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「お、おいテンク、額に文字が刻まれてるぞ?」
「おお! では滞りなく契約が完成したようだな!」

 聞くところによると、ドラゴンに名を与えることで契約できるという。そして契約した者の名前の一部が額に刻まれるのだ。
 それはマスターがいることへの証であり、忠誠の表れでもあるらしい。

「うぅ~、実は我はもうマスターを持てないと諦めていたのだが、まさかこのような小さな島にこれほどの豪傑がいようとは。世の中は分からぬものだな」

 感慨深いのか、遠くを見るような目で空に顔を向けているテンク。

「それにこのような良き名まで頂いた。もう思い残すことはない」

 おいおい、こちとらまだ役に立ってもらわんといかんのだから、早々に死なれても困る。
 それに名前だって、そんなに凝ったものじゃないし。

 空→天→テン、紅い→真紅→シンク。

 そのままテンシンクというのは語呂が悪いから、シンを取ってテンクと名付けただけ。
 本当はもう一個候補があったのだが……。
 珍獣で孤高な存在だから、珍と孤をとって『チンコ』。さすがに方々から怒られそうなので止めておいた。
 ただメスなのにチンコ。このギャップは面白いしインパクト抜群かもと思ったのもまた事実だが。

「ところでマスターは本当に人間なのか? 見た目は人間にしか見えないが」
「失礼な奴だね。ちゃんと人間……のはず」
「はず? 何だその曖昧なのは? しかし先程の我を圧倒した技もそうだが、その前の腕を伸ばしたりする能力など人間にはなかったと思うが」

 ……まあ別にコイツに言ったところで支障はないか。

「そうだな。確かにただの人間ってわけじゃないよね、オレってば」
「うむ? どういうことなのだ?」

 テンクにオレが《スライムイータ》という能力を持っていることを伝えた。

「ほほう。何ともそれは不思議な……」
「長く生きているドラゴンでもオレみたいな存在は知らないか」
「ああ。人間の中にはたまに我々にも匹敵するような能力を持つ存在も出てくるが、スライムを食べてその特性を取り込むなどという能力は初めて耳にしたぞ」

 もしかしたらオレの謎に包まれた能力について何か分かるかと思ったが、それよりも気になることがあった。

「へぇ、ドラゴンを討伐できるような人間もいるんだな」
「もちろん滅多には存在せぬ。ただドラゴンもピンキリだ。弱小のドラゴンならば人間が集まれば討伐も可能であろう。しかし我のような『王種』と呼ばれるタイプを単独で討伐できるような人間は歴史上でも数えるほどだ」
「王……種?」
「ドラゴンの中でもトップクラスに位置する種族とでも考えてもらって結構だ」

 なるほど。つまりドラゴンの中でも庶民や歩兵といったレベルが存在するのだろう。

「……あのさテンク、異世界から召喚された人間ってのも知ってる?」
「ふむ。会ったことはないが、噂には聞いたことがあるな。ただもう数百年も前のことだが」

 伝承になっているくらいだから、ずいぶんと昔のことみたいだ。
 彼女が言うには、かつて『人族』によって異世界から召喚された一人の若者がいたらしい。
 その若者こそテンクのような『王種』を上回るような絶大な力を持って、『人族』の危機を救ったのだという。
 実際の話、テンクの知己であったドラゴンもまた、その若者に討伐されている。

「しかし興味すら持たなかった人間が、我のマスターになるとは人生何があるか分からぬというわけだな」

 まあコイツらにとって人間なんてもんはちっぽけな存在だろうしね。普通なら鼻にもかけないと思う。

「そんな人間のオレに負けて悔しくはないの?」
「悔しいさ無論な。しかしそれよりも嬉しさの方が圧倒的に上だ。ようやく我が使命を果たせるのだからな」

 そういうものなのか。たとえそれまで認めていなかった矮小な存在相手でも、一度認めてしまえば躊躇なく首を垂れる。それがテンクという種族の性なのかもしれない。
 オレには決して理解できないことではあるが。

「そのようなことよりマスターよ! さっそく我にしてほしいことはないか! 何でも申すがよい! 人間の大陸を火の海に沈めてこいと言うのならば、全身全霊をかけて人間を抹殺してみせよう!」

 オレはどこぞの魔王か。

「やる気を見せてるとこ悪いんだけどね、オレはすべての人間に憎しみを持ってるわけじゃないのよ」
「うむ? しかし見たところ、マスターは人間に島流しにされたのではないのか?」
「!? ……どうして分かる?」
「それほど多くはないが、人間が人間の手によって島流しにされた光景を見るのは初めてではないからな」

 そのほとんどが無人の小さな島に送られ、そこの環境に対応できずに死んでいったのだという。

「ここも無人島であろう? 故にマスターも人間どもに島流しにされたのだと考えたのだが」

 なるほど。頭もそんなに悪くないらしい。

「なら分かるでしょ? 普通島流しにされるような奴は碌でもないことをしでかした奴らだって」
「だろうな。我が今まで見てきた者たちのほとんどは、人間が定めたルールを破ったりして、その罰を受けたせいだった。しかしマスターは違うであろう?」
「…………根拠は?」
「――眼だ」



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