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「――ああ、見たよ」
「本当ですかな!?」

 ミロットさんと会って話を聞いてみると、フォノの言った通り、赤ローブを見たとのこと。当然メルヴィスは食い入るように話を聞いている。
 正直あまり興味がないオレとしてはどうでもいい感じで、フォノと雑談をしていた。

「なあフォノ、フォノは普段どんな遊びしてるんだ?」
「え~っとねぇ、友達とかくれんぼしたり、追いかけっこしたり……あ、あとは飛び競争してるぅ!」
「飛び競争?」
「うん! えっと、たとえばあそこにある木に、誰が一番速く飛んでいけるか勝負するの!」

 つまりは短距離走ってことらしい。ただし飛翔バージョン。

「へぇ、誰が一番速いんだ?」

 そう尋ねた瞬間――

「――おい、お前!」

 後ろから声が聞こえたので振り向くと、そこには三人の子供たちがいた。皆、フォノと同じ年頃くらいだろう。
 しかし何故だろうか、その真ん中に立っている男の子に睨みつけらている。

 ……あれ? 何か悪いことしたっけ?

「えっと……何?」
「何じゃねえよ! お前だな、フォノをたぶらかしてるって奴は!」
「……はい?」
「ちょっと、ニト! いきなり何なの!」

 フォノが一歩前に出て、男の子に言葉をぶつける。

「フォノ、早くこっちに来い。そんな子供と手を握ってヘラヘラしてる変態と一緒にいたらダメだ!」

 確かにここに来る間も、そして今もフォノとは手を握っているが……え? オレってヘラヘラしてたの?
 もしそれが本当なら確かに変態度は信じられないくらい高くなる……が。

「オレ、別にヘラヘラなんかしてねーぞ?」
「ウソつけ! フォノの手なんか握りやがって! どうせ助けたっていうのも、ジサクジエンとかいうやつだろう!」

 おお、難しい言葉を知っているお子様だなぁ。しかし自作自演て……さすがに子供を沼に沈めるなんていう悪逆非道なことはできねーよ。

 それにしても……なるほど、とオレは彼を見て思う。

 コイツ、フォノのことが好きなんだなぁ。

 だからこそオレがフォノと仲良くしているのが気に食わないのだろう。いるいる、こんな子。何だかすっごく微笑ましい気分だ。

「な、何ヘラヘラしてんだよ! 気持ち悪いな!」

 おっと、いけない。つい笑みを浮かべてしまっていたようだ。これでは勘違いされても仕方ないかもしれない。

「もう! いい加減にしてよ! お兄ちゃんの悪口言うニトなんて大っ嫌い!」
「んなっ!? べ、べべべべべ別にお前に好かれたくてやってるわけじゃねえもん!」

 いやいや、好かれたくてやってるんでしょうが。

「ただそいつが変態だから注意してるだけだし!」

 変態じゃないけどね。

 けどフォノに大嫌いと言われて、明らかにバツが悪そうな感じになっているニトが、何だか可哀相になってきたので、

「あ~ちょっといいかな?」
「な、何だよ変態!」
「うん、変態じゃないけどね。えと、紹介してもらえる、フォノ?」

 さっと彼女から手を離してから、フォノに頼んだ。フォノは「あ……」と少し不満そうにしたが、オレの言うことを聞いて紹介してくれる。

「えとね、花の髪飾りをつけてる子は――レイシーで」

 ふむふむ、左側にいて控えめな感じで立っている女の子だ。髪には確かにピンクの花を模した髪飾りをしている。

「それで、身長が高い子はトラム」

 その中で一番身長が高い男の子。細身だが、人懐っこそうな笑顔を浮かべている。

「真ん中のは、ニトだよ」
「オッケー。オレはイックウだ。よろしくな」
「「よろしくお願いしまーす」」

 と、レイシーとトラムは言ってくれたが、

「フン、何で変態なんかとよろしくしなきゃなんないんだよ!」

 相変わらず彼からは当たりがキツイ。まあ、気持ちは分からないでもないけど。
 だからオレはサッと顔を彼の耳に近付けて、

「安心しなって。お前の好きな子に手を出したりなんかしねーから」
「んななななっ!?」

 面白いように一瞬で真っ赤な顔をしたニトが、ザザザッと電光石火ばりに後ろへ下がる。
 オレがニヤニヤしていると、

「ん? どうしたの、ニト?」
「な、なななな何でもにゃいっ!」

 フォノに近づかれたせいか、益々動揺するニト。

 うわぁ、面白えー。これぞ小さな青春っていうのかもなぁ。

 きっとこの子たちが成長していき、そしていずれドラマになりそうな恋愛を生んでいくのだろうな~と思っていると、クイッと服を引っ張られた。
 見ると、トラムという子が見上げてきている。

「あ、あの! そ、外の世界のこと、聞いてもいいッスか!」
「……は? 外の世界?」
「はいッス! 自分、いつか外に出たいって思ってるんです!」
「だよね~。トラムは“冒険者”に憧れてるからね~」

 間延びした感じで言うのはレイシーである。

「へぇ、“冒険者”になりたいのか?」
「はいッス!」
「んじゃ、オレの後輩になるってわけだ」
「おお~! やっぱりあなたは“冒険者”なんスね!」
「おうよ! それも世界を股にかけた超~“冒険者”だぜ!」
「おお~っ!?」

 憧れの眼差しがオレを貫く。そんな目で見つめられるのは何だか心地好い。

「フ、フン! “冒険者”なんか、大したことねえよ!」
「そんなことないッスよ、ニト! “冒険者”は凶暴なモンスターとも戦うんスよ! 強くなかったらなれない職業なんスから!」
「お、俺の方が強いやい!」
「確かに飛び勝負はいつもニトが一番だしね~」

 レイシーがそう言うと、何かを思いついたようにニヤッとしたニトが、オレに指を突きつけてきた。

「おい! 俺と勝負だ!」
「? 何だよ、急に」
「“冒険者”よりも強いってこと、証明してやる! そして俺が勝ったら、二度とフォノに近づくな!」
「何勝手なこと言ってるの、ニト!」
「うるせえ! 女が男の戦いにでしゃばってくんな!」
「な、何よその言い方ぁ!」

 どうやら一度勝負をしないと治まりそうになさそうである。面倒ではあるけど、“冒険者”を目指すという若者もいることだし、ここで一発“冒険者”というものは目指すべき価値があるんだぞと示すのも先輩の仕事かもしれない。

「……分かった。いいぞ」
「言ったぞ! 後悔すんなよ!」
「あ、その前に、オレが勝ったら何してくれるんだ?」
「フン! そんなことはありえねえけど、もし負けたらふんどし一丁で今日一日過ごしてやる」
「…………それ誰得なんだよ」
「うるせえな! 別に何でもいいだろ! どうせオレが勝つんだから!」
「そうはいかねーよ。男が勝負するって言うなら、きっちりしなきゃな。それは子供でも大人でも変わらねーと思うぞ」
「ぐぬぬぬぬ……!」
「そうだなぁ。だったら勝ったらオレの言うことを何でも一つ聞いてもらう」
「……な、何でも…………………………いいぜ、そのくらい」

 すっごい葛藤があったようだが、それで落ち着いたようだ。


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