上 下
26 / 41

第二十五話

しおりを挟む
 起動させ機体を動かした事実は正直驚いた。
 実際に男が《精霊人機》を扱っているのを目にしたのだから認めないわけにはいかない。

 しかしこと模擬戦においては一片たりとも遅れを取るわけがないのだ。
 幼い頃からパイロットを目指し鍛錬を重ねてきたのである。

 そうして念願の新型のパイロットに選ばれるまでになった。
 テトアには今まで積み重ねてきた経験と実績という誇りがある。相手は起動二回目で、どう考えても負ける要素はない。
だからこの戦いも、数分と立たずに終了すると、思っていたのだ。

 するとバカ正直に突っ込んでくるのだから思わず嘲笑ってしまう。
 恐らくは斧で攻撃を仕掛けてくるはず。そのモーションもきっと大振りだろう。
 そこを防いでカウンターを入れる。衝撃によって硬直するだろうから、その隙を突き組み敷いて終わりだ。

(やっぱり男なんて大したことない)

 考察した手順通りに動こうとしたその時、対戦相手である世廻が驚くべき行動に出た。
 突如持っていた盾を走りながら投げつけてきたのである。

 盾は全身を守るほど大きい。
 回避の予定はなかったから虚を突かれた行動に、放たれた盾を防御するしかない。
 吹き飛ばされないように盾を持つ力に集中する。

「――くぅっ!」

 やはり鋼鉄製の盾は質量もあってかなりの衝撃だった。
 ただテトアは気づかなかった。

 先程自分が相手を仕留めるために考えた道筋に自分がいることを。 
 衝撃によって全身に力が入り僅かの間、硬直状態に陥ってしまう。
 だが動きを止めてしまったということより、相手がバカなことをしたということの方が勝る。

(盾を捨てるなんて守りを捨てたも同じじゃないか! バカな奴め!)

 こうなればあとは詰め寄って攻撃していくだけで、相手は疲弊しいずれ崩れる。
 すぐに持っていた盾をずらし、前方から向かって来るはずであろう世廻に意識を向けた。

 しかし――。

「――っ!?い、いないっ……!?」

 先程まで目の前にいた《ドヴ》が消失していた。

 一体どこに……?

 そう思った直後、ピピピと背後から敵が来ていることを示す警告音が鳴った。
 すぐに振り向いたがすでに対応は間に合わず、いつの間にか接近していた世廻によって左腕が盾ごと斬り飛ばされてしまった。

 人間でいうところの肘の部分――《筋枝関節》を狙われた。ここは他の装甲と違い、アーム部分を自在に動かすために細く、また柔軟な素材を使用しており、そのため強度が低いのだ。
 ピンポイントに攻撃されれば、斧でも一撃で破壊できる程度の耐久度しかない。

「ぐぅぅっ!? こ、このぉぉぉっ!」

 まだ何が起きたのか明確に処理できていないが、すぐに体勢を整え斧を振るう。

 ――ギィィィィンッ!

 斧同士が衝突し火花が散る。

「く、くそっ! お前一体何をしたっ!?」
「戦闘中に対戦相手に謎解きを求めるか? 愚かな行為だな」
「な、何をっ! うぐわぁぁっ!」

 まるで生身で戦っているかのように、素早くハイキックを放ってきた。
 頭部が軋みバチバチッと放電が走る。
 倒れそうになるがペダルを目一杯踏み込み耐えた。

 しかし踏ん張ったことで、一時的に機体が止まってしまう。
 それを放置しておくほど相手は生易しくなかった。

 すぐに世廻は追い打ちとばかりに肉薄し、今度は水面蹴りを放ってくる。
 それが量産機の動きか、と思わず怒鳴ってしまうが、見事に蹴りを受けて転んでしまった。

(このままじゃマズイッ!)

 背中にあるスラスターを目一杯起動させ、その推進力で浮上し起き上がる。
 今度こそカウンターを。
 そう決意し、向かってきた世廻に対しまずはその攻撃に合わせてこちらも攻撃を出そうと試みる――が、

「……は?」

 世廻の繰る《ドヴ》が、振り上げた斧をピタリと止めたのだ。
 まるでテトアの狙いを呼んでいるかのように。

 すると今度は何を思ったのか、手を開いて斧を地面に向けて落下させたのだ。
 武器まで手放すのか、と思った矢先、あろうことか世廻は落ちてきた斧を蹴り上げテトアに向かって飛ばしてきたのである。

「んなっ!? うぐわぁぁぁぁっ!?」

 斧は回転しながら頭部に刺さり爆発を引き起こした。首なし機体の出来上がりだ。

(くぅ……もう何が何だか分からない……っ!)

 怒涛とも呼べる息も吐かせぬ連撃にまったく対処できない。
 いや、これが今まで見た《ドヴ》の攻撃手段ならば冷静に対処もできただろう。

 しかし世廻が放つのは、どれも見たことが無いものばかりなのだ。
 世廻は、頭部があった部分に突き刺さっている斧を近づいて抜くと、今度は右腕を斬り飛ばし、胸部を蹴って押し倒したのである。
 頭、左右の腕ともに失ったテトア。

 すでに勝負は誰の眼にも明らかだった。
 気づけばテトアは空を見上げていたのである。
 まだ起き上がれるのは確かだ。

 しかし両足どころか、全身が脱力したかのように力が入らない。
 圧倒的な敗北を喫したことと、まだ何が起こったのか完璧に理解できていないことから唖然としてしまっているのだ。

 そこへ上空から何かが回転しながら落ちてくる。
 目を凝らせば、それが斧だということが分かった。
 きっと腕を斬り飛ばされた時に、上空に斧が飛び上がってしまったのだろう。

 いや、そんなことよりも斧は真っ直ぐ仰向けに倒れている《ドヴ》のコックピット目掛けて落下してきている。
 このままではコックピットが貫かれて、下手をすればテトアの命さえ危うい。

「に、逃げなきゃ……っ!」

 すぐに起き上がろうとするが、身体が震えて力が出ない。
 その間にも斧はどんどん迫ってくる。

「ま、待って! 嫌だ! 嫌だぁぁぁっ!」

 死にたくないと強く叫び、衝撃に備えたのだが……。
 一向に何の衝撃も音もない状況に訝しみ、閉じていた瞼をゆっくりと開く。

 するとコックピットの真上で、斧を掴んでいる《ドヴ》の姿があった。

 ――助けてくれた?

 そこへ世廻が、持っている斧をコックピットに突き付けて通告した。

「降参を要求する」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

鋼殻牙龍ドラグリヲ

南蛮蜥蜴
ファンタジー
歪なる怪物「害獣」の侵攻によって緩やかに滅びゆく世界にて、「アーマメントビースト」と呼ばれる兵器を操り、相棒のアンドロイド「カルマ」と共に戦いに明け暮れる主人公「真継雪兎」  ある日、彼はとある任務中に害獣に寄生され、身体を根本から造り替えられてしまう。 乗っ取られる危険を意識しつつも生きることを選んだ雪兎だったが、それが苦難の道のりの始まりだった。 次々と出現する凶悪な害獣達相手に、無双の機械龍「ドラグリヲ」が咆哮と共に牙を剥く。  延々と繰り返される殺戮と喪失の果てに、勇敢で臆病な青年を待ち受けるのは絶対的な破滅か、それともささやかな希望か。 ※小説になろう、カクヨム、ノベプラでも掲載中です。 ※挿絵は雨川真優(アメカワマユ)様@zgmf_x11dより頂きました。利用許可済です。

処理中です...