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 メルヴィスの呼んだ“空に棲まう者”の背に乗って、あっという間に【ジャクトン湿原】に到着したオレたちは、すぐに例のモンスターについての情報を集めることにした。

「確かこの辺に住んでんのって、『ピコット族』だったよな?」
「そのはずです」

 『ピコット族』――湿原を抜けた先にある集落に住む種族。ドワーフと妖精を合成したような姿をしている種族で、カテゴリー的には『精霊人』に当たる。

「まずはそこに行って情報を……ん?」
「どうされましたか?」
「……沼に沈みそうな奴を発見」
「何ですと!?」

 空から見てみると、眼下にある茶色い沼にバシャバシャと腕を動かしながら、沼に半身を浸からせている人物を発見した。

「た、助けねば!」
「いいよ。オレが行くから」
「え、イックウ殿って――イックウ殿ぉぉぉ!?」

 オレがそのまま真っ直ぐ飛び降りたので、メルヴィスは驚いたようだが問題はない。

 何故ならオレは――――沼に沈むことはないから!

 これぞスキルの一つ、その名も《水面歩行》。水面を歩いている間はずっとMPを消費し続けてしまうが、そんなに長時間いるわけでもないので問題はないのだ。

「――っ!?」

 まあ、当然いきなりオレの出現で、沈みそうになっている人物は唖然としてしまっているわけだが。

「ちょっち、動くなよぉ」

 オレはその人物の両脇に両手を入れて、子供を抱っこするような感覚で持ち上げる。沼のせいで若干重かったが、身体能力的に最強なオレには苦労はなかった。

 持ち上げた人物は、大体身長が六十センチメートルほどだろうか。頭に兜のようなものを被り、耳は尖っていて背中には羽が生えている。
 オレンジ色の髪に大きく穢れを知らなさそうな瞳。ふっくらとした頬。多分、少女。

「君、『ピコット族』でしょ?」
「あ、う、うん……」
「そっか。んと、聞きたいことがあるんだけど、まずはここから出るから、しっかり捕まってな」
「ひゃっ!」

 オレがその子を横抱きにしてから、そのまま跳び上がる。スキル《跳躍》でかなりの高さまで跳ぶことができるのだ。
 そのまま空に浮かんでいる“空に棲まう者”の背に戻ると、あんぐりと口を開けたままのメルヴィスに対し、

「……ん? 戻ってきたけど?」
「も、も、戻ってきたんだけどではないでしょう! い、いきなり飛び降りるとは!? ここら辺の沼は底なし沼ですぞ! 下手をすれば落下の勢いで、そのまま沈んでしまうということもあったものを!」
「大丈夫だって。見たろ? オレは《水面歩行》のスキル持っているから、沈まないんだ」
「だとしても心臓に悪いですぞ」
「あ~そりゃ悪かった。反省してます」
「まったく、帰ったらポアム殿にこってり絞ってもらいますからな」
「そ、それだけは勘弁してください」

 心底マジで。最近のポアムは、まるでオカンかと思うほど厳しく注意してくるのだ。とはいっても放任主義だった実の母親にはされたことはないので、多分オカンっぽいとしか言えないのだが。

「ところでその子は? 無事ですか?」
「ああ、えっと……君、名前は? オレはイックウで。こっちはメルヴィス」
「あ、その……あたしはフォノ」

 やっぱり女の子のようだ。

「フォノかぁ、でも何であんな場所にいたんだ? 『ピコット族』ならここがどういう場所か分かってるんじゃないのか?」
「う、うん。あたしだって最初は空を飛んでたんだけど、突然沼からモンスターが出てきて。モンスターは別に驚かすつもりはなかったみたいだけど、その時にわたしの羽と接触してそのまま……」
「落ちちゃったってわけか」
「うん……」
「けど何でこんなとこをウロウロ浮かんでたんだ? 何もねーと思うけど」
「あ、そのね……実は前、ここに珍しいモンスターが現れて、一目見てみたいなって思って」
「な~るほど。そういうことか。一つ聞くけど、そのモンスターって、ここじゃ絶対に見れないモンスターってことで合ってる?」
「うん、そうだよ」

 ということは、この子が言っているのは恐らくオレたちが探しているモンスターのことだろう。
 メルヴィスも同じ見解に辿り着いたようで、オレと目を合わせるとコクリと頷きを返した。

「ま、とにかく集落まで送ってくよ。きっと家族が心配してると思うし」
「あ、ありがと。そ、それとね…………助けてくれて、ありがとうございました!」
「いいっていいって。けど今度は一人で来ちゃダメだかんな」
「うん!」

 うん、良い笑顔だ。やっぱり子供は笑っている方がずっといい。間に合って本当に良かった。
 それからオレたちはフォノを連れて、彼女が住む集落へと向かった。

「――フォノッ!?」

 フォノの姿を見て、慌てて駆けつけてくる一人の女性。身長はそう変わらないが、顔立ちには少し老いが見えることから、もしかしたら母親かもしれない。
 その周りにいた他の者たちもホッと息を吐いていた。

「もう! 今までどこに行っていたの! そんなに汚れて!」
「ご、ごめんなさい。 あ、あの実はね、お母さん……」

 やはり母だったようだ。フォノがオレたちのことを説明した。そして母とともにオレたちに近づいてくるフォノ。

「娘の命を救って頂いたようで、この度は真にありがとうございます!」
「いえいえ、気にしないでください。無事で何よりですし」

 そんなに頭を下げられると逆に恐縮してしまう。

「もしよろしかったら、お名前をお聞きしてもよろしいですか? 私はこの子の母――パメラと申します」
「オレはイックウです。こっちはメルヴィス」
「本当に今回のことは……」
「ああもういいですってば。それより、少し話を聞いてもいいですか?」
「は、はい。何でも聞いてください。恩人なのですから」
「で、では。実はですね、今ある調査をしていまして、この近くにここでは生息しないはずのモンスターが現れたという情報を聞き、やってきたんですが」
「ああ、例のモンスターですね」
「知っていますか?」
「はい。よろしかったら家へお越しください。お話はそちらで」
「どうする、メルヴィス?」
「よいではないですか。お言葉に甘えましょう」

 そうしてフォノが住む家へと向かうことになった。



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