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――深夜。
以前ならここは、そこかしこにネオンが輝く眠らない町となっていた歓楽街の一種だったが、今は建物も崩れ街灯なども失われた闇の廃墟となっていた。
しかしそんな場所で、懐中電灯を装備した者たちが、キョロキョロと周囲を見回しながら歩いている。
「確かここらへんがコンビニだった……よな?」
「そうだっけ? 瓦礫に埋もれてるし暗くて分かんねえし」
明かりに照らされて、そこに立っているのが三人の男性だということが分かる。
この男たちは、現在ともに過ごし活動している。それぞれ名を勇也、武志、伸司といった。
「てか何でこんな夜に探索すんだよ。マジで何も見えねえじゃんか。ゾンビに襲われたらどうすんだよ!」
伸司が愚痴を言いながらも、手に持っている懐中電灯で瓦礫を照らして何かを探している。
「大声出すなって。しょうがねえだろ。この時間じゃなきゃ、他の連中に出くわしたりして下手すりゃ奪い合いの殺し合いになっちまうんだから」
勇也が諭すように言うと、
「そうそう。だからさっさと残ってる物資でも探して帰ろうぜ」
それに次いで武志が明るい声音を発した。
世界が終末を迎えたこの時代。無差別に襲い掛かってくるゾンビも恐ろしいが、それよりも厄介なのが同じ生きた人間たちである。
生きるためなら平気で他人を踏み躙る連中が一気に増加した。無秩序になったせいもあり、暴力で弱者を支配しようとする輩が増えたのである。
その中にはヤクザや不良、犯罪者だった連中もいて、平和に過ごしていた一般人にとってはゾンビと同様に厄介な存在でしかない。
実際に被害に遭ったという話は珍しくもないし、国や警察が機能していない以上、これからも増え続けていくのは間違いない。
そんな中で弱者である彼らができるのは、日中は音も立てずにひっそりと暮らし、こうして誰も出回らない時間帯に物資を探索することだけ。無論リスクは高い。
ゾンビは夜になると活性化し凶暴さが増すし、探索したとしても必ず物資が手に入るというわけでもない。それでも生きるためには食料や水は必要であり、危険を承知でもこうして探索しに来るしかないのである。
「はぁ……いつまでこんなこと続くんだよ」
「嘆いてないで動けって、伸司」
「へいへい……って、あれ? 武志は? アイツ、どこ行ったんだよ?」
近くにいるはずのもう一人の仲間の姿が見えずに、二人は顔を見合わせて首を傾げる。
「あの野郎、もしかしてビビッて逃げやがったな」
「マジかよ……じゃあ何か見つけてもアイツには無しだな」
「当然だな。水だっておちょこ一杯だけだ」
「ハハハ、そりゃいいや!」
恐ろしい環境の身の上にいるのにもかかわらず二人は楽しそうに笑う。いや、そうして無理矢理にでも明るくしていなければ、この状況に心が参ってしまうのだろう。
「ていうかさっきから何か臭くね?」
「……そうだな。何か腐ったようなニオイがするな」
二人はもしかして腐った死体でも近くにあるのか、それともゾンビが近づいてきているのかと不安になるが、そのまま沈黙が続いたまま何も起きない。
二人はホッと安堵し胸を撫で下ろした直後、すぐ傍にある瓦礫の奥の方からドサッという音が響く。
「!? ……今、何か音がしたよな?」
「あ、ああ……! もしかして武志の奴、俺らを驚かせようって隠れてんじゃねえだろうな?」
「へ? ……ちょっと見てくるわ」
伸司が探索していた手を止めて、音がした方へゆっくり向かって行く。
残った勇也が「気を付けろよ」と注意を促し、再び中腰になって物資探索に集中し始める……が、
「――うっ、うわぁぁぁぁぁっ!?」
突然探しに行ったはずの伸司の悲鳴が上がる。その声に、ただならぬものを感じた勇也は、弾かれるように身構えて伸司がいるであろう方角を見つめた。
「お、おい……し、伸司?」
しかし声をかけても伸司からの応答はない。
「あ、ははは……あ、あれだろ? お前も武志とグルになって俺を驚かせようッてしてんだろ?」
そう口にしているが、言葉が不安と恐怖からか震えてしまっている。
勇也が足を動かせずに立ち尽くしていると、ポタポタと何かが頭上から降ってくる感触があった。
「ひっ!? ……あ、雨……か?」
頭上を見上げても暗いからよく分からず、頬についたであろう雫を無造作に拭き取って、何気なく懐中電灯で照らして確認する。
そこで気づく。自分の頬に落ちたものが雨ではなかったことに。
よく見ればそれは緑色の液体であり、ドロリと粘着質をしていて……。
「熱っ!?」
何故かその液体から熱を感じて、反射的に手を大きく振った。すると同じように直接身体に付着した液体からも熱が発せられ、慌てて全身を振りながら手で払い落していく。
「っ!? ああもう、何だってんだよっ!」
訳も分からず焦っていると、目前に何か大きなものがドサッと落ちた。
ビクッとして硬直し、それでも確認しようとそこへ懐中電灯を向ける。
そこには――――緑色の液体に包まれゾンビのように腐食した伸司が横たわっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁあああああっ!?」
思わず叫び声を上げながら腰が抜ける勇也。
「し、し、伸司……な、何で……っ!?」
パニックになる勇也だが、彼をさらに恐怖に陥れる事態が起きてしまう。
先ほどと同様に、またも頭上から緑色の液体が降ってくる。しかし今度は大小様々な塊で、それらが付着した地面はゆっくり溶け出していく。
「い、い、一体……何なん……っ!?」
手に持った懐中電灯で頭上を照らす。いや、照らしてしまった。
明かりの中にぽっかりと浮かび上がったのは、勇也を見下ろすほどに大きな〝バケモノ〟の姿。
思わず悲鳴を上げようとした瞬間、勇也は即座にして何かに包まれてしまい意識が闇の中へと溶けたのである。
以前ならここは、そこかしこにネオンが輝く眠らない町となっていた歓楽街の一種だったが、今は建物も崩れ街灯なども失われた闇の廃墟となっていた。
しかしそんな場所で、懐中電灯を装備した者たちが、キョロキョロと周囲を見回しながら歩いている。
「確かここらへんがコンビニだった……よな?」
「そうだっけ? 瓦礫に埋もれてるし暗くて分かんねえし」
明かりに照らされて、そこに立っているのが三人の男性だということが分かる。
この男たちは、現在ともに過ごし活動している。それぞれ名を勇也、武志、伸司といった。
「てか何でこんな夜に探索すんだよ。マジで何も見えねえじゃんか。ゾンビに襲われたらどうすんだよ!」
伸司が愚痴を言いながらも、手に持っている懐中電灯で瓦礫を照らして何かを探している。
「大声出すなって。しょうがねえだろ。この時間じゃなきゃ、他の連中に出くわしたりして下手すりゃ奪い合いの殺し合いになっちまうんだから」
勇也が諭すように言うと、
「そうそう。だからさっさと残ってる物資でも探して帰ろうぜ」
それに次いで武志が明るい声音を発した。
世界が終末を迎えたこの時代。無差別に襲い掛かってくるゾンビも恐ろしいが、それよりも厄介なのが同じ生きた人間たちである。
生きるためなら平気で他人を踏み躙る連中が一気に増加した。無秩序になったせいもあり、暴力で弱者を支配しようとする輩が増えたのである。
その中にはヤクザや不良、犯罪者だった連中もいて、平和に過ごしていた一般人にとってはゾンビと同様に厄介な存在でしかない。
実際に被害に遭ったという話は珍しくもないし、国や警察が機能していない以上、これからも増え続けていくのは間違いない。
そんな中で弱者である彼らができるのは、日中は音も立てずにひっそりと暮らし、こうして誰も出回らない時間帯に物資を探索することだけ。無論リスクは高い。
ゾンビは夜になると活性化し凶暴さが増すし、探索したとしても必ず物資が手に入るというわけでもない。それでも生きるためには食料や水は必要であり、危険を承知でもこうして探索しに来るしかないのである。
「はぁ……いつまでこんなこと続くんだよ」
「嘆いてないで動けって、伸司」
「へいへい……って、あれ? 武志は? アイツ、どこ行ったんだよ?」
近くにいるはずのもう一人の仲間の姿が見えずに、二人は顔を見合わせて首を傾げる。
「あの野郎、もしかしてビビッて逃げやがったな」
「マジかよ……じゃあ何か見つけてもアイツには無しだな」
「当然だな。水だっておちょこ一杯だけだ」
「ハハハ、そりゃいいや!」
恐ろしい環境の身の上にいるのにもかかわらず二人は楽しそうに笑う。いや、そうして無理矢理にでも明るくしていなければ、この状況に心が参ってしまうのだろう。
「ていうかさっきから何か臭くね?」
「……そうだな。何か腐ったようなニオイがするな」
二人はもしかして腐った死体でも近くにあるのか、それともゾンビが近づいてきているのかと不安になるが、そのまま沈黙が続いたまま何も起きない。
二人はホッと安堵し胸を撫で下ろした直後、すぐ傍にある瓦礫の奥の方からドサッという音が響く。
「!? ……今、何か音がしたよな?」
「あ、ああ……! もしかして武志の奴、俺らを驚かせようって隠れてんじゃねえだろうな?」
「へ? ……ちょっと見てくるわ」
伸司が探索していた手を止めて、音がした方へゆっくり向かって行く。
残った勇也が「気を付けろよ」と注意を促し、再び中腰になって物資探索に集中し始める……が、
「――うっ、うわぁぁぁぁぁっ!?」
突然探しに行ったはずの伸司の悲鳴が上がる。その声に、ただならぬものを感じた勇也は、弾かれるように身構えて伸司がいるであろう方角を見つめた。
「お、おい……し、伸司?」
しかし声をかけても伸司からの応答はない。
「あ、ははは……あ、あれだろ? お前も武志とグルになって俺を驚かせようッてしてんだろ?」
そう口にしているが、言葉が不安と恐怖からか震えてしまっている。
勇也が足を動かせずに立ち尽くしていると、ポタポタと何かが頭上から降ってくる感触があった。
「ひっ!? ……あ、雨……か?」
頭上を見上げても暗いからよく分からず、頬についたであろう雫を無造作に拭き取って、何気なく懐中電灯で照らして確認する。
そこで気づく。自分の頬に落ちたものが雨ではなかったことに。
よく見ればそれは緑色の液体であり、ドロリと粘着質をしていて……。
「熱っ!?」
何故かその液体から熱を感じて、反射的に手を大きく振った。すると同じように直接身体に付着した液体からも熱が発せられ、慌てて全身を振りながら手で払い落していく。
「っ!? ああもう、何だってんだよっ!」
訳も分からず焦っていると、目前に何か大きなものがドサッと落ちた。
ビクッとして硬直し、それでも確認しようとそこへ懐中電灯を向ける。
そこには――――緑色の液体に包まれゾンビのように腐食した伸司が横たわっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁあああああっ!?」
思わず叫び声を上げながら腰が抜ける勇也。
「し、し、伸司……な、何で……っ!?」
パニックになる勇也だが、彼をさらに恐怖に陥れる事態が起きてしまう。
先ほどと同様に、またも頭上から緑色の液体が降ってくる。しかし今度は大小様々な塊で、それらが付着した地面はゆっくり溶け出していく。
「い、い、一体……何なん……っ!?」
手に持った懐中電灯で頭上を照らす。いや、照らしてしまった。
明かりの中にぽっかりと浮かび上がったのは、勇也を見下ろすほどに大きな〝バケモノ〟の姿。
思わず悲鳴を上げようとした瞬間、勇也は即座にして何かに包まれてしまい意識が闇の中へと溶けたのである。
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