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「……っ、……ぁ……」
瞼を開けると、見慣れた天井が視界に飛び込んできた。
止まっていた思考を動かし、自分が何故診療所のベッドの上で横になっているのか思い出す。
「…………確か薬を作ったあと……そうだ、倒れたんだっけ」
「そうでありますよ」
「! ……ニュウ」
突然耳に入った聞き慣れた声。傍に立っていたのは、助手のニュウだった。
「まったく、先生は無茶し過ぎなのであります」
「……ちゃんと薬は届けてくれたか?」
「……そこで真っ先にモンちゃんたちのことを気にするのは、もうさすがとしか言えないでありますな」
「……それで?」
「ちゃんと届けたであります。ランテさんたち、先生にお礼を言ってました」
「……そっか。なら良かった」
これでクローバーキャトルたちの処置はすべて終了した。あとは経過を見ていくだけ。
「ふっふっふ」
「……何だか怖い笑いだな。どうした?」
「これを見るのであります!」
ババンッという感じで、茶封筒を見せつけてくる。
「……何それ?」
「今回の診察代であります!」
「……?」
「その診察代の意味が分からないという顔は止めてほしいのであります! クローバーキャトルちゃんの診察代でありますよぉ!」
「あ、なるほど……って、もらったのか?」
「マリネ先生という方から、しかと頂いたのであります!」
「抜け目ねえなぁ」
「やっぱり先生は診察代を要求するつもりはなかったのでありますね。はぁ~ニュウが行って正解だったのであります」
やれやれといった感じで首を左右に振るニュウ。
「い、いや、ちゃんともらう気ではあったぞ?」
「本当でありますか?」
「…………」
「ちゃんとした正規のお代を?」
「…………」
「顔を逸らさないでほしいのでありますぅ!」
ついニュウのジト目に耐え切れずに顔を逸らしてしまったのだ。
「もう! これはボランティアではないのでありますよ?」
「わ、分かってるけどさ……ほら、これって流れで治療した感じだし?」
「流れでもちゃんとした医療行為なのですから、対価はもらうべきなのであります」
「しっかりしてんなぁ。ニュウは良い嫁さんになりそうだ」
「よ、よよよよよよ嫁しゃんっ!? そ、そそそそそれはお嫁さんにしたいと仰ってるのでありますかぁっ!?」
「ちょっ、痛い痛い! 何でそんなに興奮してんの!?」
襟首を掴んで必死な形相で詰め寄ってきたニュウに、若干の恐怖を覚える。
「いいから! お嫁さんにしたいかしたくないかで答えるのでありますぅ!」
「いや、だから何でそんなに必死なのぉ!?」
「もう! いつになったら先生は乙女心を分かってくれるのでありますかぁ! バカバカなのでありますぅぅぅぅっ!」
痛烈な叫び声を上げながら走り去っていった。
「…………何なの、一体……?」
もしかして反抗期なのか。
この年頃の子供は接し方が難しいと聞くが……。
(親ってのは大変なんだなぁ)
とはいっても、一緒に診療所で生活するのは三年くらいではあるのだけど。
リントはふぅ~っと大きく息を吐いて、天井を見つめる。
こんなふうに倒れることは珍しくない。
自身の仙気に栄養を混入させて、相手に注入するのはリスクがある。いくら仙術で、自身の栄養分を活性化させて増やすことができたとしても、分け与えられる栄養だって限りがあるのだ。
その許容量をオーバーすれば、倒れるのも当然。
ただし間違いなく珍しい能力ではある。
それに何よりも――〝モンスターと対話ができる〟という力は稀少中の稀少。
意識を対象に集中させることで、モンスターと会話をすることができる。正確にいえば、モンスターの声を聞き取れるのだ。
この世界に生まれ、モンスターに育てられた。そしてこの能力。
まさに天命ではないかと思っていた。
自分はモンスターとともに生きる存在なのだ、と。
また悪い奴らからモンスターを守れるようにか分からないが、身体能力も驚くほど高かった。
とはいっても鍛えれば鍛えるほど強くなるという意味で、必死になって鍛えたのだが。今も時間を見つけて身体は鍛えている。治療には体力を使うから。
ランテも驚いていたが、確かに普通の人間が持つような力ではないだろう。一応肉体を仙気で強化しているということもあり、絶大な膂力を生んでいる事実もある。
この力で、今までたくさんのモンスターを救ってきた。母親から教えられた食物連鎖、つまりは自然の法則にはできるだけ逆らわずに、人の手による災いからだけモンスターたちを救ってきたのだ。
人の手によるものでも、生きるために仕方なくという事情に基づいたものならば手は出さなかったのである。
そうやって守りたいものたちを守ってきた……つもりだった。
リントは天井に向かって右手を伸ばし、僅かに眉をひそめる。
「けど……母さんは守れなかったんだよな」
瞼を開けると、見慣れた天井が視界に飛び込んできた。
止まっていた思考を動かし、自分が何故診療所のベッドの上で横になっているのか思い出す。
「…………確か薬を作ったあと……そうだ、倒れたんだっけ」
「そうでありますよ」
「! ……ニュウ」
突然耳に入った聞き慣れた声。傍に立っていたのは、助手のニュウだった。
「まったく、先生は無茶し過ぎなのであります」
「……ちゃんと薬は届けてくれたか?」
「……そこで真っ先にモンちゃんたちのことを気にするのは、もうさすがとしか言えないでありますな」
「……それで?」
「ちゃんと届けたであります。ランテさんたち、先生にお礼を言ってました」
「……そっか。なら良かった」
これでクローバーキャトルたちの処置はすべて終了した。あとは経過を見ていくだけ。
「ふっふっふ」
「……何だか怖い笑いだな。どうした?」
「これを見るのであります!」
ババンッという感じで、茶封筒を見せつけてくる。
「……何それ?」
「今回の診察代であります!」
「……?」
「その診察代の意味が分からないという顔は止めてほしいのであります! クローバーキャトルちゃんの診察代でありますよぉ!」
「あ、なるほど……って、もらったのか?」
「マリネ先生という方から、しかと頂いたのであります!」
「抜け目ねえなぁ」
「やっぱり先生は診察代を要求するつもりはなかったのでありますね。はぁ~ニュウが行って正解だったのであります」
やれやれといった感じで首を左右に振るニュウ。
「い、いや、ちゃんともらう気ではあったぞ?」
「本当でありますか?」
「…………」
「ちゃんとした正規のお代を?」
「…………」
「顔を逸らさないでほしいのでありますぅ!」
ついニュウのジト目に耐え切れずに顔を逸らしてしまったのだ。
「もう! これはボランティアではないのでありますよ?」
「わ、分かってるけどさ……ほら、これって流れで治療した感じだし?」
「流れでもちゃんとした医療行為なのですから、対価はもらうべきなのであります」
「しっかりしてんなぁ。ニュウは良い嫁さんになりそうだ」
「よ、よよよよよよ嫁しゃんっ!? そ、そそそそそれはお嫁さんにしたいと仰ってるのでありますかぁっ!?」
「ちょっ、痛い痛い! 何でそんなに興奮してんの!?」
襟首を掴んで必死な形相で詰め寄ってきたニュウに、若干の恐怖を覚える。
「いいから! お嫁さんにしたいかしたくないかで答えるのでありますぅ!」
「いや、だから何でそんなに必死なのぉ!?」
「もう! いつになったら先生は乙女心を分かってくれるのでありますかぁ! バカバカなのでありますぅぅぅぅっ!」
痛烈な叫び声を上げながら走り去っていった。
「…………何なの、一体……?」
もしかして反抗期なのか。
この年頃の子供は接し方が難しいと聞くが……。
(親ってのは大変なんだなぁ)
とはいっても、一緒に診療所で生活するのは三年くらいではあるのだけど。
リントはふぅ~っと大きく息を吐いて、天井を見つめる。
こんなふうに倒れることは珍しくない。
自身の仙気に栄養を混入させて、相手に注入するのはリスクがある。いくら仙術で、自身の栄養分を活性化させて増やすことができたとしても、分け与えられる栄養だって限りがあるのだ。
その許容量をオーバーすれば、倒れるのも当然。
ただし間違いなく珍しい能力ではある。
それに何よりも――〝モンスターと対話ができる〟という力は稀少中の稀少。
意識を対象に集中させることで、モンスターと会話をすることができる。正確にいえば、モンスターの声を聞き取れるのだ。
この世界に生まれ、モンスターに育てられた。そしてこの能力。
まさに天命ではないかと思っていた。
自分はモンスターとともに生きる存在なのだ、と。
また悪い奴らからモンスターを守れるようにか分からないが、身体能力も驚くほど高かった。
とはいっても鍛えれば鍛えるほど強くなるという意味で、必死になって鍛えたのだが。今も時間を見つけて身体は鍛えている。治療には体力を使うから。
ランテも驚いていたが、確かに普通の人間が持つような力ではないだろう。一応肉体を仙気で強化しているということもあり、絶大な膂力を生んでいる事実もある。
この力で、今までたくさんのモンスターを救ってきた。母親から教えられた食物連鎖、つまりは自然の法則にはできるだけ逆らわずに、人の手による災いからだけモンスターたちを救ってきたのだ。
人の手によるものでも、生きるために仕方なくという事情に基づいたものならば手は出さなかったのである。
そうやって守りたいものたちを守ってきた……つもりだった。
リントは天井に向かって右手を伸ばし、僅かに眉をひそめる。
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