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 初めのてのダンジョン探索から二日後のこと。
 畑に植えた種から芽が出たのである。

 ただ全部というわけではなく、芽が出たのはバットンという魔物の種だ。
 スライムより育ちは遅いが、それでも比較的早い方である。
 その間はダンジョン探索やクラフトに勤しんでいた僕は、早朝にその芽に気づき、思わずその光景をムトたちにも見せてやりたいと思い、悪いとは思ったけど起こした。

 当初ムトやイチたちは寝ぼけ眼ではあったものの、土からひょっこりと顔を覗かせている芽を見ると瞳を輝かせて見入った。
 やっぱり彼女たちも楽しみにしていたようだ。
 イチたちも初めての後輩ができるのだから嬉しいのかもしれない。
 だが芽が出たとはいえ、まだすぐに生まれてくるわけではない。

 ヤタ曰く、早ければ数日内に《マモタマ》として収穫できるようになるらしい。
 それを楽しみにしながら僕は今日もまた【箱庭】での生活を頑張ろうと思った。
 しかし本日、できることなら行きたい場所もあったのである。
 そのためにも再度確認のために【扉の祠】に足を運んでいた。

 僕は祠に触れて〝ダンジョンゲート〟と口にする。
 するとドラムロールのような画面が出現し、中央には【始まりの森】と文字が刻まれ、初めの頃はその上下は【?????】だったが、現在下には新たなダンジョン名が記されていた。

【グリグラ洞穴】
【モンストル山】
【ヴァッハ湿地帯】

 その三つが連なっていた。 
 管理人レベルが20を超えたことでの解放である。

 うん、やっぱり新ダンジョンが増えたな。

 けど本題はこのダンジョン名の確認じゃない。
 それは――。

「――〝ウェスティアゲート〟」

 そう口にした直後、ダンジョンに関する画面が消失し、代わりに初めて確認するが、同じようなドラムロール画面が出現した。
 ただ中央に刻まれた文字は初見のものである。

 ――【グートン草原】。

 まあこの世界では初見だが、記憶上には見覚えのある名前だ。

「うん、やっぱりこれで西大陸へ飛ぶことができるみたいだな」

 この〝ウェスティアゲート〟というのは、地図でいうと西に存在する大陸へと通じる門なのである。
 この世界には大きく分けて四つの大陸があり、それぞれ東、西、南、北と綺麗に分別できる。

 その中の一つである西大陸――【ウェスティア大陸】と呼ばれる場所へ瞬時に移動することができるゲートを開くことが可能なのだ。

「――何をしているのだツナギ?」

 背後から聞こえた声についビクッとなったが、振り向くとそこにはヤタがいた。

「ふぅ、驚かせないでよ」
「もしかして今日はダンジョンへ行くのか? まあレベルも確実に上がっているから、お主一人でもレベル20未満のダンジョンなら大丈夫かもしれぬが」
「いやいや、違うよ。今僕が見てたのはもう一つのゲートの情報だって」
「ほう。なら〝ウェスティアゲート〟だな。なるほど、そろそろ人里へ出向こうというわけか」

 そう、ここではない別の大地。
 そこには僕以外の人たちが住まう街や村などが存在する。

「うん。そろそろ交易でもして新素材や食材をゲットしようかと思って」

 人との交流でしか手に入らないものだって多い。
 特に金銭やコネクションなど、ここに居ては手にすることはできない。
 店などを利用すれば、入手困難な素材も交渉や金次第で手に入れることもできる。

 現在ココで作った武具や道具なども溜まってきた。
 これらを捨てるよりは店に売って金にした方が生産的だしね。

「なるほど。それは良い心掛けだろう。しかし一人で向かうのか?」
「ムトも行く」
「のわぁっ!?」

 いきなり背後に現れたムトに心臓が止まりそうになった。さっきのヤタ以上にビックリしたよ。

「お、音もなく現れないでムト……」
「ごめん。それよりもツナギ、どっか行く?」
「え、あ、うん」
「じゃあムトも行く」

 僕的には何の問題もないけど、ヤタは難しい表情を浮かべている。
 その理由を聞いてみた。

「人と魔物との関係は決して良好ではない。もしムトが魔物だと分かれば厄介事になるやもしれぬぞ」

 なるほど。確かにゲームでも邪気に支配された魔物たちに襲われる人たちが多く、討伐隊などが組織されたりして敵対する関係だった。
 《純粋種》であっても、魔物は武具などの貴重な素材や食材にも成り得るので、ハンターと獲物のような繋がりといっていい。
 ムトがそうだと知られれば余計な騒ぎを生むことになるかもしれない。

 でもなぁ……。

 チラリとムトを見ると、ウルウルと寂しげに目を潤ませている。

 まるでこれじゃあ捨て犬だよ……。
 なにこの半端ない罪悪感。

 ただ救いなのは、彼女の見た目はほとんど人そのものだということだ。 
 変わっているのは頭に生えている竜の角だけ。

「……よし、分かった。一緒に行こっか」
「! いいの?」
「うん、だけどちょっと待ってね」

 僕はインベントリから毛皮を取り出してクラフトした。
 完成したのは――《ネコミミ帽子》である。

 ちょうど角の部分がすっぽりと入るような空間がある帽子だった。
 他にもウサミミやイヌミミなどもあったが、彼女に似合いそうなのは猫かなと思ったので服の色と合わせて黄色い帽子を作ってやった。

「はい。これを被ってみて」
「ん…………似合う?」
「うんうん! めちゃんこ可愛いよムト」
「……えへへ」

 最近少しだけ感情表現が強くなってきたようで、薄くだが笑うようになった。
 今も照れ臭そうにムトは笑顔を見せている。

 それにしても…………ヤバ可愛いな、マジで。

 ただでさえ普通にしていても美少女なのに、萌えアイテムを追加したことで、さらに威力がアップしている。
 ロリコンが見たら、黙ってお持ち帰りしてしまうほどの凶悪なまでの愛らしさだ。

「それを僕が良いって言うまで絶対に取らないこと。約束できる?」
「ん、約束する」
「よし。じゃあ一緒に行こう」

 そこへイチたちも連れてけ連れてけと言わんばかりに寄ってきたが、さすがに言い訳できそうにないので見送ってもらうことになった。
 それから一度小屋へ戻って新たな大地へ旅立つ準備をしてから、再度【扉の祠】へやって来た。

「んじゃ、あとのこと頼むよ、イチ、ニン、サブ」
「「「ピィピィ!」」」

 任せろと言うように大きく鳴く三匹たち。
 僕も満足して頷くと、ヤタに「行ってくる」と言ってから祠に触れる。
 ムトは僕の手をそっと握っていた。

「じゃあ行くよ――【グートン草原】」

 僕とムトの姿は、瞬時にしてその場から掻き消えた。


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