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第四十一話
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目の前が霞む。これはアレだ。死ぬ一歩手前でいつも感じることだ。
「おやおや、まさか単独で分隊長さんに勝つとは、やはり君は興味深い」
そこへこの場に相応しくない軽やかな感じで登場するリュゼ。
「ふむふむ、このことをビビルアさんに報告すれば、また面白いことになりそうですねぇ~」
すると――。
「シャラクさぁぁぁぁぁんっ!?」
ここにはいないはずの人物の声が耳に入ってくる。見れば空からコニムとノージュが舞い戻って来ていた。
「……お、おい、何で戻って……来た?」
「だってだって……やっぱり心配で……!」
「わ、私は止めたのだぞ! 全力で! しかしコニムが……」
「それよりもシャラクさんの傷……! どうにかなりませんか、お姉ちゃん!」
「む、むぅ……」
ここで放置しておけば、そのうち死んで生き返るのだが、写楽としてはこの痛みからすぐにでも解放してほしい。サクッと首でもちょん切ってもらった方が楽は楽なんだが……。
「……! そ、そう……だ。コニム……オレの……血を吸ってくれ」
「へ? あ、あの……え?」
当然いきなりのことなので困惑してしまうだろう。
「頼む……そうすれ……ば、オレは……治る……から」
「そんなバカな話などあるか! 確かに一度は眷属化を逃れられたかもしれないが、次はできるか分からないのだぞ?」
その時、リュゼが小さく「眷属化を逃れた?」と呟いていたが、写楽たちは気づいていない。
「いい、から……なあ、コニム……信じて……くれ」
「…………分かりました」
「コニムッ!?」
「お姉ちゃん、わたし……シャラクさんを信じます」
「し、しかし!」
「シャラクさんはわたしたちを信じてくれてます。だからわたしも信じるんです!」
横たわっている写楽の顔に、自分の顔を近づけてくるコニム。緊張しているのか、頬が紅潮している。
「い、いきますよ、シャラクさん」
「あ、ああ……ガブッと一気にやって……くれ」
静かにコニムが近づいて、写楽の首筋に僅かな痛みが走る。
しかし次に押し寄せてきたのは、穏やかで心地好い陽だまりのような場所に佇んでいるような感覚。
静かで、時間がゆったりと流れているような幸せすら感じる。
そして意識が徐々に遠ざかっていき、痛みも感情も何もかもが消失していく。
――――心身状態確認。判別――“死”。
例の言葉が頭の中に響き、
――――これより、自己転生の開始。
いつものように自分の声が力を呼び起こす。
――――ユニークスキル――“転生開闢”――発動。
※
事の成り行きを見守っていたリュゼだったが、純血の『ヴァンプ族』に血を吸えと嘆願した写楽に対し、正気を失ったのではと思った。
しかしノージュの言葉に引っ掛かりを覚える。それは“眷属化を逃れた”ということ。
有り得ない。純血の『ヴァンプ族』に血を吸われて、その際発揮される力を無効化できるなど通常どんな手段でも不可能だったはず。
しかし彼女はそれを口にした。そしてあろうことか、コニムもまた写楽を信じるといって血を吸い始めた。
本来なら止めるべきだ。せっかく見つけた玩具が、こんなところで失われるのは困る。
だが何故だろうか、この先を見てみたいと思ったのもまた事実なのだ。
リュゼの中で渦巻く疑問。
それは写楽という少年の不可思議さ。崖下から落ちたのに無傷ということもそうだが、まだこの世界に来て一月も経っていないというのに、ビビルア部隊に所属する分隊長を単独で倒す力量。しかもつい先程までは手も足も出ないほどボロボロに敗北したという事実。
それをあっさり覆した写楽が、血を吸えと言ったこと。その先を見ろ、そう好奇心が言っているような気がした。
そしてコニムが彼の血を吸った直後、彼の身体から淡い光が放たれる。見ていて心が安らぐような黄金の輝き。
さらに彼の身体全体が光の粒子に変化して散ったと思ったら、すぐに集束していき、また彼という人物を構成し始めた。
そのまま十数秒後――。
そこにはまったく無傷の写楽少年が横たわっていた。
(こ、これはこれは、腹に開いた傷も塞がってる!?)
驚天動地とはこのことだろうか。
「……う……うぅ」
「シャ、シャラクさんっ!?」
「…………よぉ、コニム」
「シャリャクしゃん……!」
「だから言ったろ、オレは死なないって」
「ふえぇぇぇぇぇんっ!?」
泣きながら彼に抱きつくコニム。
傍では何故か羨ましそうに二人を見ているノージュ。
(ンフフ。本当に面白い素材に出会えましたねぇ。これで世の中、もっと楽しくなりそうです。しかしまさかここで本物の“革命人”に出会えるとは。人生とは奇異なものですねぇ)
最近では戦争もワンパターン化し過ぎてつまらないと思っていたが、この時代、“異界者”が召喚され、その中の一人が伝説の能力を持った人物だった。
これが世界の意志だとしたら、また何か大きな出来事がこれから起きるのかもしれない。
(かつて、魔人を導いた“革命人”――次に導くのは、一体どんな存在なのか)
思わず笑みが零れる。
(楽しませてもらいましょうか、君の生き様というものを。ああ……楽しみですねぇ~)
リュゼは心の奥底から震えてくる歓喜に酔いしれながら、その場から姿を消した。
「おやおや、まさか単独で分隊長さんに勝つとは、やはり君は興味深い」
そこへこの場に相応しくない軽やかな感じで登場するリュゼ。
「ふむふむ、このことをビビルアさんに報告すれば、また面白いことになりそうですねぇ~」
すると――。
「シャラクさぁぁぁぁぁんっ!?」
ここにはいないはずの人物の声が耳に入ってくる。見れば空からコニムとノージュが舞い戻って来ていた。
「……お、おい、何で戻って……来た?」
「だってだって……やっぱり心配で……!」
「わ、私は止めたのだぞ! 全力で! しかしコニムが……」
「それよりもシャラクさんの傷……! どうにかなりませんか、お姉ちゃん!」
「む、むぅ……」
ここで放置しておけば、そのうち死んで生き返るのだが、写楽としてはこの痛みからすぐにでも解放してほしい。サクッと首でもちょん切ってもらった方が楽は楽なんだが……。
「……! そ、そう……だ。コニム……オレの……血を吸ってくれ」
「へ? あ、あの……え?」
当然いきなりのことなので困惑してしまうだろう。
「頼む……そうすれ……ば、オレは……治る……から」
「そんなバカな話などあるか! 確かに一度は眷属化を逃れられたかもしれないが、次はできるか分からないのだぞ?」
その時、リュゼが小さく「眷属化を逃れた?」と呟いていたが、写楽たちは気づいていない。
「いい、から……なあ、コニム……信じて……くれ」
「…………分かりました」
「コニムッ!?」
「お姉ちゃん、わたし……シャラクさんを信じます」
「し、しかし!」
「シャラクさんはわたしたちを信じてくれてます。だからわたしも信じるんです!」
横たわっている写楽の顔に、自分の顔を近づけてくるコニム。緊張しているのか、頬が紅潮している。
「い、いきますよ、シャラクさん」
「あ、ああ……ガブッと一気にやって……くれ」
静かにコニムが近づいて、写楽の首筋に僅かな痛みが走る。
しかし次に押し寄せてきたのは、穏やかで心地好い陽だまりのような場所に佇んでいるような感覚。
静かで、時間がゆったりと流れているような幸せすら感じる。
そして意識が徐々に遠ざかっていき、痛みも感情も何もかもが消失していく。
――――心身状態確認。判別――“死”。
例の言葉が頭の中に響き、
――――これより、自己転生の開始。
いつものように自分の声が力を呼び起こす。
――――ユニークスキル――“転生開闢”――発動。
※
事の成り行きを見守っていたリュゼだったが、純血の『ヴァンプ族』に血を吸えと嘆願した写楽に対し、正気を失ったのではと思った。
しかしノージュの言葉に引っ掛かりを覚える。それは“眷属化を逃れた”ということ。
有り得ない。純血の『ヴァンプ族』に血を吸われて、その際発揮される力を無効化できるなど通常どんな手段でも不可能だったはず。
しかし彼女はそれを口にした。そしてあろうことか、コニムもまた写楽を信じるといって血を吸い始めた。
本来なら止めるべきだ。せっかく見つけた玩具が、こんなところで失われるのは困る。
だが何故だろうか、この先を見てみたいと思ったのもまた事実なのだ。
リュゼの中で渦巻く疑問。
それは写楽という少年の不可思議さ。崖下から落ちたのに無傷ということもそうだが、まだこの世界に来て一月も経っていないというのに、ビビルア部隊に所属する分隊長を単独で倒す力量。しかもつい先程までは手も足も出ないほどボロボロに敗北したという事実。
それをあっさり覆した写楽が、血を吸えと言ったこと。その先を見ろ、そう好奇心が言っているような気がした。
そしてコニムが彼の血を吸った直後、彼の身体から淡い光が放たれる。見ていて心が安らぐような黄金の輝き。
さらに彼の身体全体が光の粒子に変化して散ったと思ったら、すぐに集束していき、また彼という人物を構成し始めた。
そのまま十数秒後――。
そこにはまったく無傷の写楽少年が横たわっていた。
(こ、これはこれは、腹に開いた傷も塞がってる!?)
驚天動地とはこのことだろうか。
「……う……うぅ」
「シャ、シャラクさんっ!?」
「…………よぉ、コニム」
「シャリャクしゃん……!」
「だから言ったろ、オレは死なないって」
「ふえぇぇぇぇぇんっ!?」
泣きながら彼に抱きつくコニム。
傍では何故か羨ましそうに二人を見ているノージュ。
(ンフフ。本当に面白い素材に出会えましたねぇ。これで世の中、もっと楽しくなりそうです。しかしまさかここで本物の“革命人”に出会えるとは。人生とは奇異なものですねぇ)
最近では戦争もワンパターン化し過ぎてつまらないと思っていたが、この時代、“異界者”が召喚され、その中の一人が伝説の能力を持った人物だった。
これが世界の意志だとしたら、また何か大きな出来事がこれから起きるのかもしれない。
(かつて、魔人を導いた“革命人”――次に導くのは、一体どんな存在なのか)
思わず笑みが零れる。
(楽しませてもらいましょうか、君の生き様というものを。ああ……楽しみですねぇ~)
リュゼは心の奥底から震えてくる歓喜に酔いしれながら、その場から姿を消した。
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