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「…………! あーまた嫌なことを思いついたよ」
頭を抱えたくなる気持ちを抑え、僕はそのまま島の中央部分へ向かっていく。
しばらくすると少しだけ開けた場所があり……。
「…………………………嘘でしょ」
そこには煙突のついた小屋と赤茶色の土が特徴的なこじんまりとした畑があった。
この光景もまた見覚えのあるものである。
「コレって……初期の【箱庭】……だよね」
僕が初めて〝マモノ牧場〟をプレイした時のことが思い出される。
プレイヤーにはまず初めて【箱庭】と呼ばれる島が一つ与えられるのだ。
その島には現在目前に映っているような小屋と畑があり、そこで生活していくことになる。
小屋の形も畑の在り様も、すべて初期配置そのものなのだ。
「あーまだ信じらんないけどステータス画面とかもあったりとか?」
するとステータスという言葉に反応したのか、それまでは視界に映っていなかったテレビ画面のようなアイコンが浮き上がってきた。
うわ、マジで……。
試しにそのアイコンを押してみると、これまた見慣れたステータス画面が出現した。
これはもうここが日本でも地球でもないことが証明されたようなものだ。
現実の世界で空中に浮かぶアイコンをクリックしてゲームのステータス画面が出るような近未来的技術はまだ開発されていない。
「いわゆるアレか。異世界トリップ? それとも知らず知らずに死んで転生? しかも僕が知ってるゲームの世界に?」
実際問題こういうファンタジーな経験をしてみたいと思ったことはある。
異世界転移や異世界召喚などのライトノベルも好んで読むし、自分でも書いたことはあった。黒歴史の一つに加えているけれど。
しかしこれが夢ではなく、本当に現実だとしたら正直戸惑いしかない。
「こういうパターンって元の世界に戻れなかったりするけど、それは嫌だなぁ」
どちらの世界が便利かといえば、当然地球の方が断然良い。
好きなゲームや漫画もあるし、何より一人じゃないってことが大きい。
一人でいることが好きだったりする僕だが、別に孤独を愛しているわけではない。
適度な人との繋がりは欲しいのが現状であり、さすがにこの島で一人過ごすのは寂し過ぎるというもので……。
「! そうだ! ここが本当に【箱庭】ならアレがあるかも!」
ある重大なことを思い出し、僕は小屋の脇を突っ切り再度森の中へと入る。
そのまま真っ直ぐ突き進んで行くと――。
「はあはあはあ……やっぱりあった」
森の中にひっそりと佇むのは、真っ赤な鳥居と小さな祠だった。
その祠の傍にはカラスを模った像が安置されている。
「まさかと思うけど……」
そう思いつつ鳥居を潜りカラス像に触れてみた。
すると瞼を閉じさせるほどの強い光を像が放つ。
光が収まると、像があった場所には――。
「ふむ、此度の管理人はお主か」
とてもダンディな渋い声で喋る本物のカラスがそこにいた。
あーやっぱいたんだぁ。
思わず頭を抱えてしまう。
「むむ? そのように蹲ってどうしたのだ?」
「いや、マジでここって〝マモノ牧場〟の世界なんだなぁって思って」
「何を今更。お主は神に選ばれたこの【箱庭】の管理人。やる気を出してもらわぬと、我も助言のし甲斐がないではないか」
そうなのだ。
この嫌に堅苦しい話し方をするカラスこそ、プレイヤーのサポートをしてくれる《ガイドアニマル》と呼ばれる存在である。
カラスだけじゃなくて様々な動物がいるけど、それはランダムで設定されていて、僕の場合はコイツだったんだけど、ここでも同じだなんて複雑だ。
中にはフワフワモコモコの犬や猫などもいるし、愛らしい喋り方をするいかにも庇護欲をそそるような子だっている。
どうせなら僕も癒されるアニマルが良かったんだけどな……。
「む? そんなに見つめてどうしたのだ管理人よ。悪いが金など持ち合わせてはおらぬぞ」
「…………はぁ」
まあいいや。一人でずっと居続けるよりはマシだ。
それにゲームでは長い付き合いだったため気心が知れているとも言えるし。
「えっと、とりあえず僕のことはツナギでいいよ。そっちは?」
知ってるけど一応聞いておく。
「では吾輩のことはヤタと呼んでもらおう」
「はいよ。それと質問いい?」
「答えられることならば」
「地球に戻るにはどうすればいいのかな?」
「ちきゅう? どこの地名なのだ?」
「……日本という言葉に聞き覚えは?」
「一本二本のことか?」
どうも知らないようだ。しらばっくれている可能性も否定できないけど、現状追及したところで無意味な気がした。
だったら今はとにかく生きる術を身につけないとね。
腹も空くようだし、怪我もする。
つまりはここでの死は現実の死と同義だとするなら、元の世界に戻るためにも生き続ける必要があると思う。
「管理……いや、ツナギよ、先程から意味の分からぬ質問をしてどうしたというのだ?」
「気にしなくていいよ。ほら、コミュニケーション能力を図るための質問だったし。その結果、ヤタは真面目過ぎてしょうもないということが分かった」
「なぬっ!? 真面目のどこがいけないというのだ! 不真面目よりは真面目の方がサポーターとしても頼れる存在で――」
「あーはいはい、ごめんごめん。冗談だってば。そんなことより【箱庭】の説明をしてほしいんだけど」
本当は知っているけれどね。
「むぅ、何だか釈然とせぬが仕方あるまい。おほんっ、では【箱庭】でのチュートリアルを行いたいと思う。まずはココ――《扉の祠》について説明をしておこう」
僕にとっては二度目になる説明を大人しく聞く。
頭を抱えたくなる気持ちを抑え、僕はそのまま島の中央部分へ向かっていく。
しばらくすると少しだけ開けた場所があり……。
「…………………………嘘でしょ」
そこには煙突のついた小屋と赤茶色の土が特徴的なこじんまりとした畑があった。
この光景もまた見覚えのあるものである。
「コレって……初期の【箱庭】……だよね」
僕が初めて〝マモノ牧場〟をプレイした時のことが思い出される。
プレイヤーにはまず初めて【箱庭】と呼ばれる島が一つ与えられるのだ。
その島には現在目前に映っているような小屋と畑があり、そこで生活していくことになる。
小屋の形も畑の在り様も、すべて初期配置そのものなのだ。
「あーまだ信じらんないけどステータス画面とかもあったりとか?」
するとステータスという言葉に反応したのか、それまでは視界に映っていなかったテレビ画面のようなアイコンが浮き上がってきた。
うわ、マジで……。
試しにそのアイコンを押してみると、これまた見慣れたステータス画面が出現した。
これはもうここが日本でも地球でもないことが証明されたようなものだ。
現実の世界で空中に浮かぶアイコンをクリックしてゲームのステータス画面が出るような近未来的技術はまだ開発されていない。
「いわゆるアレか。異世界トリップ? それとも知らず知らずに死んで転生? しかも僕が知ってるゲームの世界に?」
実際問題こういうファンタジーな経験をしてみたいと思ったことはある。
異世界転移や異世界召喚などのライトノベルも好んで読むし、自分でも書いたことはあった。黒歴史の一つに加えているけれど。
しかしこれが夢ではなく、本当に現実だとしたら正直戸惑いしかない。
「こういうパターンって元の世界に戻れなかったりするけど、それは嫌だなぁ」
どちらの世界が便利かといえば、当然地球の方が断然良い。
好きなゲームや漫画もあるし、何より一人じゃないってことが大きい。
一人でいることが好きだったりする僕だが、別に孤独を愛しているわけではない。
適度な人との繋がりは欲しいのが現状であり、さすがにこの島で一人過ごすのは寂し過ぎるというもので……。
「! そうだ! ここが本当に【箱庭】ならアレがあるかも!」
ある重大なことを思い出し、僕は小屋の脇を突っ切り再度森の中へと入る。
そのまま真っ直ぐ突き進んで行くと――。
「はあはあはあ……やっぱりあった」
森の中にひっそりと佇むのは、真っ赤な鳥居と小さな祠だった。
その祠の傍にはカラスを模った像が安置されている。
「まさかと思うけど……」
そう思いつつ鳥居を潜りカラス像に触れてみた。
すると瞼を閉じさせるほどの強い光を像が放つ。
光が収まると、像があった場所には――。
「ふむ、此度の管理人はお主か」
とてもダンディな渋い声で喋る本物のカラスがそこにいた。
あーやっぱいたんだぁ。
思わず頭を抱えてしまう。
「むむ? そのように蹲ってどうしたのだ?」
「いや、マジでここって〝マモノ牧場〟の世界なんだなぁって思って」
「何を今更。お主は神に選ばれたこの【箱庭】の管理人。やる気を出してもらわぬと、我も助言のし甲斐がないではないか」
そうなのだ。
この嫌に堅苦しい話し方をするカラスこそ、プレイヤーのサポートをしてくれる《ガイドアニマル》と呼ばれる存在である。
カラスだけじゃなくて様々な動物がいるけど、それはランダムで設定されていて、僕の場合はコイツだったんだけど、ここでも同じだなんて複雑だ。
中にはフワフワモコモコの犬や猫などもいるし、愛らしい喋り方をするいかにも庇護欲をそそるような子だっている。
どうせなら僕も癒されるアニマルが良かったんだけどな……。
「む? そんなに見つめてどうしたのだ管理人よ。悪いが金など持ち合わせてはおらぬぞ」
「…………はぁ」
まあいいや。一人でずっと居続けるよりはマシだ。
それにゲームでは長い付き合いだったため気心が知れているとも言えるし。
「えっと、とりあえず僕のことはツナギでいいよ。そっちは?」
知ってるけど一応聞いておく。
「では吾輩のことはヤタと呼んでもらおう」
「はいよ。それと質問いい?」
「答えられることならば」
「地球に戻るにはどうすればいいのかな?」
「ちきゅう? どこの地名なのだ?」
「……日本という言葉に聞き覚えは?」
「一本二本のことか?」
どうも知らないようだ。しらばっくれている可能性も否定できないけど、現状追及したところで無意味な気がした。
だったら今はとにかく生きる術を身につけないとね。
腹も空くようだし、怪我もする。
つまりはここでの死は現実の死と同義だとするなら、元の世界に戻るためにも生き続ける必要があると思う。
「管理……いや、ツナギよ、先程から意味の分からぬ質問をしてどうしたというのだ?」
「気にしなくていいよ。ほら、コミュニケーション能力を図るための質問だったし。その結果、ヤタは真面目過ぎてしょうもないということが分かった」
「なぬっ!? 真面目のどこがいけないというのだ! 不真面目よりは真面目の方がサポーターとしても頼れる存在で――」
「あーはいはい、ごめんごめん。冗談だってば。そんなことより【箱庭】の説明をしてほしいんだけど」
本当は知っているけれどね。
「むぅ、何だか釈然とせぬが仕方あるまい。おほんっ、では【箱庭】でのチュートリアルを行いたいと思う。まずはココ――《扉の祠》について説明をしておこう」
僕にとっては二度目になる説明を大人しく聞く。
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