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それからオレは、『ピコット族』の集落から、北に位置する【ホーネット山脈】まで行くことになった。
集落を離れる時に、フォノたちからまた来てくれと見送られ、ニトからは二度と来るなと辛辣なことを言われてしまった。
山脈の近くにも集落があったので、そこでオレたちは情報収集し、それから満足気なメルヴィスとともに【楽あり亭】へと戻ったのだ。
「――あ、お帰りなさい、イックウ様」
「殿! お待ちしておりました!」
「おお、ポアムにヒノデ! どうやら気力体力も回復したようだな!」
もう夕方近くなので、朝に行った修業の疲労も全快したみたいだ。
「んじゃ、さっそく夜の修業すっか!」
「「はいっ!」」
打てば響くような返事をする二人。何と気持ちの良いことだろうか。
こんなに真っ直ぐに反応を返してくれるのは、教えている側としても心が躍る。
朝と同じ草原まで行き、朝と同じ修業をするのだが、今回は二人と比べて少しレベルの低いモンスターと、限界を超えるまでひたすた戦ってもらう。
戦闘経験を数多くこなすためだ。レベル上げというのは、こういう地道な手法がやはり必要になってくる。
ポアムとヒノデが、仮想空間でモンスターたちと激闘を繰り返している間、オレは数時間前のことを思い出していた。
メルヴィスと一緒に【ホーネット山脈】まで行った時のことだ。そこでもやはり調べてみると、赤ローブ――“D”らしき人物の情報を聞くことができた。
これでもうモンスターを召喚しているのが“D”であることは間違いない。そして恐らくは、何らかのクエストをしているということも。
オレは地図画面を表示させながら、モンスターが出現したとされる場所をジッと見つめていた。
ん~何か規則性とかねーのかなぁ。
もしかしたら次に奴が出没する場所を特定できるかもしれないと思い、これまで“D”が現れたであろう場所を見てみるが……。
「………………さっぱり分からん」
どう考えてもバラバラのように見えるのだ。集落の近くであったり、山や森の中、果ては浮島の上だったりしている。何とも規則性があるとは思えない。
「あ! こうやって線で結んだら何かが………………出ませんね、うん」
そう上手くいかなかったみたいだ。
どうも分からない。一体どんなクエストのために、“D”はこんなことをしているのあろうか。
正直にいえばどうでもいい。これはあくまでもメルヴィスから嘆願されたからやっているだけ。できればあの赤ローブとはこれ以上関わり合いたくないというのが本音だ。
しかし一度引き受けてしまった以上は、それはクエストと同じ。決して手を抜けない。それがゲーム時からオレが持ち続けてきたポリシーでもある。
「……そういや、メルヴィスはちゃんと報告しに戻ったのかね~」
彼女とは【ホーネット山脈】で調査した後に別れた。また次の定休日に顔を出すということで。その間に、一度国に帰って情報を整理した後に、今後の対策を立ててやって来るとのこと。
彼女も本当にマメな人柄である。だからこそ魅力があり、オレもつい手を貸したくなるのだが。
ただ気になるのは、オレと同じように考えなしに行動してしまうきらいがあるということ。分不相応な事象に首を突っ込んでしまう。それはゲームをやっていたオレもよくやっていたことだが、オレの場合は死んでもすぐに復活していた。
だがここは現実の世界と何ら変わりないシステムに支配されている。つまり一度死ねば復活などできないはず。だからこそ、できるだけ慎重に行動しなければならない。
相手が強者ならなおさら。
しかしメルヴィスは、相手が自分よりも明らかに格上の存在でも、任務のためなら突き進んでしまう危うさがありそうだ。
そういう人物は長生きできないだろう。せめて周りに部下や友などがいれば、その者たちの命を考慮して思い止まってくれる可能性は増すが、もし一人でそのような場面に出くわすと、彼女の性格では突っ走ってしまうかもしれない。
……頼むから、無理だけはするなよ、メルヴィス。
彼女のことは友達だと思っている。できれば彼女には夢を――世界一の騎士になるという夢を叶えてほしい。
だから無茶はいいが、無理だけはしてほしくない。命を大切にしてほしいのだ。
そう思い、オレは星が浮かぶ空をぼんやりと眺めていた。
集落を離れる時に、フォノたちからまた来てくれと見送られ、ニトからは二度と来るなと辛辣なことを言われてしまった。
山脈の近くにも集落があったので、そこでオレたちは情報収集し、それから満足気なメルヴィスとともに【楽あり亭】へと戻ったのだ。
「――あ、お帰りなさい、イックウ様」
「殿! お待ちしておりました!」
「おお、ポアムにヒノデ! どうやら気力体力も回復したようだな!」
もう夕方近くなので、朝に行った修業の疲労も全快したみたいだ。
「んじゃ、さっそく夜の修業すっか!」
「「はいっ!」」
打てば響くような返事をする二人。何と気持ちの良いことだろうか。
こんなに真っ直ぐに反応を返してくれるのは、教えている側としても心が躍る。
朝と同じ草原まで行き、朝と同じ修業をするのだが、今回は二人と比べて少しレベルの低いモンスターと、限界を超えるまでひたすた戦ってもらう。
戦闘経験を数多くこなすためだ。レベル上げというのは、こういう地道な手法がやはり必要になってくる。
ポアムとヒノデが、仮想空間でモンスターたちと激闘を繰り返している間、オレは数時間前のことを思い出していた。
メルヴィスと一緒に【ホーネット山脈】まで行った時のことだ。そこでもやはり調べてみると、赤ローブ――“D”らしき人物の情報を聞くことができた。
これでもうモンスターを召喚しているのが“D”であることは間違いない。そして恐らくは、何らかのクエストをしているということも。
オレは地図画面を表示させながら、モンスターが出現したとされる場所をジッと見つめていた。
ん~何か規則性とかねーのかなぁ。
もしかしたら次に奴が出没する場所を特定できるかもしれないと思い、これまで“D”が現れたであろう場所を見てみるが……。
「………………さっぱり分からん」
どう考えてもバラバラのように見えるのだ。集落の近くであったり、山や森の中、果ては浮島の上だったりしている。何とも規則性があるとは思えない。
「あ! こうやって線で結んだら何かが………………出ませんね、うん」
そう上手くいかなかったみたいだ。
どうも分からない。一体どんなクエストのために、“D”はこんなことをしているのあろうか。
正直にいえばどうでもいい。これはあくまでもメルヴィスから嘆願されたからやっているだけ。できればあの赤ローブとはこれ以上関わり合いたくないというのが本音だ。
しかし一度引き受けてしまった以上は、それはクエストと同じ。決して手を抜けない。それがゲーム時からオレが持ち続けてきたポリシーでもある。
「……そういや、メルヴィスはちゃんと報告しに戻ったのかね~」
彼女とは【ホーネット山脈】で調査した後に別れた。また次の定休日に顔を出すということで。その間に、一度国に帰って情報を整理した後に、今後の対策を立ててやって来るとのこと。
彼女も本当にマメな人柄である。だからこそ魅力があり、オレもつい手を貸したくなるのだが。
ただ気になるのは、オレと同じように考えなしに行動してしまうきらいがあるということ。分不相応な事象に首を突っ込んでしまう。それはゲームをやっていたオレもよくやっていたことだが、オレの場合は死んでもすぐに復活していた。
だがここは現実の世界と何ら変わりないシステムに支配されている。つまり一度死ねば復活などできないはず。だからこそ、できるだけ慎重に行動しなければならない。
相手が強者ならなおさら。
しかしメルヴィスは、相手が自分よりも明らかに格上の存在でも、任務のためなら突き進んでしまう危うさがありそうだ。
そういう人物は長生きできないだろう。せめて周りに部下や友などがいれば、その者たちの命を考慮して思い止まってくれる可能性は増すが、もし一人でそのような場面に出くわすと、彼女の性格では突っ走ってしまうかもしれない。
……頼むから、無理だけはするなよ、メルヴィス。
彼女のことは友達だと思っている。できれば彼女には夢を――世界一の騎士になるという夢を叶えてほしい。
だから無茶はいいが、無理だけはしてほしくない。命を大切にしてほしいのだ。
そう思い、オレは星が浮かぶ空をぼんやりと眺めていた。
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