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「………………んむぁ?」

 天窓から降り注ぐ朝日に照らされ、日門はベッドの上で目覚める。
 何か息苦しいと思ったら、顔の前に何か生温かいものが乗っていた。

(またか……)

 そう思いながら、慌てることもなくそれを掴み上げながら上半身を起こす。

「まーたお前は人の顔の上で寝てたな――ハチミツ」

 コイツを拾ってから一週間ほど経ったが、大分ここの環境にも慣れたようで、こうしてベッドの上で一緒に寝ると、何故か朝には顔の上に乗っているのだ。

「にゃぁ~」

 まるでおはようとでも言っているかのようで陽気に鳴くハチミツに、日門も頬を緩めながら「おはようさん」と挨拶をする。
 洗顔に歯磨きをして、ハチミツと一緒に朝食を取った。

 美味そうに小皿の中にあるキャットフードを食べるハチミツを、痩せ細っていた身体も肉付きが戻りつつあった。
 朝食を終えると、ハチミツと一緒に畑仕事へと出かける。そこにはすでに作業をしている農業ペンギンたちがいた。

 そんな彼らに向かって駆け出して、ペンギンたちの周りをうろつくハチミツ。自分の面倒を看てくれたペンギンたちにも懐いてくれたようで何よりだ。

「お、結構育ってきたな」

 畑を見れば、大分緑が目立ってきた。

「もう少ししたら収穫可能だなこりゃ」

 普通なら一週間程度で収穫できる作物は少ないだろう。しかしここに植えているものは、地球産のものではない。
 そう、一週間前に日門が畑に植えた種は、異世界の作物だった。

「《ピーチレタス》に《ブラックトマト》、それに《モチイモ》はあと三日ってとこか。よしよし、こっちでもちゃんと育ってんな」

 淡い桜色に色づく葉物野菜のレタスに、黒光りしているトマト、そしてモチのような食感の芋と、すべて異世界でも比較的人気の高い作物である。
 他にもいろいろ植えるつもりだが、育てるのが難しいものもあるので、時間をかけてゆっくり試していくつもりだ。

 日門は余計な雑草や間引きをしながら作物の品質を高めていく。
 それら作業が終わると、あとは農業ペンギンたちに任せて一度ログハウスに戻った。

 シャワー室で軽く汗を流し、それから今日の予定を確認する。とはいってもスケジュールが埋まっているわけではない。基本的に気まぐれの風任せなので、その日に思いついたことを行うスローライフを満喫している。

「そろそろまた物資補給にでも行くかなぁ」

 ソファに座っていると、膝の上に乗ってきたハチミツを撫でながら今後の予定を口にする。ここ数日間はずっと島に引きこもってゲームやら漫画やらで時間を潰していた。
 あれから地元がどう変わったのか、少し気になっていたので、確認がてら物資補給をしようと思う。
 そうと決めたら行動は早い日門。ササッと準備をして島を出ようとするが……。

「……あのよぉ、ハチミツ。どいてくんね?」

 頭の上にへばりつくようにしがみついて離れてくれない。

「もしかして一緒に行くつもりか?」
「にゃにゃ!」

 もちろんだとでも言わんばかりの返事。

(……まあ、体調も大分良くなったし大丈夫か?)

 何かあれば自分が守ればいいと判断し、ハチミツも一緒に連れていくことになった。
 そうして日門は、ハチミツをパーカーのフードの中に入れたまま《風の飛翔》で地元へと向かう。

 本日も見事に快晴であり気持ちが良い。空だけは、まさか地球が終末を迎えているとは思えないほどに清々しい。しかしこの時も地球に住む生物は徐々に削られていっているだろう。

「……ん? あれは……船か?」

 遠目に見えるのは一隻の船。クルーザーのようだが、良く見ればそこにはゾンビが数体ウロウロしていた。

(海に逃げたのはいいが、仲間に感染した奴がいたのかもな)

 そうなれば、船は逃げ場のない監獄と化す。海の中に逃げ込んでもここらへんには島一つないので結局溺れ死ぬだろう。

(そういや海の中は安全なのか?)

 今まで考えなかったが、魚やら貝などの生物もゾンビ化しているとしたら、海も決して安全とは言えないだろう。
 こうして人間の生息エリアはどんどん狭まっていく。絶滅するのも時間の問題かもしれない。

 そう考えた時に、日門の脳裏に浮かぶのは幾人かの者たちの顔。
 部活で世話になった者たちや、この世界に戻ってきて初めて出会った連中。

「そういや理九と小色は元気にしてっかなぁ」

 できるなら平和に寿命を全うしてほしいと願うが、こんな時代ではそれもなかなか至難だと思う。
 彼らは久しく見なかった善人だ。異世界でもこの地球でも稀少とも言える根っからのお人好し。あの性格では今の世界は生き難いかもしれない。

 ああいう者たちは、自分たちよりも誰かを優先したりするから、必然と生存率が低い。異世界でもそういった連中ほど早く死んでいった。
 悪党やずる賢い連中の方が結果的に長生きする。本当に世知辛い世の中だ。

 そんな理不尽さを実感している日門だからこそ、小色たちのことを思い返して心配になってくる。

「…………なあ、ハチミツ。ちょいと、寄り道するけどいいよな?」

 そう言うと、ハチミツは可愛く鳴き声を上げると、それを了承と取った日門は、真っ直ぐある場所へ向かって飛ぶ。
 そこは小色たちがいるはずの小さな要塞。

 だが――――――日門が戦慄する光景がそこには広がっていた。

 何故なら、その要塞から火の手が上がっていたからである。



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