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「―――はあ? この子がオレの知り合い?」
「うんそう。だってその子がそう言ってたにょ~」

 リョフから何故ここにやって来たのか理由を聞くと、何でもこの幼女がイッキュウイッキュウと言いながらオレのところに連れて行けとリョフに頼んだのだそうだ。

「ちょっと待て。オレは本当にこの子のことなんか知らないぞ?」
「そうなの? ちゃ~んと《鑑定》して確かめた?」
「え? あ、そっか」

 あまりの出来事のとてつもなさに驚いて、初動でするべきことをすっかり忘れてしまっていた。
《鑑定士》の力で、眠っている幼女の顔を見つめる。すると――。

「――――――へ?」

 とんでもない事実が発覚した。

「ん……んん? ああ…………マジで?」
「どうしたんですか? やはり知り合いの子だったんですか?」
「……いや、もし本人なら、ポアムもヒノデも知ってる人物だぞ、コイツ」
「「はい?」」

 可愛らしく二人で小首を傾げる。

「だってコイツ―――――名前がメルヴィスなんだもん」
「「……………………?」」

 うん、当然そんな感じになるよね。けど本当に名前も職業も、レベルでさえもメルヴィスのまんまなのだ。

「えと……それじゃこの子はメルヴィスさんで、一週間前に会ったメルヴィスさんもメルヴィスさんで、大人なメルヴィスさんは実は子供で……あれ?」
「お、おおおおお落ち着くでござるよ! こ、こ、こういう時はれ、れ、冷静に事を運ぶべきで、と、と、とりあえずは深呼吸を百回ほどして……」
「お前も落ち着けヒノデ。そんなに深呼吸したら逆にしんどくなると思うし。……はぁ、どういうこった? 何かのスキルや魔法の効果か、リョフ?」
「えっとねぇ~、Dって人の仕業だにょ~」
「んなっ!? Dだってっ!?」

 ポアムたちはキョトンとしているが、ここでその名が出てくるとは……。

「何かさ、強い奴いないかな~って探してたら、二人が戦ってたんだよねぇ」
「二人って、メルヴィスとDって奴がか?」
「そうそう。んで、何か技をくらって、その子が倒れた」
「技…………鑑定しても状態以上にはなってないようだぞ」

 普通、何からのスキルや魔法効果によって身長が縮んだりしているのなら、状態以上として鑑定できるはずなのだが、見た目的には健康体なのである。

「詳しいことは分かんないにょ~。けど何らかのスキルか魔法なのは確かだにょ~」
「……そっか。けどだったら何で状態異常にならねえんだ? 身長を小さくさせる魔法やスキル、聞いたことあるか?」
「んや、聞いたことないにょ~」
「……ユニークスキルってことか? もしくはユニーク魔法……?」

 RONにおいて、個人にしか発現しないユニーク系の能力。発現する方法もまばらで、ほとんどが運によって成されるもの。

「……まあ、とにかく。メルヴィスを助けてくれてありがとな、リョフ。何か礼をしなきゃなんねえんだろうけど……」
「にょふふ~、別にいいにょ~。でもぉ……そ・の・か・わ・り~」

 ニヤニヤしながら近づいてきやがるし、とてつもない嫌な予感が全力疾走してやがる。

「ボクとぉ……勝負だにょ~っ!」

 ……やっぱりそうなった。

「――お待ちくだされっ!」

 その時、二人の会話に割り込んできた存在がいた。ヒノデだ。

「どうか、リョフ殿! 拙者と刀を交えて頂きたいっ!」
「にょ? ……誰、君?」
「お、覚えてないのでござるかっ!?」

 ショックを受けたようにヒノデはあんぐりと口を開けたまま固まる。

「あ~ヒノデ。コイツは人の顔とか覚えんの不得意だから。バカだしな」
「ぶぅ~! イックウに言われたくないにょ~! イックウだって猪突猛進バカだにょ!」
「なっ! お前に言われたくねえよっ! ずっと前だって、あんだけリーダーが前に出るなって言ったのに、お前一人で突っ走っただろうがっ!」
「……あん時はアレだよ。こうもう一人のボクが突然目覚めて勝手に身体を……」
「そんな厨二病設定なんかどうでもいいんだよっ! とにかく、オレはお前よりはマシだぞ!」
「にょふふ~、どっこいどっこいってリーダーも言ってたにょ~」
「くっ……くそぉ、何でコイツなんかと一緒なんだぁ……」

 恨むぞ、リーダー……。
 ちなみにリーダーとは、RON時代の時に、一時的に大型クエストを攻略するために四人組を作った時の司令塔のことである。

 頭が切れて実力も高い頼りになる人物だった。RONで誰よりも最初に100レベルに到達した存在でもある。

「と、とにかくヒノデ。コイツは相手が強くなきゃ名前も顔も憶えねーから」
「そ、そうだったのでござるな……うぅ、悔しいでござるぅ。はっ、まさか我が師――オウカ師父のことも憶えてないのでござるかっ!?」
「んにょ? オウカ? オウカ……オウカ……おお! 確か少し前に一騎打ちしたオッチャンの名前だったにょ!」

 どうやらヒノデの師匠のことは憶えていたらしい。
 けどリョフが憶えてるってことは、やはりヒノデの師匠は相当の腕だったということだな。そうでなかったら、コイツが憶えてるわけがねーし。

「ほ、本当に師父のことを憶えているのでござるか!」
「うん、憶えてるってば。……あ! そういやぁ、そん時に小っちゃい子がいたけどぉ……おお! 何か君に似てたような気がするにょ!」
「似てたんじゃなく、本人だよ、リョフ」
「ほへ? そうなの?」
「そうでござる!」
「ふぅん……」

 ジ~ッとリョフがヒノデを観察するように見つめる。そして……。


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