13 / 41
12
しおりを挟む
目の前には見上げるほどの高い外壁に守られた巨大な街がある。
その街から距離にして三百メートルほど離れた草原地帯。そこにあった岩場の陰に空からやってきたリントたちが降り立った。
さすがにセイントホークという珍しいモンスターで、街中に降り立つと問題が生じると考えたので、目立たないように離れた場所に降りることにしたのだ。
センカに感謝の言葉をかけると、応じるように鳴き声を上げながら去って行った。
「久々に【リンドブルム王国】に来るなぁ。診療所からそんなに離れてねえって言っても、五キロくらいは距離あるし歩きではやっぱ面倒だよなぁ……って、どうした二人とも?」
空の旅がそんなに恐ろしかったのか、ランテとリリノールが四つん這いで身体を震わせていた。見様によっては少し興奮しないでもない。
「あ、あのね……先生……もう……少しゆっくり飛んでほしかったわよ……っ」
「こ、怖がっだよぉぉ~」
「情けねえなぁ。それでも誇りある《リンドブルム学園》の学生かよ。そんなんじゃ、立派な魔術師になんかなれねえぞ?」
「モンスターに乗って飛ぶなんて……初めての経験なんだから……しょうがないでしょうがぁ……」
「逆に喜べって。普通できねえ体験ができたんだしよ。ま、気持ちは分からんでもねえけど」
黒い診察鞄から竹筒を二本取り出し、二人に渡す。
「こんなこともあろうかと、ニュウが飲み水用意してくれてるから飲めば」
「ニュウちゃんが私のために!? ちょうだい!」
さすがはニュウ好きのリリノール。目を輝かせて、竹筒に入った水をガブガブ美味そうに喉を潤していく。
ランテもリリノールほどではないにしても、飲み水はありがたいようで受け取って飲む。
「んじゃ、歩けるようになったら行くか」
三人で、少し距離がある【リンドブルム王国】まで歩を進めることに。
入口には大きな門があり、上下の開閉式になっているらしい。
ランテとリリノールが学生証を身分証明として、門の前にいる門番に見せて門を開けてもらう。
しかしやはりというところか、門番の注意はリントへと向き「……そちらは?」と尋ねてきた。
「医者よ。気にしなくていいわ」
それだけを言うと、門番はあっさりと「分かりました」と了承した。
(……ずいぶんランテの信頼度が高いんだなぁ。……! そういや、ニュウが言ってたっけ。ランテはあのエフレスター家の息女って)
この王国ではかなりの権力者である貴族の御令嬢。だからこその対応なのかもしれない。
そうして門が人が通れるくらいの高さにまで開いてから、リントたちは通過していく。
そのままの足で、さっそく学園にあるという飼育小屋へと向かう。
学園に来たのは初めてだったが、話に聞いていた通りの規模で思わず言葉を失う。
(デ、デケエ……ッ)
一体敷地面積がどれくらいになるのか想像もできないほど広大である。
(おいおい、カフェとかっと東京ドームみたいなもんがあるんだけど……?)
歩きながら周囲を観察していると、普通はない……と思う。少なくともリントの知識上では、だが。
一体何の建物なのか分からないものもたくさんあって、塔や小さいが城みたいな建造物まである。
(か、金はあるとこにあるんだなぁ)
これを見たらきっとニュウは全身を震わせながら「す、少しくらい恵んでほしいでありますぅ」とか言いそうである。いや、絶対言うだろう。
途中、リリノールが教師に報告してくると言ってどこかへ去っていき、今はランテと二人で学園内を歩いている。
「そういや、ランテ……は、何年目なんだ?」
「アタシとリリノはまだ一年よ。ここは三学年生だから、卒業は十八になったらね」
「ふぅん。卒業したら将来何がしたいとかって決めてるのか?」
「ええ、もちろんよ」
「凄いんだなぁ」
「……嫌味?」
「は? ……何で?」
「先生なんて十八で診療所を経営してるじゃない」
「あ~まあそうだけど、別に嫌味で言ったわけじゃねえって。本当に凄いって思ってるし。だって普通はその歳で将来の夢なんか持ってないしな」
日本で生きていた時なんて、ランテくらいの年齢は遊ぶことしか考えていなかった気がする。
周りにいる友人たちもそうだったが、大学に行って決めればいいんじゃね? 的な感じで過ごしていた。
だからこそ、将来の夢があるランテを立派だと素直に思えたのである。
「何になりたいのか、聞いてもいいか?」
「……〝国家戦術師〟の資格を取りたいのよ」
「へぇ。家の意向とかか?」
「違うわ。その逆よ。家から早く自立したいからなの」
「! ……そうなのか?」
「そうよ。お父様には、さっさと婿を取って家庭に入れって言われてるわ。けど本心は、優秀な男子を生んでもらいたいのよ」
「……なるほどねぇ」
格式高い家柄の息女だからこその決められたレールというわけだ。
この世界では男尊女卑の傾向が強い。昔の日本だってそうだったが、どちらかといえば男の方が優秀だと認識されており、家督を継ぐのも専ら男子である。
特に魔術師などの家系では、遺伝資質を大いに頼っており、高貴な家柄の者との婚姻で、より優秀な遺伝子を作ることが望まれているのだ。
彼女の家も例外ではなく、当主の意向としては、学園などに入って時間をムダにしている暇があったら、さっさと優秀な遺伝子を貰って男子を生むまで励め、ということなのだろう。
その街から距離にして三百メートルほど離れた草原地帯。そこにあった岩場の陰に空からやってきたリントたちが降り立った。
さすがにセイントホークという珍しいモンスターで、街中に降り立つと問題が生じると考えたので、目立たないように離れた場所に降りることにしたのだ。
センカに感謝の言葉をかけると、応じるように鳴き声を上げながら去って行った。
「久々に【リンドブルム王国】に来るなぁ。診療所からそんなに離れてねえって言っても、五キロくらいは距離あるし歩きではやっぱ面倒だよなぁ……って、どうした二人とも?」
空の旅がそんなに恐ろしかったのか、ランテとリリノールが四つん這いで身体を震わせていた。見様によっては少し興奮しないでもない。
「あ、あのね……先生……もう……少しゆっくり飛んでほしかったわよ……っ」
「こ、怖がっだよぉぉ~」
「情けねえなぁ。それでも誇りある《リンドブルム学園》の学生かよ。そんなんじゃ、立派な魔術師になんかなれねえぞ?」
「モンスターに乗って飛ぶなんて……初めての経験なんだから……しょうがないでしょうがぁ……」
「逆に喜べって。普通できねえ体験ができたんだしよ。ま、気持ちは分からんでもねえけど」
黒い診察鞄から竹筒を二本取り出し、二人に渡す。
「こんなこともあろうかと、ニュウが飲み水用意してくれてるから飲めば」
「ニュウちゃんが私のために!? ちょうだい!」
さすがはニュウ好きのリリノール。目を輝かせて、竹筒に入った水をガブガブ美味そうに喉を潤していく。
ランテもリリノールほどではないにしても、飲み水はありがたいようで受け取って飲む。
「んじゃ、歩けるようになったら行くか」
三人で、少し距離がある【リンドブルム王国】まで歩を進めることに。
入口には大きな門があり、上下の開閉式になっているらしい。
ランテとリリノールが学生証を身分証明として、門の前にいる門番に見せて門を開けてもらう。
しかしやはりというところか、門番の注意はリントへと向き「……そちらは?」と尋ねてきた。
「医者よ。気にしなくていいわ」
それだけを言うと、門番はあっさりと「分かりました」と了承した。
(……ずいぶんランテの信頼度が高いんだなぁ。……! そういや、ニュウが言ってたっけ。ランテはあのエフレスター家の息女って)
この王国ではかなりの権力者である貴族の御令嬢。だからこその対応なのかもしれない。
そうして門が人が通れるくらいの高さにまで開いてから、リントたちは通過していく。
そのままの足で、さっそく学園にあるという飼育小屋へと向かう。
学園に来たのは初めてだったが、話に聞いていた通りの規模で思わず言葉を失う。
(デ、デケエ……ッ)
一体敷地面積がどれくらいになるのか想像もできないほど広大である。
(おいおい、カフェとかっと東京ドームみたいなもんがあるんだけど……?)
歩きながら周囲を観察していると、普通はない……と思う。少なくともリントの知識上では、だが。
一体何の建物なのか分からないものもたくさんあって、塔や小さいが城みたいな建造物まである。
(か、金はあるとこにあるんだなぁ)
これを見たらきっとニュウは全身を震わせながら「す、少しくらい恵んでほしいでありますぅ」とか言いそうである。いや、絶対言うだろう。
途中、リリノールが教師に報告してくると言ってどこかへ去っていき、今はランテと二人で学園内を歩いている。
「そういや、ランテ……は、何年目なんだ?」
「アタシとリリノはまだ一年よ。ここは三学年生だから、卒業は十八になったらね」
「ふぅん。卒業したら将来何がしたいとかって決めてるのか?」
「ええ、もちろんよ」
「凄いんだなぁ」
「……嫌味?」
「は? ……何で?」
「先生なんて十八で診療所を経営してるじゃない」
「あ~まあそうだけど、別に嫌味で言ったわけじゃねえって。本当に凄いって思ってるし。だって普通はその歳で将来の夢なんか持ってないしな」
日本で生きていた時なんて、ランテくらいの年齢は遊ぶことしか考えていなかった気がする。
周りにいる友人たちもそうだったが、大学に行って決めればいいんじゃね? 的な感じで過ごしていた。
だからこそ、将来の夢があるランテを立派だと素直に思えたのである。
「何になりたいのか、聞いてもいいか?」
「……〝国家戦術師〟の資格を取りたいのよ」
「へぇ。家の意向とかか?」
「違うわ。その逆よ。家から早く自立したいからなの」
「! ……そうなのか?」
「そうよ。お父様には、さっさと婿を取って家庭に入れって言われてるわ。けど本心は、優秀な男子を生んでもらいたいのよ」
「……なるほどねぇ」
格式高い家柄の息女だからこその決められたレールというわけだ。
この世界では男尊女卑の傾向が強い。昔の日本だってそうだったが、どちらかといえば男の方が優秀だと認識されており、家督を継ぐのも専ら男子である。
特に魔術師などの家系では、遺伝資質を大いに頼っており、高貴な家柄の者との婚姻で、より優秀な遺伝子を作ることが望まれているのだ。
彼女の家も例外ではなく、当主の意向としては、学園などに入って時間をムダにしている暇があったら、さっさと優秀な遺伝子を貰って男子を生むまで励め、ということなのだろう。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
伯爵令嬢の秘密の知識
シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

婚約破棄をされ、処刑された悪役令嬢が召喚獣として帰ってきた
朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
中央から黒い煙が渦を巻くように上がるとその中からそれは美しい女性が現れた
ざわざわと周囲にざわめきが上がる
ストレートの黒髪に赤い目、耳の上には羊の角のようなまがった黒い角が生えていた、グラマラスな躯体は、それは色気が凄まじかった、背に大きな槍を担いでいた
「あー思い出した、悪役令嬢にそっくりなんだ」
***************
誤字修正しました

心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった
あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。
本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……?
例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり……
異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり……
名前で呼んでほしい、と懇願してきたり……
とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。
さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが……
「僕のこと、嫌い……?」
「そいつらの方がいいの……?」
「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」
と、泣き縋られて結局承諾してしまう。
まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。
「────私が魔術師さまをお支えしなければ」
と、グレイスはかなり気負っていた。
────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。
*小説家になろう様にて、先行公開中*
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる