来るのか、答えろってうるさくてよ」

 それは店主にも言ってないので、聞かれても答えようがないだろう。
 しかしなるほど、先程の声はそれを要求してのものだったらしい。
 でも客ってどういうこと? それが分からないんだけど……。

「お、おおっ! もしかしてお兄さんがこの店や雑貨店に商品を卸してる人っすか!?」

 グイグイッと一気に詰め寄って嬉しそうな顔を近づけてくる。

「ちょ、ち、近い近い!?」
「おっと、これはすまないっす」

 こちとらあんまり美少女に免疫がないんだから注意してほしいよ、ったく。

「んで、君は誰?」
「フッフッフ、名前を尋ねる時は先に――」
「ちなみに僕はツナギ。こっちはムトね」
「名乗る方が……って最後まで言わせてほしかったっす……」

 目に見えてガックリと肩を落とす少女。何だかノリが良く面白い子である。

「おほん。名乗られたからにはこちらも名乗るのが礼儀っすよね。あたしの名前はユーミ。こう見えても『目利き屋』としてるっす」
「……目利き……屋?」
「えぇーっ、知らないんすか!?」

 え、そんなに常識なことだったの?

「『目利き屋』っつーのは、別名『鑑定士』とも呼ばれててな。素材やアイテムなんかを鑑定して評価する連中のこった」 

 店主が丁寧に教えてくれたので一発で理解できた。

「この嬢ちゃん、お前さんが卸してくれる物品を見て顔色変えやがってな。紹介しろってうるさかったんだよ」
「そーなんすよ! 聞けばこっちの石の剣や槍、それにあっちの皮の服や帽子なんかもあなたが作ったっていうじゃないっすか!」

 確かに彼女が示した武具は僕がこの店に卸したものだ。

「一見しただけで分かるっす! どれも素晴らしい出来っすよ! 特に耐久値がずば抜けていて、普通のものと比べて二倍くらいあるっす」

 え、マジで? この子、耐久値なんか見ただけで測れるの?

 実はゲームでも普通に店で売っているものより、クラフトして作ったものの方が性能が良かったりする場合が多い。
 それがちゃんとこの世界でも反映されているようだ。

「まるで一流の鍛冶師が丹精込めて作り上げた一級品のようっす! ただ気になったのは、そんな素晴らしい武具をこさえられる方が、どうしてこんな田舎の武具屋を活用しているのかってことっす」
「悪かったな、田舎の武具屋で」
「ああっ、ごめんなさいっす! ついいつもみたいに思ったことを口にしてしまい!」

 つまり紛うことなき本音だったというわけだ。見てみてよ、店主なんか完全に顔を引き攣らせてるじゃないか。

「と、とにかく! あたしの興味を引いた鍛冶師に一度お会いしてみたかったんすよ! いや~、でもまさかこんなに若い人だったとは~!」

 目を輝かせながらジ~ッとこちらを見つめてくる。

「いや、僕は鍛冶師じゃないんだけどな。もちろんこっちのムトもね」
「!? な、何ですと……!」

 するとその視線がムトの方にも行く。

「……ん? ……んん? す、凄いっす……!」

 急にそんなことを言い出したが、何が凄いんだろうか。

「あ、あたしの目利きでもまったく価値が判断できないっす……!?」

 ムトは何のことか分からないようで小首を傾げている。
 ただユーミさんの方は、ゴクリと喉を鳴らして再度僕を見つめた。

「この人もそっちの人と同じく価値が判断できない? ……こんなことは初めてなんすけど……」

 ムトはまあ希少な魔物なので、正確に目利きできなくても分かるが、僕は何で?
 ただの子供だと思うんだけど……。

「う~む。これはもしかしたら当たり……かもしれないっすね」

 顎に手を置きブツブツと呟き始めた彼女を見て心配になる。
 でもせっかくだから今のうちに今回の品物を店主に見せとこう。

「おう、いつも悪いな。査定すっからちょっと待っててくれや」

 店主が僕が差し出した武器などを査定し始める。

「まだ若いながらも、あれだけの代物を作り出せるなんて。しかも鍛冶師じゃない? ということは錬金術師ってことっすか? これは益々興味惹かれるっす」

 いまだに自分の世界に入っているみたいだが、そうこうしているうちに査定が終わり、店主から金を受け取る。
 ちょうどそのタイミングで、

「よしっ、決めたっすよーっ!」

 と、店中にこだまするような大声をユーミさんが張り上げた。

「ちょ、嬢ちゃん、うるせえっての!」
「ああごめんなさいっす! あの、ちょっといいっすか!」

 僕に詰め寄ってくるユーミさん。

「な、何です?」
「実はあなたに仕事を依頼したいんす!」
「し、仕事?」
「はいっす! あたしは『目利き屋』として常に高水準な代物を求めてるんす! そこであなた――ツナギさんでしたね、是非ともツナギさんのその腕を見込んで専属契約をしたいんすよ!」
「せ、専属契約ぅ?」

 にしてもこの子、圧が凄い。興奮してるの分かるけどちょっとは落ち着いてほしい。

「どうっすか? 珍しい素材何かはあたしが手に入れて、それで希少なアイテムなどを作ってもらうって形で! 良い儲け話になるっすよー!」

 うわぁ、この子の目、完全に金しか映ってないし。

 確かにクラフトを使えば、おいそれと手にできないアイテムを作ることは可能だ。
 素材さえあれば加工などに労力はほとんど費やさない上、一瞬で完成品を仕上げられるのだから。
 ただ別に金儲けがしたいわけではないし、専属という立場もまた不自由さがあるので……。

「……ごめんなさい」
「!? な、何でっすか! もしかしてあたしが若いからっすか? 大丈夫っすよ! ちゃんと『目利き屋』の資格も持ってますし、それなりの実績だって――」
「あーとにかく、今は急いでるのでっ!」

 僕はすぐさまムトの手を取って店から離脱する。

「あぁっ、ちょ、ちょっと待ってくださいっすーっ!」

 背後からユーミさんの声が聞こえてくる。どうやら追ってきているようだ。
 僕は全速力で駆け、そのまま〝リターンゲート〟へと急ぐ。
 そして見えるところに誰もいないことを確認すると、ゲートから【箱庭】へと戻った。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……ふぅぅぅ~」

 ここまで来ればしつこそうなユーミさんでも追いつくことはできまい。

「――む? 早過ぎる帰宅だなツナギよ」

 【祠の扉】で出迎えてくれたのは、先程別れたはずのヤタだった。



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