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店内は小さな居酒屋のような造りになっており、テーブル席とカウンター席がそれぞれあるが、それほど集客数を意識した感じではないように思えた。
壁にはメニューやそれに関する情報などが書かれた色紙が張られてある。
だが何よりもリントの意識を惹いたのは、美味そうなニオイだった。
腹も空いていたということもあり、余計にニオイが腹の虫を刺激してくる。
「おう、おかえりぃ!」
よく通る声で出迎えてくれたのは、作務衣みたいな服を着込み、頭にハチマキをした江戸っ子のような風貌の男性だった。
キッチンの奥からは、男性と同じような服を着用したスタイルの良い女性が一人出てくる。
「おかえり、リリノちゃん」
穏やかな雰囲気を醸し出しながら、にっこりと笑顔で言う女性に対し、
「うん、ただいまぁ。お母さん、お父さん」
リリノールもまた元気よく挨拶を返した。
彼女の言葉により、二人が両親だということはすぐに理解できる。
リリノールは完全に母親似であろう。リリノールが歳を重ねればきっとこの人みたいになるのだと確信できるほど似ている。
親父さんの方は、逆立てた茶色い髪に吊り上がった瞳。まさに職人という印象を与えてきた。
見たところ店には客はいない。
「……あのさ、予約ってもしかして貸し切り?」
「そんなわけないでしょ。今日はたまたま休みなのよ」
ランテに聞くと、驚くべき解答が返ってきた。
「ちょ……じゃあわざわざ店を開けてもらってるのか?」
「そ、それは申し訳ないのでありますぅ!」
「おわ! 起きたのかニュウ!?」
ちょうど目を覚ましてくれたみたいで、話を聞いたニュウが跳び起きて声を荒らげた。
「いいんだよ、医者のあんちゃん」
「い、医者のあんちゃん……」
初めての呼び名につい頬が引き攣ってしまう。というよりもフレンドリー過ぎる、ここの店主は。
「何でもリリノールが世話になったとか。それにもしかしたら今後も長い付き合いになるかもしれねえしなぁ」
「? 長い……付き合い?」
彼の言葉に眉をひそめていると、またもキッチンの奥からピュ~ッと何か小さな物体が飛んできて、リリノールの頭の上にチョコンと乗った。
「ただいまぁ、ピコ~」
リリノールが頭の上に乗ったソレを優しく撫でる。
「この子は――スカイピッグ?」
「さすが所長さんだねぇ。うん、この子はスカイピッグのぉ、ピコだよぉ」
「ぷぅ~」
何と間の抜けた鳴き声なのだろうか。しかしこの独特のフォルム……癒しを感じる。
見た目は完全なピンク色の子ブタなのだが、像のように大きな耳をしており、耳を動かして短時間の間なら飛行することができるのだ。
円らな垂れ目に、ヒクヒク動く鼻。それに耳を動かす仕草がどれも可愛らしい。
ペットモンスターとして、このスカイピッグも人気だとは聞いている。
「そっか。リリノも飼ってたんだな」
「そうなのぉ。けど寮暮らしだから、こうやってたまに帰ってきて遊んであげるんだよぉ」
聞くところによると、実家からも学園に余裕で通えるらしいが、寮暮らしというものを体験してみたいということで、両親の反対を押し切ったとのこと。
見た目にそぐわず結構頑固なところがある。もしかしたら頑固そうに見える親父さんの血を受け継いでいるからかもしれない。
「けどなるほど。長い付き合いというのは……」
「そうなんだよ! もしその子が病気とかしちまった時はよろしく頼むわ!」
「分かりました。その時は全力を尽くしましょう」
「助かるぜ。おっと、自己紹介がまだだったな。俺はそいつの父親――ガイト・ブランケットだ。好きに呼んでくらぁ」
見た目通り熱い喋り方をしてくる。
「ふふ、では今度は私ですね。リリノールの母です。オリエールとお呼びください」
礼儀正しく頭を下げてきたので、リントも礼儀として下げる。
「ご丁寧にどうも。私はモンスター専門の診療所――【ミツキ診療所】の所長をさせて頂いているリント・ミツキです。そしてこっちは――」
「ニュウなのであります。今後とも御贔屓にしてください」
「お、おいニュウ……」
「せっかくのチャンスであります! 利用者ゲットなのであります!」
ダメだ。すでにニュウは商売モードの瞳になってしまっている。
「つきましては、利用にあたって割り引きなども考える所存で。できれば子子孫孫未来永劫にお付き合いを――」
「はいはい。そういう話は実際に利用されてから、な」
首根っこを掴んで、強制的にモードを終了させた。
「うぅ……残念でありますぅ」
そんな二人のやり取りを見て、
「アッハッハ! おもしれえあんちゃんたちじゃねえか、なあリリノール!」
「うん。所長さんは人嫌いだし乙女心が分からないダメダメっぷりだけど、腕は確かな人だよぉ」
「うぐ……っ」
グサッと心に言葉が突き刺さった。
「褒めるか貶すかどちらかにしなさいよ、リリノ」
「え? ちゃんと褒めてるよ?」
どうやら本人は今の攻撃に気づいていないようだ。無意識だからこそ性質が悪い……。
心にダメージを受けながらも、一応するべきことはする。
「この度は、せっかくの休日にお店を開いて頂きありがとうございます」
「いいってことよ! んじゃ、ちゃちゃっと美味えもん作っからよ! 食べたいものを決めてくれや!」
オリエールにカウンター席を進められ、皆が腰を下ろすとメニューを手渡される。
壁にはメニューやそれに関する情報などが書かれた色紙が張られてある。
だが何よりもリントの意識を惹いたのは、美味そうなニオイだった。
腹も空いていたということもあり、余計にニオイが腹の虫を刺激してくる。
「おう、おかえりぃ!」
よく通る声で出迎えてくれたのは、作務衣みたいな服を着込み、頭にハチマキをした江戸っ子のような風貌の男性だった。
キッチンの奥からは、男性と同じような服を着用したスタイルの良い女性が一人出てくる。
「おかえり、リリノちゃん」
穏やかな雰囲気を醸し出しながら、にっこりと笑顔で言う女性に対し、
「うん、ただいまぁ。お母さん、お父さん」
リリノールもまた元気よく挨拶を返した。
彼女の言葉により、二人が両親だということはすぐに理解できる。
リリノールは完全に母親似であろう。リリノールが歳を重ねればきっとこの人みたいになるのだと確信できるほど似ている。
親父さんの方は、逆立てた茶色い髪に吊り上がった瞳。まさに職人という印象を与えてきた。
見たところ店には客はいない。
「……あのさ、予約ってもしかして貸し切り?」
「そんなわけないでしょ。今日はたまたま休みなのよ」
ランテに聞くと、驚くべき解答が返ってきた。
「ちょ……じゃあわざわざ店を開けてもらってるのか?」
「そ、それは申し訳ないのでありますぅ!」
「おわ! 起きたのかニュウ!?」
ちょうど目を覚ましてくれたみたいで、話を聞いたニュウが跳び起きて声を荒らげた。
「いいんだよ、医者のあんちゃん」
「い、医者のあんちゃん……」
初めての呼び名につい頬が引き攣ってしまう。というよりもフレンドリー過ぎる、ここの店主は。
「何でもリリノールが世話になったとか。それにもしかしたら今後も長い付き合いになるかもしれねえしなぁ」
「? 長い……付き合い?」
彼の言葉に眉をひそめていると、またもキッチンの奥からピュ~ッと何か小さな物体が飛んできて、リリノールの頭の上にチョコンと乗った。
「ただいまぁ、ピコ~」
リリノールが頭の上に乗ったソレを優しく撫でる。
「この子は――スカイピッグ?」
「さすが所長さんだねぇ。うん、この子はスカイピッグのぉ、ピコだよぉ」
「ぷぅ~」
何と間の抜けた鳴き声なのだろうか。しかしこの独特のフォルム……癒しを感じる。
見た目は完全なピンク色の子ブタなのだが、像のように大きな耳をしており、耳を動かして短時間の間なら飛行することができるのだ。
円らな垂れ目に、ヒクヒク動く鼻。それに耳を動かす仕草がどれも可愛らしい。
ペットモンスターとして、このスカイピッグも人気だとは聞いている。
「そっか。リリノも飼ってたんだな」
「そうなのぉ。けど寮暮らしだから、こうやってたまに帰ってきて遊んであげるんだよぉ」
聞くところによると、実家からも学園に余裕で通えるらしいが、寮暮らしというものを体験してみたいということで、両親の反対を押し切ったとのこと。
見た目にそぐわず結構頑固なところがある。もしかしたら頑固そうに見える親父さんの血を受け継いでいるからかもしれない。
「けどなるほど。長い付き合いというのは……」
「そうなんだよ! もしその子が病気とかしちまった時はよろしく頼むわ!」
「分かりました。その時は全力を尽くしましょう」
「助かるぜ。おっと、自己紹介がまだだったな。俺はそいつの父親――ガイト・ブランケットだ。好きに呼んでくらぁ」
見た目通り熱い喋り方をしてくる。
「ふふ、では今度は私ですね。リリノールの母です。オリエールとお呼びください」
礼儀正しく頭を下げてきたので、リントも礼儀として下げる。
「ご丁寧にどうも。私はモンスター専門の診療所――【ミツキ診療所】の所長をさせて頂いているリント・ミツキです。そしてこっちは――」
「ニュウなのであります。今後とも御贔屓にしてください」
「お、おいニュウ……」
「せっかくのチャンスであります! 利用者ゲットなのであります!」
ダメだ。すでにニュウは商売モードの瞳になってしまっている。
「つきましては、利用にあたって割り引きなども考える所存で。できれば子子孫孫未来永劫にお付き合いを――」
「はいはい。そういう話は実際に利用されてから、な」
首根っこを掴んで、強制的にモードを終了させた。
「うぅ……残念でありますぅ」
そんな二人のやり取りを見て、
「アッハッハ! おもしれえあんちゃんたちじゃねえか、なあリリノール!」
「うん。所長さんは人嫌いだし乙女心が分からないダメダメっぷりだけど、腕は確かな人だよぉ」
「うぐ……っ」
グサッと心に言葉が突き刺さった。
「褒めるか貶すかどちらかにしなさいよ、リリノ」
「え? ちゃんと褒めてるよ?」
どうやら本人は今の攻撃に気づいていないようだ。無意識だからこそ性質が悪い……。
心にダメージを受けながらも、一応するべきことはする。
「この度は、せっかくの休日にお店を開いて頂きありがとうございます」
「いいってことよ! んじゃ、ちゃちゃっと美味えもん作っからよ! 食べたいものを決めてくれや!」
オリエールにカウンター席を進められ、皆が腰を下ろすとメニューを手渡される。
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