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「鍛冶師じゃありませんよ」
「は? 鍛冶師じゃねえのにこれを造ったって……! そうか、おめえ……錬金術師か?」

 僕はニコッと笑みだけを浮かべる。
 すると店主は納得したように二回ほど頷く。

「なるほどな。優秀な錬金術師は、薬だけじゃなく武器も造れると聞くが、マジだったとはな」

 そう。この世界には錬金術師と呼ばれる者たちがいる。
 元々は薬や魔法具、そして人工生物などの研究に従事し、それらを構成する技術を開発した職人たちだ。
 しかしその技術は、比較的万能であり、大国のお抱えの錬金術師は武器開発などにも手を出し、それを成功しているという話もあった。

 実はゲーム上の設定ではあるが、僕たちプレイヤーのクラフトは、この錬金術の上位互換だと言われていたのである。
 一応ヤタには錬金術師の有無とその力については説明を請うていた。
 だからこそ、その存在を体よく利用できると思ったのである。

 ……嘘は吐いてないしね。

 勝手にこのおっちゃんが勘違いしてくれただけだし。
 僕自身は錬金術師を名乗っていない。ただ武具を造ったといって、ニコッと笑っただけ。

 これが詐欺だというならかかってこいやー!

「この仕上がり、ずいぶんと優秀なんだな。しかも鉄製の武器まであるじゃねえかよ」

 少しもったいない気もしたが、鉄製の武器は、石や木の武具より確実に高く売れるのだ。
 今後のことを考えたら、ここで奮発しておくのも悪い計画ではない。

「よし、ちょっと査定すっから待っててくれよな」 

 そうして一つ一つ丁寧に武具を確認していく店主。
 どうやら見た目とは裏腹に、繊細で丁寧な仕事をしてくれる店らしい。

 ああ、偏見だったな。自重しなきゃダメだ。

 人を見かけで判断するのはいけないことだと思いつつも、ついつい第一印象で決定づけしてしまう。
 こういうところは直していかないと。
 すべての査定が終わったあと、白い歯を見せながら店主が笑う。

「すげえじゃねえか。大したもんだ。どれも出来は申し分ねえ」
「それは恐縮です」
「どうだ? これからは俺の店で卸専門として働かねえか?」
「えぇ……と、か、考えさせてもらいますね」

 またこの店で買い取ってもらうのはありがたいけど、さすがに専属というのは困る。
 こういう契約は軽々しくやってはいけないとヤタにも念を押されていたしね。

「むぅ、そっか。まあ気が向いたら声をかけてくれ。こっちはいつでもウェルカムだからよ」

 そうして大らかな店主のコミュニケーションに若干気圧されながら、彼から金を受け取ることになった。
 この世界での貨幣単位は――〝ジリー〟。

 基本的に日本円とそう価値は変わらない。
 ただ紙幣ではなく金貨のようなコインでやり取りされている。
 それぞれ一枚単位での価値は――。

白金貨→十万円。
金貨 →一万円。
銀貨 →千円。
銅貨 →百円。
鉄貨 →十円。
石貨 →一円。

 こんな感じになっている。
 それぞれ五百円玉くらいの大きさだ。
 何故かクラフトでは金を作れないので、それだけが残念だ。

 もしできれば一気に億万長者になれるというのに。
 やっぱりゲーム世界とはいえ、世の中そんなに甘くないということなんだろうか。
 今回の交渉で得た金は三千六百ジリ―。

 店主曰く、良い品を卸してくれたために多少色をつけてくれたという。
 また持ってきてくれたら、優先して買い取ってやると言ってくれたので、ありがたく礼を言い再度来ることを約束しておいた。

 珍しそうに店内で武具を見ていたムトとともに店を出て、そのままの足で、今度は雑貨屋へと向かった。
 そこでは、作り置きしておいた日用品を売る。

 最初は先のおっちゃんのように、僕が造ったと言うと怪訝な表情を浮かべた雑貨屋の店主だったけど、ここでも錬金術師の話題に誘導して何とか誤魔化すことができた。
 武具屋でもそうだったが、僕が造ったものって結構品質が良いらしく、どれも通常余地は高値で買い取ってくれたのだ。

 特に《夜光石》を利用してクラフトした《ランプ》や、《スライム油》などで作った《石鹸》が目を引いたみたい。
 せっかくだからと自分用に数個だけ残し、インベントリにある残り数だけ全部買い取ってもらった。

 お蔭で想像以上の稼ぎになり懐が温かくなったのである。
 結果、少し前までは無一文だったのに、今では約一万ジリ―近い収支を得たのであった。


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