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あれからゾンビやナメクジに襲われることなく地中を進むことができた。迷路のように入り組んでいて、普通なら地上へ繋がる道が分からずに彷徨うだろうが、日門に預けられたハチミツの先導で、無事に屋敷の敷地内にある穴へと戻ってくることができた。
恐らくこのためにハチミツを預けてくれたと理解した。そして穴の上からロープが降ろされていて、いつでも救助できる準備が整えられていたこともあり、スムーズに地上へ皆が上がっていく。
「ほら、次は小色だ」
「お兄ちゃん……でも」
あとは理九と小色だけだったが、小色はハチミツを抱えながら、今来た道を振り返っていた。
「…………アイツなら大丈夫だって」
「……うん」
分かっている。あの人は強い。だって一つの世界を救ったほどの英雄なのだから。たとえあのような怪物が相手でもきっと負けないはず。
しかしそう信じているつもりでも、やはり彼を心配する気持ちは決して収まらない。それは理九も理解しているのか、どう言葉をかけていいか分からずにボリボリと頭をかいているだけ。
するとその時だ。急にハチミツが腕の中でもぞもぞと動き出し、ピョンと飛び出してしまった。
「あっ、どこ行くのハチミツちゃん!」
突然走り出したハチミツを反射的に追いかける。理九も「あ、おい!」と後ろから追いかけてきた。
「――あっちゃあ、やっぱお前の鼻は誤魔化せねぇか、ハチミツ」
先ほど通ってきた道の壁。そこには少し身を隠せるようなデッパリがあり、そこへハチミツが飛び込んだと思ったら、どこか線が細いというか子供っぽい声音が聞こえた。
そしてそこにいた人物の全貌が明らかになり、小色は思わず困惑してしまう。
何故ならその人物は、どこからどう見ても自分よりも小さい子供だったからだ。
小色は何故こんなところに子供がいたのか分からず目を丸くしていると、理九もまたその子を見て驚き声を上げる。
「は、はあ? 何で子供が? もしかして遊んでて穴から落ちたのか? いや、それにしては屋敷で見たことないけど……」
その子供は、幼いながらも意志の強そうな眼差しを持ち、僅かに苦笑を浮かべながらこちらを見つめている。
(あれ? この子……誰かに似てる?)
会ったことない……はず。だけど記憶の中で、この子に似た誰かがうっすらと存在を匂わせてくる。しかしハッキリとは分からない。
というよりも気になるのは、ハチミツが子供の頭上で完全にリラックスしていることだ。それはまるで飼い主に対する態度のように見えた。いや、飼い主だからといって頭の上に乗らないだろうが、あれだけ無防備な状態を晒しているということは、相応の信頼関係が築かれている証だろう。
「ま、そんな感じになるわなぁ」
少し困ったように笑いながら言うその表情は、ある人を連想させ、小色の中で有り得ない答えが導き出された。
「も、もしかして…………日門……さん?」
「え? ええ? ちょ、小色、そんなわけないだろ! この子はまだ子供だぞ!」
当然とばかりに理九が反論してくるが、この状況や少年の言動、そして自分の直感がそうであると認めてしまっている。
すると突然、「ウッハッハッハッハ!」と楽しそうに少年が笑い出した。
二人が呆気に取られていると、少年はニカッと白い歯を見せながら、
「よく分かったなー! 小色、大正解!」
と、確定的な言葉を放った。
「ほ、ほんとに日門さん……なんですよね?」
「おう、マジもんだぞ! つい最近異世界から地球に戻ってきた四河日門だ」
「「え…………ええぇぇぇぇぇぇっ!?」」
兄妹揃って愕然としたのも仕方ないことだろう。何せ、小色も直感は彼が日門だと示してはいたが、あくまでも半信半疑の中でのこと。
「ど、どどどどどういうことだ!? き、君が日門だって!?」
「おい、理九。頼むからあんま騒がないでくれ。できりゃこの状態をこれ以上誰かに見られたくねぇしな」
「僕の名前も…………何だかよく分からないけど、その……元の姿には戻れるのか?」
「心配ねぇよ。時間的にそろそろ……お、来た来た!」
日門が何かを察したかのように声を上げると、その全身が淡く発光したと思ったら、グングンと全体が大きくなっていく。そして光が収束すると、そこから自分たちが見知った姿が現れる。
「……日門さん……!」
「ほらな、俺だったろ?」
まるで悪戯が成功したかのような笑みを浮かべているが、一体どうしてさっきのような子供の姿になっていたのか気になって仕方がない。仕方がない……が、それよりもまずは確かめるべきことがある。
「日門さん、怪我は有りませんか?」
「んぁ? ハハ、ねぇよ。心配かけちまったな、すまねぇ」
「いいえ……。日門さんのお蔭でわたしたちは生きてるんです。本当に……ありがとうございました」
「僕からも、感謝するよ。ありがとう」
二人して頭を下げると、日門さんはまたも苦笑いを見せながら「よせって!」と言い、頭を上げるようにとも言ってきた。
「お前らはもう俺の中じゃ身内だ。だから助けに来た。それだけなんだよ。身内の間でそんな畏まった態度は必要ねぇ」
ああ……と、彼の笑顔を見て小色の心が温かくなる。安心する。とても穏やかな気持ちになる。
(本当にまた会えて良かった……)
心の底からそう思った小色だった。
恐らくこのためにハチミツを預けてくれたと理解した。そして穴の上からロープが降ろされていて、いつでも救助できる準備が整えられていたこともあり、スムーズに地上へ皆が上がっていく。
「ほら、次は小色だ」
「お兄ちゃん……でも」
あとは理九と小色だけだったが、小色はハチミツを抱えながら、今来た道を振り返っていた。
「…………アイツなら大丈夫だって」
「……うん」
分かっている。あの人は強い。だって一つの世界を救ったほどの英雄なのだから。たとえあのような怪物が相手でもきっと負けないはず。
しかしそう信じているつもりでも、やはり彼を心配する気持ちは決して収まらない。それは理九も理解しているのか、どう言葉をかけていいか分からずにボリボリと頭をかいているだけ。
するとその時だ。急にハチミツが腕の中でもぞもぞと動き出し、ピョンと飛び出してしまった。
「あっ、どこ行くのハチミツちゃん!」
突然走り出したハチミツを反射的に追いかける。理九も「あ、おい!」と後ろから追いかけてきた。
「――あっちゃあ、やっぱお前の鼻は誤魔化せねぇか、ハチミツ」
先ほど通ってきた道の壁。そこには少し身を隠せるようなデッパリがあり、そこへハチミツが飛び込んだと思ったら、どこか線が細いというか子供っぽい声音が聞こえた。
そしてそこにいた人物の全貌が明らかになり、小色は思わず困惑してしまう。
何故ならその人物は、どこからどう見ても自分よりも小さい子供だったからだ。
小色は何故こんなところに子供がいたのか分からず目を丸くしていると、理九もまたその子を見て驚き声を上げる。
「は、はあ? 何で子供が? もしかして遊んでて穴から落ちたのか? いや、それにしては屋敷で見たことないけど……」
その子供は、幼いながらも意志の強そうな眼差しを持ち、僅かに苦笑を浮かべながらこちらを見つめている。
(あれ? この子……誰かに似てる?)
会ったことない……はず。だけど記憶の中で、この子に似た誰かがうっすらと存在を匂わせてくる。しかしハッキリとは分からない。
というよりも気になるのは、ハチミツが子供の頭上で完全にリラックスしていることだ。それはまるで飼い主に対する態度のように見えた。いや、飼い主だからといって頭の上に乗らないだろうが、あれだけ無防備な状態を晒しているということは、相応の信頼関係が築かれている証だろう。
「ま、そんな感じになるわなぁ」
少し困ったように笑いながら言うその表情は、ある人を連想させ、小色の中で有り得ない答えが導き出された。
「も、もしかして…………日門……さん?」
「え? ええ? ちょ、小色、そんなわけないだろ! この子はまだ子供だぞ!」
当然とばかりに理九が反論してくるが、この状況や少年の言動、そして自分の直感がそうであると認めてしまっている。
すると突然、「ウッハッハッハッハ!」と楽しそうに少年が笑い出した。
二人が呆気に取られていると、少年はニカッと白い歯を見せながら、
「よく分かったなー! 小色、大正解!」
と、確定的な言葉を放った。
「ほ、ほんとに日門さん……なんですよね?」
「おう、マジもんだぞ! つい最近異世界から地球に戻ってきた四河日門だ」
「「え…………ええぇぇぇぇぇぇっ!?」」
兄妹揃って愕然としたのも仕方ないことだろう。何せ、小色も直感は彼が日門だと示してはいたが、あくまでも半信半疑の中でのこと。
「ど、どどどどどういうことだ!? き、君が日門だって!?」
「おい、理九。頼むからあんま騒がないでくれ。できりゃこの状態をこれ以上誰かに見られたくねぇしな」
「僕の名前も…………何だかよく分からないけど、その……元の姿には戻れるのか?」
「心配ねぇよ。時間的にそろそろ……お、来た来た!」
日門が何かを察したかのように声を上げると、その全身が淡く発光したと思ったら、グングンと全体が大きくなっていく。そして光が収束すると、そこから自分たちが見知った姿が現れる。
「……日門さん……!」
「ほらな、俺だったろ?」
まるで悪戯が成功したかのような笑みを浮かべているが、一体どうしてさっきのような子供の姿になっていたのか気になって仕方がない。仕方がない……が、それよりもまずは確かめるべきことがある。
「日門さん、怪我は有りませんか?」
「んぁ? ハハ、ねぇよ。心配かけちまったな、すまねぇ」
「いいえ……。日門さんのお蔭でわたしたちは生きてるんです。本当に……ありがとうございました」
「僕からも、感謝するよ。ありがとう」
二人して頭を下げると、日門さんはまたも苦笑いを見せながら「よせって!」と言い、頭を上げるようにとも言ってきた。
「お前らはもう俺の中じゃ身内だ。だから助けに来た。それだけなんだよ。身内の間でそんな畏まった態度は必要ねぇ」
ああ……と、彼の笑顔を見て小色の心が温かくなる。安心する。とても穏やかな気持ちになる。
(本当にまた会えて良かった……)
心の底からそう思った小色だった。
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