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第三十九話
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「しゅ……しゅごい……っ!?」
「あやつめ、いつの間に」
「ンフフ。《空歩》まで使えるとは、なかなかどうして」
「さあ! さっさと脱出だ!」
「お、おう! コニム、行くぞ!」
「は、はいでしゅ!」
二人の背中から翼が生え、空へと舞い上がる。しかしそこへ、コニムが空中で止まり、眼下を見下ろす。
そこには鎖で繋がれている人間たちがいる。
「すべてを救おうとするものは、己が身を滅ぼしますよ、姫殿下?」
いつの間にか、コニムの隣を飛んでいたリュゼに耳打ちをされたコニム。
「っ…………分かって……います……っ」
写楽もまた、コニムの気持ちは分かっていた。何故なら写楽もまた、できることなら人間たちも救ってやりたいと思うから。
しかしどう考えてもこの状況でそれを選択するのは無謀過ぎる。涙を呑んで見捨てることしかできない。
(もしオレにもっと力があったら、ビビルアを倒して彼らを解放することもできたのかもしれない……)
しかし現実は単純な実力不足。無力感が胸に広がる。
それでも当初の予定通り、コニムたちを救出できたことが嬉しかった。
その時――。
「――――貴様らぁぁぁぁぁっ!?」
下から怒声が轟く。声の主はウェンガだ。
しだがすでに写楽たちは外へと飛び出していた。
「ちっ! シャラク! アイツは私が倒す! 貴様はコニムを連れて――」
「いや、倒すのはオレがやる!」
「っ!? 何を言っている!? 貴様は一度奴に敗北しただろうが!」
「ああ、けどもうあの時のオレじゃない!」
「貴様……」
「シャラクさん……」
「それにいつまたビビルアがコニムを狙ってくるか分からない。その時に、コニムを守れるのはこの中で一番強いノージュだけだ」
それに……と、視線をリュゼへと向ける。彼は変わらず楽しげに頬を緩めているが。
(奴が何を考えているかも分からない。多分戦えば、オレは勝てない。けどノージュなら、奴とも戦えるはずだ)
それだけノージュの力を信じている。もし彼が隙を見てコニムを奪おうとしても、ノージュなら守り通してくれると思ったのだ。
「いいか、せっかくここまで助けにきたんだ。また捕まるとかシャレにならないことは勘弁だ。いいから行ってくれ!」
「そんな! 一緒に逃げましょう!」
「コニムッ!」
「っ!?」
「……頼む。オレを信じてくれ」
「シャラクさん……!」
「絶対に勝つから」
空中を飛びながら、互いに目を合わせる。しかし真っ先に口を開いたのは、
「……分かった。コニム、行くぞ」
「お、お姉ちゃん! で、でも!」
「戦士の目をする奴が、勝つと言っているのだ。信じてやるのが筋だろう」
「で、ですが……ですがぁ……!」
写楽は頼む、とノージュに目配せすると、彼女は頷きコニムの手を取って、さらに速度を上げてその場から去って行った。
「シャラクさぁぁぁぁぁぁんっ!」
写楽は空中で立ち止まり、空を何度も蹴りながらコニムたちに背中を向けた。
「……おい、お前はオレの傍にいるのか?」
「ンフフ。言ったじゃないですか、僕が興味あるのは君だけだと」
なら都合が良い。これでコニムたちの安全性はさらに高まった。
前方から凄い形相で飛んできたウェンガ。
「き、貴様ぁ……! 何故だっ! 何故生きているっ!」
「知りたければ、オレを殺してみろよ。なら分かるぞ」
写楽はそのまま空を蹴って地面に下り立つ。いまだ空中にいるウェンガを見上げ、
「どうした? オレごときに怯えて、コニムたちの後を追ってみるか? 単細胞の隊長さん?」
「ぐっ……けっ、上等だぁ、貴様は今度こそ確実に俺の手でぶち殺してやるっ!」
「ついさっきまでのオレと思ってたら、痛い目をみるぞ」
写楽にとってのリベンジ戦が始まった。
「あやつめ、いつの間に」
「ンフフ。《空歩》まで使えるとは、なかなかどうして」
「さあ! さっさと脱出だ!」
「お、おう! コニム、行くぞ!」
「は、はいでしゅ!」
二人の背中から翼が生え、空へと舞い上がる。しかしそこへ、コニムが空中で止まり、眼下を見下ろす。
そこには鎖で繋がれている人間たちがいる。
「すべてを救おうとするものは、己が身を滅ぼしますよ、姫殿下?」
いつの間にか、コニムの隣を飛んでいたリュゼに耳打ちをされたコニム。
「っ…………分かって……います……っ」
写楽もまた、コニムの気持ちは分かっていた。何故なら写楽もまた、できることなら人間たちも救ってやりたいと思うから。
しかしどう考えてもこの状況でそれを選択するのは無謀過ぎる。涙を呑んで見捨てることしかできない。
(もしオレにもっと力があったら、ビビルアを倒して彼らを解放することもできたのかもしれない……)
しかし現実は単純な実力不足。無力感が胸に広がる。
それでも当初の予定通り、コニムたちを救出できたことが嬉しかった。
その時――。
「――――貴様らぁぁぁぁぁっ!?」
下から怒声が轟く。声の主はウェンガだ。
しだがすでに写楽たちは外へと飛び出していた。
「ちっ! シャラク! アイツは私が倒す! 貴様はコニムを連れて――」
「いや、倒すのはオレがやる!」
「っ!? 何を言っている!? 貴様は一度奴に敗北しただろうが!」
「ああ、けどもうあの時のオレじゃない!」
「貴様……」
「シャラクさん……」
「それにいつまたビビルアがコニムを狙ってくるか分からない。その時に、コニムを守れるのはこの中で一番強いノージュだけだ」
それに……と、視線をリュゼへと向ける。彼は変わらず楽しげに頬を緩めているが。
(奴が何を考えているかも分からない。多分戦えば、オレは勝てない。けどノージュなら、奴とも戦えるはずだ)
それだけノージュの力を信じている。もし彼が隙を見てコニムを奪おうとしても、ノージュなら守り通してくれると思ったのだ。
「いいか、せっかくここまで助けにきたんだ。また捕まるとかシャレにならないことは勘弁だ。いいから行ってくれ!」
「そんな! 一緒に逃げましょう!」
「コニムッ!」
「っ!?」
「……頼む。オレを信じてくれ」
「シャラクさん……!」
「絶対に勝つから」
空中を飛びながら、互いに目を合わせる。しかし真っ先に口を開いたのは、
「……分かった。コニム、行くぞ」
「お、お姉ちゃん! で、でも!」
「戦士の目をする奴が、勝つと言っているのだ。信じてやるのが筋だろう」
「で、ですが……ですがぁ……!」
写楽は頼む、とノージュに目配せすると、彼女は頷きコニムの手を取って、さらに速度を上げてその場から去って行った。
「シャラクさぁぁぁぁぁぁんっ!」
写楽は空中で立ち止まり、空を何度も蹴りながらコニムたちに背中を向けた。
「……おい、お前はオレの傍にいるのか?」
「ンフフ。言ったじゃないですか、僕が興味あるのは君だけだと」
なら都合が良い。これでコニムたちの安全性はさらに高まった。
前方から凄い形相で飛んできたウェンガ。
「き、貴様ぁ……! 何故だっ! 何故生きているっ!」
「知りたければ、オレを殺してみろよ。なら分かるぞ」
写楽はそのまま空を蹴って地面に下り立つ。いまだ空中にいるウェンガを見上げ、
「どうした? オレごときに怯えて、コニムたちの後を追ってみるか? 単細胞の隊長さん?」
「ぐっ……けっ、上等だぁ、貴様は今度こそ確実に俺の手でぶち殺してやるっ!」
「ついさっきまでのオレと思ってたら、痛い目をみるぞ」
写楽にとってのリベンジ戦が始まった。
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