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湖から上がると、いきなり目の前に二人の少女がいた。
何だか彼女たちの視線を受けて、ここはボケなければという考えが働いたから、「もう、エッチね」と冗談めかして言うと、強烈なツッコミが頭上からきた。
さすがにここまでのツッコミは人としてどうだろうかと思って、少女たちに注意をしようとしたが、そのツッコミは彼女たちではなく、モンスターのエレファントライナーだということに気づく。
相手はペットモンスターにはできない、野生力の強い凶暴なモンスターだ。
この【アルトーゴの森】に棲息していたとは驚きだったが、目の前の現状から察するに、どうやら二人の少女はエレファントライナーに襲われそうになっていたようだ。
人嫌いに近い志向を持つリントではあるが、命を救う立場にある者として、むざむざと見過ごすわけにはいかない。ましてやそこにモンスターが関わっているならば。
故にエレファントライナーをここから退場させる方が良いと判断した。
殺すのはあまりに一方的過ぎると思ったので、ビンタ一発でどこかへ行ってもらう方向を選んだ。
「――まったく、人が大漁気分に酔いしれてたのにさ~。おっと、そうだったそうだった」
湖に近づいて、湖から顔を覗かせている紐を引っ張る。
紐の先には大きなネットがあり、そこには大量の魚が捕らえられてあった。
「よしよし、今の騒ぎでも大人しくしててくれたんだな。偉い偉い。これだけ獲れればニュウも満足だろう」
あとは着替えて帰るだけだ。
(あ、そういやあの子たちは……)
いまだに放心状態の二人の少女。
「…………よし、大丈夫そうだ」
そう判断し、その場から離れようとしたところ、
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
ちっ、ムリだったか、と思わず溜め息が出た。
リントは声をかけてきた二人の少女のうち、蒼髪の子に顔を向ける。
「えっと……何か?」
「…………い、今のは?」
「はい?」
「だ、だから! 今のは何!」
まったくもって要領を得ない言葉である。
「今の……って?」
「もうそれくらい分かりなさいよね! エレファントライナーを吹き飛ばしたでしょ!」
「まあ……ね」
「何をしたの!」
「……ビンタ?」
「何で疑問形なのよ! ていうか見れば分かるわよ! いや、そうじゃなくて、ただのビンタじゃないでしょうが!」
「? ……ただのビンタだけど?」
「へ?」
「へ?」
リントと少女は互いに小首を傾げて同じ声を漏らす。
「た、ただの……ビンタ?」
「……そうだけど」
「そ、そそそそんなわけないでしょ! だ、だってAランクのモンスターよ! それがただのビンタ……って」
気持ちは分かる。この世界でモンスターは、その稀少度や凶暴指数などによりランク分けされており、下からF・E・D・C・B・A・S・SSとされている。
Aランクのモンスターは、ほぼ人には懐かないとされており、その力も並みの者が束になっても敵わないほど強力だ。
人に仇名すモンスターを討伐する〝ギルド〟という存在もいるが、そこに所属する腕利きの輩でも、徒党を組まないと倒せないというほどの相手である。
そんなモンスターを、たった一撃。しかもビンタで吹き飛ばしたのだから信じられないのも無理はない。
「オレってこう見えてもちょっと強いみたいだしさ」
「ちょっとって、そんなわけない! そんな変態みたいな格好してるけど、あなたもしかして高名な武術家とかでしょ!」
「変態って……この格好はしょうがないでしょうに。湖に潜って食糧を獲ってたんだし」
「そもそもこんな森で食糧調達とかがすでにおかしいでしょうが!」
「それを言うなら、君らだって二人だけで来てるでしょうが」
「う……」
それを言われたら反論できないようで言葉に詰まっている。
彼女たちの服装を改めて確認。
「その黒ローブは確か……【リンドブルム王国】にある学園の生徒が着込むやつだよな。つまり君たちは学生だろ? そんな力量で、この森に来るのは頂けないなぁ」
「っ!?」
「もしオレがいなきゃ、君たちは死んでたかもしれない。それを理解してる?」
「「…………」」
蒼髪の子だけでなく、橙色の髪の子も表情を強張らせる。
「授業でもこの森について学ばなかった? それとも自分たちなら大丈夫だとか思ったとか? 慢心は命を縮めるぞ?」
厳しい言い方だが、この世界の真理でもあるのだ。
「学を習っても、それを活かせないと意味がない。今後は……」
「うぅぅ……」
恨めしそうに涙目で睨んでくる。
「いや……そんなに睨まれても」
「……ってるもん」
「はい?」
「分かってるもん! こうなったのも全部アタシのせいだって分かってるもん! ごめんなさいっ! ふえぇぇぇぇぇんっ!」
「な、泣かないでよぉ、ランテェ……あぁぁぁぁぁんっ!?」
…………どういう状況?
危険区域に指定されている森の中で、か弱き二人の少女が大声を上げて泣き、それを見守っているのは赤パンツ一丁の少年。
(……ど、どうしよう……?)
変態少年が二人の少女を泣かせている。そんな図式が成り立ってしまった瞬間であった。
何だか彼女たちの視線を受けて、ここはボケなければという考えが働いたから、「もう、エッチね」と冗談めかして言うと、強烈なツッコミが頭上からきた。
さすがにここまでのツッコミは人としてどうだろうかと思って、少女たちに注意をしようとしたが、そのツッコミは彼女たちではなく、モンスターのエレファントライナーだということに気づく。
相手はペットモンスターにはできない、野生力の強い凶暴なモンスターだ。
この【アルトーゴの森】に棲息していたとは驚きだったが、目の前の現状から察するに、どうやら二人の少女はエレファントライナーに襲われそうになっていたようだ。
人嫌いに近い志向を持つリントではあるが、命を救う立場にある者として、むざむざと見過ごすわけにはいかない。ましてやそこにモンスターが関わっているならば。
故にエレファントライナーをここから退場させる方が良いと判断した。
殺すのはあまりに一方的過ぎると思ったので、ビンタ一発でどこかへ行ってもらう方向を選んだ。
「――まったく、人が大漁気分に酔いしれてたのにさ~。おっと、そうだったそうだった」
湖に近づいて、湖から顔を覗かせている紐を引っ張る。
紐の先には大きなネットがあり、そこには大量の魚が捕らえられてあった。
「よしよし、今の騒ぎでも大人しくしててくれたんだな。偉い偉い。これだけ獲れればニュウも満足だろう」
あとは着替えて帰るだけだ。
(あ、そういやあの子たちは……)
いまだに放心状態の二人の少女。
「…………よし、大丈夫そうだ」
そう判断し、その場から離れようとしたところ、
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
ちっ、ムリだったか、と思わず溜め息が出た。
リントは声をかけてきた二人の少女のうち、蒼髪の子に顔を向ける。
「えっと……何か?」
「…………い、今のは?」
「はい?」
「だ、だから! 今のは何!」
まったくもって要領を得ない言葉である。
「今の……って?」
「もうそれくらい分かりなさいよね! エレファントライナーを吹き飛ばしたでしょ!」
「まあ……ね」
「何をしたの!」
「……ビンタ?」
「何で疑問形なのよ! ていうか見れば分かるわよ! いや、そうじゃなくて、ただのビンタじゃないでしょうが!」
「? ……ただのビンタだけど?」
「へ?」
「へ?」
リントと少女は互いに小首を傾げて同じ声を漏らす。
「た、ただの……ビンタ?」
「……そうだけど」
「そ、そそそそんなわけないでしょ! だ、だってAランクのモンスターよ! それがただのビンタ……って」
気持ちは分かる。この世界でモンスターは、その稀少度や凶暴指数などによりランク分けされており、下からF・E・D・C・B・A・S・SSとされている。
Aランクのモンスターは、ほぼ人には懐かないとされており、その力も並みの者が束になっても敵わないほど強力だ。
人に仇名すモンスターを討伐する〝ギルド〟という存在もいるが、そこに所属する腕利きの輩でも、徒党を組まないと倒せないというほどの相手である。
そんなモンスターを、たった一撃。しかもビンタで吹き飛ばしたのだから信じられないのも無理はない。
「オレってこう見えてもちょっと強いみたいだしさ」
「ちょっとって、そんなわけない! そんな変態みたいな格好してるけど、あなたもしかして高名な武術家とかでしょ!」
「変態って……この格好はしょうがないでしょうに。湖に潜って食糧を獲ってたんだし」
「そもそもこんな森で食糧調達とかがすでにおかしいでしょうが!」
「それを言うなら、君らだって二人だけで来てるでしょうが」
「う……」
それを言われたら反論できないようで言葉に詰まっている。
彼女たちの服装を改めて確認。
「その黒ローブは確か……【リンドブルム王国】にある学園の生徒が着込むやつだよな。つまり君たちは学生だろ? そんな力量で、この森に来るのは頂けないなぁ」
「っ!?」
「もしオレがいなきゃ、君たちは死んでたかもしれない。それを理解してる?」
「「…………」」
蒼髪の子だけでなく、橙色の髪の子も表情を強張らせる。
「授業でもこの森について学ばなかった? それとも自分たちなら大丈夫だとか思ったとか? 慢心は命を縮めるぞ?」
厳しい言い方だが、この世界の真理でもあるのだ。
「学を習っても、それを活かせないと意味がない。今後は……」
「うぅぅ……」
恨めしそうに涙目で睨んでくる。
「いや……そんなに睨まれても」
「……ってるもん」
「はい?」
「分かってるもん! こうなったのも全部アタシのせいだって分かってるもん! ごめんなさいっ! ふえぇぇぇぇぇんっ!」
「な、泣かないでよぉ、ランテェ……あぁぁぁぁぁんっ!?」
…………どういう状況?
危険区域に指定されている森の中で、か弱き二人の少女が大声を上げて泣き、それを見守っているのは赤パンツ一丁の少年。
(……ど、どうしよう……?)
変態少年が二人の少女を泣かせている。そんな図式が成り立ってしまった瞬間であった。
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