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第十七話
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「おいシャラク! 貴様、いきなり話の途中でいなくなるとはどういう了見だ!」
宿屋へ帰ると、いきなりの怒号。まあ、黙って出て行ったので仕方ないといえば仕方ないが。
「悪かったな。少し用事があったんだよ」
「それでも一言くらいは言って行け! コニムも心配していたであろうが!」
「そうなのか?」
「あ、あの……はい」
「それは悪かったな。お詫びにこれをやろう」
「え……」
「む……何だこの果実は?」
彼女たちに渡したのは、リンゴを黄色くさせたような果実だ。
「小腹が空いたから店で買っておいた。奢りだ」
「あ、ありがとうごじゃいましゅ!」
「……落ち着け。カミカミだぞ」
「あぅ~」
「ふむ。……毒などは入ってあるまいな?」
「なら食べなかったらいいだろ」
「もう、お姉ちゃん! そんな言い方は酷いですよ!」
「そ、そうだな。さすがに言い過ぎた、すまない」
「…………へぇ」
「む、何だ、そんな珍獣でも見たような目は?」
「いや……何でもない」
謝れるんだな、と思っただけだ。
(ただの堅物かとも思ったが、普通に自分の非も認めることができるんだな。意外っちゃ意外だったが)
初対面がアレだったので、そのギャップには驚きだ。
それからベッドに購入した地図を広げて、コニムたちにどんな街や村、そして国があるのか尋ねた。彼女たちも快く教えてくれて、かなりこの世界のことが分かった気がする。
「ふぅん、てっきり一つの大陸に“三大魔王”がそれぞれ国を建てて治めてると思ってたが、そうじゃないんだな。魔王の国の周りは魔人だけが住む街や村があると思っていたぞ」
「はい。言ってみればバラバラです。元々人間が住んでいた国を乗っ取って魔王が君臨したと言われているので、近くに人間の街や村があるのも普通なんです」
「よくその村や街は襲撃されないな」
「人間すべてを悪と思っている魔王ばかりではないので。悪いのは魔人が悪いと大々的に公表している国そのものですから」
「なるほど。だから国同士の戦争っていうことか」
「ですが、中には人間すべてを滅ぼすという魔王も……います」
「だろうな。それは……ここに住む魔王だろ」
地図のある場所に指を差す。
「よく分かりましたね」
「他の魔王と比べても、圧倒的に人間が住む地域が存在してない。魔人だけで固められてる。つまり元々人間の村や街だったところを襲撃して、自らの領地に変えたってことだ」
そうやって魔人だけの領土を広げている。他の魔王もある程度は同じことをしているが、今注目している魔王はそれがより顕著なのだ。
「ここ――【ガンティエ王国】に君臨するモヴィーク王は、人間を滅ぼし尽くすと公言していますから」
「ふぅん、やっぱり魔王っていうくらいだから強いんだろうな。レベルとか知ってるか?」
「残念ながら。わたしたちのような一般人が魔王に謁見できることも稀中の稀ですから」
それもそうか、と納得する。レベルが聞ければ参考にできたのだが仕方がない。
「けどこうして見れば、人間の領土と魔人の領土がほとんどだが、他の種族は領土争いに加わっていないのか?」
「獣人という種族は、身体能力は強いですが、基本的に温厚な種族でもあるんです。国も一応あるんですよ。ただ完全中立国で、戦争など勝手にやってくれって姿勢みたいですね」
しかし獣人か。できれば会ってみたい。ネコミミや狐耳などを見てみたい。
いつか獣人が住む国に行くのも目的の一つに入れてもいいかもしれない。
「他には精霊ですが、こちらは異界に住むと言われており、あまりこちらの世界の諍いに干渉しません」
「……? ちょっと待て、でもこっちの魔術は精霊の力を借りるんじゃないのか?」
「はい。精霊の源は自然エネルギーです。つまり精霊の力を借りるということは、自然から力を借りるということです。ですから実体化している精霊自体に力を借りているというわけではないんです」
「だったらただの魔術って呼べばいいと思うんだけど……」
「しかし中には、異界の精霊の力を借りて魔術を行使する人もいるんです。昔はほとんどがそうだったようですが。その名残もあってか、火精魔術や、水精魔術と呼ばれるようになったんです」
「……物知りだな。いや、それが普通の知識なのか。ノージュ、アンタも……って何で顔を背けてるんだ?」
見れば声をかけてくるな的なオーラが滲み出ている。
「あ~……お姉ちゃんは、お勉強の方はあまり得意ではなくて……」
「つまりバカなのか?」
「何ィィッ! 貴様だって何も知らないではないかっ!」
「だから覚えようとしているんだろ?」
「ぐ……」
「そうですよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんも由緒正しきカーミラァ家の人なんですから、少しはお勉強を……あ」
何か言ってしまった的な感じでコニムとノージュが「あ!」と口を開けて固まっている。その視線はジッと写楽へと注がれているが……。
「……あ~、別に深くは聞かないから安心してほしい」
「……ご、ごめんなしゃいでしゅぅ~。ふぐ……また噛んじゃったです」
「……気にするな、コニム。シャラクも聞かないと言ってくれておるのだぞ」
「は、はい。そ、そうですね! ありがとうございます、シャラクさん!」
彼女たちは先程自分たちを一般人とか言ってたが、もしかしたら違うのかもしれないという考えが脳裏を過ぎったが、だから何だといった感じなので追及はしない。
「そういえばシャラクよ」
「ん?」
「……いや、貴様なら大丈夫か。人間だし、男でもあるからな」
「はあ?」
言葉の真意が読み取れずキョトンとなってしまう。
「いや、忘れろ」
「そんな言い方だと逆に失礼ですよ。あの、シャラクさん、お姉ちゃんの言ったこと、気にはなると思いますが、何でもないので突っ込まないでくれると助かります」
「……まあ、簡単に他人の事情に首を突っ込むことはしないぞ」
「ありがとうございます!」
妙に深刻そうな顔をノージュがしたから何事だと思ったが、喋る気がなさそうなので、あまり気にしないようにした。
それからまたこの世界の知識を彼女から聞き、そして夜が来る――。
宿屋へ帰ると、いきなりの怒号。まあ、黙って出て行ったので仕方ないといえば仕方ないが。
「悪かったな。少し用事があったんだよ」
「それでも一言くらいは言って行け! コニムも心配していたであろうが!」
「そうなのか?」
「あ、あの……はい」
「それは悪かったな。お詫びにこれをやろう」
「え……」
「む……何だこの果実は?」
彼女たちに渡したのは、リンゴを黄色くさせたような果実だ。
「小腹が空いたから店で買っておいた。奢りだ」
「あ、ありがとうごじゃいましゅ!」
「……落ち着け。カミカミだぞ」
「あぅ~」
「ふむ。……毒などは入ってあるまいな?」
「なら食べなかったらいいだろ」
「もう、お姉ちゃん! そんな言い方は酷いですよ!」
「そ、そうだな。さすがに言い過ぎた、すまない」
「…………へぇ」
「む、何だ、そんな珍獣でも見たような目は?」
「いや……何でもない」
謝れるんだな、と思っただけだ。
(ただの堅物かとも思ったが、普通に自分の非も認めることができるんだな。意外っちゃ意外だったが)
初対面がアレだったので、そのギャップには驚きだ。
それからベッドに購入した地図を広げて、コニムたちにどんな街や村、そして国があるのか尋ねた。彼女たちも快く教えてくれて、かなりこの世界のことが分かった気がする。
「ふぅん、てっきり一つの大陸に“三大魔王”がそれぞれ国を建てて治めてると思ってたが、そうじゃないんだな。魔王の国の周りは魔人だけが住む街や村があると思っていたぞ」
「はい。言ってみればバラバラです。元々人間が住んでいた国を乗っ取って魔王が君臨したと言われているので、近くに人間の街や村があるのも普通なんです」
「よくその村や街は襲撃されないな」
「人間すべてを悪と思っている魔王ばかりではないので。悪いのは魔人が悪いと大々的に公表している国そのものですから」
「なるほど。だから国同士の戦争っていうことか」
「ですが、中には人間すべてを滅ぼすという魔王も……います」
「だろうな。それは……ここに住む魔王だろ」
地図のある場所に指を差す。
「よく分かりましたね」
「他の魔王と比べても、圧倒的に人間が住む地域が存在してない。魔人だけで固められてる。つまり元々人間の村や街だったところを襲撃して、自らの領地に変えたってことだ」
そうやって魔人だけの領土を広げている。他の魔王もある程度は同じことをしているが、今注目している魔王はそれがより顕著なのだ。
「ここ――【ガンティエ王国】に君臨するモヴィーク王は、人間を滅ぼし尽くすと公言していますから」
「ふぅん、やっぱり魔王っていうくらいだから強いんだろうな。レベルとか知ってるか?」
「残念ながら。わたしたちのような一般人が魔王に謁見できることも稀中の稀ですから」
それもそうか、と納得する。レベルが聞ければ参考にできたのだが仕方がない。
「けどこうして見れば、人間の領土と魔人の領土がほとんどだが、他の種族は領土争いに加わっていないのか?」
「獣人という種族は、身体能力は強いですが、基本的に温厚な種族でもあるんです。国も一応あるんですよ。ただ完全中立国で、戦争など勝手にやってくれって姿勢みたいですね」
しかし獣人か。できれば会ってみたい。ネコミミや狐耳などを見てみたい。
いつか獣人が住む国に行くのも目的の一つに入れてもいいかもしれない。
「他には精霊ですが、こちらは異界に住むと言われており、あまりこちらの世界の諍いに干渉しません」
「……? ちょっと待て、でもこっちの魔術は精霊の力を借りるんじゃないのか?」
「はい。精霊の源は自然エネルギーです。つまり精霊の力を借りるということは、自然から力を借りるということです。ですから実体化している精霊自体に力を借りているというわけではないんです」
「だったらただの魔術って呼べばいいと思うんだけど……」
「しかし中には、異界の精霊の力を借りて魔術を行使する人もいるんです。昔はほとんどがそうだったようですが。その名残もあってか、火精魔術や、水精魔術と呼ばれるようになったんです」
「……物知りだな。いや、それが普通の知識なのか。ノージュ、アンタも……って何で顔を背けてるんだ?」
見れば声をかけてくるな的なオーラが滲み出ている。
「あ~……お姉ちゃんは、お勉強の方はあまり得意ではなくて……」
「つまりバカなのか?」
「何ィィッ! 貴様だって何も知らないではないかっ!」
「だから覚えようとしているんだろ?」
「ぐ……」
「そうですよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんも由緒正しきカーミラァ家の人なんですから、少しはお勉強を……あ」
何か言ってしまった的な感じでコニムとノージュが「あ!」と口を開けて固まっている。その視線はジッと写楽へと注がれているが……。
「……あ~、別に深くは聞かないから安心してほしい」
「……ご、ごめんなしゃいでしゅぅ~。ふぐ……また噛んじゃったです」
「……気にするな、コニム。シャラクも聞かないと言ってくれておるのだぞ」
「は、はい。そ、そうですね! ありがとうございます、シャラクさん!」
彼女たちは先程自分たちを一般人とか言ってたが、もしかしたら違うのかもしれないという考えが脳裏を過ぎったが、だから何だといった感じなので追及はしない。
「そういえばシャラクよ」
「ん?」
「……いや、貴様なら大丈夫か。人間だし、男でもあるからな」
「はあ?」
言葉の真意が読み取れずキョトンとなってしまう。
「いや、忘れろ」
「そんな言い方だと逆に失礼ですよ。あの、シャラクさん、お姉ちゃんの言ったこと、気にはなると思いますが、何でもないので突っ込まないでくれると助かります」
「……まあ、簡単に他人の事情に首を突っ込むことはしないぞ」
「ありがとうございます!」
妙に深刻そうな顔をノージュがしたから何事だと思ったが、喋る気がなさそうなので、あまり気にしないようにした。
それからまたこの世界の知識を彼女から聞き、そして夜が来る――。
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