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 ――無人島にやってきて凡そ三時間ほどが経過した。
 現在日門が何をしているかというと……。

「あぁ……ポテチ美味え」

 ログハウスのリビングに設置したソファで、寝転びながら袋に入ったポテトスナックを食べつつ漫画を読んでいた。

 ちなみに祖父の家に、まだ賞味期限が尽きていない食材が幾つかあったので、それを《ボックスリング》に収納しておいたのだ。さすがに生ものなどは腐っていたが、缶詰めやら乾物、またレトルト食品はまだ現役だったのでありがたかった。他にも使えそうな食器類や日用品、その他諸々を回収しておいた。漫画もその一つ。

 このポテトスナックも、実際のところ賞味期限は少し過ぎているが、中身は腐っていなかったので、こうして久しぶりの日本の菓子を堪能しているのだ。
 異世界にも菓子はあるものの、種類はそう多くないし、ハッキリいってあまり美味いとはいえないものばかりだ。だから味が濃い地球品の菓子はやはり最高である。

「漫画も久しぶりに見るけど、やっぱりおもしれえわ」

 残念ながら異世界には漫画家はいないので、小説は存在してもコミックはなかったのだ。

「あーけど、やっぱテレビはダメだな」

 リモコンを操作しても何ら反応しない。
 地震で倒れた拍子に壊れてしまったのか、ウンともスンとも言わなかった。一応このログハウスでは太陽光発電を利用しているので、電気を使おうと思えばできる。

 ただ飲み水に関しては、浄水器が壊れていたので使用不可になっていた。

「お笑い番組とか観たかったのになぁ。こうなったらパソコンでも手に入れて、ブルーレイとかで観るかねぇ」

 そのためには本土に戻る必要があるが、今はまだこうしてぐで~っとしていたい。何故ならここ数時間、ずっと掃除やら整理やらで汗を流していたのだから。
 しかしそのお蔭で、ログハウスは前に利用していた時と同じように綺麗になったし、壊れていた家具なども、祖父の家や異世界から持ち込んだもので一新した。

「住むとこはこれで問題ねえけど、次は畑を何とかしてえな」

 荒れ放題だが、まだ整えば利用できそうだ。農業は自給自足において不可欠だし、いろいろやりたいこともある。だから次は畑を何とかすることにした。

「まあでも、明日でいっかぁ。もう外も暗えし」

 久しぶりにのんびりとした時間を過ごしていたら、いつの間にか外は闇に支配されていた。街灯などないので真っ暗である。ログハウスの周囲は生活灯のお蔭で明るいが。

「あ~あ、でもよーく考えたらよぉ、せっかく死に物狂いで帰ってきた世界はゾンビでいっぱいでしたって……マジでないわぁ、報われてねえわぁ。俺……頑張ったと思うんだけどなぁ」

 こっちに帰ってきたらやりたいことなんてたくさんあった。
 未読の漫画を読破するのはもちろんのこと、映画やゲーム、ドラマなどのエンタメを走破し、さらには何ものにも縛られない自由で快適な暮らしをしたいと思っていた。

(…………あれ? けど全部じゃねえけど、これはこれでありな生活なの、か?)

 別にゾンビに襲われようと、今の日門には問題にならない程度には対処できる。
 それにこうして無人島で一人、のんびり生活できそうではないか。
 確かに少し思惑とは違う部分があるものの、凡そはイメージ通りの人生を送れる流れに乗っている事実を理解した。

「……そうだな。ウジウジしててもしょうがねえし、それよりも今後どうやって楽しく過ごすかを考える方が生産的だな、うん」

 こういう時こそポジティブシンキングだ。悩んでも出ない答えはある。
 なら今は思うままに前に進む方が日門の性分に合っていた。

「あ、そういや畑仕事ならアイツらにやらせるのはどうだ?」

 あることを思いつくと、そのまま外へと出る。
 畑の傍まで来たところで、《ボックスリング》からあるものを取り出した。
 それはペンギン…………の、ぬいぐるみである。しかもその数――ニ十体。さらには全員が麦わら帽子を被っていて、その背にはクワやら鎌やらを背負っている珍妙さ。

「コイツらを持ってきといて正解だったな。さて――」

 日門からジワリジワリと魔力が溢れ出し、その魔力をぬいぐるみへと注いでいく。
 するとぬいぐるみたちの瞳にハイライトが光ったと思ったら、ひとりでに立ち上がり日門の前に整列していく。

「よーし、お前ら久しぶりだな!」
「「「「キューッ!」」」」

 全員が愛らしい声で応えてくれた。思わず頬が緩むほどの和みを感じる。
 このペンギンたちは、もちろん生物というわけではない。かといってただのぬいぐるみでもない。

 向こうの世界でいうと、いわゆるゴーレムに属する存在といえよう。
 ゴーレムは人が造り出した人形のことであり、《魔道具》の一種。

 その形、質などそれぞれ違いはあるが、共通しているのは魔力で動くということと、命令に忠実だということ。だから本来は敵に対して放つ兵器代わりに行使されることが多いが、日門はゴーレムたちを別の形でよく用いていたのである。

「悪いけどよぉ、今回もお前らの力を貸してもらうぜ! ほら見ろ、この草ぼーぼーの畑を」

 日門の言葉に従い、ペンギンたちが畑を見る。すると全員の目が光った。

「ウハハ、腕がなるだろう? コイツを立派な畑にしてえんだ。どうだ、できるか?」
「「「「キュッキュキュー!」」」」

 全員が揃って敬礼する姿は何だかシュールで面白い。

「よし。じゃあ頼むわ。何か必要なものがあったら言ってくれよ」

 そう言うと、ニ十体のペンギンたちは速やかに行動し始めた。数体が手に鎌を持ち、次々と草を刈っていき、その草を他のペンギンたちが一つに纏めていく。さらに小石やら小枝などの異物を拾い集めてもいく動きは無駄がない。

「おぉ、相変わらず見事な手際だぜ、農業ペンギン」

 そう、日門は異世界でペンギンたちに農業の知識を与えたのだ。それは仕事で荒れ果てた土地に行った時である。
 その地を開拓して、流民を住まわせる予定だったのだ。王名でもあったため断ることができなかったのだが、日門一人ではなかなか手が回らなかった。

 だから知り合いの『魔道具技師』に相談し、ゴーレム作成を教えてもらって、作り上げたのがペンギンたちである。
 幸い畑の耕し方などの知識はあったので、魔力を流すと同時に自分の知識をペンギンたちに与え、農業ペンギンに仕立てることができたのだ。

 農業ペンギンたちの手際は素晴らしく、開拓を時短することが可能になった。
 地球に戻る際に、もう必要ないだろうと置いていくつもりだったが、何となく名残惜しかったので持ち帰ることにしたのだ。しかしそれは大正解だった。

「んじゃ、俺も手伝うとすっか」

 こうしてあっという間に、長年放置されていた畑を再生することができたのである。




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