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「なるほど。では私はエレファントライナーを捕獲するだけでいいということですね」
「お願いします~。転移で送るところを見られるのは都合が悪いので~、どこか人気のない場所に転移魔法陣を構築したいのですが~」
「あ、それなら診療所でいいんじゃない?」
「確かに。あそこなら人があまり来ないからねぇ」
「ほほう、ランテさん、リリノさん、それは喧嘩を売ってるってことでいいのでありますな?」
ゴゴゴゴゴと背中から炎が出ているかのように怒りを露わにするニュウ。
「じょ、冗談よニュウ!」
「で、でもあまり人が来ないでしょ?」
「うっぐ……し、しかしお二人の宣伝のお蔭で、今はそこそこ」
「昨日は何組だったのぉ?」
リリノールが聞くと、ドキッとニュウが心臓を高鳴らせて顔を俯かせる。そしてプルプルと震えながら答えた。
「…………………………三組であります」
「一日でそれは……」
「大丈夫だよぉ、ニュウちゃん。きっとこれから繁盛すると思うからぁ」
「そ、そう思うでありますか?」
「…………えと……多分?」
「はうぅ!? せ、先生ぇ! やっぱり引っ越しましょう!」
「あのな! だからオレは別に忙しくなくていいっていってんじゃんか!」
「しかしぃ! これでは先生はいつまで経っても有名になれないのでありますぅ!」
「だーかーらー、オレは有名になんかなりたくねぇぇ!」
結局、話し合いの結果――マリネが魔法陣を刻むのは診療所の裏手に決まった。
そこなら誰かに見られる恐れも少ないということでだ。
エレファントライナーを勝手に森から連れ去り群れに返すというのは、違法ではないが文句を言ってくる者たちもいるからである。そうならないためにも、見つからずにエレファントライナーを送る必要があるのだ。
「もちろんこれは私からの依頼なので~、ちゃんと報酬は支払ますね~」
「ま、まことでありますかぁ! で、では――」
「オレは別に無償でも」
「先生は黙っててくださいっ!」
「は、はい……」
思いっきり睨まれてしまった。
それからニュウは、マリネと報酬の話を詰める。
話はすんなりと決まったようで、ニュウはほくほく顔だ。余程良い交渉ができたのだろう。
「では討伐されないように、できるだけ早い方が良いですよね?」
「そうですね~。魔法陣については、いつでも用意することができるので~。問題は捕縛です~」
「……分かりました。ではすぐにでも向かった方が……」
「ちょ、所長、もう夕方よ?」
「そうであります。いろいろ準備もありますし、明日でもよいかと」
ランテとニュウがそう言ってくるが……。
「……確かにエレファントライナーは夜行性じゃないから、夜のうちは隠れ家を作ってそこに潜んでるはず。それを見つけるのは容易じゃないか」
森の規模はそれほど広くなくとも、夜に散策するのはいろいろな意味で危険だし困難を極める。
恐らくそれは討伐に向かっている者たちも熟知しているだろうから、夜の間は動かないだろう。
(オレの力を使えば、もしかしたら夜でも見つけることができるかもしれないけど、危険なのは確かだしな)
今すぐにでもモンスターを安全に確保したいところだが、失敗しては元も子もない。
確実にエレファントライナーを捕らえるためには夜でない方がいい。
「ならニュウ、今すぐ診療所に帰って明日の準備をしよう」
「はいであります!」
「そういうことだ、ランテ、リリノ。今日は案内ありがとな」
「ありがとうなのであります!」
「う、ううん。けど明日、何かアタシたちにも手伝えることがあったら言ってほしい」
「ランテェ、まさか森に行きたいとか言うんじゃ……」
「さすがにAランクのモンスター相手にアタシができることなんてないわよ。そこまで自惚れてない。一度失敗してるし」
「わぁ、ランテが物分かり良くなってるぅ。明日は嵐かもぉ」
「ちょっとリリノ、それどういう意味!」
「いひゃいほぉ~」
ランテが目を吊り上げながらリリノールの両頬を引っ張る。やはりというか、リリノールは結構思ったことを正直に言ってしまう節があるようだ。
「気持ちはありがたいけど、君らにできることはないよ。捕縛に関しては」
「うぅ……そうよね。きっと一緒に森に行っても足手纏いになるだけだろうし」
ランテは直にリントの力を見ているからこその見解だろう。
残念そうに顔を伏せているランテと、ホッとしてい様子のリリノールに対し、改めて今日のことを感謝する。
彼女たちのお蔭でニュウが笑顔で居続けられたのも確かだからだ。
少し明日以降のことをマリネと話したのち、彼女たちとは学園の入口で別れることになった。
国の外へ出て、先にある岩場へと向かう。
「今日は楽しかったか?」
「はい! 存分に骨休めになったであります! 先生はどうでしたか?」
「ああ、特にどんぶり飯は最高だったかな」
「また時間があれば来るでありますか?」
「そうだなぁ。またニュウが来たいって言うんならな」
「ではその時を楽しみにするであります!」
依頼はともかく、今日一日は充実したものになったと思う。
何よりも日頃から世話になっているニュウへの恩返しにもなっただろう。
人の世は煩わしいし、必要以上に親しくなりたいとは思わない。
しかしニュウのためにも、ランテたちのような子たちならば仲良くしてほしいと思う。それがきっと彼女の今後の人生においてタメになるだろうから。
リントは満足気な表情で歩くニュウから、視線を空へと移す。
(……キレイだな)
空は夕暮れに染まり、茜色の陽射しがリントたちを包んでいた――。
「お願いします~。転移で送るところを見られるのは都合が悪いので~、どこか人気のない場所に転移魔法陣を構築したいのですが~」
「あ、それなら診療所でいいんじゃない?」
「確かに。あそこなら人があまり来ないからねぇ」
「ほほう、ランテさん、リリノさん、それは喧嘩を売ってるってことでいいのでありますな?」
ゴゴゴゴゴと背中から炎が出ているかのように怒りを露わにするニュウ。
「じょ、冗談よニュウ!」
「で、でもあまり人が来ないでしょ?」
「うっぐ……し、しかしお二人の宣伝のお蔭で、今はそこそこ」
「昨日は何組だったのぉ?」
リリノールが聞くと、ドキッとニュウが心臓を高鳴らせて顔を俯かせる。そしてプルプルと震えながら答えた。
「…………………………三組であります」
「一日でそれは……」
「大丈夫だよぉ、ニュウちゃん。きっとこれから繁盛すると思うからぁ」
「そ、そう思うでありますか?」
「…………えと……多分?」
「はうぅ!? せ、先生ぇ! やっぱり引っ越しましょう!」
「あのな! だからオレは別に忙しくなくていいっていってんじゃんか!」
「しかしぃ! これでは先生はいつまで経っても有名になれないのでありますぅ!」
「だーかーらー、オレは有名になんかなりたくねぇぇ!」
結局、話し合いの結果――マリネが魔法陣を刻むのは診療所の裏手に決まった。
そこなら誰かに見られる恐れも少ないということでだ。
エレファントライナーを勝手に森から連れ去り群れに返すというのは、違法ではないが文句を言ってくる者たちもいるからである。そうならないためにも、見つからずにエレファントライナーを送る必要があるのだ。
「もちろんこれは私からの依頼なので~、ちゃんと報酬は支払ますね~」
「ま、まことでありますかぁ! で、では――」
「オレは別に無償でも」
「先生は黙っててくださいっ!」
「は、はい……」
思いっきり睨まれてしまった。
それからニュウは、マリネと報酬の話を詰める。
話はすんなりと決まったようで、ニュウはほくほく顔だ。余程良い交渉ができたのだろう。
「では討伐されないように、できるだけ早い方が良いですよね?」
「そうですね~。魔法陣については、いつでも用意することができるので~。問題は捕縛です~」
「……分かりました。ではすぐにでも向かった方が……」
「ちょ、所長、もう夕方よ?」
「そうであります。いろいろ準備もありますし、明日でもよいかと」
ランテとニュウがそう言ってくるが……。
「……確かにエレファントライナーは夜行性じゃないから、夜のうちは隠れ家を作ってそこに潜んでるはず。それを見つけるのは容易じゃないか」
森の規模はそれほど広くなくとも、夜に散策するのはいろいろな意味で危険だし困難を極める。
恐らくそれは討伐に向かっている者たちも熟知しているだろうから、夜の間は動かないだろう。
(オレの力を使えば、もしかしたら夜でも見つけることができるかもしれないけど、危険なのは確かだしな)
今すぐにでもモンスターを安全に確保したいところだが、失敗しては元も子もない。
確実にエレファントライナーを捕らえるためには夜でない方がいい。
「ならニュウ、今すぐ診療所に帰って明日の準備をしよう」
「はいであります!」
「そういうことだ、ランテ、リリノ。今日は案内ありがとな」
「ありがとうなのであります!」
「う、ううん。けど明日、何かアタシたちにも手伝えることがあったら言ってほしい」
「ランテェ、まさか森に行きたいとか言うんじゃ……」
「さすがにAランクのモンスター相手にアタシができることなんてないわよ。そこまで自惚れてない。一度失敗してるし」
「わぁ、ランテが物分かり良くなってるぅ。明日は嵐かもぉ」
「ちょっとリリノ、それどういう意味!」
「いひゃいほぉ~」
ランテが目を吊り上げながらリリノールの両頬を引っ張る。やはりというか、リリノールは結構思ったことを正直に言ってしまう節があるようだ。
「気持ちはありがたいけど、君らにできることはないよ。捕縛に関しては」
「うぅ……そうよね。きっと一緒に森に行っても足手纏いになるだけだろうし」
ランテは直にリントの力を見ているからこその見解だろう。
残念そうに顔を伏せているランテと、ホッとしてい様子のリリノールに対し、改めて今日のことを感謝する。
彼女たちのお蔭でニュウが笑顔で居続けられたのも確かだからだ。
少し明日以降のことをマリネと話したのち、彼女たちとは学園の入口で別れることになった。
国の外へ出て、先にある岩場へと向かう。
「今日は楽しかったか?」
「はい! 存分に骨休めになったであります! 先生はどうでしたか?」
「ああ、特にどんぶり飯は最高だったかな」
「また時間があれば来るでありますか?」
「そうだなぁ。またニュウが来たいって言うんならな」
「ではその時を楽しみにするであります!」
依頼はともかく、今日一日は充実したものになったと思う。
何よりも日頃から世話になっているニュウへの恩返しにもなっただろう。
人の世は煩わしいし、必要以上に親しくなりたいとは思わない。
しかしニュウのためにも、ランテたちのような子たちならば仲良くしてほしいと思う。それがきっと彼女の今後の人生においてタメになるだろうから。
リントは満足気な表情で歩くニュウから、視線を空へと移す。
(……キレイだな)
空は夕暮れに染まり、茜色の陽射しがリントたちを包んでいた――。
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