71 / 77
70
しおりを挟む
――――“ここでもなかったか”――
「……? ここでもなかった?」
「はい。どうやら何かを探しているようですな」
「みてーだな。けど一体何を……?」
何かのクエストでもやっているのだろうか。
いや、ちょっと待てよ。この世界に“リョフ”がいる。もし奴がオレと同じ立場だったとしたら、もしかしたらあの赤ローブ――“D”って奴ももしかしたら……。
名前は聞いたことがない。
だがもしオレや“リョフ”と同じ、RONをやっていた側の人間だったとしたら?
そうだよな。本当はその可能性が結構高いんだよ。
聞いたことも見たこともない名前。だが名前だけで違和感はあった。
オレがやっていたRONでは、プレイヤーの他にNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)という存在がいて、それはゲームの中だけに存在するゲームキャラのこと。
そしてNPCには、少なくとも一文字で、しかもアルファベットのみの名前など存在していなかった。
プレイヤーならともかく。……そう、プレイヤーなら……だ。
プレイヤーなら好きな名前をつけることができる。アルファベット一文字の名前もつけようと思えばつけられるのだ。
「……なあ、メルヴィス。もしその赤ローブが、何らかのクエストをやっている最中だったとしたらどうだ? もしくは特別なクエストを発生させるための条件を整えている最中でもいいけど」
「そ、そのような奇妙なクエストなど存在するのですかな?」
確かに、ゲーム時では奇妙なクエストはたくさんあった。
ある一定の時期に、十人のパーティを組んで、ある場所に訪れなければ発生しないクエストがあったり、自分の持ち金を八つある遺跡に均等に捨てることで発生するクエストなんかもあった。
もしかしたら奴は、そういう類のクエストを発生させるために行動しているのかもしれない。あくまでも推測でしかないのだが。
「けどオレもいろいろクエストはやってきたけど、モンスターをあちこちに召喚させるクエストなんて聞いたこともねーしな。大体それって《召喚士》だけしかできねーし」
無論《召喚士》特有のクエストもある。それを専用クエストと呼ぶのだが、もしかしたらそれなのかもしれない。
「ここでもなかった……か。ということは、奴はまだクエストの全容を把握できてないのかもな」
「それはどういうことですかな?」
「もしクエストの全容を把握してるなら、わざわざ間違いの場所に現れるわけねーだろ?」
「あ、確かに」
「けど奴はまるで手探り状態みたいにあちこちに出没してる。つーことは、モンスターを召喚させるっていう方法は分かってるけど、それをどこでするか正しい場所を知らないってことだと思う」
「なるほど。赤ローブはそれを探し続けているというわけですね」
「……けど何で【アビッソの穴】にいたんだろ?」
「え? それは……そこでもモンスターを召喚させて試してみたのでは?」
本当にそうだろうか。【アビッソの穴】に関するクエストは、ゲーム時にすべてやり尽くしたはずだ。あそこには専用のクエストが発生することなどなかったはず。
やっぱりゲームと今じゃ、いろいろ食い違いがあるってことか……?
「もしくはあれではないですか、【アビッソの穴】の最奥部で、何かクエストになるようなものを発見したとか」
いや、少なくとも……違う。あくまでもオレのはゲーム知識だ。それがすべてじゃない。
メルヴィスの言う通り、“D”が【アビッソの穴】の最奥部で、クエストを得た可能性だってある。もしくはクエストの発生条件を記した何かを得た……とか。
攻略難易度が非常に高いダンジョンで得たクエストならば、それはゲーマーならばチャレンジしてみたいと思う。
しかしそれほどのクエストが《召喚士》だけに許された専用クエストだということが腑に落ちない。
一度【アビッソの穴】の最奥部に行けば、謎は解明できそうな気がする。しかし……。
…………いや、オレそこまでのめり込む気はねーしな。
今はもうクエストよりも店を切り盛りする方が大事になっているし。
ただそのことをメルヴィスに言えば、彼女は是が非でも【アビッソの穴】を攻略しようと動くかもしれない。それは自殺行為だ。
まあ彼女もあそこの恐ろしさを分かっているだろうから、いきなり挑むなんてことはしないと思うが、確実ではないので教えないことにしておく。
「とにかく、大分進展したんじゃねーの?」
「え? あ、はいそうですね。イックウ殿のお蔭で、例のモンスターたちと、赤ローブの繋がりが強くなりました」
「あとは、他の場所も調べてみて、そこにも赤ローブがいないか聞いてみることだな。そこでももし見つかっているなら、それはもう確実だ」
「そうですね。さっそく我が部隊に、細かな情報収集に向かわせてみます」
「……え? メルヴィスは行かないの?」
「……その、もうお役目御免になったから安心したって顔は何ですかな?」
「いや、だってこれ以上は……」
「まだこの近くでもう一件、モンスターが出現した場所がありますので、お付き合い願いますよ?」
「ええ~」
ちょーめんどくさい。
「そんな……こんなか弱き乙女を一人で、あの赤ローブがいるかもしれないところへ向かわせるのですか? うぅ……酷いです、イックウ殿」
完全に嘘泣きモードだ。これだから女は怖い。
しかしそれを見ていた女性群は。
「ああ、お兄ちゃん、お姉ちゃんを泣かせちゃダメだよ!」
「そうですね~。女性はもっとやさしく扱ってもらいたいですね~」
フォノとレイシーを味方につけやがった。
こうなっては断れば益々立場が悪くなる。
「…………はぁ、分かったよ。けど夜の修業までだからな?」
「感謝致しますぞ、イックウ殿!」
コイツ、やっぱり嘘泣きやないかぁーっ!
思わず関西弁でツッコんでしまった。
「……? ここでもなかった?」
「はい。どうやら何かを探しているようですな」
「みてーだな。けど一体何を……?」
何かのクエストでもやっているのだろうか。
いや、ちょっと待てよ。この世界に“リョフ”がいる。もし奴がオレと同じ立場だったとしたら、もしかしたらあの赤ローブ――“D”って奴ももしかしたら……。
名前は聞いたことがない。
だがもしオレや“リョフ”と同じ、RONをやっていた側の人間だったとしたら?
そうだよな。本当はその可能性が結構高いんだよ。
聞いたことも見たこともない名前。だが名前だけで違和感はあった。
オレがやっていたRONでは、プレイヤーの他にNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)という存在がいて、それはゲームの中だけに存在するゲームキャラのこと。
そしてNPCには、少なくとも一文字で、しかもアルファベットのみの名前など存在していなかった。
プレイヤーならともかく。……そう、プレイヤーなら……だ。
プレイヤーなら好きな名前をつけることができる。アルファベット一文字の名前もつけようと思えばつけられるのだ。
「……なあ、メルヴィス。もしその赤ローブが、何らかのクエストをやっている最中だったとしたらどうだ? もしくは特別なクエストを発生させるための条件を整えている最中でもいいけど」
「そ、そのような奇妙なクエストなど存在するのですかな?」
確かに、ゲーム時では奇妙なクエストはたくさんあった。
ある一定の時期に、十人のパーティを組んで、ある場所に訪れなければ発生しないクエストがあったり、自分の持ち金を八つある遺跡に均等に捨てることで発生するクエストなんかもあった。
もしかしたら奴は、そういう類のクエストを発生させるために行動しているのかもしれない。あくまでも推測でしかないのだが。
「けどオレもいろいろクエストはやってきたけど、モンスターをあちこちに召喚させるクエストなんて聞いたこともねーしな。大体それって《召喚士》だけしかできねーし」
無論《召喚士》特有のクエストもある。それを専用クエストと呼ぶのだが、もしかしたらそれなのかもしれない。
「ここでもなかった……か。ということは、奴はまだクエストの全容を把握できてないのかもな」
「それはどういうことですかな?」
「もしクエストの全容を把握してるなら、わざわざ間違いの場所に現れるわけねーだろ?」
「あ、確かに」
「けど奴はまるで手探り状態みたいにあちこちに出没してる。つーことは、モンスターを召喚させるっていう方法は分かってるけど、それをどこでするか正しい場所を知らないってことだと思う」
「なるほど。赤ローブはそれを探し続けているというわけですね」
「……けど何で【アビッソの穴】にいたんだろ?」
「え? それは……そこでもモンスターを召喚させて試してみたのでは?」
本当にそうだろうか。【アビッソの穴】に関するクエストは、ゲーム時にすべてやり尽くしたはずだ。あそこには専用のクエストが発生することなどなかったはず。
やっぱりゲームと今じゃ、いろいろ食い違いがあるってことか……?
「もしくはあれではないですか、【アビッソの穴】の最奥部で、何かクエストになるようなものを発見したとか」
いや、少なくとも……違う。あくまでもオレのはゲーム知識だ。それがすべてじゃない。
メルヴィスの言う通り、“D”が【アビッソの穴】の最奥部で、クエストを得た可能性だってある。もしくはクエストの発生条件を記した何かを得た……とか。
攻略難易度が非常に高いダンジョンで得たクエストならば、それはゲーマーならばチャレンジしてみたいと思う。
しかしそれほどのクエストが《召喚士》だけに許された専用クエストだということが腑に落ちない。
一度【アビッソの穴】の最奥部に行けば、謎は解明できそうな気がする。しかし……。
…………いや、オレそこまでのめり込む気はねーしな。
今はもうクエストよりも店を切り盛りする方が大事になっているし。
ただそのことをメルヴィスに言えば、彼女は是が非でも【アビッソの穴】を攻略しようと動くかもしれない。それは自殺行為だ。
まあ彼女もあそこの恐ろしさを分かっているだろうから、いきなり挑むなんてことはしないと思うが、確実ではないので教えないことにしておく。
「とにかく、大分進展したんじゃねーの?」
「え? あ、はいそうですね。イックウ殿のお蔭で、例のモンスターたちと、赤ローブの繋がりが強くなりました」
「あとは、他の場所も調べてみて、そこにも赤ローブがいないか聞いてみることだな。そこでももし見つかっているなら、それはもう確実だ」
「そうですね。さっそく我が部隊に、細かな情報収集に向かわせてみます」
「……え? メルヴィスは行かないの?」
「……その、もうお役目御免になったから安心したって顔は何ですかな?」
「いや、だってこれ以上は……」
「まだこの近くでもう一件、モンスターが出現した場所がありますので、お付き合い願いますよ?」
「ええ~」
ちょーめんどくさい。
「そんな……こんなか弱き乙女を一人で、あの赤ローブがいるかもしれないところへ向かわせるのですか? うぅ……酷いです、イックウ殿」
完全に嘘泣きモードだ。これだから女は怖い。
しかしそれを見ていた女性群は。
「ああ、お兄ちゃん、お姉ちゃんを泣かせちゃダメだよ!」
「そうですね~。女性はもっとやさしく扱ってもらいたいですね~」
フォノとレイシーを味方につけやがった。
こうなっては断れば益々立場が悪くなる。
「…………はぁ、分かったよ。けど夜の修業までだからな?」
「感謝致しますぞ、イックウ殿!」
コイツ、やっぱり嘘泣きやないかぁーっ!
思わず関西弁でツッコんでしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
562
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる