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育ててくれた怪鳥モンスターであるキンカ。彼女の命を救うことができなかった。
こんな力を持っていても、何の意味もなかった。
強い力は、より強い力を引きつけ、そして……駆逐される。
それもまた自然の成り行き……なのかもしれない。
母が死に、リントは気づいた。いや、気づかされたのだ。他ならぬ母の言葉によって。
『お前の力なら、使い様によってはもっと多くのモンスターたちを救えるだろうね』
かつて言われた言葉。
その本当の意味を知り、リントはモンスター医を志すことになった。
まだ十歳にも満たなかったリントだったが、自分の進むべき道を見つけたのだ。
(母さん……オレ、頑張れてるかな)
別に母はすべてのモンスターを救えとは言わなかった。
助けを求める者たちを、自分の力の限り手助けをしてやってほしい、と。
そう言っていたのだ。
リントはゆっくりと上半身を起こす。今気づいたが、額には冷たいタオルが置かれてあった。
「……ニュウか」
本当に彼女にも世話になっている。
彼女がいてくれるから安心て無茶できるとも言えた。
「今日は久々にすきやきでもすっかなぁ。ニュウ、喜ぶと思うし」
そう思いながらまったりとしていると、ダダダダダと床を激しく叩く足音が聞こえた。
「――先生! 緊急でありますぅ!」
どうやら滅多に来ない患者が飛び込んできたようだ。
リントは壁にかけられてある白衣をさっと着込んで、患者が待つ診察室へと向かった。
この世界にも季節はある。
――春夏秋冬。
今は夏の入口付近といった具合だ。これから真夏に向けてどんどんと気温が上昇していく季節である。
モンスターたちは基本的に適応能力が高いが、環境変化が起こる度に体調を崩してしまうモンスターも存在するのだ。
「――どうやら、単純な脱水症状みたいですね」
診察台に横たわっている、白毛の猫に羽が生えた生物――ウィングキャット。
名前から分かる通り、分類すれば猫科に属するモンスターだ。
傍では飼い主である男性が心配そうにウィングキャットの身体を撫でている。
「本来猫というのはあまり水分を取りませんが、この子は長毛種で熱に凄く弱いタイプなんです。それに環境変化で体調も崩しやすくて、そうなると水分をあまり取らなくなるんですよね。特にこの季節は要注意」
「ど、どうしたらいいんですか!」
「……食事はちゃんとしていますか?」
「え、ええ。食べることはできてます」
「ドライフード系ですか?」
「えっとぉ、にぼしとかささみとか、ですね」
「では、水分量の多いものにしてください。水を直接飲まないのなら、食事に混ぜるしかないですから。どんな食事が適しているか、あとで薬と一緒に紙に書いて渡しますね。とりあえず点滴は施しておきましょう」
「お願いします」
素早く点滴セットを出して、ウィングキャットに心の中で「少しチクッとするけど良くなるためだからな」と言い含めて了承を取ってから点滴を開始した。
これでしばらく大人しくしていれば、すぐに元気を取り戻してくれるだろう。
「はい。じゃあ次の方、入れてくれる?」
「はいなのであります!」
傍で待機していたニュウにリントが頼むと、彼女は診察室を出て待合室へと向かう。
診察室には、三台の診察台があるが、すでに二つ使用しており、空いている診察台に向かい待機する。
(……はぁ。待合室に人が待ってるなんて、久々過ぎだよなぁ)
それこそ診療所を開いた当初くらいではなかろうか。
ただ待っているといっても普通の病院などに比べると圧倒的に少なく、利用者は三人ほどではあるが。
それでもここ最近に比べれば異常事態としか思えないほど繁盛しているともいえる。ニュウなどは朝からやる気十分でニヤニヤしていた。
不謹慎だから笑顔だけは止めろと言い含めておいたので、患者数が多く診察代が入ってくることが嬉しいニュウも、我慢して笑うのを止めている。
(それにしても……)
次に入ってきた患者も――ウィングキャット。
恐らく同じ症状なのだろう。
そして待合室で待機中の利用者もまた、ウィングキャットを連れている。
(ブームなのか……今?)
当然そんな思いが過ぎるが、何でもニュウ曰く、利用者は全員【リンドブルム王国】から来ているとのこと。
(まさかと思うけど……)
脳裏に浮かんだ考えを捨て去り、今は治療に専念することにした。
そうしてすべての患者を診て一段落した後――。
「ふぅ……久々の怒涛のラッシュだったなぁ」
「何を言ってるのでありますか! まだまだ繁盛してもらわないと困るのであります!」
待合室でコーヒーを飲んでいると、ニュウがほくほく顔でそう言った。
「今日入ったお金があれば、滞っていた借金が大分と返せますし、おお! 新しいお布団も買えるのであります! いやいや、お布団は先にしてまずは新しい白衣にした方が……むむむ」
心底主婦な感じのニュウである。
確かにヨレヨレの白衣はどうかと思うが、別にまだ白衣はあるので買わなくてもいいような気もするのだが……。
ちなみに借金というのは、いろいろ都合をつけて支払いを待ってもらっている薬剤師や鍛冶師だったりする。
鍛冶師には、手術道具などを作ってもらっているのだ。どちらも昔からの知り合いであるので、いつでも借金を返すのは待ってやると言われているが、毎月少しずつでも返している。
というよりも、どちらもすでに引退してほとんどボランティアみたいな感じで手伝ってくれているだけで、金は要らないと最初は言っていたのだが、リントは必ず作ってくれたものに関しては対価を支払うと決めているので、向こうは要らないと言っても返す努力はしているつもりだ。
「けど何で急に利用者が増えたんだろうなぁ」
独り言として呟いたが、ギクリと肩を震わせて固まるニュウ。
……何か知っているようだ。
こんな力を持っていても、何の意味もなかった。
強い力は、より強い力を引きつけ、そして……駆逐される。
それもまた自然の成り行き……なのかもしれない。
母が死に、リントは気づいた。いや、気づかされたのだ。他ならぬ母の言葉によって。
『お前の力なら、使い様によってはもっと多くのモンスターたちを救えるだろうね』
かつて言われた言葉。
その本当の意味を知り、リントはモンスター医を志すことになった。
まだ十歳にも満たなかったリントだったが、自分の進むべき道を見つけたのだ。
(母さん……オレ、頑張れてるかな)
別に母はすべてのモンスターを救えとは言わなかった。
助けを求める者たちを、自分の力の限り手助けをしてやってほしい、と。
そう言っていたのだ。
リントはゆっくりと上半身を起こす。今気づいたが、額には冷たいタオルが置かれてあった。
「……ニュウか」
本当に彼女にも世話になっている。
彼女がいてくれるから安心て無茶できるとも言えた。
「今日は久々にすきやきでもすっかなぁ。ニュウ、喜ぶと思うし」
そう思いながらまったりとしていると、ダダダダダと床を激しく叩く足音が聞こえた。
「――先生! 緊急でありますぅ!」
どうやら滅多に来ない患者が飛び込んできたようだ。
リントは壁にかけられてある白衣をさっと着込んで、患者が待つ診察室へと向かった。
この世界にも季節はある。
――春夏秋冬。
今は夏の入口付近といった具合だ。これから真夏に向けてどんどんと気温が上昇していく季節である。
モンスターたちは基本的に適応能力が高いが、環境変化が起こる度に体調を崩してしまうモンスターも存在するのだ。
「――どうやら、単純な脱水症状みたいですね」
診察台に横たわっている、白毛の猫に羽が生えた生物――ウィングキャット。
名前から分かる通り、分類すれば猫科に属するモンスターだ。
傍では飼い主である男性が心配そうにウィングキャットの身体を撫でている。
「本来猫というのはあまり水分を取りませんが、この子は長毛種で熱に凄く弱いタイプなんです。それに環境変化で体調も崩しやすくて、そうなると水分をあまり取らなくなるんですよね。特にこの季節は要注意」
「ど、どうしたらいいんですか!」
「……食事はちゃんとしていますか?」
「え、ええ。食べることはできてます」
「ドライフード系ですか?」
「えっとぉ、にぼしとかささみとか、ですね」
「では、水分量の多いものにしてください。水を直接飲まないのなら、食事に混ぜるしかないですから。どんな食事が適しているか、あとで薬と一緒に紙に書いて渡しますね。とりあえず点滴は施しておきましょう」
「お願いします」
素早く点滴セットを出して、ウィングキャットに心の中で「少しチクッとするけど良くなるためだからな」と言い含めて了承を取ってから点滴を開始した。
これでしばらく大人しくしていれば、すぐに元気を取り戻してくれるだろう。
「はい。じゃあ次の方、入れてくれる?」
「はいなのであります!」
傍で待機していたニュウにリントが頼むと、彼女は診察室を出て待合室へと向かう。
診察室には、三台の診察台があるが、すでに二つ使用しており、空いている診察台に向かい待機する。
(……はぁ。待合室に人が待ってるなんて、久々過ぎだよなぁ)
それこそ診療所を開いた当初くらいではなかろうか。
ただ待っているといっても普通の病院などに比べると圧倒的に少なく、利用者は三人ほどではあるが。
それでもここ最近に比べれば異常事態としか思えないほど繁盛しているともいえる。ニュウなどは朝からやる気十分でニヤニヤしていた。
不謹慎だから笑顔だけは止めろと言い含めておいたので、患者数が多く診察代が入ってくることが嬉しいニュウも、我慢して笑うのを止めている。
(それにしても……)
次に入ってきた患者も――ウィングキャット。
恐らく同じ症状なのだろう。
そして待合室で待機中の利用者もまた、ウィングキャットを連れている。
(ブームなのか……今?)
当然そんな思いが過ぎるが、何でもニュウ曰く、利用者は全員【リンドブルム王国】から来ているとのこと。
(まさかと思うけど……)
脳裏に浮かんだ考えを捨て去り、今は治療に専念することにした。
そうしてすべての患者を診て一段落した後――。
「ふぅ……久々の怒涛のラッシュだったなぁ」
「何を言ってるのでありますか! まだまだ繁盛してもらわないと困るのであります!」
待合室でコーヒーを飲んでいると、ニュウがほくほく顔でそう言った。
「今日入ったお金があれば、滞っていた借金が大分と返せますし、おお! 新しいお布団も買えるのであります! いやいや、お布団は先にしてまずは新しい白衣にした方が……むむむ」
心底主婦な感じのニュウである。
確かにヨレヨレの白衣はどうかと思うが、別にまだ白衣はあるので買わなくてもいいような気もするのだが……。
ちなみに借金というのは、いろいろ都合をつけて支払いを待ってもらっている薬剤師や鍛冶師だったりする。
鍛冶師には、手術道具などを作ってもらっているのだ。どちらも昔からの知り合いであるので、いつでも借金を返すのは待ってやると言われているが、毎月少しずつでも返している。
というよりも、どちらもすでに引退してほとんどボランティアみたいな感じで手伝ってくれているだけで、金は要らないと最初は言っていたのだが、リントは必ず作ってくれたものに関しては対価を支払うと決めているので、向こうは要らないと言っても返す努力はしているつもりだ。
「けど何で急に利用者が増えたんだろうなぁ」
独り言として呟いたが、ギクリと肩を震わせて固まるニュウ。
……何か知っているようだ。
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