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「……じゃあ肝心なことを聞きたいんだけど」
「元の世界に戻れるか否か、だな?」
「あーやっぱ分かっちゃう?」
「当然考え得る疑問だ。そうだな……そればかりは神のみぞ知るとしか言えん」

 だよねー。そうだと思ったよチクショー。

 だけどこれでやるべきことは見えた。
 この状況を作った神様がいるなら、その当人に会って交渉するしかない。
 だが問題は、だ。

「神様ってどうしたら会えるの?」

 ゲームでもそんなシーンはなかった。

 最高レベルの【箱庭】にしたらいいのだろうか?
 そうしたらパンパカパーンって、クラッカーでも鳴らしてお迎えしてくれるんだろうか?

「神に会う方法、か」

 渋い声で唸るヤタ。

「やっぱりそんな方法ない、かな」
「ないこともない……かもな」
「ええっ!? それマジで言ってる!」
「うむ。吾輩の知識にある言葉が強く残っている」
「言葉……それは?」

 ――『《最後のクラフト紋》を得し者には、すべてを求む権利が与えられる』

 何だか仰々しい言葉だけど……。

「最後の《クラフト紋》? それって《金のクラフト紋》でしょ?」

 実際ゲームではソレに到達したのだから当然知っている。
 しかし驚いたことにヤタは難しい顔を浮かべつつ言う。

「確かに吾輩の知識にも《金のクラフト紋》が最終段階のクラフト能力だとある。だがそれなら何故わざわざ《最後のクラフト紋》と言うのだ? 別に《金のクラフト紋》と記載すれば良かろう」
「それは…………何で?」
「むむぅ……」
「べ、別に言い回しの問題ってだけじゃないの? 《金のクラフト紋》は最後に会得するんだし」

 ただ何となくだけど、僕も自分で言ってて引っ掛かるものを覚えてる。
 確かに《金のクラフト紋》は万能の紋だけど、たった一つできないことがあるのだ。

 それは――生命の創造。

 素材さえあれば何でも作ることができるクラフトだが、生命を創造することだけはできない。
 だからこそ魔物だって、わざわざ畑を利用して創造しているのだから。
 クラフトできればそもそも畑なんて必要じゃないしね。

「ではお主は元の世界に戻るために、《金のクラフト紋》の習得に励むのだな?」
「え? あ、うん……まあそういうことになるんだろうけど」
「何だ。歯切れが悪いな」

 元の世界に戻ったとしたら、この【箱庭】はどうなるのだろうって思ってしまった。

 イチは? ニンは? サブは? ヤタは?
 そして……ムトは?

 昨夜のムトの温もりを思い出し、当初から抱いていた元の世界への帰還欲求が少し揺らいでいることに気づいた。

 …………いや、今はとにかくレベル上げに集中すればいい。

 神様うんぬんのことは、とりあえず《金のクラフト紋》にまで辿り着いてからでいい。
 それにこの世界、決して嫌なんかじゃないしね。

「と、とにかく確実じゃないけど、道は見えたんだ。今はやるべきことをしようと思う」
「…………了解した。吾輩は最後までお主のサポートをするだけだ。まあできれば、お主にはこの【箱庭】で末永く暮らしてもらいたいがな」
「はは……うん。ありがとヤタ。これからもよろしくね」

 何だか自分だけが抱えていた問題をこうして話せて、ヤタと共有することができて心にゆとりができたような気がした。
 あとで昨日のお礼として、ムトにも話しておこう。
 それがケジメ……いや、家族としての義務、かな。










「――――おおっ、ヒビが入ったぞ!」

 現在、僕たち【箱庭】の住人たちは、一様に新たな命の誕生を出迎えていた。
 目前には全長五十センチメートルくらいの巨大な水色の卵がコロコロと動き、ところどころからヒビが生まれている。

 ――バキッ!

 中央部に大きな亀裂が走ったと思ったら、一気に殻は上下に破れ、そこからプニプニとした青白い生物が姿を見せた。
 唯一のボスクラスの魔物――ジャイアントスライムである。
 種を植えてから五日後のことだ。

「おおぉぉ~っ! 産まれたぁ!」

 僕だけでなく、その場にいる者たち全員が祝福をしている。
 ジャイアントスライムは、その大きな瞳で僕を見ると嬉しそうに目を細めて、

「ジィ~ッ!」

 と鳴きながら胸に飛び込んできた。

「おっと! おおぅ……結構重いな」

 産まれたてということもあり、まだこうして抱えられるほどの大きさだが、これからどんどん大きく成長していく。
 イチたち古参の魔物たちだけでなく、その前に新たに誕生したバットンやスネークラビットたちも声を上げて仲間を歓迎している。

 これで初めてのEランクの魔物がこの地に生まれ落ちた。


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