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「ニヤァッ! ニヤどこだぁっ! どこにいるぅっ!」

 崩壊したホームに駆け寄り、ジュダが必死で声を上げる。

 その時、瓦礫の隙間から小さな手が出ていたのをシンカは見逃さなかった。
 ジュダと二人で力を合わせて瓦礫をどかせると、そこには全身を血塗れにさせたダンとガンの二人が横たわっていた。

「「ダンッ、ガンッ!」」

 シンカとジュダは同時に彼らの名を呼び、意識をハッキリと覚醒させようと促す。
 しかし二人から流れ出ている血は夥しく、明らかに致命傷だった。

 身体を揺すろうが、声をかけようが一切反応がない。
 シンカは彼らの首筋に手を当てる。

「脈が……ない」

 それは死を意味する言葉だった。変わり果てた家族の姿に、シンカはその現実を認めたくなくて思考を止めてしまう。

「お、おい……嘘、だろ? なあ……なあ嘘だろシンカッ!」
「…………」
「っ……何で……だよ……! 何なんだよ一体っ!」

 そして一気に顔を蒼白にしたジュダは、

「くっそぉぉぉっ!」

 と怒鳴り声を上げながら、ニヤの名前を呼びながら瓦礫を撤去し始める。まだどこかに埋まっているかもしれないからだ。
 そうだ。まだニヤは生きているかもしれない。

「ジュダ、そこをどいて!」

 シンカはストックしてあった〝嘘玉〟を崩壊したホームの壁に触れさせる。

「ホームが崩壊している現実を――嘘と化せ」

 直後、〝嘘玉〟が光となって霧散し瓦礫に降り注ぐと、見るも無残だった瓦礫の山は、ひとりでに修復し始め、見慣れた我が家へと戻った。
 しかし――ホームの中には事切れているダンとガンしかいなかったのだ。

「ど、どういうことだよ……! ニヤは? ニヤはどこだ!?」

 ジュダの言う通り、何故彼女の姿が見当たらないのか。ホームで、ダンたちと留守番をしていたはずなのに……。
 考えられるとしたらそれは……。

「ここを襲った何者かに浚われた……?」
「! ニヤが……誘拐されたってのか?」
「その可能性は……ある。いや、高い。ニヤはまだ子供だけど、身形が整ってるからそれで」
「それ以上言うなっ!」
「ジュダ……」

 この塔の中は無法地帯といってもいい。犯罪などし放題だ。
 窃盗、強盗、詐欺、殺人など日常のようにどこかで行われていることだろう。
 そしてその中で、人身売買も存在する。

 特に若い女性がそのターゲットになり、売買ではなくとも、誘拐し暴行を企てる者は決して少なくない。
 ニヤは誰もが可愛いと称するほどの外見をしている。将来は絶世の美人に育つ可能性を秘めているのだ。
 誘拐し手籠めにするか、売買して金を儲けようとする輩がいてもおかしくない。
 だからこそ、普段はできる限り誰かがニヤの傍にいて目を光らせるようにしてきた。

「ニヤ……」

 シンカの脳裏に、泣き叫ぶニヤの顔が浮かぶ。彼女がいなくなった。
 それだけで胸にポッカリと穴が開いたような空虚感を覚える。
 同時に犯人に対する凄まじい怒りが沸々と込み上げてきた。

(一体誰がこんな……っ!)

 しかし今は怒りに身を委ねることよりも、ニヤが生きているなら探さなければならない。
 一番良いのは人海戦術だが、シンカたちが頼れるような連中は残念ながらいない。
 仕事として雇えるほどの貯えもまたない。

 つまり二人で何とかしなければならないのだ。
 だがその時――何かに気づいたようにジュダの顔つきが変わった。

「どうかしたのか、ジュダ?」
「しっ、静かにしろ!」

 そう彼は言うと、目を閉じた。彼の両耳がピクピクと忙しなく動き始める。

「…………聞こえる。ニヤの声だっ! アイツが俺たちを呼んでるっ!」

 ジュダは獣人だ。五感……特に嗅覚と聴覚が優れている。
 シンカには聞き取れない遠くの音を捉えているのだろう。
 一目散に走り出すジュダ。シンカは横たわる二人の家族に視線を向ける。

「帰ってきたら墓は立てるから。だから……待ってて。必ず仇は取る!」

 決意を言葉にし、シンカもまたジュダの背中を追いかけるために全速力で走った。



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