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「そりゃ反発もするわな」
「でしょ!」
「おわ!?」
いきなり振り返って詰め寄ってきたので驚く。
「そうなのよ! やっぱりおかしいのよ! 子は親に従うとか、そんなのもう古いの! 確かにお父様の考えも理解はできるけど、アタシにはアタシの人生を謳歌するって権利があると思わない!?」
「あ、ああ、思う」
「そうよね! それなのに、家に帰ればお見合いの話ばっか。だから家から出たくて、学園の寮に入ったのよ」
よくある思春期における親への反発というやつだろうか。どちらにしろ、考えはやはり子供っぽい。
「……まあ、気持ちは分かるけどよ」
「……?」
「顔が近い」
「! ~~~~~~~っ!?」
自分が男に詰め寄っていることに気が付いたのか、顔を真っ赤にしてババッと距離を取る。この態度からもかなり初心だということが分かった。
「ま、まあとにかくランテの考えは理解できた。好きに生きればいいんじゃねえか?」
「……そ、そう思う?」
「お前の言う通り、ランテの人生はランテ自身のものだと思うしな」
誰かに認められて嬉しいのか、ランテの顔が綻ぶ。
「ただ……な」
「ただ?」
「できたらただ反発するんじゃなくて、父親を認めさせるくらいの勢いで突き進むくらいの根性がなきゃな」
「それは……分かってるわよ」
「分かってんならそれでいいんじゃねえか」
「…………」
沈黙を見せるランテ。彼女も王侯貴族というものがどういうものか分かっているのだろう。
ただの貴族ではなく、国に密接に連なる存在なのだ。故に勝手な行動を取るのも、相応の覚悟が必要になる。ただ父親に反発したいという思いだけでは、きっとこれから先、上からの圧力に負けてしまう可能性だって高いだろう。
だからこそ、絶対にこの道を進むのだという強い意志が必要になる。
「ランテが何を捨てても〝国家戦術師〟になって、何かを成したいって強く考えてるなら、そのまま進めばいいと思うぞ。これは年長者からのアドバイスだ」
「…………うん」
「ほれ、しんみりしてねえと、さっさと案内してくれ」
「わ、分かったわよ!」
本当はアドバイスをしてやる義理などもないのだが、何となく背中を押してやりたいって気持ちになったのも事実。彼女は真っ直ぐで純粋。それに自分の間違いを正せる人間だ。
だから人嫌いのリントでも、少しは好感を持てる少女だった。
故に少しだけ言葉をかけてやったが、あとは彼女次第なのも確か。どういう道を選んでいくのか分からないが、できれば後悔しないようにしてほしいと思う。
そうして恥ずかしそうに、少し距離を取って前を歩くランテについていくと、しばらくすると目の前に牛舎らしき木造の建物が視界に入ってくる。
ランテ曰く、あれが飼育小屋らしい。あと幾つかあるとのことだが、一番大きいのが目の前にある飼育小屋だとランテから聞いた。
小屋の扉には鍵がかけられてあるそうで、中には入れない。
待っていると、先程教師を呼びに行ったリリノールと、一人の女性教師らしき人物がやって来た。その女性の右手には手提げ袋が握られてある。
「お待たせぇ、ランテ」
「うん。えと、紹介するわね」
と、ランテが女性を一瞥してからリントへと視線を向けるが、
「あ、ちゃんと先生が自分で紹介しますからね~」
間延びした喋り方で、女性が笑顔で口にした。
彼女がスッとリントの前に立つと、丁寧に頭を下げる。
「わたしはこの学園の教師で、この子たちの担任をしています――マリネ・クエンサーと申します~」
ほんわかしたこの雰囲気を何となくどこかで感じたような気もしたが、すぐに気のせいだと思って挨拶を返す。
「ご丁寧にどうも。私は【ミツキ診療所】の所長を務めておりますリント・ミツキです」
「この度は、わざわざお越しくださいまして~、どうもありがとうございますぅ~」
「いえ、モンスターを診てほしいと頼まれたので、医者としては当然ですから」
「そうなのですか~。あとランテさんたちにお聞きしたのですけど~、森でモンスターに襲われた時に助けて頂いたとか~」
「成り行きなのでお気になさらないでください」
「はい~。ですが生徒を助けて頂いてどうもありがとうございました~」
何だかとても穏和そうでポワポワしている女性である。怒る姿がとても想像できない。
歳は恐らく二十代前半……だろう。ウェーブがかった水色の髪を腰まで伸ばしており、優しさで溢れそうな垂れた紺碧の瞳は、見ているだけで和む。
ただ何よりも特徴的なのは、その豊満過ぎる胸だろう。とても自己主張が強い。
推定ではあるがFカップ以上は確実だ。歩く度に揺れているのだから。
ニュウも大きいが、彼女もきっと敵わないほどのボリューミーさである。
「ところで患者を確認したいんですけど」
「あ、そうですね~。ではこちらへ~」
扉に近づいて、ポケットから取り出した鍵を鍵穴に挿す。だが……。
「あれぇ~? 鍵が入らないですねぇ……?」
「あ、あの、マリネ先生? それって本当にここの鍵ですか?」
ランテが問うと、マリネが「うん?」と言いつつ鍵に視線を置いて数秒……。
「……あ~、謎は解けちゃいました~。これ、私の家の鍵です~」
思わずズコッとこけそうになるが、彼女だけはてへへ~と舌を出して笑っている。
どうやら彼女はかなり天然な性格のようだ。
「う~んと……え~っと……」
今度は手提げ袋の中を探り始めるマリネ。そしてようやく本命の鍵を見つけたようで、「あ、これこれ~」と言いながら、鍵を鍵穴へと射して回した。
ガチャリと音がしたので、間違いなく本物の鍵だったらしい。ホッとした。
扉を開けて中に入ると、牛舎独特の鼻をつくようなニオイがする。獣臭に混じって、糞尿や餌の刺激臭が顔をしかめさせた。
見れば窓すら開いていないので、ほとんど密室で換気もできていないことが分かる。
「でしょ!」
「おわ!?」
いきなり振り返って詰め寄ってきたので驚く。
「そうなのよ! やっぱりおかしいのよ! 子は親に従うとか、そんなのもう古いの! 確かにお父様の考えも理解はできるけど、アタシにはアタシの人生を謳歌するって権利があると思わない!?」
「あ、ああ、思う」
「そうよね! それなのに、家に帰ればお見合いの話ばっか。だから家から出たくて、学園の寮に入ったのよ」
よくある思春期における親への反発というやつだろうか。どちらにしろ、考えはやはり子供っぽい。
「……まあ、気持ちは分かるけどよ」
「……?」
「顔が近い」
「! ~~~~~~~っ!?」
自分が男に詰め寄っていることに気が付いたのか、顔を真っ赤にしてババッと距離を取る。この態度からもかなり初心だということが分かった。
「ま、まあとにかくランテの考えは理解できた。好きに生きればいいんじゃねえか?」
「……そ、そう思う?」
「お前の言う通り、ランテの人生はランテ自身のものだと思うしな」
誰かに認められて嬉しいのか、ランテの顔が綻ぶ。
「ただ……な」
「ただ?」
「できたらただ反発するんじゃなくて、父親を認めさせるくらいの勢いで突き進むくらいの根性がなきゃな」
「それは……分かってるわよ」
「分かってんならそれでいいんじゃねえか」
「…………」
沈黙を見せるランテ。彼女も王侯貴族というものがどういうものか分かっているのだろう。
ただの貴族ではなく、国に密接に連なる存在なのだ。故に勝手な行動を取るのも、相応の覚悟が必要になる。ただ父親に反発したいという思いだけでは、きっとこれから先、上からの圧力に負けてしまう可能性だって高いだろう。
だからこそ、絶対にこの道を進むのだという強い意志が必要になる。
「ランテが何を捨てても〝国家戦術師〟になって、何かを成したいって強く考えてるなら、そのまま進めばいいと思うぞ。これは年長者からのアドバイスだ」
「…………うん」
「ほれ、しんみりしてねえと、さっさと案内してくれ」
「わ、分かったわよ!」
本当はアドバイスをしてやる義理などもないのだが、何となく背中を押してやりたいって気持ちになったのも事実。彼女は真っ直ぐで純粋。それに自分の間違いを正せる人間だ。
だから人嫌いのリントでも、少しは好感を持てる少女だった。
故に少しだけ言葉をかけてやったが、あとは彼女次第なのも確か。どういう道を選んでいくのか分からないが、できれば後悔しないようにしてほしいと思う。
そうして恥ずかしそうに、少し距離を取って前を歩くランテについていくと、しばらくすると目の前に牛舎らしき木造の建物が視界に入ってくる。
ランテ曰く、あれが飼育小屋らしい。あと幾つかあるとのことだが、一番大きいのが目の前にある飼育小屋だとランテから聞いた。
小屋の扉には鍵がかけられてあるそうで、中には入れない。
待っていると、先程教師を呼びに行ったリリノールと、一人の女性教師らしき人物がやって来た。その女性の右手には手提げ袋が握られてある。
「お待たせぇ、ランテ」
「うん。えと、紹介するわね」
と、ランテが女性を一瞥してからリントへと視線を向けるが、
「あ、ちゃんと先生が自分で紹介しますからね~」
間延びした喋り方で、女性が笑顔で口にした。
彼女がスッとリントの前に立つと、丁寧に頭を下げる。
「わたしはこの学園の教師で、この子たちの担任をしています――マリネ・クエンサーと申します~」
ほんわかしたこの雰囲気を何となくどこかで感じたような気もしたが、すぐに気のせいだと思って挨拶を返す。
「ご丁寧にどうも。私は【ミツキ診療所】の所長を務めておりますリント・ミツキです」
「この度は、わざわざお越しくださいまして~、どうもありがとうございますぅ~」
「いえ、モンスターを診てほしいと頼まれたので、医者としては当然ですから」
「そうなのですか~。あとランテさんたちにお聞きしたのですけど~、森でモンスターに襲われた時に助けて頂いたとか~」
「成り行きなのでお気になさらないでください」
「はい~。ですが生徒を助けて頂いてどうもありがとうございました~」
何だかとても穏和そうでポワポワしている女性である。怒る姿がとても想像できない。
歳は恐らく二十代前半……だろう。ウェーブがかった水色の髪を腰まで伸ばしており、優しさで溢れそうな垂れた紺碧の瞳は、見ているだけで和む。
ただ何よりも特徴的なのは、その豊満過ぎる胸だろう。とても自己主張が強い。
推定ではあるがFカップ以上は確実だ。歩く度に揺れているのだから。
ニュウも大きいが、彼女もきっと敵わないほどのボリューミーさである。
「ところで患者を確認したいんですけど」
「あ、そうですね~。ではこちらへ~」
扉に近づいて、ポケットから取り出した鍵を鍵穴に挿す。だが……。
「あれぇ~? 鍵が入らないですねぇ……?」
「あ、あの、マリネ先生? それって本当にここの鍵ですか?」
ランテが問うと、マリネが「うん?」と言いつつ鍵に視線を置いて数秒……。
「……あ~、謎は解けちゃいました~。これ、私の家の鍵です~」
思わずズコッとこけそうになるが、彼女だけはてへへ~と舌を出して笑っている。
どうやら彼女はかなり天然な性格のようだ。
「う~んと……え~っと……」
今度は手提げ袋の中を探り始めるマリネ。そしてようやく本命の鍵を見つけたようで、「あ、これこれ~」と言いながら、鍵を鍵穴へと射して回した。
ガチャリと音がしたので、間違いなく本物の鍵だったらしい。ホッとした。
扉を開けて中に入ると、牛舎独特の鼻をつくようなニオイがする。獣臭に混じって、糞尿や餌の刺激臭が顔をしかめさせた。
見れば窓すら開いていないので、ほとんど密室で換気もできていないことが分かる。
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