転生してモンスター診療所を始めました。

十本スイ

文字の大きさ
上 下
14 / 41

13

しおりを挟む
「そりゃ反発もするわな」
「でしょ!」
「おわ!?」

 いきなり振り返って詰め寄ってきたので驚く。

「そうなのよ! やっぱりおかしいのよ! 子は親に従うとか、そんなのもう古いの! 確かにお父様の考えも理解はできるけど、アタシにはアタシの人生を謳歌するって権利があると思わない!?」
「あ、ああ、思う」
「そうよね! それなのに、家に帰ればお見合いの話ばっか。だから家から出たくて、学園の寮に入ったのよ」

 よくある思春期における親への反発というやつだろうか。どちらにしろ、考えはやはり子供っぽい。

「……まあ、気持ちは分かるけどよ」
「……?」
「顔が近い」
「! ~~~~~~~っ!?」

 自分が男に詰め寄っていることに気が付いたのか、顔を真っ赤にしてババッと距離を取る。この態度からもかなり初心だということが分かった。

「ま、まあとにかくランテの考えは理解できた。好きに生きればいいんじゃねえか?」
「……そ、そう思う?」
「お前の言う通り、ランテの人生はランテ自身のものだと思うしな」

 誰かに認められて嬉しいのか、ランテの顔が綻ぶ。

「ただ……な」
「ただ?」
「できたらただ反発するんじゃなくて、父親を認めさせるくらいの勢いで突き進むくらいの根性がなきゃな」
「それは……分かってるわよ」
「分かってんならそれでいいんじゃねえか」
「…………」

 沈黙を見せるランテ。彼女も王侯貴族というものがどういうものか分かっているのだろう。
 ただの貴族ではなく、国に密接に連なる存在なのだ。故に勝手な行動を取るのも、相応の覚悟が必要になる。ただ父親に反発したいという思いだけでは、きっとこれから先、上からの圧力に負けてしまう可能性だって高いだろう。
 だからこそ、絶対にこの道を進むのだという強い意志が必要になる。

「ランテが何を捨てても〝国家戦術師〟になって、何かを成したいって強く考えてるなら、そのまま進めばいいと思うぞ。これは年長者からのアドバイスだ」
「…………うん」
「ほれ、しんみりしてねえと、さっさと案内してくれ」
「わ、分かったわよ!」

 本当はアドバイスをしてやる義理などもないのだが、何となく背中を押してやりたいって気持ちになったのも事実。彼女は真っ直ぐで純粋。それに自分の間違いを正せる人間だ。
 だから人嫌いのリントでも、少しは好感を持てる少女だった。

 故に少しだけ言葉をかけてやったが、あとは彼女次第なのも確か。どういう道を選んでいくのか分からないが、できれば後悔しないようにしてほしいと思う。
 そうして恥ずかしそうに、少し距離を取って前を歩くランテについていくと、しばらくすると目の前に牛舎らしき木造の建物が視界に入ってくる。

 ランテ曰く、あれが飼育小屋らしい。あと幾つかあるとのことだが、一番大きいのが目の前にある飼育小屋だとランテから聞いた。
 小屋の扉には鍵がかけられてあるそうで、中には入れない。

 待っていると、先程教師を呼びに行ったリリノールと、一人の女性教師らしき人物がやって来た。その女性の右手には手提げ袋が握られてある。

「お待たせぇ、ランテ」
「うん。えと、紹介するわね」

 と、ランテが女性を一瞥してからリントへと視線を向けるが、

「あ、ちゃんと先生が自分で紹介しますからね~」

 間延びした喋り方で、女性が笑顔で口にした。
 彼女がスッとリントの前に立つと、丁寧に頭を下げる。

「わたしはこの学園の教師で、この子たちの担任をしています――マリネ・クエンサーと申します~」

 ほんわかしたこの雰囲気を何となくどこかで感じたような気もしたが、すぐに気のせいだと思って挨拶を返す。

「ご丁寧にどうも。私は【ミツキ診療所】の所長を務めておりますリント・ミツキです」
「この度は、わざわざお越しくださいまして~、どうもありがとうございますぅ~」
「いえ、モンスターを診てほしいと頼まれたので、医者としては当然ですから」
「そうなのですか~。あとランテさんたちにお聞きしたのですけど~、森でモンスターに襲われた時に助けて頂いたとか~」
「成り行きなのでお気になさらないでください」
「はい~。ですが生徒を助けて頂いてどうもありがとうございました~」

 何だかとても穏和そうでポワポワしている女性である。怒る姿がとても想像できない。
 歳は恐らく二十代前半……だろう。ウェーブがかった水色の髪を腰まで伸ばしており、優しさで溢れそうな垂れた紺碧の瞳は、見ているだけで和む。

 ただ何よりも特徴的なのは、その豊満過ぎる胸だろう。とても自己主張が強い。
 推定ではあるがFカップ以上は確実だ。歩く度に揺れているのだから。
 ニュウも大きいが、彼女もきっと敵わないほどのボリューミーさである。

「ところで患者を確認したいんですけど」
「あ、そうですね~。ではこちらへ~」

 扉に近づいて、ポケットから取り出した鍵を鍵穴に挿す。だが……。

「あれぇ~? 鍵が入らないですねぇ……?」
「あ、あの、マリネ先生? それって本当にここの鍵ですか?」

 ランテが問うと、マリネが「うん?」と言いつつ鍵に視線を置いて数秒……。

「……あ~、謎は解けちゃいました~。これ、私の家の鍵です~」

 思わずズコッとこけそうになるが、彼女だけはてへへ~と舌を出して笑っている。
 どうやら彼女はかなり天然な性格のようだ。

「う~んと……え~っと……」

 今度は手提げ袋の中を探り始めるマリネ。そしてようやく本命の鍵を見つけたようで、「あ、これこれ~」と言いながら、鍵を鍵穴へと射して回した。
 ガチャリと音がしたので、間違いなく本物の鍵だったらしい。ホッとした。

 扉を開けて中に入ると、牛舎独特の鼻をつくようなニオイがする。獣臭に混じって、糞尿や餌の刺激臭が顔をしかめさせた。
 見れば窓すら開いていないので、ほとんど密室で換気もできていないことが分かる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった

あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。 本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……? 例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり…… 異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり…… 名前で呼んでほしい、と懇願してきたり…… とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。 さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが…… 「僕のこと、嫌い……?」 「そいつらの方がいいの……?」 「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」 と、泣き縋られて結局承諾してしまう。 まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。 「────私が魔術師さまをお支えしなければ」 と、グレイスはかなり気負っていた。 ────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。 *小説家になろう様にて、先行公開中*

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...