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「ところで所長」
「何だ?」
「前々から聞こうって思ってたんだけど、聞いてもいいか迷ってたことがあるんだけど……」
「……オレがモンスターとまるで会話しているような気がする、か?」
「! ……ええ。もしかして……本当に会話できてるの? いやまあ、今までのことから、できてないとおかしい感じなんだけど……」
「まあ、できるかできないかで答えるなら。秘密だな」
「それ第三の選択肢が生まれてるから!」
「ナイスツッコミだな」
「ったくもう。ふざけてないで答えてほしいんだけど。あ、でも興味本位だから、どうしても嫌なら聞かないわ」
「別に隠すことじゃねえしな。つうか、言っても信じねえ人が多いし」
「……じゃあやっぱり?」
「ああ、会話できるぞ」
「! それも仙術?」
「そうだな。仙気がなきゃムリだろうな」
「ふぅん。何だか所長って、本当にモンスター医になるために生まれてきたような存在よね」
それは自分でも思っている。この力があるからこそ、モンスターたちと二人三脚で病魔と闘うことができるのだ。
「けど何で聞いてもいいかどうか迷ってたんだ?」
「うん……やっぱり特別なことだから、隠してるのかなぁって」
「隠してたら君らの前で堂々と使わないと思うけど」
「う……それもそうね」
「ランテって、気の遣い方がちょっとズレてるよな?」
「うるさいわね。ほっといてよ!」
「私はそういうランテ好きだよぉ」
「も、もう、恥ずかしいこと言わないでよ、リリノ!」
「ごめぇん。でもいいなぁ。私にも所長さんとおんなじ力があったら、ピコと話せるのにぃ」
ピコというのは、リリノールの実家で飼っているペットモンスターである。
「そうね。それに使い魔を持ったら、より意思疎通が図れそうだわ」
「おいおい、使い魔を持てる魔術師ってなかなかいねえんじゃなかったか?」
「まあね。けど一応適性検査じゃ、アタシはAだから」
「私はBでギリギリなんだよねぇ。使い魔召喚……できるのかなぁ」
「ふふふ、盛り上がっているところ悪いですが、そろそろ診療所へ戻りませんか~?」
「あ、そうですねマリネ先生。長々と話しちゃってすみません」
ランテが謝ると、マリネが「いいえ~」と言い、皆で魔法陣の上に立つ。
そして再びマリネの力で診療所へと転移した。
戻ってくると、ランテたちはニュウに挨拶をしてから【リンドブルム王国】へと帰って行く。
依頼料などは、後日この場へマリネが持ってくるとのことだった。ニュウが必死な形相でマリネと二人で話合っていたが、恐ろしい金額を吹っかけてないか不安である。
――その日の夜。
診療所の屋根裏部屋から、リントは外へ出て屋根に座った。
空には日本考えられないほど大きな三日月が大地を照らしている。
手に持っているのは温かいコーヒー。こうやって夜に月を見上げてコーヒーを飲むのが最近のリントのお気に入りだ。
「――あ、やっぱりここにいたのであります」
「! ……何だ、ニュウか」
「何だとは何でありますか!」
膨れっ面で屋根へと出てくる。同じように手にはカップを持っているが、彼女は大好物のハチミツミルクだろう。本当に甘いもの好きである。
彼女が隣にチョコンと腰を下ろす。
「今日もキレイな月でありますなぁ」
「ああ、明日もきっと晴れるな、こりゃ」
「うぅ、晴れたところで利用者の足は伸びない……」
「嘆くなよ。ムードが台無しだろ?」
「全部先生のせいでありますから」
「へいへい。ところでさ、まだ言ってなかったけ」
「? 何をでありますか?」
リントは「ほれ」と、彼女にカップを近づける。
すると「ああ」とニッコリ笑った彼女が、同じくカップを差し出してきた。
カップ同士がコツンと軽く当たって音を鳴らす。
「手術成功祝い。お互いお疲れ様でしたー」
「でありますー」
手術があったその日の夜は、決まってこうやって乾杯をする。
もちろん手遅れでどうしようもなく助けられなかった患者だって中にはいた。というよりも、ここに運ばれてきた時点ですでに心停止状態。蘇生は間に合わずそのまま死んでしまったのだ。
その日の夜は、互いに悔しさで歯噛みした。
どうしようもないことだって世の中にはある。それは当然だ。
リントもニュウも、実際に目の当たりにしている。
だけどリントは思う。ここに運ばれてくるモンスター。もしくは手を伸ばせば届く相手に関しては、全力で治療し、そして天寿を全うしてほしい。
今回の――ライフのように。
自然界は厳しいから、他のモンスターに襲われるかもしれない。人によって殺されるかもしれない。
しかしその中で生き続けて、満足のいく死を迎えてほしい。
(オレは……オレたちは、そのためにここで戦ってるんだ)
優しい夜風に包まれながら、リントは隣に座るニュウとともにしばらく夜月を眺めていた。
明日も頑張るぞと決意を込めて――。
「何だ?」
「前々から聞こうって思ってたんだけど、聞いてもいいか迷ってたことがあるんだけど……」
「……オレがモンスターとまるで会話しているような気がする、か?」
「! ……ええ。もしかして……本当に会話できてるの? いやまあ、今までのことから、できてないとおかしい感じなんだけど……」
「まあ、できるかできないかで答えるなら。秘密だな」
「それ第三の選択肢が生まれてるから!」
「ナイスツッコミだな」
「ったくもう。ふざけてないで答えてほしいんだけど。あ、でも興味本位だから、どうしても嫌なら聞かないわ」
「別に隠すことじゃねえしな。つうか、言っても信じねえ人が多いし」
「……じゃあやっぱり?」
「ああ、会話できるぞ」
「! それも仙術?」
「そうだな。仙気がなきゃムリだろうな」
「ふぅん。何だか所長って、本当にモンスター医になるために生まれてきたような存在よね」
それは自分でも思っている。この力があるからこそ、モンスターたちと二人三脚で病魔と闘うことができるのだ。
「けど何で聞いてもいいかどうか迷ってたんだ?」
「うん……やっぱり特別なことだから、隠してるのかなぁって」
「隠してたら君らの前で堂々と使わないと思うけど」
「う……それもそうね」
「ランテって、気の遣い方がちょっとズレてるよな?」
「うるさいわね。ほっといてよ!」
「私はそういうランテ好きだよぉ」
「も、もう、恥ずかしいこと言わないでよ、リリノ!」
「ごめぇん。でもいいなぁ。私にも所長さんとおんなじ力があったら、ピコと話せるのにぃ」
ピコというのは、リリノールの実家で飼っているペットモンスターである。
「そうね。それに使い魔を持ったら、より意思疎通が図れそうだわ」
「おいおい、使い魔を持てる魔術師ってなかなかいねえんじゃなかったか?」
「まあね。けど一応適性検査じゃ、アタシはAだから」
「私はBでギリギリなんだよねぇ。使い魔召喚……できるのかなぁ」
「ふふふ、盛り上がっているところ悪いですが、そろそろ診療所へ戻りませんか~?」
「あ、そうですねマリネ先生。長々と話しちゃってすみません」
ランテが謝ると、マリネが「いいえ~」と言い、皆で魔法陣の上に立つ。
そして再びマリネの力で診療所へと転移した。
戻ってくると、ランテたちはニュウに挨拶をしてから【リンドブルム王国】へと帰って行く。
依頼料などは、後日この場へマリネが持ってくるとのことだった。ニュウが必死な形相でマリネと二人で話合っていたが、恐ろしい金額を吹っかけてないか不安である。
――その日の夜。
診療所の屋根裏部屋から、リントは外へ出て屋根に座った。
空には日本考えられないほど大きな三日月が大地を照らしている。
手に持っているのは温かいコーヒー。こうやって夜に月を見上げてコーヒーを飲むのが最近のリントのお気に入りだ。
「――あ、やっぱりここにいたのであります」
「! ……何だ、ニュウか」
「何だとは何でありますか!」
膨れっ面で屋根へと出てくる。同じように手にはカップを持っているが、彼女は大好物のハチミツミルクだろう。本当に甘いもの好きである。
彼女が隣にチョコンと腰を下ろす。
「今日もキレイな月でありますなぁ」
「ああ、明日もきっと晴れるな、こりゃ」
「うぅ、晴れたところで利用者の足は伸びない……」
「嘆くなよ。ムードが台無しだろ?」
「全部先生のせいでありますから」
「へいへい。ところでさ、まだ言ってなかったけ」
「? 何をでありますか?」
リントは「ほれ」と、彼女にカップを近づける。
すると「ああ」とニッコリ笑った彼女が、同じくカップを差し出してきた。
カップ同士がコツンと軽く当たって音を鳴らす。
「手術成功祝い。お互いお疲れ様でしたー」
「でありますー」
手術があったその日の夜は、決まってこうやって乾杯をする。
もちろん手遅れでどうしようもなく助けられなかった患者だって中にはいた。というよりも、ここに運ばれてきた時点ですでに心停止状態。蘇生は間に合わずそのまま死んでしまったのだ。
その日の夜は、互いに悔しさで歯噛みした。
どうしようもないことだって世の中にはある。それは当然だ。
リントもニュウも、実際に目の当たりにしている。
だけどリントは思う。ここに運ばれてくるモンスター。もしくは手を伸ばせば届く相手に関しては、全力で治療し、そして天寿を全うしてほしい。
今回の――ライフのように。
自然界は厳しいから、他のモンスターに襲われるかもしれない。人によって殺されるかもしれない。
しかしその中で生き続けて、満足のいく死を迎えてほしい。
(オレは……オレたちは、そのためにここで戦ってるんだ)
優しい夜風に包まれながら、リントは隣に座るニュウとともにしばらく夜月を眺めていた。
明日も頑張るぞと決意を込めて――。
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