転生してモンスター診療所を始めました。

十本スイ

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 リントが見えなくなった瞬間に、グロウザたちに突き刺さっていた鍼は消え失せ、グロウザの硬直も解かれた。
 すぐに気絶をしている仲間たちのもとへ駆けつけ様子を見る。

「……息はあるな。おい、起きろ! おい!」

 ペチペチとスキンヘッドの男――ドランの頬を叩きながら声を届けた。

「……っ、……ぁ」
「おお、目が醒めたか?」
「……! リーダー?」
「目が醒めたんならお前はトードーを頼む。俺はブラックスを起こす」
「あ、ああ……」

 寝起きで戸惑いがちのドランだが、言われたように地面に倒れているトードーを起こしに行った。

 そして眠っていた男たちが覚醒してから、当然三人の男たちがグロウザに何があったのか尋ねてくる。
 グロウザは奇妙な男に獲物を奪われてしまったことを告げた。

「なるほど。けどリーダーの言うように同業者じゃねえっぽいな」
「お前もそう思うか、ドラン?」
「ああ。だってよ、同業者なら討伐した証拠だけを持って帰ればいいだけだ。けどそいつはあの重てえ身体ごと持っていっちまったんだろ?」

 ドランの質問に「ああ」と短くグロウザは答えた。

「それに横取りするような稀少なモンスターでもねえしな」
「俺もそう思う。確かにAランクだが、同業者に喧嘩を売るデメリットを考えるとおかしな行動だ。この業界じゃ、裏切りとか横取りなんていうせこい真似は嫌われるからな。仕事ができにくくなる」

 自分たちが利用する〝ギルド〟からも良い顔はされないのだ。
 それなのにわざわざ横取りめいたことをするということは、恐らく同業者ではないという結論に至る。

「なら何者なんだ? 俺たちに音もなく近づいて、一瞬で動きを奪うなんてよぉ」

 ドランだけでなく、他の二人も難しい顔で考え込んでいる。

(それが問題だ。あんな優男風の奴、ここらにいたか?)

 自分たちはこれでも多くの戦闘経験を積んでいる。Aランクモンスターだって何度も相手にして倒してきた実績があるのだ。

 そんな四人を一瞬で戦闘不能においやった実力があれば、もっと有名になっていてもおかしくはない。

(あんな赤い髪で、あれだけの腕を持つ……そういや妙な武器を使ってたな)

 それは赤い針。それを使い、相手の意識や動きを奪う。
 そんな技、聞いたことも見たこともなかった。

(魔術の一種、か?)

 そう思い、魔術師であるトードーに針について何か知らないか尋ねてみた。

「赤い針……ですか? う~ん……」
「何もないところから生み出したりできるものなのか?」
「何もないところから? ……魔力……いや、実体化させてるし違うか。なら魔術? 火属性の呪文……かもしれませんね」
「だが熱くはなかったぜ?」

 グロウザの言葉に、トードーはさらに困惑気味に顔を歪めてしまう。

「とにかく、一応〝ギルド〟に戻って報告しようぜ。もしかしたらほら、元々エレファントライナーを捨てた連中が、子供を引き取りに来たってこともあるしよ」

 ドランの言うことも可能性としてはある。しかし調教できずに放置したモンスターを、わざわざまた探しに来るものだろうか?

(……考えてもしょうがねえか)

 今はただ、四人が無事だったということを喜ぶべきかもしれない。
 獲物を奪われてしまったのは悔しいが、それはいつかまた、あの赤髪の男に会った時にでも、真意を問い質してやればいい。

 そう判断し、四人で【リンドブルム王国】へと帰還した。



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