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 ――数日後。

 シンカはいつも通り、ニヤの修練のために一緒にネネネのもとへ向かっていた。
 商業フロアである六十六階層に辿り着いたその時、いつもとは違う賑わいに気づく。
 群衆がざわついていたので、何を話しているのは耳を欹てて聞いた。

 すると先日、命を落とした者たちがいたので、火葬場がある少し離れたところで、遺体を陳列しているとのこと。
 これは別に珍しいことではない。
 遺体を見つけると、火葬場へ持っていくという仕事をしている者たちがいるのだ。

 遺体を引き取る相手がいれば、その都度運び賃として徴収する。あまりよく思われていない職業ではあるが、家族や友人の遺体を運んでもらって感謝する者たちもいるので、需要はそこそこある。
 当然引き取り手がいない場合は、そのまま火葬され、骨や身につけていたものを売ったり利用したりするのだ。

 どうやら今日は、大量の遺体が出たということでちょっと騒ぎになっているらしい。
 シンカはニヤたち以外に親しい者はいないので、誰が死のうがあまり興味はない。

「あ、あのシンカ。違うと思うけど、師匠は関係ないよね?」
「ネネ? アイツは……どうだろ」

 ネネネもたまに素材集めなどで遠出をするので、火葬場の前に並ばないという保証はどこにもないが。

「……行ってみる?」
「え? い、いいの?」
「不安なんでしょ?」

 そう聞くと、ニヤはコクリと頷きを見せた。
 そうしてシンカたちは、野次馬が集まっている火葬場へと赴くことにしたのだが……。

「あれ? あれってネネじゃない?」

 野次馬の中に見知った顔を発見した。
 ニヤも気づいたようで、ホッと安堵の溜め息を吐く。
 シンカは声をかけようとネネネに近づこうとするが、彼女は酷く青ざめた顔で一点を見つめていた。
 その視線の先を追ってみると、そこは遺体たちが床に並べられている場所だったのである。

(結構多いな)

 遺体は藁で全身を隠されているが、その数が尋常ではなかった。
 恐らく十以上はある。

 その中で、遺体確認をしている者の一人が、一つの遺体の藁をどけていた。
 そして何故ネネネがあんな態度だったのか理由が判明したのである。
 その藁の下から現れた遺体は――アルトだった。

「そ、そんな……っ!」

 隣にいるニヤも口元を手で覆いショックを隠し切れずにいる。
 すぐにシンカは、視線をネネネへと戻すと、彼女は悲しげに顔を俯かせると、そのまま肩を落として自分の家がある方へと歩き出した。

 ――仲間だった者が死ぬ。

 それはどんな気持ちなのだろうか。
 きっと今のシンカには想像することもできない。

 恐らくネネネの中では、アルトたちはまだ仲間だという気持ちが残っていたはず。
 だから正しくは、大切な者が死んだ――ということだろう。

「シ、シンカ……」
「うん、ネネのところに急ごうか」

 シンカたちは足早に、ネネネを追っていった。
 彼女はすでに仕事部屋へ戻っており、呼び鈴を鳴らすとすぐに顔を見せてくれる。

「お、ちゃんと今日も来たんだネ! エライエラーイ!」

 先程までの彼女を知っているので、それがどこか空元気なのがすぐに分かった。

「……さっき火葬場のとこにいたよね?」
「! ……あちゃあ、見られちゃってたかぁ」

 バツが悪そうな表情をして苦笑を浮かべるネネネ。
 とりあえず入ってと言われたので、シンカたちは従うことにする。
 ネネネが茶を入れてくれて、シンカとニヤはありがたく喉を潤す。

「分かってるネ。ここがそういう場所だってこと」

 静かに語り始めたネネネの話に、二人は耳を傾ける。

「死が珍しくない世界。それがここ。でも生きようと……生きるためだけに全力を尽くせば長く生きることもできるネ」
「あの人たちはやっぱり上の連中に?」
「……うん。領域長の目を盗んで、何とか上――七十一階層に行けたらしいんだけど、その時に運悪く鉢合わせになっちゃったらしいネ」
「鉢合わせ、ですか?」

 ニヤは尋ねたが、シンカにはピンとくるものがあった。

「――〝野蛮な毛皮衆〟だヨ」

 その解答にやはりと得心する。


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