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交渉自体はマリネが行ってくれて、学園長もすんなり了承してくれたらしい。らしいというのは、学園長室に入ったのはマリネだけだからだ。
飼育係にしっかりと通達しておくとのことである。これでクローバーキャトルたちが無事に生活できると思うと、何だかホッとした。
再び三人で飼育小屋へ戻って、リントが帰って来るのを待つ。
だがいつまで経っても、リントが戻ってこない。
リリノールは、そんなに早く薬ができないのではと言っていたが、リントはすぐに戻ってくると公言していたのだ。
医者として素晴らしい腕を持つ彼が、そんな言葉を守れないわけがないと思った。
だから一応確認がてら、門のところまでランテは身に行くことに。
そこで見たのは……。
「で~す~か~ら~、リント先生の代理なのでありますぅ~!」
「だ~か~ら~、リントって誰なんだってぇの~!」
………………獣耳少女と、門番が言い争っている奇妙な光景。
「――ニュウ!」
「むむ? おお! ランテさんではありませんかぁ! 助かったでありますぅ!」
黒い鞄を持ったニュウが小さい手を目一杯振ってくる。
すぐに彼女に近づいて、門番に事情を話す。そうしてニュウを中に入れてもらった。
「本当に助かりましたぁ。ありがとうなのであります」
「ううん。気にしなくていいわよ。よく考えたら、先生一人でこの国を行き来できるわけなかったし」
入国許可証を持っているなら別だが、リントは持ってなさそうだったし。
「けれどどうしてニュウが来たの? 先生は?」
「それが……」
申し訳なさそうな顔で何があったのか説明してくれた。
「――ええぇっ!? 先生が倒れたぁ!?」
「は、はいなのであります。薬を作った直後に……」
彼女曰く、治療に使った力の回復が追いつかずに疲労で倒れたということらしい。
「先生はモンちゃんたちのためなら自身を顧みないので。今回もかなりの力を、モンちゃんたちに注がれたようであります」
「で、でも帰る時はしっかり歩いてたわよ?」
「多分やせ我慢なのであります。ああ見えて先生は、他人に借りを作りたくないタイプなので」
「……めんどくさい人ね」
「はは、反論できないのであります。し、しかし! と~っても良い人なのですよ! それだけは分かってほしいのでありますぅ!」
「え、ええ! それは分かってるわ。そうじゃなかったら、倒れるまで治療なんてしないでしょ」
きっと、他の人たちが彼の行いを聞いたらバカにするだろう。嘲笑するだろう。侮辱することもあるかもしれない。
それだけ彼の行為は、この世界では異常なことだ。
他のモンスター医もいるが、そこまでモンスターに力を注ぐ者は極めて少ない。
何せ相手が、簡単に捨てても罪に問われないような存在(モンスター)なのだから。
ニュウとともに飼育小屋に向かって、そこでニュウは自己紹介をそこそこに、マリネに薬を手渡した。
すべての処置が終わると、三人一緒にニュウを見送ることに。
彼女もまたリントに借りた笛でセンカを呼び、彼女にここまで運んできてもらったようだ。
ランテたちが最初に降り立った岩場のところまで、四人で向かった。
絶滅危惧種であるセイントホークの出現に、当然マリネも驚くだろと予見していたが、驚くことに一切の焦りなどを見せずに、ニコニコとしながらセンカの身体を撫でていた。
そんなマリネの大物っぷりに、逆に驚かされてしまう。
しかしよく見れば可愛い顔をしており、可愛いもの好きなリリノールも、マリネと一緒に彼女を撫でていた。
そしてニュウに別れを告げて、三人は再び国へと戻っていく。
学園へ向かう途中、思い出し笑いをしたマリネに、ランテが「どうかしたんですか?」と尋ねた。
すると彼女は何故か懐かしげに笑みを浮かべて、
「ふふ、やっぱりあの子は変わっていませんね~」
と、気になる発言をした。
「……ニュウのことですか?」
「いいえ。彼――リントくんのことですよ~」
「リント……くん? もしかしてお知り合いだったんですか?」
「ふふふ、残念ながら彼は覚えていませんでしたけどね~。まあ無理もありません。知り合いといっても、会ったのは一度だけですし~。それにもう何年も前の話ですからね~」
「そうだったんですか。……あ、だからあの時止めたんですね」
リントが鍼を使って治療を施す時、ランテが止めようとしたがマリネはそれを制した。きっとアレが治療のために必要なのだということを知っていたのだろう。
「でも何だか気になっちゃいます。リント先生とどんな出会いをしたんですか!」
こういう話は女の子なら誰でも興味引かれるものだ。催促したリリノールだけでなく、ランテも気にはなった。
しかしマリネは楽しそうに「ふふふ~」と笑い、
「秘密です~」
と語ってはくれなかった。
リリノールが何回も話してくれるように頼み込むが、軽くかわされるだけ。
そうこうするうちに学園へ着き、ランテとリリノールは寮へ向かうので、マリネとは別れることになった。
「あ~気になるよねぇ。そう思わない、ランテ?」
「そうね。でももしかしたらリント先生に聞くと思い出してくれるかも」
「あ、それ! よーし、また時間できたら診療所に行ってみようよぉ!」
「邪魔に……ならないわね、あそこじゃ」
失礼な話だが、忙しい診療所の光景が思い浮かばない。
「まったく、あんな名医なら、ここで診療所を開けば、きっと物凄い有名にもなれるのに」
「ニュウちゃんが言ってたよ。功名心が一切ないって。あと金運も」
「……本当によくやっていけてるわよ、あの診療所」
まだ出会ったばかりなのに、何だか心配になってくるから不思議だ。
「宣伝するなって言われたけどさ。この国にもペットモンスターを飼ってる人たちって結構いるわよね?」
「うん。私の実家も飼ってるよぉ」
「ああ、そういえばそうだったわね。病気とかしてない?」
「うん。まだ飼ったばかりだしねぇ。でももし病気したらリント先生に診てもらいたいなぁ」
「それは……そうね」
この国にいるモンスター医は信用できない。少なくともリントよりは。
「胃腸が悪いのに風邪薬出すなんてね。余計悪くなるし、クローバーキャトルが食事に不安がるのも分かるわ」
「そうだよねぇ。何か診察時間もたった一分くらいだったらしいよぉ。しかもちゃんと診たのはあの具合が悪かった子の一体だけ。他の子はちょっと触れただけで終わったらしいし」
よくよく考えたらその診察もおかしなものである。
普通は同じ空間にいるのだから、具合が悪くなった原因を突き止めるためにも、他のクローバーキャトルやその場の環境を詳しく調べるのは当然なのではないか?
リントが言っていた。ここで自分がした診断は、基本的なことをしたに過ぎない、と。
つまりこの国にいるモンスター医は、その基本的なことすら飛ばしたということだ。そんなので診察ができるわけがないし、正確な症状を見つけ出すことだってできないだろう。
だが文句言いに行ったとしても、意味がないということも分かっている。
実はモンスター医というのは、別に資格があるわけではない。その日から名乗れば誰にだってなれる。
診察料こそもらっているが、体面的にはボランティアみたいなものなのだ。
――しょせんモンスターだし――
そう言われてしまえば、何も言えないのだ。そこまで国が、世界が、モンスターの命を重く見ていないから。
「リント先生がこの国に住んでくれたら、安心してペットモンスター買えるのにねぇ」
リリノールの言う通りだ。
しかしリントが人嫌いで、モンスター優先の考えを持つのは知っている。そんな彼が人の社会で生きにくいのは確かだろう。
ここにいれば、恐らくだが様々なトラブルを引き起こしてしまうかもしれない。
人と人の衝突。
それから避けるために、リントは遠く離れた丘の上で診療所を開いているのだろう。
「でもどうしてあんなにモンスターを大事に思ってるのかしら……」
きっと過去に何かがあったのは間違いないと思うが、気軽に聞いてもいいものかどうか迷う。
一度不躾なことを言ってしまっているランテにとって、突っ込んだ質問は正直少し怖い。
(けれど、いつか聞いてみたいわね)
そうすれば、自分の進むべき道も何となく形になりそうな気がしたのだ。
飼育係にしっかりと通達しておくとのことである。これでクローバーキャトルたちが無事に生活できると思うと、何だかホッとした。
再び三人で飼育小屋へ戻って、リントが帰って来るのを待つ。
だがいつまで経っても、リントが戻ってこない。
リリノールは、そんなに早く薬ができないのではと言っていたが、リントはすぐに戻ってくると公言していたのだ。
医者として素晴らしい腕を持つ彼が、そんな言葉を守れないわけがないと思った。
だから一応確認がてら、門のところまでランテは身に行くことに。
そこで見たのは……。
「で~す~か~ら~、リント先生の代理なのでありますぅ~!」
「だ~か~ら~、リントって誰なんだってぇの~!」
………………獣耳少女と、門番が言い争っている奇妙な光景。
「――ニュウ!」
「むむ? おお! ランテさんではありませんかぁ! 助かったでありますぅ!」
黒い鞄を持ったニュウが小さい手を目一杯振ってくる。
すぐに彼女に近づいて、門番に事情を話す。そうしてニュウを中に入れてもらった。
「本当に助かりましたぁ。ありがとうなのであります」
「ううん。気にしなくていいわよ。よく考えたら、先生一人でこの国を行き来できるわけなかったし」
入国許可証を持っているなら別だが、リントは持ってなさそうだったし。
「けれどどうしてニュウが来たの? 先生は?」
「それが……」
申し訳なさそうな顔で何があったのか説明してくれた。
「――ええぇっ!? 先生が倒れたぁ!?」
「は、はいなのであります。薬を作った直後に……」
彼女曰く、治療に使った力の回復が追いつかずに疲労で倒れたということらしい。
「先生はモンちゃんたちのためなら自身を顧みないので。今回もかなりの力を、モンちゃんたちに注がれたようであります」
「で、でも帰る時はしっかり歩いてたわよ?」
「多分やせ我慢なのであります。ああ見えて先生は、他人に借りを作りたくないタイプなので」
「……めんどくさい人ね」
「はは、反論できないのであります。し、しかし! と~っても良い人なのですよ! それだけは分かってほしいのでありますぅ!」
「え、ええ! それは分かってるわ。そうじゃなかったら、倒れるまで治療なんてしないでしょ」
きっと、他の人たちが彼の行いを聞いたらバカにするだろう。嘲笑するだろう。侮辱することもあるかもしれない。
それだけ彼の行為は、この世界では異常なことだ。
他のモンスター医もいるが、そこまでモンスターに力を注ぐ者は極めて少ない。
何せ相手が、簡単に捨てても罪に問われないような存在(モンスター)なのだから。
ニュウとともに飼育小屋に向かって、そこでニュウは自己紹介をそこそこに、マリネに薬を手渡した。
すべての処置が終わると、三人一緒にニュウを見送ることに。
彼女もまたリントに借りた笛でセンカを呼び、彼女にここまで運んできてもらったようだ。
ランテたちが最初に降り立った岩場のところまで、四人で向かった。
絶滅危惧種であるセイントホークの出現に、当然マリネも驚くだろと予見していたが、驚くことに一切の焦りなどを見せずに、ニコニコとしながらセンカの身体を撫でていた。
そんなマリネの大物っぷりに、逆に驚かされてしまう。
しかしよく見れば可愛い顔をしており、可愛いもの好きなリリノールも、マリネと一緒に彼女を撫でていた。
そしてニュウに別れを告げて、三人は再び国へと戻っていく。
学園へ向かう途中、思い出し笑いをしたマリネに、ランテが「どうかしたんですか?」と尋ねた。
すると彼女は何故か懐かしげに笑みを浮かべて、
「ふふ、やっぱりあの子は変わっていませんね~」
と、気になる発言をした。
「……ニュウのことですか?」
「いいえ。彼――リントくんのことですよ~」
「リント……くん? もしかしてお知り合いだったんですか?」
「ふふふ、残念ながら彼は覚えていませんでしたけどね~。まあ無理もありません。知り合いといっても、会ったのは一度だけですし~。それにもう何年も前の話ですからね~」
「そうだったんですか。……あ、だからあの時止めたんですね」
リントが鍼を使って治療を施す時、ランテが止めようとしたがマリネはそれを制した。きっとアレが治療のために必要なのだということを知っていたのだろう。
「でも何だか気になっちゃいます。リント先生とどんな出会いをしたんですか!」
こういう話は女の子なら誰でも興味引かれるものだ。催促したリリノールだけでなく、ランテも気にはなった。
しかしマリネは楽しそうに「ふふふ~」と笑い、
「秘密です~」
と語ってはくれなかった。
リリノールが何回も話してくれるように頼み込むが、軽くかわされるだけ。
そうこうするうちに学園へ着き、ランテとリリノールは寮へ向かうので、マリネとは別れることになった。
「あ~気になるよねぇ。そう思わない、ランテ?」
「そうね。でももしかしたらリント先生に聞くと思い出してくれるかも」
「あ、それ! よーし、また時間できたら診療所に行ってみようよぉ!」
「邪魔に……ならないわね、あそこじゃ」
失礼な話だが、忙しい診療所の光景が思い浮かばない。
「まったく、あんな名医なら、ここで診療所を開けば、きっと物凄い有名にもなれるのに」
「ニュウちゃんが言ってたよ。功名心が一切ないって。あと金運も」
「……本当によくやっていけてるわよ、あの診療所」
まだ出会ったばかりなのに、何だか心配になってくるから不思議だ。
「宣伝するなって言われたけどさ。この国にもペットモンスターを飼ってる人たちって結構いるわよね?」
「うん。私の実家も飼ってるよぉ」
「ああ、そういえばそうだったわね。病気とかしてない?」
「うん。まだ飼ったばかりだしねぇ。でももし病気したらリント先生に診てもらいたいなぁ」
「それは……そうね」
この国にいるモンスター医は信用できない。少なくともリントよりは。
「胃腸が悪いのに風邪薬出すなんてね。余計悪くなるし、クローバーキャトルが食事に不安がるのも分かるわ」
「そうだよねぇ。何か診察時間もたった一分くらいだったらしいよぉ。しかもちゃんと診たのはあの具合が悪かった子の一体だけ。他の子はちょっと触れただけで終わったらしいし」
よくよく考えたらその診察もおかしなものである。
普通は同じ空間にいるのだから、具合が悪くなった原因を突き止めるためにも、他のクローバーキャトルやその場の環境を詳しく調べるのは当然なのではないか?
リントが言っていた。ここで自分がした診断は、基本的なことをしたに過ぎない、と。
つまりこの国にいるモンスター医は、その基本的なことすら飛ばしたということだ。そんなので診察ができるわけがないし、正確な症状を見つけ出すことだってできないだろう。
だが文句言いに行ったとしても、意味がないということも分かっている。
実はモンスター医というのは、別に資格があるわけではない。その日から名乗れば誰にだってなれる。
診察料こそもらっているが、体面的にはボランティアみたいなものなのだ。
――しょせんモンスターだし――
そう言われてしまえば、何も言えないのだ。そこまで国が、世界が、モンスターの命を重く見ていないから。
「リント先生がこの国に住んでくれたら、安心してペットモンスター買えるのにねぇ」
リリノールの言う通りだ。
しかしリントが人嫌いで、モンスター優先の考えを持つのは知っている。そんな彼が人の社会で生きにくいのは確かだろう。
ここにいれば、恐らくだが様々なトラブルを引き起こしてしまうかもしれない。
人と人の衝突。
それから避けるために、リントは遠く離れた丘の上で診療所を開いているのだろう。
「でもどうしてあんなにモンスターを大事に思ってるのかしら……」
きっと過去に何かがあったのは間違いないと思うが、気軽に聞いてもいいものかどうか迷う。
一度不躾なことを言ってしまっているランテにとって、突っ込んだ質問は正直少し怖い。
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