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「ふっふっふっふ。……ふふふふふふふふ」
…………どうしたものだろうか。
今目の前で、一人の少女が黒いファイルを見つめながら悦に入った笑い声を上げている。
その光景はまさに異様。初めて見る者だったら、確実に関わり合いになろうとは思わないだろう。
しかしリントは、笑う少女――ニュウのこの様子は滅多に見られないが、初めて見るわけではないので冷静である。
ただもし今、診療所に利用者が来たら間違いなく脱兎のごとく逃げてしまうので、そろそろ止めることにする。
「おい、ニュウ」
「にゅふふふふふふ~」
「ニュウってば」
「これはこれは……最高でありますぅ、久しぶりでありますぅ」
どうやらリントの声はまったく耳に届いていないようだ。
ニュウの気持ちも理解はできるのだ。彼女が手にしているファイルは通称〝ブラックファイル〟と呼ばれる、いわば――家計簿だ。
こういう顔をしている時は、かなりの黒字が出ているということ。
いつも赤字だったり、トントンの平坦だったりするので、久方ぶりのプラス収支がとてつもなく嬉しいのだろう。
最近徐々にだが、利用者の数も増えてきており、少し前に治療したエレファントライナーの子供の件で、依頼者であるマリネに結構な報酬金をもらったようなので、ニュウはウハウハ状態というわけだ。
「……ニュウ、そろそろ戻ってこーい」
「はわ!? いきなり頭を撫でないでほしいであります! ビックリしました!」
「だってよ、何度呼びかけても反応しねえしさ。そんなに黒字が嬉しいの?」
「当然であります! これなら借金も返済できるであります!」
「おお、それは確かに良いことだな。ジイサンたちは別にいらねえって言ってるけど、やっぱ返さねえといけねえしな」
「そうであります。ちょうど明日は休診日ですし、借金を返すためにもお邪魔しちゃうでありますか?」
「う~ん、そうだなぁ。久しぶりに顔も見てぇし、行くか」
「であります!」
ということで明日、金を借りている者たちのところへ向かうことになった。
診療所から西へ数十キロメートル向かった場所にある街。
その名を――【工業都市・ファーネル】という。
診療所に一番近い【リンドブルム王国】より規模は小さいが、同じように重厚な外壁に覆われており、工業が盛んなこの街では、日々様々な製品が造られ世に輩出している。
別名『煙突の街』と呼ばれる所以は、工場が多く屋根から突き出た煙突の多さに名付けられた。
物作りが好きな人種が集うこの街に、リントたちはある人物たちに会いにやって来たのだ。
外壁を抜けると、真っ直ぐ走る道が視界に飛び込んでくる。この街は巨大な十字路を隔てて、道に沿うように工場が幾つも建ち並んでいるのだ。
自然と四つのエリアに分けられており、それぞれで製造されているものが違う。
リントたちは、マップ上で見ると右下のエリアへと進む。そこに目的の人物たちが住む家があるのだ。
ニュウと二人で、久々に来たことにそれぞれ懐かしさを覚えながら煙突を生やした一軒の赤レンガ調の建物の前で足を止めた。目の前には押して開く扉がある。
「――一応昨日連絡はしといてくれたんだろ?」
「はいであります。ですからニュウたちが来ることはご存知のはずであります」
リントは「そっか」とだけ言うと、扉を開いて中に入ると、幾つもの棚が立てられた部屋が視界に飛び込んできた。
正面に見える通路を中央分離帯とするなら、右側の空間に設置されてある棚には、謎の液体や錠剤などが入った瓶が置かれてあり、左側にはナイフや包丁、ネジやドライバーといった工具などが確認できる。
また品にはタグがつけられてあり、そこには紛れもなく値段が書かれている。
そう、ここにあるのはすべて売り物なのだ。つまりここは――店。
しかしリントは、商品に目もくれずに、奥にあるカウンターへと向かう。
カウンターの向こう側にある椅子に腰かけ、腕を組みながら鼻提灯を膨らませて、確実に寝入ってしまっている老人が一人いた。
「あ~相変わらずドンコさんはこうなのでありますな」
ニュウが呆れたように溜め息を吐く。
「まったくだ。監視カメラもねえのに、商品とか盗まれても知らねえぞ……ったく」
本人は道楽で店をやっていると言っているので、別に盗まれたところで嘆くわけがないと口では語っている。
「おーい、ドンコ爺。起きてくれ」
「……っ、……んぁ? 何じゃ、飯かな?」
「まだボケるのは早いんじゃねえか?」
「……! お、おお! もしかしてリントとニュウか?」
「もしかしなくても、な」
「お久しぶりであります、ドンコさん」
ドンコは「おお~」と言いながら懐かしげに目を細めてリントたちを見つめる。
「よぉ、来たな。元気そうで何よりだわい」
「ドンコ爺も。けどまた寝てたら、オルカ婆に叱られちまうぞ?」
「カッカッカ、婆さんが怖くて仕事なんてできるかい! もしいちゃもんでもつけてきたら、ガツンと言い返してやるわい!」
いや、いちゃもんじゃないし。寝てたし。
と心の中で思わずツッコんでしまったリント。
…………どうしたものだろうか。
今目の前で、一人の少女が黒いファイルを見つめながら悦に入った笑い声を上げている。
その光景はまさに異様。初めて見る者だったら、確実に関わり合いになろうとは思わないだろう。
しかしリントは、笑う少女――ニュウのこの様子は滅多に見られないが、初めて見るわけではないので冷静である。
ただもし今、診療所に利用者が来たら間違いなく脱兎のごとく逃げてしまうので、そろそろ止めることにする。
「おい、ニュウ」
「にゅふふふふふふ~」
「ニュウってば」
「これはこれは……最高でありますぅ、久しぶりでありますぅ」
どうやらリントの声はまったく耳に届いていないようだ。
ニュウの気持ちも理解はできるのだ。彼女が手にしているファイルは通称〝ブラックファイル〟と呼ばれる、いわば――家計簿だ。
こういう顔をしている時は、かなりの黒字が出ているということ。
いつも赤字だったり、トントンの平坦だったりするので、久方ぶりのプラス収支がとてつもなく嬉しいのだろう。
最近徐々にだが、利用者の数も増えてきており、少し前に治療したエレファントライナーの子供の件で、依頼者であるマリネに結構な報酬金をもらったようなので、ニュウはウハウハ状態というわけだ。
「……ニュウ、そろそろ戻ってこーい」
「はわ!? いきなり頭を撫でないでほしいであります! ビックリしました!」
「だってよ、何度呼びかけても反応しねえしさ。そんなに黒字が嬉しいの?」
「当然であります! これなら借金も返済できるであります!」
「おお、それは確かに良いことだな。ジイサンたちは別にいらねえって言ってるけど、やっぱ返さねえといけねえしな」
「そうであります。ちょうど明日は休診日ですし、借金を返すためにもお邪魔しちゃうでありますか?」
「う~ん、そうだなぁ。久しぶりに顔も見てぇし、行くか」
「であります!」
ということで明日、金を借りている者たちのところへ向かうことになった。
診療所から西へ数十キロメートル向かった場所にある街。
その名を――【工業都市・ファーネル】という。
診療所に一番近い【リンドブルム王国】より規模は小さいが、同じように重厚な外壁に覆われており、工業が盛んなこの街では、日々様々な製品が造られ世に輩出している。
別名『煙突の街』と呼ばれる所以は、工場が多く屋根から突き出た煙突の多さに名付けられた。
物作りが好きな人種が集うこの街に、リントたちはある人物たちに会いにやって来たのだ。
外壁を抜けると、真っ直ぐ走る道が視界に飛び込んでくる。この街は巨大な十字路を隔てて、道に沿うように工場が幾つも建ち並んでいるのだ。
自然と四つのエリアに分けられており、それぞれで製造されているものが違う。
リントたちは、マップ上で見ると右下のエリアへと進む。そこに目的の人物たちが住む家があるのだ。
ニュウと二人で、久々に来たことにそれぞれ懐かしさを覚えながら煙突を生やした一軒の赤レンガ調の建物の前で足を止めた。目の前には押して開く扉がある。
「――一応昨日連絡はしといてくれたんだろ?」
「はいであります。ですからニュウたちが来ることはご存知のはずであります」
リントは「そっか」とだけ言うと、扉を開いて中に入ると、幾つもの棚が立てられた部屋が視界に飛び込んできた。
正面に見える通路を中央分離帯とするなら、右側の空間に設置されてある棚には、謎の液体や錠剤などが入った瓶が置かれてあり、左側にはナイフや包丁、ネジやドライバーといった工具などが確認できる。
また品にはタグがつけられてあり、そこには紛れもなく値段が書かれている。
そう、ここにあるのはすべて売り物なのだ。つまりここは――店。
しかしリントは、商品に目もくれずに、奥にあるカウンターへと向かう。
カウンターの向こう側にある椅子に腰かけ、腕を組みながら鼻提灯を膨らませて、確実に寝入ってしまっている老人が一人いた。
「あ~相変わらずドンコさんはこうなのでありますな」
ニュウが呆れたように溜め息を吐く。
「まったくだ。監視カメラもねえのに、商品とか盗まれても知らねえぞ……ったく」
本人は道楽で店をやっていると言っているので、別に盗まれたところで嘆くわけがないと口では語っている。
「おーい、ドンコ爺。起きてくれ」
「……っ、……んぁ? 何じゃ、飯かな?」
「まだボケるのは早いんじゃねえか?」
「……! お、おお! もしかしてリントとニュウか?」
「もしかしなくても、な」
「お久しぶりであります、ドンコさん」
ドンコは「おお~」と言いながら懐かしげに目を細めてリントたちを見つめる。
「よぉ、来たな。元気そうで何よりだわい」
「ドンコ爺も。けどまた寝てたら、オルカ婆に叱られちまうぞ?」
「カッカッカ、婆さんが怖くて仕事なんてできるかい! もしいちゃもんでもつけてきたら、ガツンと言い返してやるわい!」
いや、いちゃもんじゃないし。寝てたし。
と心の中で思わずツッコんでしまったリント。
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