転生してモンスター診療所を始めました。

十本スイ

文字の大きさ
上 下
31 / 41

30

しおりを挟む
 目的地である【アルトーゴの森】へと到着したリント。
 まずはマリネに教えてもらった、エレファントライナーの卵があった場所へと向かうことに。

 一応地図を彼女に書いてもらったが、もしかしたら他のモンスターたちに卵の残骸を食われている可能性だってある。
 まだ無事なら何かしら情報が掴めるかもしれない。
 そう思って歩を進めていくと、大きな樹木が天に昇る竜のごとくうねるようにして大地から生えている場所へと出た。

「確かここらへんのはずだけど……」

 地図を見ながら木々の間を探していく。
 すると一本の樹木の根元に大きな穴を発見した。自然にできたものではない。何者かが掘って作ったものなのは一見して分かった。

(この爪と歯の跡……間違いねえな)

 木ごと地面を掘った大きな穴。その木に刻みつけられている痕跡を見て、エレファントライナーのソレだと推察。
 ここを素として利用していた可能性が非常に高い。ただ……。

「……人の足跡もあるな」

 恐らくは調査部隊として派遣された人のもの。もしくは討伐屋としてここへやってきている者たちが、情報収集のために訪れた可能性がある。

 人がいるのか警戒して穴の奥へと突き進んでいく。
 幾つか足跡は発見したものの、人の気配はない。

「――――ふぅ、何とか卵の殻も無事みたいだな」

 最奥に辿り着いてみると、洞窟のような大きな空洞があり、その下には草や葉などが敷き詰められてあり、その上には卵の殻が置かれている。

 卵の大きさは正面から見て、高さが五十センチメートルくらいで、幅が三十五センチメートルくらいだろうか。明らかに地球ではお目にかかれないサイズの卵だろう。
 エレファントライナーの卵は、美食家の間でも人気で、高級食材として扱われている。

 リントは周りを確認し、何かエレファントライナーの行く先を示すような痕跡がないか調べた。

「…………やっぱり何もない、か」

 あったとしても、先に討伐屋たちがすでに見つけている可能性が高かった。ここに来たのは万が一を期待して来たのだが、そう上手くはいかなかったようだ。
 だがそれは普通の人だった場合である。

 ここに立つのは、極めて特異な能力を持つモンスター医――リントだ。
 リントは、下に落ちている空を拾い上げると、そのまま鼻へと近づけた。

「――――よし、憶えた」

 殻には、エレファントライナーの子供のニオイがこびりついている。
 当然普通の人間にも嗅ぎ取れる獣臭ではあろう。しかしリントにとって、嗅ぐという行為は、そのニオイを辿り源を探し出す効果を発揮できるのだ。

 それはまさに――追跡犬。

 これが、リントの秘められた能力――名付けて〝超感覚(オーバーセンス)〟。
 仙気を鼻に集中させることで、自身の感覚を鋭敏化させることが可能なのである。
 通常、犬の嗅覚は人間の一万倍とされているが、リントが本気を出せば、犬の嗅覚を越すほどの能力を発揮することも容易だ。

 リントは一応手に取った殻を診察鞄の中に入れて、外へと出る。そして静かに瞼を閉じて、鼻をひくつかせた。
 エレファントライナーの子供が残したニオイを探し出すために。

「――――こっちだな」

 右手の方に鋭い視線を向ける。そこから間違いなく殻に残されたニオイと同じニオイが漂っていた。
 リントには、ニオイの道がハッキリと見えている。その先に必ずターゲットがいるはず。
 ただ気になるのは……。

(同じ方向に獣じゃない複数のニオイもする……)

 恐らくは人間。つまりはエレファントライナーの子供を討伐しようとする者たちだろう。
 彼らに子供が見つかる前に保護しなければ手遅れになる。

 ――急がなければ。

 そう判断し、強く大地を蹴った。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった

あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。 本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……? 例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり…… 異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり…… 名前で呼んでほしい、と懇願してきたり…… とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。 さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが…… 「僕のこと、嫌い……?」 「そいつらの方がいいの……?」 「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」 と、泣き縋られて結局承諾してしまう。 まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。 「────私が魔術師さまをお支えしなければ」 と、グレイスはかなり気負っていた。 ────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。 *小説家になろう様にて、先行公開中*

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...