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第十三話

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「せっかくだから我らもついて行ってやろう」
「……いや、別にいいんだけど」
「何!? 我らの厚意を無下にするつもりかぁ!」
「……アンタ、沸点が低いとか言われないか?」
「ごめんなさい、お姉ちゃんは昔からこんなんで」
「お前も大変だな」
「こらーっ! 二人だけで仲良く会話をするでない! お姉ちゃんも混ぜろ!」
「しかもこんな感じで寂しがりで」
「なるほど、暑苦しい上にかまってちゃんか。最悪だな」
「お恥ずかしい限りで」
「だから無視するでなぁぁぁいっ!」
「もう、お姉ちゃんは黙っててください!」
「そ、そんなぁ、コニムゥ~」

 やはり妹には弱いようだ。

「あ、あの、お姉ちゃんはこんな感じですけど、感謝の気持ちは持っているんでしゅ……です」
「……ああ」
「きつい言い方しかできないお姉ちゃんですけど、何かお礼したいという思いも本物です。だから一緒に行こうとしてくれていて……」
「だからもう村のことも聞いたし、別に気にしなくてもいいぞ」
「い、いえ、実はわたしたちも【トイスの村】で一泊する予定だったんです。ですからもし良かったらお礼として案内させてもらえればと」
「……そういうことか」

 別に写楽には害はなさそうだ。姉の方は鬱陶しそうな感じだが、案内してくれるというなら素直に受けてもいいかもしれない。その方が迷わないし、すぐに村に辿り着くだろう。

「……ん? よく見れば、お前たちの耳……尖ってるな」
「あ、はい。わたしたちは魔人なので」
「……何だそれは?」
「し、知らないんでしゅか!?」
「知らないとまずいのか?」
「普通、知らない人はいないと思うんですけど」

 まあ、ほとんど野宿で、人と関わりを持たなかった写楽としては、知らないのも無理はない。ただでさえ写楽は異世界人なのだから。

「あ、そういえば、まだ自己紹介がまだでしたね! わたしは――コニム・カーミラァです。こっちの落ち込んじゃってるのは、姉のノージュです。よ、よろしくお願いしましゅ! あ、また噛んじゃった」

 何とも可愛らしい感じで舌をペロリと出して眉をひそめるコニム。

「コニムとノージュ……だな。オレは写楽だ。こっちの世界じゃ、シャラク・イチドウか」
「え……こっちの世界?」
「……そうだ、もし良かったら、いろいろこの世界のこと教えてくれないか?」
「こ、この世界?」
「ああ、オレは“異界者”って奴らしいからな」






 
 
 村に向けて歩き続けて三十分ほどが過ぎた。その間に、コニムから【ウラノス】についての話をいろいろ聞いている。

「ふぅん、今は人間と魔人が争ってるって時代なのか」
「ただ争っているのは国と国っていう図式ですけど。中には戦争に興味がない人もいますし、互いに仲良くしてる人たちもいたりします」
「お前らもそのタイプってことだな」
「……どうしてそう思うんですか?」
「ノージュの方はともかく、コニムはオレの姿を見ても嫌悪感を露わにしなかった。それは人間全体を嫌っていないってことだ。もし嫌っているなら、いくら恩人だろうが、そう簡単にオレに近づこうとは考えないだろ?」
「あ……なるほどです。確かにそうかも、です」
「フン、私は貴様のことをまだ信じてはいないがな。いつコニムに牙を剥くとは限らんしな」
「剥くわけないんだけどな……」
「そんな強がり言うなよ。見ろ、我が妹は可愛いであろう? つい手を出したくなるであろう?」
「いや、ならないけど」
「何故だ!? そこはつい手が出ますよと言うべきところであろうが! まるでコニムに魅力がないみたいではないかっ!?」

 それは姉が言うセリフなのだろうか……? 主に前半。

「もう! お姉ちゃんは話がややこしくなるから黙っててください!」
「そんなぁ、コニムゥ~!」

 普通にしていたら女性が羨むほどの美女なのに、妹にはデレデレで、怒られると情けなくなる。残念美女とはまさにこのノージュのことだろう。

「お姉ちゃんのことは置いておいて、です。その、シャラクさんは、ほんとに異世界からやって来たんですか?」
「まあな。信じられないならそれでもいい。だが本当だ。だからオレにはほとんどこの世界の知識がない」
「……ねえ、お姉ちゃん。聞いたことありますか? “異界者”っていうの」
「む? ……知らん!」
「そんな胸張って言われても……」
「仕方ないであろう! 知らないものは知らんのだからな! ハッハッハッハ!」
「はぁ……もういいです。でもシャラクさんがその、【クランヴァール王国】に召喚されたんでしたら、どうしてここへ? かなり国から離れてますけど」
「……理由はいろいろあるが、二度と戻りたいとは思わないな」
「そう、なんですか?」
「ああ、だからあの国についての話はそれで終わりだ」
「え? どうしてですか? 何かあった……ん……っ!?」

 少し睨みつけてしまったのか、ビクッとコニムが怯えた表情を浮かべる。

「おい貴様、なにコニムを怯えさせてるのだ! クソ殺すぞ!」

 どうやらほとんど無意識に怒りが零れ出たのかもしれない。あの国が写楽を殺さずに、丁重に扱ってくれていたらと思うと、やはり……。

「……悪い、ついな」
「ふぇ!?」
「貴様ぁぁぁっ! 誰の許可を得てコニムにナデナデをしてやがるぅっ!」
「おっと、すまない。いつもの感じで撫でてしまったな」

 写楽が彼女を撫でたのは決してやましい気持ちがあったわけではない。ただいつも付き合ってくれていた子供たちを相手にする感じで、ついつい小さい頭に手を置いてしまったのだ。

「ぐぬぬぬぬぅ……、やはり貴様はコニムの身体を狙ってぇ……!」
「狙うか! いい加減そのひん曲がった思考を止めろ!」
「だ、誰がひん曲がっているのだ! 私の背筋は常に真っ直ぐだ! まだ老いなど感じてはおらん! 見ろっ、真っ直ぐであろう! ほれピーンッ!」
「そういう意味じゃない! ああもう、めんどくさい奴だなコイツは!」
「ごめんなさい! お姉ちゃんも、わたしは別に気にしてないから大人しくしてくださいでしゅぅぅ~!」
「し、しかしコニム!」
「メッ!」
「…………はい」

 二人がコントのようなやり取りをしている間に、写楽はコニムから聞いた話を少し整理していた。


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