42 / 50
41
しおりを挟む
「……おい嬢ちゃん、すまんけどコイツはワシの獲物やで」
「は? 我は喧嘩を売られたのだぞ? たかがクズ人間ごときにだ」
「ええからすっこんどれアホ! これはワシのケンカやぞ!」
「おお、おお、吠えおるな。ならば二人纏めて相手してやってもよいのだぞ?」
何やら味方同士だったはずなのに、一気に険悪なムードが立ち込める。
だがそこで、痺れを切らしたかのように大男が手斧で床を砕いた。
その衝撃で、兄さんと少女は一旦口喧嘩を止める。
「さっきからピーピーピーピーうるせえ! どいつもこいつもこのヒアドス様がぶっ殺してやるぜぇっ! うおらぁぁぁぁぁぁっ!」
その巨体を活かして兄さんへと突っ込み、手斧を勢いよく振り回す。
しかし兄さんはその手に持った槍でピタリと受け止めてしまう。
「んなっ!?お、俺様の攻撃を受け止めただとぉっ!?」
「はんっ、鍛え方がなっとらへんな! それでも盗賊団の団長なんか、おお?」
「ち、ちぃっ! ならこれでどうだぁっ!」
両手の手斧による連撃が繰り出される。
私では絶対に受け止められないし回避もできない攻撃ではあるが、兄さんは見事に槍を器用に使って捌いていく。
「ぐぬぅぅっ! おのれぇぇぇっ!」
「もう飽きたで、木偶の坊。ここらで終わりにしようや」
兄さんが一旦距離を取ると、前傾姿勢で槍を構えた。
あ、あの構えは……!
兄さんが小さい頃から得意としていた技の一つ。
「我、願う。女神イーヴェキュアよ、か弱き子らに蒼天の欠片を与え給え。その光の名は強化の衣――《ブレイヴオーラ》」
自身の身体能力を向上させる法術を使う兄さん。
「なっ、お前――法術師だったのか!?」
「今頃遅いわ! 冥途の土産にとっとけぇっ!」
兄さんが床を強く蹴り出し、電光石火の動きで大男の懐に入ると、そのまま一瞬にしてすれ違った。
兄さんと大男は背中合わせで立つ。
「……! ん? あ? は、ははは、はははははは! 何だ不発かバカめ!」
てっきり攻撃されたと思い、自分にダメージがないことに気づいた様子の大男はバカにしたように笑う――が。
――バキィィィッ!
突如として二つの手斧が粉砕し、その直後に大男の胸に大きな穴がポッカリと空く。
「ぐっふぁぁぁぁぁっ!?」
大男は白目を剥き、口から大量の鮮血吐きながら前のめりに倒れる。
「バ、バカ……な……っ!?」
「……『アヴァンテ流・三ノ型・瞬烈閃』」
兄さんが静かに技の名前を口にする。
「ぐっ……ア、アヴァ……ンテ……流……だとぉ? ま、まさか……お前……が……っ」
最期にそれだけを口にして大男は息を引き取った。
同時に私と姉さんはホッと息を吐く。
さすがは兄さんだ。あれほどの強者を物の数にしないで倒すなんて。
いつか武人として名を馳せたいといって、孤児院を卒業していった兄さんだけど、もう立派な武人になったと妹として誇らしい。
「ちっ、美味しいとこを持っていきおって」
ただ少女だけはかなり不満そうではあるが。
それでもこれで絶望から解放されたと思った矢先――。
「――っ!? 誰や!?」
咄嗟に声を上げてある場所を睨みつける兄さん。
それは私たちが下りてきた階段の方。そこから一本の矢が放たれてきた。
向かう先は――――アコア姉さんだ。
「アコアァァァァッ!?」
矢に気づいた兄さんがすぐにアコア姉さんに飛びついて抱きしめる。
だがあまりにも咄嗟のことだったため、避けることが叶わずに矢が兄さんの右腕を貫いてしまった。
「うっぐっ!?」
「スーッ!?」
「兄さんっ!?」
私も兄さんたちのもとへ駆け寄る。
だが再度放たれた矢が私の直前に落ち足を止めてしまった。
そして背後に気配を感じたと思ったら、誰かに腕を取られて拘束されたのである。
「だ……誰?」
後ろにいる人が何者なのか確認する。
それは大男の部屋にいたあの細身の人物であった。
出会った時と変わらず不気味な笑みを浮かべたままだ。
「スーッ、しっかりしなさい!」
「だ、大丈夫や……っ! お、お前……」
兄さんが腕を庇いながらも、私の背後にいる男を睨みつける。
「無様なものですねぇ」
「……なるほど……な。アイツの言った通りやったんか。まさかマジでテメエが裏で糸を引いとったやなんてな――――ジタンッ!」
え……名前? 知り合い……なんですか?
「フフフ、お久しぶりですねぇ。あなたに退団を言い渡されて以来でしょうか」
退……団? 何かの集団に兄さんたちが入っていということなのでしょうか?
「ぐっく……っ、本当は信じたくはあらへんかった……。曲がりなりにも同じ釜の飯を食ってた仲間やったからな。けどテメエは――団の名誉を汚した。こんなクズどもと手を組むやなんてなぁ。落ちるとこまで落ちたってわけかい」
「手を組む? 冗談でしょう。私が賊などという輩と手を組むわけがないじゃないですか。あなたたちにしてもそうです。私が団に近づいたのは、あくまでも利用価値があったため。あるものを探し出すのに、私一人では時間がかかり過ぎると考えただけですよ」
「ある物……やと?」
「ええ、コレです」
そう言ってジタンと呼ばれた人がローブの懐から取り出したのは一冊の本。表紙もページもすべてが漆黒に塗り潰された奇妙な書物だった。
「は? 我は喧嘩を売られたのだぞ? たかがクズ人間ごときにだ」
「ええからすっこんどれアホ! これはワシのケンカやぞ!」
「おお、おお、吠えおるな。ならば二人纏めて相手してやってもよいのだぞ?」
何やら味方同士だったはずなのに、一気に険悪なムードが立ち込める。
だがそこで、痺れを切らしたかのように大男が手斧で床を砕いた。
その衝撃で、兄さんと少女は一旦口喧嘩を止める。
「さっきからピーピーピーピーうるせえ! どいつもこいつもこのヒアドス様がぶっ殺してやるぜぇっ! うおらぁぁぁぁぁぁっ!」
その巨体を活かして兄さんへと突っ込み、手斧を勢いよく振り回す。
しかし兄さんはその手に持った槍でピタリと受け止めてしまう。
「んなっ!?お、俺様の攻撃を受け止めただとぉっ!?」
「はんっ、鍛え方がなっとらへんな! それでも盗賊団の団長なんか、おお?」
「ち、ちぃっ! ならこれでどうだぁっ!」
両手の手斧による連撃が繰り出される。
私では絶対に受け止められないし回避もできない攻撃ではあるが、兄さんは見事に槍を器用に使って捌いていく。
「ぐぬぅぅっ! おのれぇぇぇっ!」
「もう飽きたで、木偶の坊。ここらで終わりにしようや」
兄さんが一旦距離を取ると、前傾姿勢で槍を構えた。
あ、あの構えは……!
兄さんが小さい頃から得意としていた技の一つ。
「我、願う。女神イーヴェキュアよ、か弱き子らに蒼天の欠片を与え給え。その光の名は強化の衣――《ブレイヴオーラ》」
自身の身体能力を向上させる法術を使う兄さん。
「なっ、お前――法術師だったのか!?」
「今頃遅いわ! 冥途の土産にとっとけぇっ!」
兄さんが床を強く蹴り出し、電光石火の動きで大男の懐に入ると、そのまま一瞬にしてすれ違った。
兄さんと大男は背中合わせで立つ。
「……! ん? あ? は、ははは、はははははは! 何だ不発かバカめ!」
てっきり攻撃されたと思い、自分にダメージがないことに気づいた様子の大男はバカにしたように笑う――が。
――バキィィィッ!
突如として二つの手斧が粉砕し、その直後に大男の胸に大きな穴がポッカリと空く。
「ぐっふぁぁぁぁぁっ!?」
大男は白目を剥き、口から大量の鮮血吐きながら前のめりに倒れる。
「バ、バカ……な……っ!?」
「……『アヴァンテ流・三ノ型・瞬烈閃』」
兄さんが静かに技の名前を口にする。
「ぐっ……ア、アヴァ……ンテ……流……だとぉ? ま、まさか……お前……が……っ」
最期にそれだけを口にして大男は息を引き取った。
同時に私と姉さんはホッと息を吐く。
さすがは兄さんだ。あれほどの強者を物の数にしないで倒すなんて。
いつか武人として名を馳せたいといって、孤児院を卒業していった兄さんだけど、もう立派な武人になったと妹として誇らしい。
「ちっ、美味しいとこを持っていきおって」
ただ少女だけはかなり不満そうではあるが。
それでもこれで絶望から解放されたと思った矢先――。
「――っ!? 誰や!?」
咄嗟に声を上げてある場所を睨みつける兄さん。
それは私たちが下りてきた階段の方。そこから一本の矢が放たれてきた。
向かう先は――――アコア姉さんだ。
「アコアァァァァッ!?」
矢に気づいた兄さんがすぐにアコア姉さんに飛びついて抱きしめる。
だがあまりにも咄嗟のことだったため、避けることが叶わずに矢が兄さんの右腕を貫いてしまった。
「うっぐっ!?」
「スーッ!?」
「兄さんっ!?」
私も兄さんたちのもとへ駆け寄る。
だが再度放たれた矢が私の直前に落ち足を止めてしまった。
そして背後に気配を感じたと思ったら、誰かに腕を取られて拘束されたのである。
「だ……誰?」
後ろにいる人が何者なのか確認する。
それは大男の部屋にいたあの細身の人物であった。
出会った時と変わらず不気味な笑みを浮かべたままだ。
「スーッ、しっかりしなさい!」
「だ、大丈夫や……っ! お、お前……」
兄さんが腕を庇いながらも、私の背後にいる男を睨みつける。
「無様なものですねぇ」
「……なるほど……な。アイツの言った通りやったんか。まさかマジでテメエが裏で糸を引いとったやなんてな――――ジタンッ!」
え……名前? 知り合い……なんですか?
「フフフ、お久しぶりですねぇ。あなたに退団を言い渡されて以来でしょうか」
退……団? 何かの集団に兄さんたちが入っていということなのでしょうか?
「ぐっく……っ、本当は信じたくはあらへんかった……。曲がりなりにも同じ釜の飯を食ってた仲間やったからな。けどテメエは――団の名誉を汚した。こんなクズどもと手を組むやなんてなぁ。落ちるとこまで落ちたってわけかい」
「手を組む? 冗談でしょう。私が賊などという輩と手を組むわけがないじゃないですか。あなたたちにしてもそうです。私が団に近づいたのは、あくまでも利用価値があったため。あるものを探し出すのに、私一人では時間がかかり過ぎると考えただけですよ」
「ある物……やと?」
「ええ、コレです」
そう言ってジタンと呼ばれた人がローブの懐から取り出したのは一冊の本。表紙もページもすべてが漆黒に塗り潰された奇妙な書物だった。
1
お気に入りに追加
206
あなたにおすすめの小説
少年は魔王の第三子です。 ~少年は兄弟の為に頑張ります~
零月
ファンタジー
白龍という少年が魔王の息子として異世界へと転生して人間の学園へ通います。その後魔王となる兄に頼まれて勇者と共に戦ったりする話です。ハーレムはありません。小説家になろう様で投稿していたものを書き直して投稿していきます。おかしい所など指摘して貰えると幸いです。不定期更新ですが宜しくお願いします。
元魔王おじさん
うどんり
ファンタジー
激務から解放されようやく魔王を引退したコーラル。
人間の住む地にて隠居生活を送ろうとお引越しを敢行した。
本人は静かに生活を送りたいようだが……さてどうなることやら。
戦いあり。ごはんあり。
細かいことは気にせずに、元魔王のおじさんが自由奔放に日常を送ります。
異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語
京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。
なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。
要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。
<ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。
異世界国盗り物語 ~野望に燃えるエーリカは第六天魔皇になりて天下に武を布く~
ももちく
ファンタジー
天帝と教皇をトップに据えるテクロ大陸本土には4つの王国とその王国を護る4人の偉大なる魔法使いが存在した
創造主:Y.O.N.Nはこの世界のシステムの再構築を行おうとした
その過程において、テクロ大陸本土の西国にて冥皇が生まれる
冥皇の登場により、各国のパワーバランスが大きく崩れ、テクロ大陸は長い戦国時代へと入る
テクロ大陸が戦国時代に突入してから190年の月日が流れる
7つの聖痕のひとつである【暴食】を宿す剣王が若き戦士との戦いを経て、新しき世代に聖痕を譲り渡す
若き戦士は剣王の名を引き継ぎ、未だに終わりをしらない戦国乱世真っ只中のテクロ大陸へと殴り込みをかける
そこからさらに10年の月日が流れた
ホバート王国という島国のさらに辺境にあるオダーニの村から、ひとりの少女が世界に殴り込みをかけにいく
少女は|血濡れの女王《ブラッディ・エーリカ》の団を結成し、自分たちが世の中へ打って出る日を待ち続けていたのだ
その少女の名前はエーリカ=スミス
とある刀鍛冶の一人娘である
エーリカは分不相応と言われても仕方が無いほどのでっかい野望を抱いていた
エーリカの野望は『1国の主』となることであった
誰もが笑って暮らせる平和で豊かな国、そんな国を自分の手で興したいと望んでいた
エーリカは救国の士となるのか?
それとも国すら盗む大盗賊と呼ばれるようになるのか?
はたまた大帝国の祖となるのか?
エーリカは野望を成し遂げるその日まで、決して歩みを止めようとはしなかった……
一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
遊佐賀奈子と八人の鬼婦人
マヤカナヒロキ
ファンタジー
異世界にある未知の物質、生命体を調査回収する組織に所属する遊佐賀奈子。初の任務地となる世界で見つけた都市『八角都市』の主である『八人の鬼婦人』について調査するが、あっさり捕まり呪いを付けられた。絶望する遊佐に鬼婦人たちは都市の8箇所で起きている問題を解決すれば解放すると条件を提示する。問題を解決する中で影で糸を引く組織の存在と鬼婦人たちの正体が判明した時、遊佐に危機が訪れる。
この作品はカクヨム、ツギクル、小説家になろう、pixsiv、エブリスタ、MAGNET MACROLINKに重複投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる