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日門たちが尋ねた屋敷の中、その一室で優雅に紅茶を嗜んでいる一人の人物。窓から入ってくるそよ風になびく美しい金色の髪に、ナチュラルメイクで整えられた美貌。まるでモデルかのような女性がそこにいる。その傍らには白と黒を基調としたメイド服を纏っている人物が控えていた。こんな終末世界では、あまりにも不似合いな穏やかな光景だ。
そこへ扉がノックされ、メイドがすぐさま動いて扉へと向かう。そしてしばらくしてメイドが女性のもとへも戻ってきて一礼をした。
「当主様、訪問者でございます。こちらを」
そう言ってタブレットのようなものを女性へと見せる。そこに映し出されたのは、屋敷の正門前に設置されたカメラが映す映像だ。
「どうやらこちらを頼ってきた様子でございます。いかが致しましょう?」
女性はさして興味無さげに視線を向けるが、すぐに「あら」と嬉々とした声音を出して笑みを浮かべる。
「これは久しぶりの当たりみたいね」
それはまさに獲物でも見つけたかのような愉快さが、その眼差しに込められている。そしてその視線は、カメラに写っている一人の少女へと突き刺さっていた。
「いいわ、ただし他の男はダメね、失格だわ」
「しかしどうやら少女の隣にいる男性は、少女の兄らしいようで」
「あらそうなの。それじゃあ仕方ないわね、その男だけは許可しましょう。でももう一人は不許可よ」
「畏まりました。ではそのように対応致します」
再びメイドが扉の方へ向かっていった。
残された女性は、カップに入った紅茶で喉を潤すと、生温かい溜息を吐く。
「これでまた一人、コレクションが増えそうね、フフフ」
怪しげな笑いが室内に小さく響いていた。
※
理九が屋敷の者と何かしら話している間、日門は、これ以上はさすがにマズイと思い、その場を離れていく。
行き先は近づいてくるゾンビたちのもとだ。二人に近づけさせないように殴ったり蹴ったりして対処する。
「お兄ちゃん、日門さんが!」
「え? うわ、マジか!? くそっ、ちょっと待ってくれって言ってもう大分経つぞ! 早くしてくれよ!」
どんどん集まってくるゾンビたちを相手にしている日門を心配する二人。
そこへ扉の一部分に切れ込みが走ったかと思ったら、その部分が自動ドアのように引っ込んでいき奥へと続く道が見えた。そこにはメイドが立っていて、理九たちが驚く。
「どうぞ、お二人だけお入りくださいませ」
美人なのに無表情でそう言うものだから、どこか冷たい印象を与える。しかしその言葉を聞いてホッとしたのも束の間、すぐに理九たちは眉をひそめた。
「ふ、二人……ですか?」
そう尋ねた理九に、メイドが機械的な感じで返答をする。
「はい。あなた方お二人だけです」
「ちょ、ちょっと待ってください! 日門さん……あの人も一緒なんですけど!」
必死に訴えるように小色が言うが、メイドは淡々と「あなた方お二人のみ、入居を許可されています」と答える。
「わたしたちだけってどうして……お、お兄ちゃん!」
「うっ……ど、どうすれば……」
いまだ扉の前で停止したままの小色たちを見ると、屋敷の者らしき人物と話している様子。しかしどこかトラブルでもあったのか慌てているようだ。
「おい、入れてもらえるのか?」
声を張り上げて尋ねると、二人が言い辛そうな表情を浮かべる。
(……! ああもしかして……)
そこで思い出したのが、屋敷の主の性癖。イケメンや美女などの整ったルックスを持つ人物しか受け入れないということ。
小色は間違いなく美少女だし、きっと屋敷の主も許可は出すだろう。理九はイケメンとハッキリ断定はできないが、それでも悪くない顔立ちをしている。それに比べて自分は普通過ぎるほど普通だ。いや、どちらかというと目つきが悪いとも言われたことがある。
きっと屋敷の主は、二人だけに入居の許可を出したのだろう。しかし小色たちは、そんな状況を日門に悪いと思っているといったところだろう。
(本当に律儀な奴らだな。自分たちだけを優先すりゃいいもんを)
出会ったばかりの日門のことを心配し過ぎだと半ば呆れてしまう。恩人を見捨てるような感じになるのかもしれないが、日門が強いということは二人も重々理解しているはず。
それなのに日門のことを想って、どうにか一緒に避難できないか交渉しているのかもしれない。
彼女たちの気持ちはありがたいが、あまりこちらから要求するのは良くないだろう。こういう時は下手に出た方が物事は円滑に進む。せっかくここまで来たのに、相手の機嫌を損ねては本末転倒だ。だから……。
「理九ぅ、小色ぉ! 短い間だったけど、いろいろ助かったぜ! あんがとなー!」
二人に向かって笑顔で手を振る日門。
「え、そんな……日門さん!」
日門の言葉にショックを受けている様子を小色は見せるが、そのまま日門は続けて言う。
「俺なら大丈夫だって! お前らが無事なら、またきっとどっかで会える!」
ゾンビを蹴り飛ばしながら、なおも心配させないように軽やかな声を飛ばす。
「だから理九! ……優先するべきもんを間違うなよ」
そう言うと、すべてを察したように理九は、一度深く頷くと意を決した表情で、小色の細い腕を掴んだ。そしてそのまま屋敷の中へと連れ込んでいく。
「お、お兄ちゃん? ちょ、待って! お兄ちゃん!」
泣きそうな顔をしながら、小色は日門の名を呼び続ける。
「――またな、二人とも」
日門のその言葉と同時に、屋敷の扉が完全に閉じた。
(さて、急な別れになっちまったけど、あそこなら二人も安全だろ)
当初の予定通り、二人を安全な場所へと連れてくることができてホッとする。
日門は、いつの間にかゾンビたちに周囲を囲まれていた。普通なら絶望し命を諦めるだろうが……。
「そんじゃ、今度は俺のために拠点を探しに行きますか。ただその前に、ちょっちここらを掃除しておくかね」
その方が、少しでも小色たちの安全に繋がるだろうと信じ、日門は鋭く目を光らせた。
そこへ扉がノックされ、メイドがすぐさま動いて扉へと向かう。そしてしばらくしてメイドが女性のもとへも戻ってきて一礼をした。
「当主様、訪問者でございます。こちらを」
そう言ってタブレットのようなものを女性へと見せる。そこに映し出されたのは、屋敷の正門前に設置されたカメラが映す映像だ。
「どうやらこちらを頼ってきた様子でございます。いかが致しましょう?」
女性はさして興味無さげに視線を向けるが、すぐに「あら」と嬉々とした声音を出して笑みを浮かべる。
「これは久しぶりの当たりみたいね」
それはまさに獲物でも見つけたかのような愉快さが、その眼差しに込められている。そしてその視線は、カメラに写っている一人の少女へと突き刺さっていた。
「いいわ、ただし他の男はダメね、失格だわ」
「しかしどうやら少女の隣にいる男性は、少女の兄らしいようで」
「あらそうなの。それじゃあ仕方ないわね、その男だけは許可しましょう。でももう一人は不許可よ」
「畏まりました。ではそのように対応致します」
再びメイドが扉の方へ向かっていった。
残された女性は、カップに入った紅茶で喉を潤すと、生温かい溜息を吐く。
「これでまた一人、コレクションが増えそうね、フフフ」
怪しげな笑いが室内に小さく響いていた。
※
理九が屋敷の者と何かしら話している間、日門は、これ以上はさすがにマズイと思い、その場を離れていく。
行き先は近づいてくるゾンビたちのもとだ。二人に近づけさせないように殴ったり蹴ったりして対処する。
「お兄ちゃん、日門さんが!」
「え? うわ、マジか!? くそっ、ちょっと待ってくれって言ってもう大分経つぞ! 早くしてくれよ!」
どんどん集まってくるゾンビたちを相手にしている日門を心配する二人。
そこへ扉の一部分に切れ込みが走ったかと思ったら、その部分が自動ドアのように引っ込んでいき奥へと続く道が見えた。そこにはメイドが立っていて、理九たちが驚く。
「どうぞ、お二人だけお入りくださいませ」
美人なのに無表情でそう言うものだから、どこか冷たい印象を与える。しかしその言葉を聞いてホッとしたのも束の間、すぐに理九たちは眉をひそめた。
「ふ、二人……ですか?」
そう尋ねた理九に、メイドが機械的な感じで返答をする。
「はい。あなた方お二人だけです」
「ちょ、ちょっと待ってください! 日門さん……あの人も一緒なんですけど!」
必死に訴えるように小色が言うが、メイドは淡々と「あなた方お二人のみ、入居を許可されています」と答える。
「わたしたちだけってどうして……お、お兄ちゃん!」
「うっ……ど、どうすれば……」
いまだ扉の前で停止したままの小色たちを見ると、屋敷の者らしき人物と話している様子。しかしどこかトラブルでもあったのか慌てているようだ。
「おい、入れてもらえるのか?」
声を張り上げて尋ねると、二人が言い辛そうな表情を浮かべる。
(……! ああもしかして……)
そこで思い出したのが、屋敷の主の性癖。イケメンや美女などの整ったルックスを持つ人物しか受け入れないということ。
小色は間違いなく美少女だし、きっと屋敷の主も許可は出すだろう。理九はイケメンとハッキリ断定はできないが、それでも悪くない顔立ちをしている。それに比べて自分は普通過ぎるほど普通だ。いや、どちらかというと目つきが悪いとも言われたことがある。
きっと屋敷の主は、二人だけに入居の許可を出したのだろう。しかし小色たちは、そんな状況を日門に悪いと思っているといったところだろう。
(本当に律儀な奴らだな。自分たちだけを優先すりゃいいもんを)
出会ったばかりの日門のことを心配し過ぎだと半ば呆れてしまう。恩人を見捨てるような感じになるのかもしれないが、日門が強いということは二人も重々理解しているはず。
それなのに日門のことを想って、どうにか一緒に避難できないか交渉しているのかもしれない。
彼女たちの気持ちはありがたいが、あまりこちらから要求するのは良くないだろう。こういう時は下手に出た方が物事は円滑に進む。せっかくここまで来たのに、相手の機嫌を損ねては本末転倒だ。だから……。
「理九ぅ、小色ぉ! 短い間だったけど、いろいろ助かったぜ! あんがとなー!」
二人に向かって笑顔で手を振る日門。
「え、そんな……日門さん!」
日門の言葉にショックを受けている様子を小色は見せるが、そのまま日門は続けて言う。
「俺なら大丈夫だって! お前らが無事なら、またきっとどっかで会える!」
ゾンビを蹴り飛ばしながら、なおも心配させないように軽やかな声を飛ばす。
「だから理九! ……優先するべきもんを間違うなよ」
そう言うと、すべてを察したように理九は、一度深く頷くと意を決した表情で、小色の細い腕を掴んだ。そしてそのまま屋敷の中へと連れ込んでいく。
「お、お兄ちゃん? ちょ、待って! お兄ちゃん!」
泣きそうな顔をしながら、小色は日門の名を呼び続ける。
「――またな、二人とも」
日門のその言葉と同時に、屋敷の扉が完全に閉じた。
(さて、急な別れになっちまったけど、あそこなら二人も安全だろ)
当初の予定通り、二人を安全な場所へと連れてくることができてホッとする。
日門は、いつの間にかゾンビたちに周囲を囲まれていた。普通なら絶望し命を諦めるだろうが……。
「そんじゃ、今度は俺のために拠点を探しに行きますか。ただその前に、ちょっちここらを掃除しておくかね」
その方が、少しでも小色たちの安全に繋がるだろうと信じ、日門は鋭く目を光らせた。
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