転生してモンスター診療所を始めました。

十本スイ

文字の大きさ
上 下
6 / 41

しおりを挟む
「これはど~いうことなのでありますかぁ! ニュウはガッツリピッチリ説明を要求するでありますぅっ!」
「わ、分かったから落ち着けって、ニュウ!」
「ニュウは怒れる火山のごとく落ち着いているであります!」
「それって噴火寸前ってことだよな! いや、もしくはすでに噴火している最中だぁ!」

 【アルトーゴの森】にて、ひょんなことから二人の少女と出会ったリント。
 少し説教じみたことをしたら泣いてしまい、さすがにそのまま放置はできないと判断して、診療所まで連れてきた。

 ちなみに森を抜けたら、すぐに診療所がある丘陵地帯に出るのだ。
 案内している間は、終始彼女たちが無言を貫くので居心地が悪い悪い。
 そうして二人を診療所まで連れてきたのはいいが、待合室まで彼女たちを通すと、泣き腫らした少女たちの顔を見て、何を勘違いしたのかニュウが怒り心頭の表情で詰め寄ってきているというわけだ。

「と、とにかくこの子たちは……」

 森で何があったのか、ニュウに説明をすると、彼女もようやく落ち着きを取り戻してくれたのか、盛大な溜め息を肺から絞り出した。

「……先生はもう少し女の子を優しく扱うべきなのであります」
「ちゃんと扱ってるぞ!」
「それはモンスター限定でありますよね?」
「…………」
「はぁ……えと、とりあえずお二人は怪我などはないでありますか?」

 ニュウの問いに、少女二人はコクンと頷きを返す。

「……ここって、何?」

 すると蒼髪の少女が不安気に周りを見回して尋ねてきた。

「ここは【ミツキ診療所】でありますよ」
「ミツキ……診療所? お医者さん?」
「ニュウは見習いでありますが、こちらにいらっしゃる……っていないでありますぅ!? 先生! リント先生ぇぇぇっ!」

 ニュウが診察室の方に向かって若干怒気を混ぜた声音を響かせる。

「――ああ、悪い悪い」
「どこ行ってたのでありますかぁ!」
「いやぁ、だって獲ってきた魚を保存しとかないと、さ」
「むむぅ……確かにそうでありますが、この状況でいなくなれる先生の人格がおかしいであります」
「フフフ、オレは常識には縛られない」
「カッコ良く決めてもダメダメであります!」

 そんなことを言っても、ここに魚を放置していたら臭くなるし……。

「……もしかして、そこの変態ってお医者さんなの? そういえば白衣着てるし」
「いや、ここに帰って来る時も着てたんだけど……」
「……気づかなかった」

 まあ、ずっと顔を俯かせて心ここにあらずといった感じではあったので、リントがどんな服装をしていたのか気を向けられなかったのだろう。

「ずっと赤パンツ一丁だと思ってた……」
「そんな趣味ねえから! さすがにパンツ一丁で外歩かねえから!」

 実は湖に潜る時、パンツも脱ごうかなと考えていて、結局穿いたままで漁に入った。今思えばそれで良かったと心底思う。
 もし脱いでいたら…………きっと後世に語り継がれるほどの変態と認識されていただろう。

「ていうか、パンツ一丁だって思っている男によくついてこれたな……」

 その精神が理解できない。

「あ……何ていうか、流れで?」

 この子は流れと押しに滅法弱いタイプだ。きっと将来、男に苦労するだろう。

「もうランテったらそんなこと言って。二人で森を抜けるのは怖いからついて行こうって二人で決めたよ?」
「ちょ、余計なことは言わなくていいのよリリノ!」

 どうやらついて来たのは、単に利用されただけのようだ。

「そ、そんなことよりも、こんなところに病院があったなんて……。リリノは知ってた?」
「ううん。私も初めて来たし」
「だよね……。しかも何故か幼女がいるし……」
「い、いいいい今ニュウのことを幼女と言ったのでありますか! て、訂正を要求するであります! こう見えてもニュウはれっきとした大人のレディなのでありますからぁ!」

 とは言うが、どう見ても十歳くらいの見た目にしか見えないので仕方ない。
 それに……。

「いやいや、ニュウはまだ十四歳だろうが。ガキじゃねえか」
「先生とはたった四つしか離れてないでありますぅ!」
「嘘っ、そいつってばまだ十代なの!?」
「え? オレそんなに老けて見える!? ショ、ショックだぁ……」

 ガクンと床に四つん這いになるリント。
 確かに普通の人間と比べても数奇な人生を送っているせいで、かなり達観している部分はあるのは否めないけど……。まだ自分では十分に若いつもりだ。

「はぁ……まあいいや。怪我もなく落ち着いたんだったらさっさと帰りな。帰り道はニュウにでも聞いてくれ」

 そう言うと、リントは再び診察室の方へ向かうために足を動かす。

「あ、ちょっと待って!」
「……まだ何かあんのか?」

 やれやれと足を止めて振り向くと、彼女がバッと頭を下げてきた。

「助けてくれて、その……ありがとう!」
「あ、私も。ありがとうございました!」

 二人して感謝の意を示してきた。

「……別にいいって。んじゃ、気を付けな」

 はらはらと手を軽く振ると、今度こそその場から去った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のルナリス伯爵家にミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった

あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。 本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……? 例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり…… 異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり…… 名前で呼んでほしい、と懇願してきたり…… とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。 さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが…… 「僕のこと、嫌い……?」 「そいつらの方がいいの……?」 「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」 と、泣き縋られて結局承諾してしまう。 まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。 「────私が魔術師さまをお支えしなければ」 と、グレイスはかなり気負っていた。 ────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。 *小説家になろう様にて、先行公開中*

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな

朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。 !逆転チートな婚約破棄劇場! !王宮、そして誰も居なくなった! !国が滅んだ?私のせい?しらんがな! 18話で完結

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

処理中です...