39 / 44
38
しおりを挟む
「……〝野蛮な毛皮衆〟だって……!」
何故奴がこんな場所にいるのかまったく理解が及ばなかった。
まったくもって自分の未来知識が食い違いを見せ始めたことに困惑する。
「っ……な、何で……俺を……っ!」
まだしぶとく生きていたようで、ガストは吐血し、腹から夥しいほどの血液を流しながらも驚愕の表情をして〝野蛮な毛皮衆〟を見つめている。
まるでこんな話は聞いていないとでも言っているかのような目つきだ。
すると〝野蛮な毛皮衆〟が、岩から降りてきてゆっくりとガストへ近づいていく。
「――やれやれ、せっかく試用運転を見に来たのに、何もせずに朽ち果てようとはな。やはり下民(げみん)どもに期待するのは愚かだったか」
ずいぶんと野太い声が毛皮の中から響いている。
白銀の狼の毛皮を被った長身の男だ。恐らく優に三メートル近くある。本当に人かどうか疑いたくなるほどの存在だ。
獣人の中には彼みたいな体躯の持ち主がいるので、もしかしたら目の前の男も獣人か、あるいはその血を引いているのかもしれない。
それにこの身体つき……。
まるでどこぞの民族衣装よろしく、上半身はほとんど裸のような状態ではあるが、そのお蔭で一見して引いてしまうくらいの鍛え上げられた肉体美がそこにあった。
はち切れんばかりの胸板に綺麗に割れた腹筋。丸太のように太い腕と脚。マッチョの完成形ともいえる肉体の持ち主のような気がした。
(よりにもよって銀の毛皮……か)
背中にじんわりと汗が滲み出てくる。
銀の毛皮を持つ〝野蛮な毛皮衆〟は、その中でも実力はトップクラス。ネネネも言っていたし、実際に対峙してみると圧倒的な存在感だ。
(それに一人……? もしかしてアルトたちを殺したのってコイツ?)
根拠は乏しいものだが、コイツなら可能だと本能が伝えてくる。
「さて、例のブツはどこだ?」
「れ、例の……だって?」
「アレに決まっているだろう。以前貴様との取引でくれてやったアレだ」
「そ、それは……あっがぅっ!?」
煮え切らないガストに苛立ちを覚えたのか、〝野蛮な毛皮衆〟が槍に手をやるとグリグリと動かし始めた。
「いいからさっさと出せ。出さないとこのまま……」
「わ、分かった! 分かったから……っ」
そう言ってガストは震える手で懐に手をやりあるモノを取り出した。
そしてそれはシンカが「やはり」と呟くモノだった。
サイコロのような六面体で、面に〝喚〟と書かれている。
「よし、OKだ」
「わ、渡したんだ! 頼む! 俺を助けてくれっ!」
「あぁ? お前何勘違いしてんだ?」
「え……?」
「役立たずを何で生かさねえといけない?」
「そ、それは……! でも取引にも応じて……」
「お前がちゃんと仕事をしてりゃ、少しは温情をくれてやったがな。けどこの様だ」
〝野蛮な毛皮衆〟が槍を引っこ抜くと、今度はそのまま切っ先をガストの頭部へと向けた。
「利用価値のないモノは、等しく死ね」
――ズシュッ!
これでガストの死を都合二回見たことになったシンカ。
二回とも裏切りのような目に遭うとは、時間を繰り返しても彼が非業の死を遂げるのは変わらなかったということか。
これで一応のエンディングは迎えたわけだが……。
「さてと……」
明らかにマッチョ男の意識がシンカへと向けられている。
どうやらまだ後日談があるみたいだ。
しかも恐らく本編にも勝るほどの濃厚な……。
「最初は姿を見せる気はなかったんだがな。コイツがあまりにも役立たずで、コイツを試すこともできなかった」
大きな手の中で例の六面体をコロコロと弄ぶマッチョ男。
「にしてもさっきの回避能力はなかなかだった。下民にしちゃ上出来だ」
本当に上から物を言う奴だ。
いや、そもそも奴ら〝野蛮な毛皮衆〟が下の連中を同じ〝人〟という存在だと認めていないので、この態度もまた当然か。
「お前くらいの強さならちょうどいいかもな」
コイツ……まさか!
と思った瞬間、マッチョ男が六面体を上空へと投げた。
そこからは前回経験した時と同じだ。
大きくなった六面体が展開し、そこから一人の人物……いや、人形が出てきた。
(……七房)
自分の中にある記憶と何一つ変わらない女性型の『殺戮人形』が地上へと降りてくる。
一瞬前回のように、マッチョ男を殺してくれるのかと思ったが、そんなことはなく、まるで従順なしもべのように少し後ろに控えていた。
「どうだ七房。システムは良好か?」
「――視界オールクリア。エネルギー残存率45%。《ドールシステム》正常」
前に聞いた言葉と同じ女性の声が機械的に聞こえてきた。
「ふむ、やはりまだ完全体には程遠いってことか。まあ、めんどくさいが、あのマッドサイエンティストに頼まれたことをするか。七房、ターゲットはあのガキだ」
どうも見逃してはくれないようだ。戦闘は避けされない。
「ミッションは動作確認のため、できるだけ戦闘を長引かせろ」
「ミッション1確認――確認OK。ターゲット、捕捉」
七房の意識が真っ直ぐシンカを捉えてきた。
「――ドールシンボル『七房』。ミッションを実行」
直後、凄まじい速度で間を詰めてきた七房に対し、シンカもまた距離を取るために後方へ移動を開始する。
少し予定外で気楽なことは、マッチョ男は情報収集に徹するようで戦闘に参加する素振りを見せないことだ。
なら今は七房を倒すことだけに集中すればいい。
「リベンジマッチだよ、七房!」
何故奴がこんな場所にいるのかまったく理解が及ばなかった。
まったくもって自分の未来知識が食い違いを見せ始めたことに困惑する。
「っ……な、何で……俺を……っ!」
まだしぶとく生きていたようで、ガストは吐血し、腹から夥しいほどの血液を流しながらも驚愕の表情をして〝野蛮な毛皮衆〟を見つめている。
まるでこんな話は聞いていないとでも言っているかのような目つきだ。
すると〝野蛮な毛皮衆〟が、岩から降りてきてゆっくりとガストへ近づいていく。
「――やれやれ、せっかく試用運転を見に来たのに、何もせずに朽ち果てようとはな。やはり下民(げみん)どもに期待するのは愚かだったか」
ずいぶんと野太い声が毛皮の中から響いている。
白銀の狼の毛皮を被った長身の男だ。恐らく優に三メートル近くある。本当に人かどうか疑いたくなるほどの存在だ。
獣人の中には彼みたいな体躯の持ち主がいるので、もしかしたら目の前の男も獣人か、あるいはその血を引いているのかもしれない。
それにこの身体つき……。
まるでどこぞの民族衣装よろしく、上半身はほとんど裸のような状態ではあるが、そのお蔭で一見して引いてしまうくらいの鍛え上げられた肉体美がそこにあった。
はち切れんばかりの胸板に綺麗に割れた腹筋。丸太のように太い腕と脚。マッチョの完成形ともいえる肉体の持ち主のような気がした。
(よりにもよって銀の毛皮……か)
背中にじんわりと汗が滲み出てくる。
銀の毛皮を持つ〝野蛮な毛皮衆〟は、その中でも実力はトップクラス。ネネネも言っていたし、実際に対峙してみると圧倒的な存在感だ。
(それに一人……? もしかしてアルトたちを殺したのってコイツ?)
根拠は乏しいものだが、コイツなら可能だと本能が伝えてくる。
「さて、例のブツはどこだ?」
「れ、例の……だって?」
「アレに決まっているだろう。以前貴様との取引でくれてやったアレだ」
「そ、それは……あっがぅっ!?」
煮え切らないガストに苛立ちを覚えたのか、〝野蛮な毛皮衆〟が槍に手をやるとグリグリと動かし始めた。
「いいからさっさと出せ。出さないとこのまま……」
「わ、分かった! 分かったから……っ」
そう言ってガストは震える手で懐に手をやりあるモノを取り出した。
そしてそれはシンカが「やはり」と呟くモノだった。
サイコロのような六面体で、面に〝喚〟と書かれている。
「よし、OKだ」
「わ、渡したんだ! 頼む! 俺を助けてくれっ!」
「あぁ? お前何勘違いしてんだ?」
「え……?」
「役立たずを何で生かさねえといけない?」
「そ、それは……! でも取引にも応じて……」
「お前がちゃんと仕事をしてりゃ、少しは温情をくれてやったがな。けどこの様だ」
〝野蛮な毛皮衆〟が槍を引っこ抜くと、今度はそのまま切っ先をガストの頭部へと向けた。
「利用価値のないモノは、等しく死ね」
――ズシュッ!
これでガストの死を都合二回見たことになったシンカ。
二回とも裏切りのような目に遭うとは、時間を繰り返しても彼が非業の死を遂げるのは変わらなかったということか。
これで一応のエンディングは迎えたわけだが……。
「さてと……」
明らかにマッチョ男の意識がシンカへと向けられている。
どうやらまだ後日談があるみたいだ。
しかも恐らく本編にも勝るほどの濃厚な……。
「最初は姿を見せる気はなかったんだがな。コイツがあまりにも役立たずで、コイツを試すこともできなかった」
大きな手の中で例の六面体をコロコロと弄ぶマッチョ男。
「にしてもさっきの回避能力はなかなかだった。下民にしちゃ上出来だ」
本当に上から物を言う奴だ。
いや、そもそも奴ら〝野蛮な毛皮衆〟が下の連中を同じ〝人〟という存在だと認めていないので、この態度もまた当然か。
「お前くらいの強さならちょうどいいかもな」
コイツ……まさか!
と思った瞬間、マッチョ男が六面体を上空へと投げた。
そこからは前回経験した時と同じだ。
大きくなった六面体が展開し、そこから一人の人物……いや、人形が出てきた。
(……七房)
自分の中にある記憶と何一つ変わらない女性型の『殺戮人形』が地上へと降りてくる。
一瞬前回のように、マッチョ男を殺してくれるのかと思ったが、そんなことはなく、まるで従順なしもべのように少し後ろに控えていた。
「どうだ七房。システムは良好か?」
「――視界オールクリア。エネルギー残存率45%。《ドールシステム》正常」
前に聞いた言葉と同じ女性の声が機械的に聞こえてきた。
「ふむ、やはりまだ完全体には程遠いってことか。まあ、めんどくさいが、あのマッドサイエンティストに頼まれたことをするか。七房、ターゲットはあのガキだ」
どうも見逃してはくれないようだ。戦闘は避けされない。
「ミッションは動作確認のため、できるだけ戦闘を長引かせろ」
「ミッション1確認――確認OK。ターゲット、捕捉」
七房の意識が真っ直ぐシンカを捉えてきた。
「――ドールシンボル『七房』。ミッションを実行」
直後、凄まじい速度で間を詰めてきた七房に対し、シンカもまた距離を取るために後方へ移動を開始する。
少し予定外で気楽なことは、マッチョ男は情報収集に徹するようで戦闘に参加する素振りを見せないことだ。
なら今は七房を倒すことだけに集中すればいい。
「リベンジマッチだよ、七房!」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる