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「……力を貸すとして、オレはただの学生で一般人なんだよね。何の役にも立たないと思うけど? それはお前もそうじゃないの? それとも戦争に参加したことや、人を殺した経験でもあるのか矢垣は?」 
「そ、それは……っ」

 さすがに無いだろう。今の言葉で少しは状況の重みを理解してくれたならいいが。

「安心するがよい。お主たち異世界人には強力な法術の力を扱う資質が備わっているはずだ」
「!? それは本当ですか、王様! ははは、見なよ君! やはり僕たちは選ばれた存在らしいよ!」

 そんなに選ばれた人間になりたいのか、嬉々として笑みを浮かべる矢垣。
 それにコイツ、さっきから君、君、君と、オレの名前すら憶えていない様子だ。クラスメイトということすら知らないのかもしれない。

 まあ実際に話したこともなかったしね。

 ちゃんと話したのは、あのゴミ置き場近くでの出来事だけだ。
 リア充という輝く舞台に立つコイツにとって、いつも教室の端にいる陰者のような存在なんて目に入っていなかっても不思議じゃないが。

「王様! 僕たちはどのようなことができるのでしょうか!」
「うむ。アレを彼らに」

 ヴィクス王が促すと、兵士の一人が両手に乗るほどの水晶玉を持って近づいてきた。
 それに触れということで、まずは矢垣が先に触る。
 すると水晶玉から思わず顔をしかめてしまうような光が迸った。

「お、おお! さすがは『御使い』! このような強力な光の輝きは見たことがない!」

 驚くヴィクス王によると、光の強さこそ法術を扱うのに必要な『法力』と呼ばれるエネルギーの強さだという。
 光の強さによってレベルが分かれているらしく、弱い方からⅠ、Ⅱ、Ⅲと続き、最大でⅩまで存在する。

 そして矢垣の持つ潜在的な法力レベルは、文句なしの『レベルⅩ』。つまりはマックスである。
 さすがは学園でも天才と呼ばれるだけあって、それは異世界でも通じるらしい。
 喜ぶ矢垣をよそに、次いでオレが水晶玉に触れることに。

 しかし――。

「むむ? どういうことだ?」

 ヴィクス王が眉間にしわを寄せ困惑気味に言葉を発した。
 どれだけ法力の量が少なくても必ず何かしらの反応はするはずだという。
 だがオレが何度触れても、水晶玉はウンともスンとも言わなかった。

「あー残念だったね、君。どうやら選ばれたのは僕だけみたいだ。もしかしたら僕の近くにいたせいで巻き込んだってオチじゃないかな。ごめんね。でも君の分も僕が頑張るから、安心して過ごしてくれ。良かったらこれから仲良くしてくれると嬉しいな」

 とんでもないことを淡々と言ってくれる。表情は申し訳なさそうに振る舞っているが、どことなく嬉しそうな声音に感じるのは気のせいだろうか。
 一応差し出された手を握り返しておいた。

 それからは大変だった。オレに力が備わっていない以上、矢垣の言う通り巻き込まれた可能性が高いとし、直接召喚を行った王女やヴィクス王から「申し訳なかった」と謝罪を受けた。
 今すぐにでも元の世界に返すべきだが、それもできないことは説明した通りということで、オレにできることは一刻も早く、この国が【仙樹山】を得られるように祈ることだけ。

 とりあえず生活の保障はしてくれるらしく、城の一室を借りるということになった。

「…………はぁ。何でオレ、ここにいるんだろうなぁ」

 簡素な造りの部屋にあるベッドに横たわりながら、今日の出来事を思い溜め息を零す。
 自分に力でもあれば、【仙樹山】を獲得するために何かしらできたかもしれないが、こんな状態ではとてもではないができない。

 貸せるとしたら知恵くらいだろうが、国にも軍師や戦術家もいるらしく、さすがにそんな人たちを上回るような作戦などは立てられないだろう。
 結局、ただ待つ――これしかできないのかもしれない。

 普通なら巻き込んだ矢垣に怒りをぶつけるのだろうが、そもそも彼も身勝手に召喚された人物なことから、彼を怨むのも筋違いだ。
 かといってこの国に怒りをぶつけたとしても、現状が何か変わるわけでもない。

「やれやれ……だなぁ」

 オレは一旦思考を中止し、突拍子もない出来事に疲弊し切った精神を休ませるためにも、早めに就寝することにした。


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