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第十七話
しおりを挟む(くぅっ! 何だいコイツは! たかが《ドヴ》に乗る雑魚じゃなかったのかい! こんな動きができる奴の情報なんてなかったよ!)
《トリスタン》の操縦者であるフリーダは事前に入手した情報に誤りがあったことに舌打ちをしていた。
何人かこの国に忍び込ませ、最新鋭機の情報はもちろん、この日が最も奇襲に適していることも見出していたのである。
その際に、警備に当たっている担当者も頭に入れていた。
さすがに全部の専用機を国から遠ざけるようなことはしなかったようだが、一人くらいなら作戦次第では出し抜けると踏んだのだ。
そして見事に策は上手く働き、新型を強奪し人質も取ってあとは安全なルートを確保して逃げるだけだった。
それがもう少しで成ったはずなのだ。
この奇妙な《ドヴ》が現れるまでは。
「まるで専用機とでも戦ってるようだよ、ったく」
量産機は鉱物や金属などを加工して作られており、どうしても専用機よりは柔軟さが落ちてしまう。
生身の人間のような動きなどは到底望めない。
しかし目の前のコイツは、先程から信じられない動きばかり見せつけてくる。
それこそ専用機を相手にしているかのようだ。
(それにこの気迫っ……!)
搭乗者から伝わってくる並々ならぬ威圧感。
ともすれば気圧され委縮してしまうほどの濃縮な殺気も込められている。
まるで歴戦の戦士がごとく。
こんな気迫を持つ者が、名が上がっていないわけがない。
明らかに隊長クラス……いや、感覚でいえばそれ以上だ。
だからこそ腑に落ちない。
「お前は――お前は何者だいっ!」
右の脚部をやられ立ち尽くしたままの《トリスタン》へ迫って来る《ドヴ》に対し、盾を構えながら叫ぶ。
相手はお構いなしに盾に蹴りを放ち、踏ん張る力がかなり損なわれている《トリスタン》は、後方へと弾き飛ばされてしまう。
何とかすぐに体勢を立て直すものの、《ドヴ》は手を緩めずに疾走してくる。
(この容赦のない的確な連撃、機を見て敏な感性、まるで経験豊富な軍人のようだね!)
肉薄してきた《ドヴ》に、今度はランスを薙ぎ払うように放つが、相手は大きく跳び上がり膝蹴りを頭部へと食らわせてきた。
「ぐぅぅぅぅっ!?」
攻撃手段が多彩過ぎる。
《精霊人機》同士の戦いで、膝蹴りを放つ奴なんて初めて見た。
頭部に僅かなヒビが入り、完全に戦闘の主導権を奪われてしまっている。
このままでは相手の動きの翻弄され、下手をすれば撃退されるかもしれない。
(舐められたままじゃ終わりたくないけど、これじゃ本末転倒だからね)
時間も時間だ。
部下たちも結構やられてしまっていることだろう。
(まあ、最初から期待はしてないけどね)
この任務で部下たちが生き残れるとは思っていない。
そもそもの数が違うのだ。
彼女たちが囮になっている間、新型を手に入れ逃げられればそれでいい。
お前たちの実力なら生き残れるようなことを言い発破をかけたが、フリーダは部下たちを捨て駒にしか思っていない。
崇高な任務のために命を懸けられるのだから、彼女たちも本望だくらいにしか考えていないのである。
だがこのままでは新型を持ち帰るという任務が不達成に終わってしまう。
それだけは何としても阻止せねばならない。
幸い手強い専用機である《ブルーフォウル》は、何故か呆気に取られたように見守っている。
あとはこの《ドヴ》から逃げ遂せれば、この新型のスピードなら逃げ切れるはず。
そう判断した矢先のことである。
膝蹴りを放った《ドヴ》の動きがおかしい。
地面に着地してから膝をついたまま、こちらに背を向けて動かないままなのだ。
すると《ドヴ》の全身、特に足回りから小さな爆発が起こり放電現象が起き出した。
「!? ハ、ハハ……ハハハ! そ、そりゃそうさ! そんな機体であれだけの動きして反動がないわけがない!」
恐らく機体自体が、想像以上の負荷に悲鳴を上げているのだろう。
そもそもここに来た時点で、結構ボロボロだった。
そんな状態で限界を超えるような動きをしたのだから、こうなって当然だ。
「いいね、いいねいいね! やっぱり運はこっちにあるってことさ!」
このまますぐに踵を返して逃げるのは容易い。しかしもう相手は動けないはず。
ここはさっきまでの借りを返すべきだろう。
今なら花を摘むかのように簡単にコイツの命を刈り取れる。
フリーダは左足で跳ぶように移動し、全速力で《ドヴ》へ接近していく。
相手の味方が《ドヴ》の異変に気付いて手を出そうと近づいてくるが、明らかにこちらの方が早い。
「これで終わりだよっ、奇妙な《ドヴ》ッ!」
相手の背に向けてランスを突き放つ。
フリーダだけでなく、誰もがこれで終幕だと思ったはずだ。
しかし――。
「――――なっ!?」
愕然とした声を上げたのは――――フリーダだった。
何故ならランスが突き刺さる瞬間、《ドヴ》が左回りに身体を捻ってスウェーをしながら回避したのだから。
(コ、コイツッ、後ろに目でもあるのかいっ!)
まるで攻撃が来る瞬間を見ていたかのように、抜群のタイミングで相手は攻撃をかわしたことが信じられなかった。
《トリスタン》の操縦者であるフリーダは事前に入手した情報に誤りがあったことに舌打ちをしていた。
何人かこの国に忍び込ませ、最新鋭機の情報はもちろん、この日が最も奇襲に適していることも見出していたのである。
その際に、警備に当たっている担当者も頭に入れていた。
さすがに全部の専用機を国から遠ざけるようなことはしなかったようだが、一人くらいなら作戦次第では出し抜けると踏んだのだ。
そして見事に策は上手く働き、新型を強奪し人質も取ってあとは安全なルートを確保して逃げるだけだった。
それがもう少しで成ったはずなのだ。
この奇妙な《ドヴ》が現れるまでは。
「まるで専用機とでも戦ってるようだよ、ったく」
量産機は鉱物や金属などを加工して作られており、どうしても専用機よりは柔軟さが落ちてしまう。
生身の人間のような動きなどは到底望めない。
しかし目の前のコイツは、先程から信じられない動きばかり見せつけてくる。
それこそ専用機を相手にしているかのようだ。
(それにこの気迫っ……!)
搭乗者から伝わってくる並々ならぬ威圧感。
ともすれば気圧され委縮してしまうほどの濃縮な殺気も込められている。
まるで歴戦の戦士がごとく。
こんな気迫を持つ者が、名が上がっていないわけがない。
明らかに隊長クラス……いや、感覚でいえばそれ以上だ。
だからこそ腑に落ちない。
「お前は――お前は何者だいっ!」
右の脚部をやられ立ち尽くしたままの《トリスタン》へ迫って来る《ドヴ》に対し、盾を構えながら叫ぶ。
相手はお構いなしに盾に蹴りを放ち、踏ん張る力がかなり損なわれている《トリスタン》は、後方へと弾き飛ばされてしまう。
何とかすぐに体勢を立て直すものの、《ドヴ》は手を緩めずに疾走してくる。
(この容赦のない的確な連撃、機を見て敏な感性、まるで経験豊富な軍人のようだね!)
肉薄してきた《ドヴ》に、今度はランスを薙ぎ払うように放つが、相手は大きく跳び上がり膝蹴りを頭部へと食らわせてきた。
「ぐぅぅぅぅっ!?」
攻撃手段が多彩過ぎる。
《精霊人機》同士の戦いで、膝蹴りを放つ奴なんて初めて見た。
頭部に僅かなヒビが入り、完全に戦闘の主導権を奪われてしまっている。
このままでは相手の動きの翻弄され、下手をすれば撃退されるかもしれない。
(舐められたままじゃ終わりたくないけど、これじゃ本末転倒だからね)
時間も時間だ。
部下たちも結構やられてしまっていることだろう。
(まあ、最初から期待はしてないけどね)
この任務で部下たちが生き残れるとは思っていない。
そもそもの数が違うのだ。
彼女たちが囮になっている間、新型を手に入れ逃げられればそれでいい。
お前たちの実力なら生き残れるようなことを言い発破をかけたが、フリーダは部下たちを捨て駒にしか思っていない。
崇高な任務のために命を懸けられるのだから、彼女たちも本望だくらいにしか考えていないのである。
だがこのままでは新型を持ち帰るという任務が不達成に終わってしまう。
それだけは何としても阻止せねばならない。
幸い手強い専用機である《ブルーフォウル》は、何故か呆気に取られたように見守っている。
あとはこの《ドヴ》から逃げ遂せれば、この新型のスピードなら逃げ切れるはず。
そう判断した矢先のことである。
膝蹴りを放った《ドヴ》の動きがおかしい。
地面に着地してから膝をついたまま、こちらに背を向けて動かないままなのだ。
すると《ドヴ》の全身、特に足回りから小さな爆発が起こり放電現象が起き出した。
「!? ハ、ハハ……ハハハ! そ、そりゃそうさ! そんな機体であれだけの動きして反動がないわけがない!」
恐らく機体自体が、想像以上の負荷に悲鳴を上げているのだろう。
そもそもここに来た時点で、結構ボロボロだった。
そんな状態で限界を超えるような動きをしたのだから、こうなって当然だ。
「いいね、いいねいいね! やっぱり運はこっちにあるってことさ!」
このまますぐに踵を返して逃げるのは容易い。しかしもう相手は動けないはず。
ここはさっきまでの借りを返すべきだろう。
今なら花を摘むかのように簡単にコイツの命を刈り取れる。
フリーダは左足で跳ぶように移動し、全速力で《ドヴ》へ接近していく。
相手の味方が《ドヴ》の異変に気付いて手を出そうと近づいてくるが、明らかにこちらの方が早い。
「これで終わりだよっ、奇妙な《ドヴ》ッ!」
相手の背に向けてランスを突き放つ。
フリーダだけでなく、誰もがこれで終幕だと思ったはずだ。
しかし――。
「――――なっ!?」
愕然とした声を上げたのは――――フリーダだった。
何故ならランスが突き刺さる瞬間、《ドヴ》が左回りに身体を捻ってスウェーをしながら回避したのだから。
(コ、コイツッ、後ろに目でもあるのかいっ!)
まるで攻撃が来る瞬間を見ていたかのように、抜群のタイミングで相手は攻撃をかわしたことが信じられなかった。
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