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凄く不思議だった。
リリノールやマリネからは、最初の医者に診てもらったあと、クローバーキャトルに近づくと暴れるという事態がほとんどだと聞いていたのだ。
それなのに、リントに対しては驚くほど大人しい。いや、大人しくなったといえばいいか。
最初彼が近づいた時は、確かに威圧をしている目つきをクローバーキャトルはしていた。
しかしリントと目をしばらく合わせると、リントが優しく話しだしたのである。それは一方的に言い聞かせるというよりは、まるで対話をしているような感じだった。
傍から見たら、リントがただ喋っているだけなので変だと思うが、何故かクローバーキャトルの顔つきが、緊張が解れてきているようになってきて、暴れることもなくリントに身体に触れさせたのだ。
素直に――凄い、と思った。
これが本当のモンスター医なのか、と。
しかし驚くのはまだこれからだった。
彼がクローバーキャトルから少し距離を取り右手を軽く上げたと思ったら、右手の周辺に赤い光が浮かび上がったのだ。
(こ、これは――魔力っ!? ううん、でも何か違う……それに赤い!?)
それは魔術師たちが呪文を使う時に使用する力によく似た魔力と呼ばれるもの。しかしどこか違う。色も魔力ならば青白いはず。
(この人、やっぱり魔術師だったの!?)
別に珍しくはない。この学園には、自分たちも含めて数多くの魔術師がいるのだから。
しかしもし、感じている力が魔力ならば、この魔力量には特筆すべきものがあった。
それは――膨大な量。
まるでランテの魔力をすべて圧縮させたような、濃厚で大量の魔力だった。
リリノールたちも、魔力量とその質に度肝を抜かれたような表情をして固まっている。
赤い魔力が右手へと集束し、次第に形を変えていく。
(何……? あれは……針?)
さらに凝縮していく魔力が最終的な形として変化を止めたのは――一本の針だった。
ただしかなり長く、一見して広げた手の二倍ほどはある長さである。
「――さて、病魔を滅却する」
沈黙の中、リントの声だけが響く。
クローバーキャトルも不思議なことにビクッと一度はしたようだが、リントのことを信じているかのようにジッと大人しくしている。
リントがクローバーキャトルに近づき、
「――一鍼一体、刺突!」
出現させた針をクローバーキャトルの脇腹付近へと突き刺した。
いきなり何をするのかと思わず声を出しそうになったが、何故か隣にいたマリネが手を出して動きを制しにきた。彼女が顔を横に振って目で語る。黙って見るんだ、と。
さすがに痛みで暴れるのではと心配して身構えたが、クローバーキャトルは何も感じていないように静かなものだ。いや、それどころか瞳がトロンとしてどこか気持ち良さげでさえある。
魔力で構成された針が、徐々に短くなっていく。いや、恐らくは身体の中に吸収されているのだろう。
そして、針がすべて吸い込まれた直後――。
「――うし、処置完了!」
クローバーキャトルの体調が良くなったのが見るからに分かった。
何故ならそれまで壁にもたれたまま動かなかったのに、一人でに立ち上がってリントに「ありがとう」と言わんばかりに顔を摺り寄せて尻尾を振っているのだから。
リントもまた笑顔を浮かべてクローバーキャトルの身体を撫でたあと、他の子たちも治療すると言って同じような針を作って治療し始めた。
身体に針を突き刺して治療するなどという手法など聞いたことなどなかったため、最初は不安だったが、こうまで結果を出されては何も言えない。
クローバーキャトルたちも、身体に針を刺されたというのに、怯えもせずに逆に信頼度を高めているように思える。
こんな短い時間でどうやって意思疎通を図れたというのだろうか……?
これが本物のモンスター医の実力と言われればそれまでだが。
「これで一応現状では問題ないはずです。あとは食事管理をしっかりすれば、今回みたいに体調を崩したり、お乳の出が悪くなったりはしません」
「ありがとうございます~。食事に関しては、わたしがきっちり飼育係に伝えておきますので~」
「ここにこの子たちに適している食事法と管理法も書いておきましたので。実践してください」
リントが一枚の紙をマリネに手渡す。
素晴らしい仕事の手際である。裸一貫で危険な森の湖の中に潜るような大ざっぱな少年とは思えない気の配りようだ。
「管理法……ですか~?」
「ええ。少しここは閉鎖的過ぎます。換気も行き届いてなかったですし、寝床の藁もずいぶんと取り換えてない。ハッキリ言って劣悪過ぎる環境です」
「耳が痛いです~。分かりました~。きちんと環境を整えるようにします~」
「よろしくお願いします。私はこれから診療所に帰って、この子たち用の整腸剤を処方して持ってきますので。もし便の出が悪かったり、下痢をしたら飲ませてやってください」
「すぐに飲まさなくてもいいんですか~?」
「私の力で体調は戻しておいたので、今は大丈夫かと。ただもしかしたら今後、腸の動きが悪くなるかもしれませんので念のためです」
「あ、あのリント先生?」
「ん? 何だランテ?」
「質問があるんだけど、いいかしら?」
「答えられることなら、な」
「……クローバーキャトルたちに刺した針のことなんだけど」
リントがやっぱりかというような表情を見せる。彼もまた聞かれることを覚悟していたようだ。
「言っとくけど、あれは君らが扱う魔術じゃないことは確かだぞ」
リリノールやマリネからは、最初の医者に診てもらったあと、クローバーキャトルに近づくと暴れるという事態がほとんどだと聞いていたのだ。
それなのに、リントに対しては驚くほど大人しい。いや、大人しくなったといえばいいか。
最初彼が近づいた時は、確かに威圧をしている目つきをクローバーキャトルはしていた。
しかしリントと目をしばらく合わせると、リントが優しく話しだしたのである。それは一方的に言い聞かせるというよりは、まるで対話をしているような感じだった。
傍から見たら、リントがただ喋っているだけなので変だと思うが、何故かクローバーキャトルの顔つきが、緊張が解れてきているようになってきて、暴れることもなくリントに身体に触れさせたのだ。
素直に――凄い、と思った。
これが本当のモンスター医なのか、と。
しかし驚くのはまだこれからだった。
彼がクローバーキャトルから少し距離を取り右手を軽く上げたと思ったら、右手の周辺に赤い光が浮かび上がったのだ。
(こ、これは――魔力っ!? ううん、でも何か違う……それに赤い!?)
それは魔術師たちが呪文を使う時に使用する力によく似た魔力と呼ばれるもの。しかしどこか違う。色も魔力ならば青白いはず。
(この人、やっぱり魔術師だったの!?)
別に珍しくはない。この学園には、自分たちも含めて数多くの魔術師がいるのだから。
しかしもし、感じている力が魔力ならば、この魔力量には特筆すべきものがあった。
それは――膨大な量。
まるでランテの魔力をすべて圧縮させたような、濃厚で大量の魔力だった。
リリノールたちも、魔力量とその質に度肝を抜かれたような表情をして固まっている。
赤い魔力が右手へと集束し、次第に形を変えていく。
(何……? あれは……針?)
さらに凝縮していく魔力が最終的な形として変化を止めたのは――一本の針だった。
ただしかなり長く、一見して広げた手の二倍ほどはある長さである。
「――さて、病魔を滅却する」
沈黙の中、リントの声だけが響く。
クローバーキャトルも不思議なことにビクッと一度はしたようだが、リントのことを信じているかのようにジッと大人しくしている。
リントがクローバーキャトルに近づき、
「――一鍼一体、刺突!」
出現させた針をクローバーキャトルの脇腹付近へと突き刺した。
いきなり何をするのかと思わず声を出しそうになったが、何故か隣にいたマリネが手を出して動きを制しにきた。彼女が顔を横に振って目で語る。黙って見るんだ、と。
さすがに痛みで暴れるのではと心配して身構えたが、クローバーキャトルは何も感じていないように静かなものだ。いや、それどころか瞳がトロンとしてどこか気持ち良さげでさえある。
魔力で構成された針が、徐々に短くなっていく。いや、恐らくは身体の中に吸収されているのだろう。
そして、針がすべて吸い込まれた直後――。
「――うし、処置完了!」
クローバーキャトルの体調が良くなったのが見るからに分かった。
何故ならそれまで壁にもたれたまま動かなかったのに、一人でに立ち上がってリントに「ありがとう」と言わんばかりに顔を摺り寄せて尻尾を振っているのだから。
リントもまた笑顔を浮かべてクローバーキャトルの身体を撫でたあと、他の子たちも治療すると言って同じような針を作って治療し始めた。
身体に針を突き刺して治療するなどという手法など聞いたことなどなかったため、最初は不安だったが、こうまで結果を出されては何も言えない。
クローバーキャトルたちも、身体に針を刺されたというのに、怯えもせずに逆に信頼度を高めているように思える。
こんな短い時間でどうやって意思疎通を図れたというのだろうか……?
これが本物のモンスター医の実力と言われればそれまでだが。
「これで一応現状では問題ないはずです。あとは食事管理をしっかりすれば、今回みたいに体調を崩したり、お乳の出が悪くなったりはしません」
「ありがとうございます~。食事に関しては、わたしがきっちり飼育係に伝えておきますので~」
「ここにこの子たちに適している食事法と管理法も書いておきましたので。実践してください」
リントが一枚の紙をマリネに手渡す。
素晴らしい仕事の手際である。裸一貫で危険な森の湖の中に潜るような大ざっぱな少年とは思えない気の配りようだ。
「管理法……ですか~?」
「ええ。少しここは閉鎖的過ぎます。換気も行き届いてなかったですし、寝床の藁もずいぶんと取り換えてない。ハッキリ言って劣悪過ぎる環境です」
「耳が痛いです~。分かりました~。きちんと環境を整えるようにします~」
「よろしくお願いします。私はこれから診療所に帰って、この子たち用の整腸剤を処方して持ってきますので。もし便の出が悪かったり、下痢をしたら飲ませてやってください」
「すぐに飲まさなくてもいいんですか~?」
「私の力で体調は戻しておいたので、今は大丈夫かと。ただもしかしたら今後、腸の動きが悪くなるかもしれませんので念のためです」
「あ、あのリント先生?」
「ん? 何だランテ?」
「質問があるんだけど、いいかしら?」
「答えられることなら、な」
「……クローバーキャトルたちに刺した針のことなんだけど」
リントがやっぱりかというような表情を見せる。彼もまた聞かれることを覚悟していたようだ。
「言っとくけど、あれは君らが扱う魔術じゃないことは確かだぞ」
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