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「ふにぃぃぃぃ~っ、負けてしまいましたぁぁ~」
「で、ごじゃりゅぅぅぅ~」
一角ボア(亜種)にこてんぱんにやられ、死亡してしまった二人は、地面に寝転び垂れてしまっていた。その姿は可愛らしくて是非お持ち帰りしたい衝動にかられてしまうが、グッと我慢する。
ポアムはともかく、ヒノデは男の娘なのだから! いや、ポアムにも手を出したら犯罪ですが!
「いやはや、二人とも立派だったぞ。特に連携は見事だった。今回は相手が格上過ぎたということだろう」
メルヴィスは本当に感心しているようで何度も頷きを見せて言葉を二人にかけている。
「メルヴィスの言う通り、よくやったよ。一角ボアの亜種ってのはランクにしてB相当はあるからな。まあ、今のポアムたちには厳しい相手だったってわけだ」
「うぅ……殿ぉ、何故にいきなりそのような強者をぉ……?」
「格上の相手と戦う時にはどうすればいいか学んでほしかったからだ。実際のところ、敵わないと判断したらすぐに撤退を表示してもらいたかったってのが本音だな」
「し、しかしせっかく貴重な経験をさせて頂いているのに逃げるわけにはいかんでござるよぉ」
「その考えは0点だ」
「何と!?」
「敵わない相手に立ち向かう勇気は確かに必要だと思う。でも一番に優先すべきなのは自分の命だろ?」
「「…………」」
「これが仮想空間じゃなかったら、ポアムとヒノデはここで人生を終わらせていたわけだ。それってさ、めちゃくちゃもったいねーと思わねーか? これから二人はもっと強くなれるはずなのに、つまらない意地やプライドなんかで命を落としてその機会を棒に振る。そんなのは勇敢でもなんでもない。ただの無謀だし、オレに言わせりゃバカのやることだ」
とはいってもそれはゲーム内だったらオレも何度も経験あるんだけど。
だがここは現実に死が訪れる世界。だからこそ、彼女たちには生きる選択をしてほしい。
「生きてれば強い奴にリベンジをかますことだってできる。だからもし今後、敵わないと判断したら逃げてほしい。生きることを最優先にしてほしい。だからオレは今回、明らかに格上のモンスターを呼び出した」
「その辺でよいではありませぬか、イックウ殿。ポアム殿たちにも良い教訓になったであろう。まあ、つい先日、自分の過ちで部下を死なそうとしてしまった私が偉そうに言える立場ではないですがな」
メルヴィスもまた、【アビッソの穴】での浅慮な行動を恥じているのだろう。
「ポアム殿やヒノデ殿は、幸運だ。イックウ殿に教えてもらえば、きっと一角の人物になれるであろう」
「メルヴィスさん……」
「メルヴィス殿……」
「もっともっと強くなって、私とも切磋琢磨してほしい。互いに高みを目指そうではないか!」
「「はい!」」
メルヴィスもまた部下を預かる身だからこそ、相手をその気にさせる言い回しが上手い。
「――さて。んじゃ、二人は店に戻っててくれるか?」
「え? イックウ様はどうされるんですか? つまり気になります!」
「オレはメルヴィスのクエストに付き合うから」
「ならわたしも」
「せ、拙者も!」
「おいおい、そんなフラフラの状態じゃ無理だろ、二人とも」
仮想的な死とはいえ、彼女たちの精神力は大幅に削られており、体力はまだ残っているが、数時間の休憩は必要な身体となってしまっている。
「夕方の修業までには帰ってくるから、それまで身体を休めておくこと、いいな?」
「「……分かりました(でござる)」」
渋々二人の了承を得られたところで、
「んじゃ、行くか」
「分かり申した」
メルヴィスと二人で、例のクエストを行うことにした。
「とは言ったものの、何をすればいいのか教えてくれ」
ポアムたちと別れたオレとメルヴィスは、どことも知れぬところへ歩きながら会話を開始した。
「ふむ。我が王は、“リョフ”を欲しがっている。できればコンタクトを取りたいのだが、その居場所は分かりませぬな?」
「ああ」
「とりあえずは例のモンスターが現れた場所というところに行ってみようと思います」
「なるほど。こっから近いのかな?」
「少し遠いですね、ですからこれを使います」
彼女が懐から取り出したのは五つの鈴がついた楽器みたいなもの。
「へぇ、《ドライブベル》じゃん」
《ドライブベル》――それを鳴らすと、“空に棲まう者”を呼び寄せることができる代物。
チリンチリンと彼女がそれを鳴らせる。すると空からバサバサッと翼をはためかせながら、巨大な鳥が姿を現した。全身が紅色の羽毛で覆われており、鋭い嘴と目がカッコ良い。
体長は翼を広げると十メートル以上はあるだろう。
「それ手に入れるには結構苦労したろ? Sランクのクエストだったと思うけど」
「はい。今ではかなり重宝しております。ご存知ということは、やはりもうお持ちで?」
「まーね」
「さすがはイックウ殿。ですが二人くらい乗っても平気なので、一緒にどうぞ」
促されて、“空に棲まう者”の背に乗っていく。
そのまま空に浮かぶと、
「では行きますぞ!」
モンスターが現れたという場所へ目指して飛んでいく。
「ひゅ~! 風が気持ち良いなぁ」
「ですね。眺めも最高ですし」
彼女の言う通り、眼下に広がるのは広大な自然が生んだ大地。無論街や村などもあるが、日本と比べても明らかに自然の割合の方が多い。
「それで、向かうのはどこなんだ?」
「ここから二十キロほど東に行った【ジャクトン湿原】にも、そこに生息するはずのないモンスターが出現例が観測されています。まずはそちらに向かいます」
【ジャクトン湿原】かぁ……。あそこは周りを山に囲まれている盆地でもあったはず。それに湿原の名に相応しく、湿気が高くジメジメしていてあまり心地好い場所ではない。
底なし沼のような危険な場所も多数存在するし、かなり注意して進まなければならない危険地帯でもある。
また出てくるモンスターも、湿地に身を隠し、獲物を狙うタイプばかりなので面倒なのだ。できればあまり足を踏み入れたくないである。
う~ん、けどリョフの奴、アイツのことだから追い払ったはずのレッドフェンリルとバトるために追いかけたりしてねーよな。さすがに一人じゃ厳しいぞ。もしここがゲームの世界で、死んでもまたセーブポイントで生き返るとか思っての行動だったら止めてやる必要があるし……。いや、そこまでバカじゃないか。オレでも最初に現実か幻想か確認したし、さすがにアイツも確認してるだろ……多分。
一抹の不安を抱えながらも、もしかしたらいつか会うかもしれない相手のことを思って溜め息をついてしまっていた。
※
「ぶえぇぇぇっくしょーんっ!? ……んんっ! こりゃど~っかで誰かがボクの噂でもしてるにょ~」
もしかしたら強い相手かもしれない。なら会いに行って一戦交えたい。
「あ~あ、ど~こに行っちゃったんにょ~、レッドフェンリルちゃ~ん。はぁ、探せども探せども、愛しの犬ちゃんには会えないにょ~。むぅ、こうなったら! どこかにいるも~っと強い奴を探すにょ~! けどまずは……」
ボクは周りから刺すような殺気をぶつけてくる存在たちに意識を向ける。
一、二、三………………十五体。
モンスターの群れの中心に立つボクは、まさしく絶体絶命に見えるだろう。どの相手も自分を一飲みにできるほどの巨体を有し、獰猛な殺意を向けてきている。
「にょふふ~、心地好い殺気にょ~。それでこそ、戦い……だね!」
肩に担いでいた大剣を構えると、一斉にモンスターたちが突撃してきた。
―――――――数分後。
山のように重ねられたモンスターの死体の上には、僕が無傷でチョコンと座っていた。
「――――にょふふ~。すこ~しは面白かったにょ~」
返り血を大量に浴びたボクは、涼しげな表情で空を見上げる。
「ん~まさか今だに信じられないけど、ほんと~にRONの世界なんだにょ~。これは存分に楽しまないと損、損。それにボクって無敵だし? 何せ死んだってどうせ生き返ると思うし、結構無茶もできるにょ~」
だってこれはゲーム世界なのだから。
「けど、ボクだけなのかなぁ~? あ、もしかしたらアイツも来てたりして! うぅ~! そうだったら楽しいにょ~! また一緒にダンジョン攻略もやりたいし~、レイドボス級も倒したいし~! あ~あ、フレンドリストがなくなってるのはショックにょ~」
それがあれば、彼の存在を確かめることもできたというのに。
「ま、もしいるならそのうち会える会える! その時はまず殺し合いを一発したいにょ~。うぅ~燃えてきたぁ! 冒険ハッスルだにょ~っ!」
ボクは期待に興奮してついつい我を忘れて全力疾走してしまう。目的地はない。強いていえば、強い者がいるところ。
「待ってるにょ~、運命の出会い~っ!」
それだけを頼りにボクはただただ突っ走るだけだった。
「で、ごじゃりゅぅぅぅ~」
一角ボア(亜種)にこてんぱんにやられ、死亡してしまった二人は、地面に寝転び垂れてしまっていた。その姿は可愛らしくて是非お持ち帰りしたい衝動にかられてしまうが、グッと我慢する。
ポアムはともかく、ヒノデは男の娘なのだから! いや、ポアムにも手を出したら犯罪ですが!
「いやはや、二人とも立派だったぞ。特に連携は見事だった。今回は相手が格上過ぎたということだろう」
メルヴィスは本当に感心しているようで何度も頷きを見せて言葉を二人にかけている。
「メルヴィスの言う通り、よくやったよ。一角ボアの亜種ってのはランクにしてB相当はあるからな。まあ、今のポアムたちには厳しい相手だったってわけだ」
「うぅ……殿ぉ、何故にいきなりそのような強者をぉ……?」
「格上の相手と戦う時にはどうすればいいか学んでほしかったからだ。実際のところ、敵わないと判断したらすぐに撤退を表示してもらいたかったってのが本音だな」
「し、しかしせっかく貴重な経験をさせて頂いているのに逃げるわけにはいかんでござるよぉ」
「その考えは0点だ」
「何と!?」
「敵わない相手に立ち向かう勇気は確かに必要だと思う。でも一番に優先すべきなのは自分の命だろ?」
「「…………」」
「これが仮想空間じゃなかったら、ポアムとヒノデはここで人生を終わらせていたわけだ。それってさ、めちゃくちゃもったいねーと思わねーか? これから二人はもっと強くなれるはずなのに、つまらない意地やプライドなんかで命を落としてその機会を棒に振る。そんなのは勇敢でもなんでもない。ただの無謀だし、オレに言わせりゃバカのやることだ」
とはいってもそれはゲーム内だったらオレも何度も経験あるんだけど。
だがここは現実に死が訪れる世界。だからこそ、彼女たちには生きる選択をしてほしい。
「生きてれば強い奴にリベンジをかますことだってできる。だからもし今後、敵わないと判断したら逃げてほしい。生きることを最優先にしてほしい。だからオレは今回、明らかに格上のモンスターを呼び出した」
「その辺でよいではありませぬか、イックウ殿。ポアム殿たちにも良い教訓になったであろう。まあ、つい先日、自分の過ちで部下を死なそうとしてしまった私が偉そうに言える立場ではないですがな」
メルヴィスもまた、【アビッソの穴】での浅慮な行動を恥じているのだろう。
「ポアム殿やヒノデ殿は、幸運だ。イックウ殿に教えてもらえば、きっと一角の人物になれるであろう」
「メルヴィスさん……」
「メルヴィス殿……」
「もっともっと強くなって、私とも切磋琢磨してほしい。互いに高みを目指そうではないか!」
「「はい!」」
メルヴィスもまた部下を預かる身だからこそ、相手をその気にさせる言い回しが上手い。
「――さて。んじゃ、二人は店に戻っててくれるか?」
「え? イックウ様はどうされるんですか? つまり気になります!」
「オレはメルヴィスのクエストに付き合うから」
「ならわたしも」
「せ、拙者も!」
「おいおい、そんなフラフラの状態じゃ無理だろ、二人とも」
仮想的な死とはいえ、彼女たちの精神力は大幅に削られており、体力はまだ残っているが、数時間の休憩は必要な身体となってしまっている。
「夕方の修業までには帰ってくるから、それまで身体を休めておくこと、いいな?」
「「……分かりました(でござる)」」
渋々二人の了承を得られたところで、
「んじゃ、行くか」
「分かり申した」
メルヴィスと二人で、例のクエストを行うことにした。
「とは言ったものの、何をすればいいのか教えてくれ」
ポアムたちと別れたオレとメルヴィスは、どことも知れぬところへ歩きながら会話を開始した。
「ふむ。我が王は、“リョフ”を欲しがっている。できればコンタクトを取りたいのだが、その居場所は分かりませぬな?」
「ああ」
「とりあえずは例のモンスターが現れた場所というところに行ってみようと思います」
「なるほど。こっから近いのかな?」
「少し遠いですね、ですからこれを使います」
彼女が懐から取り出したのは五つの鈴がついた楽器みたいなもの。
「へぇ、《ドライブベル》じゃん」
《ドライブベル》――それを鳴らすと、“空に棲まう者”を呼び寄せることができる代物。
チリンチリンと彼女がそれを鳴らせる。すると空からバサバサッと翼をはためかせながら、巨大な鳥が姿を現した。全身が紅色の羽毛で覆われており、鋭い嘴と目がカッコ良い。
体長は翼を広げると十メートル以上はあるだろう。
「それ手に入れるには結構苦労したろ? Sランクのクエストだったと思うけど」
「はい。今ではかなり重宝しております。ご存知ということは、やはりもうお持ちで?」
「まーね」
「さすがはイックウ殿。ですが二人くらい乗っても平気なので、一緒にどうぞ」
促されて、“空に棲まう者”の背に乗っていく。
そのまま空に浮かぶと、
「では行きますぞ!」
モンスターが現れたという場所へ目指して飛んでいく。
「ひゅ~! 風が気持ち良いなぁ」
「ですね。眺めも最高ですし」
彼女の言う通り、眼下に広がるのは広大な自然が生んだ大地。無論街や村などもあるが、日本と比べても明らかに自然の割合の方が多い。
「それで、向かうのはどこなんだ?」
「ここから二十キロほど東に行った【ジャクトン湿原】にも、そこに生息するはずのないモンスターが出現例が観測されています。まずはそちらに向かいます」
【ジャクトン湿原】かぁ……。あそこは周りを山に囲まれている盆地でもあったはず。それに湿原の名に相応しく、湿気が高くジメジメしていてあまり心地好い場所ではない。
底なし沼のような危険な場所も多数存在するし、かなり注意して進まなければならない危険地帯でもある。
また出てくるモンスターも、湿地に身を隠し、獲物を狙うタイプばかりなので面倒なのだ。できればあまり足を踏み入れたくないである。
う~ん、けどリョフの奴、アイツのことだから追い払ったはずのレッドフェンリルとバトるために追いかけたりしてねーよな。さすがに一人じゃ厳しいぞ。もしここがゲームの世界で、死んでもまたセーブポイントで生き返るとか思っての行動だったら止めてやる必要があるし……。いや、そこまでバカじゃないか。オレでも最初に現実か幻想か確認したし、さすがにアイツも確認してるだろ……多分。
一抹の不安を抱えながらも、もしかしたらいつか会うかもしれない相手のことを思って溜め息をついてしまっていた。
※
「ぶえぇぇぇっくしょーんっ!? ……んんっ! こりゃど~っかで誰かがボクの噂でもしてるにょ~」
もしかしたら強い相手かもしれない。なら会いに行って一戦交えたい。
「あ~あ、ど~こに行っちゃったんにょ~、レッドフェンリルちゃ~ん。はぁ、探せども探せども、愛しの犬ちゃんには会えないにょ~。むぅ、こうなったら! どこかにいるも~っと強い奴を探すにょ~! けどまずは……」
ボクは周りから刺すような殺気をぶつけてくる存在たちに意識を向ける。
一、二、三………………十五体。
モンスターの群れの中心に立つボクは、まさしく絶体絶命に見えるだろう。どの相手も自分を一飲みにできるほどの巨体を有し、獰猛な殺意を向けてきている。
「にょふふ~、心地好い殺気にょ~。それでこそ、戦い……だね!」
肩に担いでいた大剣を構えると、一斉にモンスターたちが突撃してきた。
―――――――数分後。
山のように重ねられたモンスターの死体の上には、僕が無傷でチョコンと座っていた。
「――――にょふふ~。すこ~しは面白かったにょ~」
返り血を大量に浴びたボクは、涼しげな表情で空を見上げる。
「ん~まさか今だに信じられないけど、ほんと~にRONの世界なんだにょ~。これは存分に楽しまないと損、損。それにボクって無敵だし? 何せ死んだってどうせ生き返ると思うし、結構無茶もできるにょ~」
だってこれはゲーム世界なのだから。
「けど、ボクだけなのかなぁ~? あ、もしかしたらアイツも来てたりして! うぅ~! そうだったら楽しいにょ~! また一緒にダンジョン攻略もやりたいし~、レイドボス級も倒したいし~! あ~あ、フレンドリストがなくなってるのはショックにょ~」
それがあれば、彼の存在を確かめることもできたというのに。
「ま、もしいるならそのうち会える会える! その時はまず殺し合いを一発したいにょ~。うぅ~燃えてきたぁ! 冒険ハッスルだにょ~っ!」
ボクは期待に興奮してついつい我を忘れて全力疾走してしまう。目的地はない。強いていえば、強い者がいるところ。
「待ってるにょ~、運命の出会い~っ!」
それだけを頼りにボクはただただ突っ走るだけだった。
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