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第十六話
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「……力? ……あ」
そこでこの世界が魔術やスキルといった、普通の世界ではないことを思い出す。
「まさか魔術……か?」
「いえ、わたしには少し特別なスキルがありまして」
「……オレが嘘をついていないってことを見抜くスキルってことか?」
「そうですね。そう捉えて頂いても構いません」
「ったく、コニム。何もこやつなどに力を使わずとも」
「いいえ、お姉ちゃん。シャラクさんは良い人ですよ」
「何故そんなことが分かるのだ?」
「確かにわたしは力を使ったけれど、話をしている時のシャラクさんの目はすごくキレイでしたから。そこには一片の揺らぎもありませんでした。力を使ったのは、あくまでも確証がほしかったから、ですね」
「……けど、お前の力のことをわざわざ説明しなくてもよいであろう?」
「だって、シャラクさんも普通は隠すような自分のことを話してくれましたから。ですから……お返しです」
ニコリと笑う彼女の笑みはとても魅力的で、それだけで場が和むような光を与えてくれる。
「そうか。まあ、律儀なことだな」
「シャラク! せっかくコニムが教えてくれたのだぞ! 両膝をつき、ありがたや~ありがたや~と頭を垂れるのが筋ってものであろうっ!」
「そんな宗教的な筋なんて知るわけないだろうが!」
寺院で育ちましたけども、と写楽は心の中で思うが。
「むむ、そういえば貴様のアレも見たこともない力だったな」
「突然何だ。変わり身振りが激し過ぎだろう」
「お姉ちゃん、いつもこうなんです」
「苦労してるんだな」
「はい。楽しいんですけど、行き過ぎる場合も多くて……」
心中察する。ともすれば情緒不安定にみられる姉を引き連れての旅は相当なストレスも溜まるだろう。
「こらーっ! 二人して内緒話はいかんぞ! お姉ちゃんも混ぜるべきだ!」
「もうお姉ちゃん、そんなことよりシャラクさんに聞きたいことがあったのではないですか?」
「おお! そうであった! シャラクよ、あのモンスターを消した力は何だ?」
「……オレの力としか言いようがないな」
「む? そうなのか?」
「ああ。けどあんまり口外するような力でもないからな。大して親しくない奴らにあっさりと教えるわけにはいかない」
まあ、自分の立場をすでに話してしまった写楽が言うことではないかもしれないが。
「む……確かにそうだな」
「……? 意外に素直に引き下がるんだな?」
てっきり「何て言い草だ―っ!」と言って突っかかってくるかと思っていた。
「自分の《ステータス》をベラベラと喋るのはさすがに武人としてはどうかと思うしな」
「武人……ね。オレは別に武人のつもりじゃないけどな」
「謙遜するな。貴様が倒したホーンアント、あれはなかなかに討伐が厄介なモンスターなのだ。それを無傷で二体も。貴様のコニムを見るいやらしい目つきは認められんが、強さだけはなかなかのものだ。うむ!」
「非常に不愉快な誤解があるんだけどな……。そもそもオレはコニムをそんな目で見てないし、これからも見るつもりはないぞ」
「そ、それはコニムに魅力がないと――」
「そのやり取りはもうやっただろ。それよりも、アンタの方はどうなんだ?」
「は? 私だと?」
「そうだ。武人っていうくらいだからそこそこやるんだろ?」
「ハッハッハ! 当然ではないか! だが訂正しろ! 私はそこそこやるという程度ではない! こう見えてもレベルだって78もあるのだぞ! ユニークスキルこそないが、魔術とスキルはそれなりに豊富で――」
そうやってペラペラと自分の喋りまくる武人。
(コイツ、さっき自分の言ったことを忘れてるのか……?)
武人は自分の《ステータス》のことを喋らない的なことを言っていたのに、嬉々として語っているこの図。
さらにいえば、自慢げで悦の入った表情で、まるで舞台の上で演じているかのよう。
コニムを見れば、完全に呆れ顔を浮かべ溜め息を漏らしていた。
なかなか話が終わらないので、写楽は一人で宿屋を出て村にある雑貨屋を訪ねていた。
「あの、ここにはギルドはないんですかね?」
「え? ああ、ないよ。もしかして素材の買い取りか何かかい?」
「そうなんです」
写楽は懐に下げている袋を取り出し、その中からモンスター討伐で手に入れた素材を出した。
「ふぅん、《リザードマンの爪》に《ホーンアントの角》、それにこれは……へぇ、《ブラックタイガーの牙》もあるのかい。結構な腕利きみたいじゃないか」
「さすがに雑貨屋では買い取ってはもらえませんかね?」
「いや、この素材なら買い取れるよ」
「本当ですか!」
「うん。えっと~、状態もなかなか良いし………………よし、23000ウェンでどうだね?」
「それでいいです」
相場など分からないので、買い取ってもらえるだけでいい。これで身軽になれる。
「そうかい。……ほい、そんじゃこれが代金ね」
「ありがとうございます」
テーブルの上に置かれた五枚のコイン。
そのうち二枚は、それ一枚で10000ウェンの価値がある金色のコイン。いわゆる金貨である。そして残り三枚は、1000ウェンの価値を持つ銀貨だ。
貨幣価値は日本とほぼ同じなので、最初から混乱せずに済んだことはありがたかった。
中には白金貨というものがあり、その価値は一枚で金貨の十倍はするという。もちろん見たことはないが。
「何か買っていくかい?」
「そうですね……地図、はありますか?」
「ん、あるよ。大陸地図かい? それとも世界地図?」
「両方とももらえますか?」
「分かった。ちょっと待ってな」
テーブルの下をごそごそと主人がやったと思ったら、そこから箱を取り出し、中から地図が出てきた。
「二つで2500ウェンだよ」
結構するなと思いつつも、懐には余裕があるので銀貨を三枚渡した。すると主人から、500ウェンの価値がある銅貨を手渡される。
もう用事はないので、地図を購入すると店から出た。
(良かった。手に入れたかった地図があった。小さな村だけど、品揃えは悪くない場所だな)
それに、と回りを見回す。子供たちが楽しそうにワンパクに遊んでいる。
(……うん。ここは良い村だ)
子供が笑顔でいられる場所は良い場所だ。思わず心が温まる。
(さてと、買うものも買ったし戻る……いや、その前に試してみたいことがあった)
写楽はそのまま村を出て行き、キョロキョロと回りに誰もいないかを確かめる。
「よし。それじゃ、まずは確認だな」
《ステータス》を開き、雷精魔術の欄をクリックしてヘルプを出す。
――雷精魔術――
雷精霊の力を借りて行使する魔術。
1:ライトニング(3)
この説明を見るに、今写楽が扱えるのは《ライトニング》だけのようだ。
「まずは試しに使ってみるか」
近くにある岩に向かって右手の人差し指を突き出す。イメージはホーンアントの角。そこから電力を集めて放つような感じ。
「――《ライトニング》ッ!」
すると指先からバチチッと音が鳴った瞬間、青紫色の閃きが岩へと走った。威力はそれほどでもないのか、岩は焦げただけで終わったが、それでも魔術を使えたという衝撃の方が大きかった。
「お……おお……っ!? おおーっ! 凄いっ! 本当に使えたぞっ!」
呪文を唱えるのは些か気恥ずかしいものがあったが、よく子供たち相手に勇者ごっことかさせられていたからあまり抵抗はなかった。
「はは、アイツら、オレが魔術士になったとか言ったら、きっと喜ぶだろうな!」
思い浮かぶのは子供たちの唖然とした顔。その後に「すっげーっ!?」ってはしゃぐ姿が容易に想像できる。
「このライトニングの後にある(3)ってのはどうやら消費魔力らしいな。きっちりマイナス3になってるし」
これでまた一つ勉強することができた。ちなみに《威圧》や《隠密》もヘルプを開くと、その説明と、魔力消費が出ていた。
「いや~あの世にいるじいちゃんに良い土産話ができた」
できればそれ相応にこの世界を楽しんだ後、大量に土産話を持ってあの世に逝きたい。そして住職と酒でも呑み交わしながら話に花を咲かせたいのだ。
「……はぁ。けど不死ってのに憧れる人って多そうだけど、実際なってみても何だか切ないだけなんだよなぁ」
もしこの“十三回生”という制限が、強くなるに従って消えたらどうしようかとも思うことがある。そうなれば完全なる不死になってしまう。長生きはしたいと思うが、さすがに不死を許容するには覚悟がいる。
もっとこの“転生開闢”という能力を知る必要があるかもしれない。もしかしたら同じ能力を持つ者が過去にいたかもしれないし、そういう情報がどこかにあるかもしれない。
「……そうだな。その情報でも探してみるか」
ふわふわとした目的しかなかった写楽だが、自身の能力に関する情報を知る、という目的を得ることができて、どこかホッとしている自分もいることに気づいた。
何気なく生きていくよりも、何か目的があった方がやはり人生に色合いがつく。
「しかし、何から始めたらいいものか……。とりあえずは旅でそうそう死なないような強さを得ることも必要だろうな。国に囚われて一生飼いならされるなんてのもゴメンだし、何が起きても対処できるだけの強さはやはりいる、か」
段々自分の進むべき道が見えてきたところで、ひとしきり魔術やスキルを使った後、宿屋へと戻った。
そこでこの世界が魔術やスキルといった、普通の世界ではないことを思い出す。
「まさか魔術……か?」
「いえ、わたしには少し特別なスキルがありまして」
「……オレが嘘をついていないってことを見抜くスキルってことか?」
「そうですね。そう捉えて頂いても構いません」
「ったく、コニム。何もこやつなどに力を使わずとも」
「いいえ、お姉ちゃん。シャラクさんは良い人ですよ」
「何故そんなことが分かるのだ?」
「確かにわたしは力を使ったけれど、話をしている時のシャラクさんの目はすごくキレイでしたから。そこには一片の揺らぎもありませんでした。力を使ったのは、あくまでも確証がほしかったから、ですね」
「……けど、お前の力のことをわざわざ説明しなくてもよいであろう?」
「だって、シャラクさんも普通は隠すような自分のことを話してくれましたから。ですから……お返しです」
ニコリと笑う彼女の笑みはとても魅力的で、それだけで場が和むような光を与えてくれる。
「そうか。まあ、律儀なことだな」
「シャラク! せっかくコニムが教えてくれたのだぞ! 両膝をつき、ありがたや~ありがたや~と頭を垂れるのが筋ってものであろうっ!」
「そんな宗教的な筋なんて知るわけないだろうが!」
寺院で育ちましたけども、と写楽は心の中で思うが。
「むむ、そういえば貴様のアレも見たこともない力だったな」
「突然何だ。変わり身振りが激し過ぎだろう」
「お姉ちゃん、いつもこうなんです」
「苦労してるんだな」
「はい。楽しいんですけど、行き過ぎる場合も多くて……」
心中察する。ともすれば情緒不安定にみられる姉を引き連れての旅は相当なストレスも溜まるだろう。
「こらーっ! 二人して内緒話はいかんぞ! お姉ちゃんも混ぜるべきだ!」
「もうお姉ちゃん、そんなことよりシャラクさんに聞きたいことがあったのではないですか?」
「おお! そうであった! シャラクよ、あのモンスターを消した力は何だ?」
「……オレの力としか言いようがないな」
「む? そうなのか?」
「ああ。けどあんまり口外するような力でもないからな。大して親しくない奴らにあっさりと教えるわけにはいかない」
まあ、自分の立場をすでに話してしまった写楽が言うことではないかもしれないが。
「む……確かにそうだな」
「……? 意外に素直に引き下がるんだな?」
てっきり「何て言い草だ―っ!」と言って突っかかってくるかと思っていた。
「自分の《ステータス》をベラベラと喋るのはさすがに武人としてはどうかと思うしな」
「武人……ね。オレは別に武人のつもりじゃないけどな」
「謙遜するな。貴様が倒したホーンアント、あれはなかなかに討伐が厄介なモンスターなのだ。それを無傷で二体も。貴様のコニムを見るいやらしい目つきは認められんが、強さだけはなかなかのものだ。うむ!」
「非常に不愉快な誤解があるんだけどな……。そもそもオレはコニムをそんな目で見てないし、これからも見るつもりはないぞ」
「そ、それはコニムに魅力がないと――」
「そのやり取りはもうやっただろ。それよりも、アンタの方はどうなんだ?」
「は? 私だと?」
「そうだ。武人っていうくらいだからそこそこやるんだろ?」
「ハッハッハ! 当然ではないか! だが訂正しろ! 私はそこそこやるという程度ではない! こう見えてもレベルだって78もあるのだぞ! ユニークスキルこそないが、魔術とスキルはそれなりに豊富で――」
そうやってペラペラと自分の喋りまくる武人。
(コイツ、さっき自分の言ったことを忘れてるのか……?)
武人は自分の《ステータス》のことを喋らない的なことを言っていたのに、嬉々として語っているこの図。
さらにいえば、自慢げで悦の入った表情で、まるで舞台の上で演じているかのよう。
コニムを見れば、完全に呆れ顔を浮かべ溜め息を漏らしていた。
なかなか話が終わらないので、写楽は一人で宿屋を出て村にある雑貨屋を訪ねていた。
「あの、ここにはギルドはないんですかね?」
「え? ああ、ないよ。もしかして素材の買い取りか何かかい?」
「そうなんです」
写楽は懐に下げている袋を取り出し、その中からモンスター討伐で手に入れた素材を出した。
「ふぅん、《リザードマンの爪》に《ホーンアントの角》、それにこれは……へぇ、《ブラックタイガーの牙》もあるのかい。結構な腕利きみたいじゃないか」
「さすがに雑貨屋では買い取ってはもらえませんかね?」
「いや、この素材なら買い取れるよ」
「本当ですか!」
「うん。えっと~、状態もなかなか良いし………………よし、23000ウェンでどうだね?」
「それでいいです」
相場など分からないので、買い取ってもらえるだけでいい。これで身軽になれる。
「そうかい。……ほい、そんじゃこれが代金ね」
「ありがとうございます」
テーブルの上に置かれた五枚のコイン。
そのうち二枚は、それ一枚で10000ウェンの価値がある金色のコイン。いわゆる金貨である。そして残り三枚は、1000ウェンの価値を持つ銀貨だ。
貨幣価値は日本とほぼ同じなので、最初から混乱せずに済んだことはありがたかった。
中には白金貨というものがあり、その価値は一枚で金貨の十倍はするという。もちろん見たことはないが。
「何か買っていくかい?」
「そうですね……地図、はありますか?」
「ん、あるよ。大陸地図かい? それとも世界地図?」
「両方とももらえますか?」
「分かった。ちょっと待ってな」
テーブルの下をごそごそと主人がやったと思ったら、そこから箱を取り出し、中から地図が出てきた。
「二つで2500ウェンだよ」
結構するなと思いつつも、懐には余裕があるので銀貨を三枚渡した。すると主人から、500ウェンの価値がある銅貨を手渡される。
もう用事はないので、地図を購入すると店から出た。
(良かった。手に入れたかった地図があった。小さな村だけど、品揃えは悪くない場所だな)
それに、と回りを見回す。子供たちが楽しそうにワンパクに遊んでいる。
(……うん。ここは良い村だ)
子供が笑顔でいられる場所は良い場所だ。思わず心が温まる。
(さてと、買うものも買ったし戻る……いや、その前に試してみたいことがあった)
写楽はそのまま村を出て行き、キョロキョロと回りに誰もいないかを確かめる。
「よし。それじゃ、まずは確認だな」
《ステータス》を開き、雷精魔術の欄をクリックしてヘルプを出す。
――雷精魔術――
雷精霊の力を借りて行使する魔術。
1:ライトニング(3)
この説明を見るに、今写楽が扱えるのは《ライトニング》だけのようだ。
「まずは試しに使ってみるか」
近くにある岩に向かって右手の人差し指を突き出す。イメージはホーンアントの角。そこから電力を集めて放つような感じ。
「――《ライトニング》ッ!」
すると指先からバチチッと音が鳴った瞬間、青紫色の閃きが岩へと走った。威力はそれほどでもないのか、岩は焦げただけで終わったが、それでも魔術を使えたという衝撃の方が大きかった。
「お……おお……っ!? おおーっ! 凄いっ! 本当に使えたぞっ!」
呪文を唱えるのは些か気恥ずかしいものがあったが、よく子供たち相手に勇者ごっことかさせられていたからあまり抵抗はなかった。
「はは、アイツら、オレが魔術士になったとか言ったら、きっと喜ぶだろうな!」
思い浮かぶのは子供たちの唖然とした顔。その後に「すっげーっ!?」ってはしゃぐ姿が容易に想像できる。
「このライトニングの後にある(3)ってのはどうやら消費魔力らしいな。きっちりマイナス3になってるし」
これでまた一つ勉強することができた。ちなみに《威圧》や《隠密》もヘルプを開くと、その説明と、魔力消費が出ていた。
「いや~あの世にいるじいちゃんに良い土産話ができた」
できればそれ相応にこの世界を楽しんだ後、大量に土産話を持ってあの世に逝きたい。そして住職と酒でも呑み交わしながら話に花を咲かせたいのだ。
「……はぁ。けど不死ってのに憧れる人って多そうだけど、実際なってみても何だか切ないだけなんだよなぁ」
もしこの“十三回生”という制限が、強くなるに従って消えたらどうしようかとも思うことがある。そうなれば完全なる不死になってしまう。長生きはしたいと思うが、さすがに不死を許容するには覚悟がいる。
もっとこの“転生開闢”という能力を知る必要があるかもしれない。もしかしたら同じ能力を持つ者が過去にいたかもしれないし、そういう情報がどこかにあるかもしれない。
「……そうだな。その情報でも探してみるか」
ふわふわとした目的しかなかった写楽だが、自身の能力に関する情報を知る、という目的を得ることができて、どこかホッとしている自分もいることに気づいた。
何気なく生きていくよりも、何か目的があった方がやはり人生に色合いがつく。
「しかし、何から始めたらいいものか……。とりあえずは旅でそうそう死なないような強さを得ることも必要だろうな。国に囚われて一生飼いならされるなんてのもゴメンだし、何が起きても対処できるだけの強さはやはりいる、か」
段々自分の進むべき道が見えてきたところで、ひとしきり魔術やスキルを使った後、宿屋へと戻った。
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