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――間に合って良かった。
心底そう思う。あと数秒……いや、コンマ数秒でも遅れていれば、きっと手遅れになっていたはず。
リントはすでに身動きをできなくなった四人の男たちを見たあと、地面で蹲って細かく震えているエレファントライナーの子供を観察する。
(……マズイな。トドメは何とか止められたけど、あの出血量は……!)
特に側部に受けている傷が大きい。このままだと出血多量で――死ぬ。
「……ぉいっ!」
一応顔バレしないようにとニュウに教えられたので、そこらへんにあった葉を利用して仮面を装着している。とはいっても、知り合いに会えば分かるくらいの低レベルさではあるが。
「……何か?」
「何かじゃねえ! 誰だてめえは!? そいつらに何をしやがったぁ!」
「大丈夫だ。別に命を奪ったわけじゃねえ。意識を失ってるだけだしな」
「くっ……こう見えても俺たちは名のある討伐屋だ。なのに……一体何を……?」
「まだ気づかないんだ。自分の身体をよく確認すればいい」
「? ……! こ、これは――っ」
自身の身体を見回した灰色の髪をした男。その身体には、複数の赤い鍼が貫いていた。
「んだよぉ、この赤い針は!?」
当然、それはリントが仙気で生み出した〝仙気鍼〟だ。男がエレファントライナーの子供を攻撃した瞬間、彼の腕や足、そして背中などに〝仙気鍼〟を複数投げつけたのだ。
それぞれは動きを奪うためのツボを貫いており、男は硬直状態になってしまったわけである。
そして、地面に寝ている男たちは、意識を奪うツボを刺激した。
「おいこらぁ! 説明しやがれぇ!」
「……めんどくさいから嫌だ」
「何ぃぃっ!? そこはしとけよ! 何で俺だけ気絶させないとかすっごく気になるじゃねえか!?」
「! ああ、それはただ単に、このあとコイツらを守る存在が必要だろ?」
「? どういうことだ?」
「頭悪いね、おっちゃん」
「悪かったな! さっさと説明しやがれ!」
「だから、アンタまで気絶させてしまったら、ここに来た他のモンスターに無防備に襲われてしまうだろ?」
「そ、それは……!」
「この子をこんなにも傷つけたアンタたちに情けなんてかける必要もねえ。感情ではオレだってそう思ってる」
モンスターを優先するリントにとって、まだ生まれたての子供のこの子を、こんなにもよってたかって傷つけ殺そうとした男たちに怒りを覚えるのもまた事実。
しかし……。
「多分アイツが……アンタたちをオレが見捨てたって知ると悲しむだろうからな」
アイツ――当然ニュウのことだ。彼女はモンスターに対しても優しいが、人にも優しいのだ。いや、いってみれば命に優しいといえばいいだろうか。
もしリントが、感情的に人を見捨ててしまったことを知ると、理解はできても恐らくは悲しんでしまうだろう。
だからこそ、嫌ではあるが彼らを完膚なきまでに見捨てることはできない。
「見たところ、かなりの腕利きだろうし、エレファントライナーのせいで森のモンスターたちもほとんどいなくなっちまったから、アンタ一人でも十分コイツらを守れるだろうし」
「てめえ……同業者じゃねえな。てっきり獲物を横取りにしにきた奴だと思ってたんだが……」
「アンタたちみたいなのと一緒にするな。だけど、この子をアンタたちから奪いに来たのは本当だ」
子供にゆっくりと近づくリント。
今のやり取りの最中、ジッと動かずに視線だけをリントへと向けていた子供と目を合わせる。
しかし心の声は聞こえない。その瞳には、明から警戒心と恐怖、そして強い憎しみが宿っている。
「……この子の親を殺したのはアンタたちか?」
「あ? だったら何だ?」
「別に。ただ聞いておきたかっただけだ」
子供の低く唸りながら、近づく者をすべて拒絶するかのような雰囲気を漂わせている。
人間に親が殺されたのだ。たとえ手を出していなくとも、リントも人間だ。怒り、憎しみが膨らんだ視線をぶつけてくるのは当然である。
さらに距離を取ろうとして、身体を動かす度に出血が酷くなっていく。
「……悪いな、今は眠っててくれ」
右手に〝仙気鍼〟を出現させると、子供の頭部近くへと突き刺して意識を奪った。
ぐったりとした子供を見て、男もギョッとなる。
「お、おいおい、結局自分でトドメを刺したかっただけかよ!」
どうやらリントが子供を殺したと勘違いしているようだ。
「アンタには関係ない。その硬直はオレがここから離れたら解ける。あとは……好きにすればいい」
リントは「よっと」と言いながら、子供を肩へと担ぐ。
「か、軽々と持ち上げた……だと!?」
男が驚くのも無理はないだろう。子供とはいえ、その体重は百キログラムを軽く越すのだから。
リントは見た目からして細身で、とても力があるように見えないからなおさら驚愕を得ただろう。
そのままリントが離れようとすると、
「おい待て!」
やはり、といったところか。制止の声をかけてきた。
男に背を向けたままリントは足を止める。
「てめえ、一体何者だ?」
「ただの……人嫌いだよ」
それだけを言うと、もう立ち止まることなくその場から去っていく。
心底そう思う。あと数秒……いや、コンマ数秒でも遅れていれば、きっと手遅れになっていたはず。
リントはすでに身動きをできなくなった四人の男たちを見たあと、地面で蹲って細かく震えているエレファントライナーの子供を観察する。
(……マズイな。トドメは何とか止められたけど、あの出血量は……!)
特に側部に受けている傷が大きい。このままだと出血多量で――死ぬ。
「……ぉいっ!」
一応顔バレしないようにとニュウに教えられたので、そこらへんにあった葉を利用して仮面を装着している。とはいっても、知り合いに会えば分かるくらいの低レベルさではあるが。
「……何か?」
「何かじゃねえ! 誰だてめえは!? そいつらに何をしやがったぁ!」
「大丈夫だ。別に命を奪ったわけじゃねえ。意識を失ってるだけだしな」
「くっ……こう見えても俺たちは名のある討伐屋だ。なのに……一体何を……?」
「まだ気づかないんだ。自分の身体をよく確認すればいい」
「? ……! こ、これは――っ」
自身の身体を見回した灰色の髪をした男。その身体には、複数の赤い鍼が貫いていた。
「んだよぉ、この赤い針は!?」
当然、それはリントが仙気で生み出した〝仙気鍼〟だ。男がエレファントライナーの子供を攻撃した瞬間、彼の腕や足、そして背中などに〝仙気鍼〟を複数投げつけたのだ。
それぞれは動きを奪うためのツボを貫いており、男は硬直状態になってしまったわけである。
そして、地面に寝ている男たちは、意識を奪うツボを刺激した。
「おいこらぁ! 説明しやがれぇ!」
「……めんどくさいから嫌だ」
「何ぃぃっ!? そこはしとけよ! 何で俺だけ気絶させないとかすっごく気になるじゃねえか!?」
「! ああ、それはただ単に、このあとコイツらを守る存在が必要だろ?」
「? どういうことだ?」
「頭悪いね、おっちゃん」
「悪かったな! さっさと説明しやがれ!」
「だから、アンタまで気絶させてしまったら、ここに来た他のモンスターに無防備に襲われてしまうだろ?」
「そ、それは……!」
「この子をこんなにも傷つけたアンタたちに情けなんてかける必要もねえ。感情ではオレだってそう思ってる」
モンスターを優先するリントにとって、まだ生まれたての子供のこの子を、こんなにもよってたかって傷つけ殺そうとした男たちに怒りを覚えるのもまた事実。
しかし……。
「多分アイツが……アンタたちをオレが見捨てたって知ると悲しむだろうからな」
アイツ――当然ニュウのことだ。彼女はモンスターに対しても優しいが、人にも優しいのだ。いや、いってみれば命に優しいといえばいいだろうか。
もしリントが、感情的に人を見捨ててしまったことを知ると、理解はできても恐らくは悲しんでしまうだろう。
だからこそ、嫌ではあるが彼らを完膚なきまでに見捨てることはできない。
「見たところ、かなりの腕利きだろうし、エレファントライナーのせいで森のモンスターたちもほとんどいなくなっちまったから、アンタ一人でも十分コイツらを守れるだろうし」
「てめえ……同業者じゃねえな。てっきり獲物を横取りにしにきた奴だと思ってたんだが……」
「アンタたちみたいなのと一緒にするな。だけど、この子をアンタたちから奪いに来たのは本当だ」
子供にゆっくりと近づくリント。
今のやり取りの最中、ジッと動かずに視線だけをリントへと向けていた子供と目を合わせる。
しかし心の声は聞こえない。その瞳には、明から警戒心と恐怖、そして強い憎しみが宿っている。
「……この子の親を殺したのはアンタたちか?」
「あ? だったら何だ?」
「別に。ただ聞いておきたかっただけだ」
子供の低く唸りながら、近づく者をすべて拒絶するかのような雰囲気を漂わせている。
人間に親が殺されたのだ。たとえ手を出していなくとも、リントも人間だ。怒り、憎しみが膨らんだ視線をぶつけてくるのは当然である。
さらに距離を取ろうとして、身体を動かす度に出血が酷くなっていく。
「……悪いな、今は眠っててくれ」
右手に〝仙気鍼〟を出現させると、子供の頭部近くへと突き刺して意識を奪った。
ぐったりとした子供を見て、男もギョッとなる。
「お、おいおい、結局自分でトドメを刺したかっただけかよ!」
どうやらリントが子供を殺したと勘違いしているようだ。
「アンタには関係ない。その硬直はオレがここから離れたら解ける。あとは……好きにすればいい」
リントは「よっと」と言いながら、子供を肩へと担ぐ。
「か、軽々と持ち上げた……だと!?」
男が驚くのも無理はないだろう。子供とはいえ、その体重は百キログラムを軽く越すのだから。
リントは見た目からして細身で、とても力があるように見えないからなおさら驚愕を得ただろう。
そのままリントが離れようとすると、
「おい待て!」
やはり、といったところか。制止の声をかけてきた。
男に背を向けたままリントは足を止める。
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