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――二日後。
ニュウの提案通り、【リンドブルム王国】の前までやって来たリント。
「――相変わらずデケェ壁だよなぁ」
いつ見ても、こちらを威圧するような外壁は圧巻である。
「あ、来られたであります!」
隣に立つニュウが前方に指を差す。そこには見知った顔が二つあった。
「――ごめん、待った?」
「お待たせしてごめんなさぁい!」
ランテとリリノールだ。今日は前に見た黒ローブ姿ではない。
二人ともが私服であり、今どきの女の子っぽい服装をしている。
ランテは活発に動けるような、青を主軸にしたカジュアルクロークスタイルであるが、首元のネックレスや、僅かに施した化粧で、どことなく気品を感じさせるオシャレさがあった。
リリノールは、可愛さ重視といったように、フリルのついたピンクのロングスカートと、上着は白の七分袖を着用している。手には小さなトートバッグを持っていた。
リントは彼女たちに「気にしなくてもいい」とだけ言うと、さっさと歩き始める。
リントの後ろ姿をジト目で見つめるランテたち。
「あ~ランテさんたち、先生に女性のファッションを評価するといったスキルは皆無なので」
「……みたいね」
「そうなんだぁ。ニュウちゃんの服も可愛いのに、褒めてもらってないのぉ?」
「朴念仁を極めていますから、先生は」
ニュウは、薄い黄色のシャツに、白いミニスカートという一見シンプルだが、彼女の可愛さを引き立たせているファッションなのだが、リントは一瞥しただけで評価はなかったのだ。
「まあいいわ。今日はせっかくのお出掛けなんだから、楽しみましょ」
「はいなのであります!」
ランテの言葉に賛同し、ニュウは彼女たちの隣に立って歩き出す。
門の前まで行き、ランテたちのお蔭で入国したリントたちは、さっそく入国許可証を発行してもらえる場所へと向かうことに。
「ていうか、今まで食材とか日用品とかどうやって購入してたのよ?」
歩きながらランテが尋ねてきて、それにはリントではなくニュウが答える。
「定期的に商人の馬車が訪ねてくるのであります。その時に入り用なものは購入して、食材は基本的には自給自足でありますな」
「なるほどね。でもさすがに服とかはないでしょ?」
「たまに遠出をした時に、街や村などで購入してたのであります」
本当にたまにではあるが。その時にまとめ買いをするのが基本。
「もう、リント先生。ニュウちゃんは女の子なんですから、もっとオシャレに気を遣ってあげないといけませんよぉ」
「え……そ、そうなのか?」
「そういうことを先生に期待しても仕方ないので諦めていますから」
そう言われると何だかなぁという感じだ。
だが確かに今まで美味いものはできるだけ食べさせてやりたいという考えはあったが、服装にまでは意識が向いていなかった。
(そうだよなぁ。考えてみれば女ってファッション好きだし。ニュウが何も言わねえから気にしてなかった)
これでは保護者失格かもしれない。
「……よし、ニュウ。好きな服を買うんだ。いっぱい買ってもいいぞ」
「そんなお金はないのであります」
「うぐ……た、確かに」
「それに、あるものでオシャレを楽しむのもファッションの一つでありますよ」
「きゃ~! やっぱりニュウちゃんは偉いよぉ~! もういっそのことウチの子になってぇ~!」
「い、いきなり抱きつかないでほしいのでありますぅぅ~!」
こうして見ていると、ニュウとリリノールが姉妹に見えないこともない。
「いいの? このままじゃ、ニュウってばあの子に取られちゃうかもしれないわよ?」
「……それならそれでいい」
「え……いい、の?」
からかうつもりで尋ねてきたのであろうランテが言葉に詰まる。
「オレはニュウの人生を束縛しようとは思わない。アイツが幸せになれる選択があるなら、それをアイツが選ぶなら、オレは全力で支持するだけだよ」
「……物分かりいいのね」
「大人だしな」
「まだ十八のくせに」
「この世界では立派な大人だな」
「この世界?」
「何でもねえよ」
リントのニュアンスが気になったのか、眉をひそめて聞き返してきたが、軽やかにかわしておく。
「ところで〝ギルド〟に行けば簡単に入国許可証を作れるんだな?」
「ええ。別に学園に入っても作れるわよ?」
「今更勘弁だな。机の上での勉強なんて」
「リント先生だったら頭良いと思うし、主席とか……ああムリね」
「そ、魔術が使えねえからな」
学園では魔術師の育成に力を入れており、自然と魔術師の方が優遇される。勉強だけできても実技が伴わないと主席など到底無理だ。
それに仙術使いは、恐らくは異端視されてしまうだろう。
「けどリント先生なら」
「そのリント先生って言い難いだろ? 別にリントって呼び捨てでもいいぞ」
「……さすがに呼び捨ては抵抗あるわね」
「でも名前をつけるのって、教師と区別するためだろ。なら所長って呼べば?」
「あ、なるほど。それじゃそう呼ばせてもらうわ。あとでリリノにも言っとく」
「ああ。ところでさっき何を言いかけてたんだ?」
「えっとね、所長なら実戦だったら簡単に魔術師を倒せるんじゃないのって聞きたかったのよ」
「そうだなぁ……まあ、戦い方によったらできねえことはねえな」
「そうよね。何せAランクのモンスターをビンタで吹き飛ばすんだから」
仙気で身体能力をかなり底上げすれば、魔術師が呪文を唱える前に近づいて殴り飛ばすというようなこともできる。他にもリントならではの戦いかもあるにはあるが。
「別に戦うことなんてねえし、考える必要なんてなぁ」
リントは後ろで歩いているニュウを確認する。ちゃんとついてきているようだ。本当に姉妹のように、リリノールと手を繋いで、店の説明などを受けている。
楽しんでいるようで何よりだ。
ニュウの提案通り、【リンドブルム王国】の前までやって来たリント。
「――相変わらずデケェ壁だよなぁ」
いつ見ても、こちらを威圧するような外壁は圧巻である。
「あ、来られたであります!」
隣に立つニュウが前方に指を差す。そこには見知った顔が二つあった。
「――ごめん、待った?」
「お待たせしてごめんなさぁい!」
ランテとリリノールだ。今日は前に見た黒ローブ姿ではない。
二人ともが私服であり、今どきの女の子っぽい服装をしている。
ランテは活発に動けるような、青を主軸にしたカジュアルクロークスタイルであるが、首元のネックレスや、僅かに施した化粧で、どことなく気品を感じさせるオシャレさがあった。
リリノールは、可愛さ重視といったように、フリルのついたピンクのロングスカートと、上着は白の七分袖を着用している。手には小さなトートバッグを持っていた。
リントは彼女たちに「気にしなくてもいい」とだけ言うと、さっさと歩き始める。
リントの後ろ姿をジト目で見つめるランテたち。
「あ~ランテさんたち、先生に女性のファッションを評価するといったスキルは皆無なので」
「……みたいね」
「そうなんだぁ。ニュウちゃんの服も可愛いのに、褒めてもらってないのぉ?」
「朴念仁を極めていますから、先生は」
ニュウは、薄い黄色のシャツに、白いミニスカートという一見シンプルだが、彼女の可愛さを引き立たせているファッションなのだが、リントは一瞥しただけで評価はなかったのだ。
「まあいいわ。今日はせっかくのお出掛けなんだから、楽しみましょ」
「はいなのであります!」
ランテの言葉に賛同し、ニュウは彼女たちの隣に立って歩き出す。
門の前まで行き、ランテたちのお蔭で入国したリントたちは、さっそく入国許可証を発行してもらえる場所へと向かうことに。
「ていうか、今まで食材とか日用品とかどうやって購入してたのよ?」
歩きながらランテが尋ねてきて、それにはリントではなくニュウが答える。
「定期的に商人の馬車が訪ねてくるのであります。その時に入り用なものは購入して、食材は基本的には自給自足でありますな」
「なるほどね。でもさすがに服とかはないでしょ?」
「たまに遠出をした時に、街や村などで購入してたのであります」
本当にたまにではあるが。その時にまとめ買いをするのが基本。
「もう、リント先生。ニュウちゃんは女の子なんですから、もっとオシャレに気を遣ってあげないといけませんよぉ」
「え……そ、そうなのか?」
「そういうことを先生に期待しても仕方ないので諦めていますから」
そう言われると何だかなぁという感じだ。
だが確かに今まで美味いものはできるだけ食べさせてやりたいという考えはあったが、服装にまでは意識が向いていなかった。
(そうだよなぁ。考えてみれば女ってファッション好きだし。ニュウが何も言わねえから気にしてなかった)
これでは保護者失格かもしれない。
「……よし、ニュウ。好きな服を買うんだ。いっぱい買ってもいいぞ」
「そんなお金はないのであります」
「うぐ……た、確かに」
「それに、あるものでオシャレを楽しむのもファッションの一つでありますよ」
「きゃ~! やっぱりニュウちゃんは偉いよぉ~! もういっそのことウチの子になってぇ~!」
「い、いきなり抱きつかないでほしいのでありますぅぅ~!」
こうして見ていると、ニュウとリリノールが姉妹に見えないこともない。
「いいの? このままじゃ、ニュウってばあの子に取られちゃうかもしれないわよ?」
「……それならそれでいい」
「え……いい、の?」
からかうつもりで尋ねてきたのであろうランテが言葉に詰まる。
「オレはニュウの人生を束縛しようとは思わない。アイツが幸せになれる選択があるなら、それをアイツが選ぶなら、オレは全力で支持するだけだよ」
「……物分かりいいのね」
「大人だしな」
「まだ十八のくせに」
「この世界では立派な大人だな」
「この世界?」
「何でもねえよ」
リントのニュアンスが気になったのか、眉をひそめて聞き返してきたが、軽やかにかわしておく。
「ところで〝ギルド〟に行けば簡単に入国許可証を作れるんだな?」
「ええ。別に学園に入っても作れるわよ?」
「今更勘弁だな。机の上での勉強なんて」
「リント先生だったら頭良いと思うし、主席とか……ああムリね」
「そ、魔術が使えねえからな」
学園では魔術師の育成に力を入れており、自然と魔術師の方が優遇される。勉強だけできても実技が伴わないと主席など到底無理だ。
それに仙術使いは、恐らくは異端視されてしまうだろう。
「けどリント先生なら」
「そのリント先生って言い難いだろ? 別にリントって呼び捨てでもいいぞ」
「……さすがに呼び捨ては抵抗あるわね」
「でも名前をつけるのって、教師と区別するためだろ。なら所長って呼べば?」
「あ、なるほど。それじゃそう呼ばせてもらうわ。あとでリリノにも言っとく」
「ああ。ところでさっき何を言いかけてたんだ?」
「えっとね、所長なら実戦だったら簡単に魔術師を倒せるんじゃないのって聞きたかったのよ」
「そうだなぁ……まあ、戦い方によったらできねえことはねえな」
「そうよね。何せAランクのモンスターをビンタで吹き飛ばすんだから」
仙気で身体能力をかなり底上げすれば、魔術師が呪文を唱える前に近づいて殴り飛ばすというようなこともできる。他にもリントならではの戦いかもあるにはあるが。
「別に戦うことなんてねえし、考える必要なんてなぁ」
リントは後ろで歩いているニュウを確認する。ちゃんとついてきているようだ。本当に姉妹のように、リリノールと手を繋いで、店の説明などを受けている。
楽しんでいるようで何よりだ。
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